CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 16

2016年05月21日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 6






「ジョン先生、お疲れですか?」
「……えっ?」
「いつもよりお顔の色がすぐれないように見えたので……」


女性というものは、よく勘が働くらしい。
午後八時、内科の医局で、午前中に診察した患者のカルテを見返していたヨンファに、そばにいた若い看護士が心配そうな顔で声をかけてきた。


「ありがとう。大丈夫だ。このカルテ、麻酔科に持って行ってくるから、あとを頼むね」
「はい」


看護士を安心させようと、無理矢理笑みを浮かべて席を立つ。
若い頃と違って三十近くになると、どうやら寝不足が顔に出てしまうようだ。


廊下に出て、深い溜息をつきながら、ヨンファは整った眉を寄せた。
目の奥に疲労感があり、一睡もできなかったのに加えて、日勤の仕事をこなしたことが原因なのは明らかだ。
しかも、よりによって当直まで入っていた。
あまり考えたくはなかったが、完全徹夜の発端となった、昨夜の出来事ばかりが頭を過る。





あれから、シーツの上でしばらくジョンシンに抱き締められたあと、男はおもむろにベッドから下り、言葉少なに『車で送る』と言い出した。


慌てて身体を起こすと、ジョンシンはヨンファから視線を逸らし、大きめのTシャツを放ってきた。
一瞬頭がついていかなかったが、シャツのボタンが取れた状態を見て、『着替えろ』という意味なのだと朧げに理解する。


しかし、ジョンシンの目の前で脱ぐのを躊躇し、それを突き返してタクシーで帰ると主張したが、『駄目だ』と却下された。
強い力で手首を掴まれるとどうしても逃げられず、半ば押し切られるようにして、駐車場に停めてあったジョンシンの車へと乗らされた。


粗野で、口では辛辣なことを言いながらも、本質的には昔とあまり変わっていないのかもしれない。
素っ気ない態度の裏側に、不遜な男なりの優しさが見え隠れして、ヨンファはそれに戸惑いを覚えずにはいられなかった。


包帯に覆われた腕が手慣れたハンドルさばきで車を走らせながら、こちらの様子を窺っていたが、ヨンファは運転席を見ることも口を開くこともなかった。
無言のまま運転を続ける傷だらけの男に緊張が解けないまま、できるだけ遠ざかろうと、ドア側に寄ってシートに身を預ける。


住所を教えてもいないのに、ジョンシンの頭の中にはマンションまでの地図がちゃんとインプットされているようで、運転にまったく迷いはなかった。
車内に重苦しい沈黙が落ちたが、ヨンファはひたすら外の景色を眺めていた。


車で二十分ほどの距離がひどく長く思えて、居心地が悪い。
苦いものを感じながら、ヨンファは何度も心の中で溜息を洩らした。
ようやくマンションが見えるとホッとして、呪縛から解放されたかのように、身体から一気に力が抜けるのが分かる。


車が路肩に止まるのを確認して、何も言わずシートベルトを外して降りようとすると、いきなりジョンシンが運転席から覆い被さってきた。
再び緊張が走り、抱き込んでくる長い腕に抗って胸板を押し返すと、不意に手首をきつく掴まれた。


『………っ』


思わぬ痛みを感じて眉を顰めると、野性的な顔と視線がぶつかり、ヨンファは目許を吊り上げる。


『何なんだよ、放せ』
『……帰したくねぇ』


目を瞠ったのと同時に噛みつくようなキスが襲ってきて、呼吸ができなくなった。
強引に深く入り込んでくる舌に全身が粟立ち、逃げ場のない状況に、どうにも身動きが取れない。
首の後ろを手で押さえたまま激しく唇を貪られ、息苦しさのあまり背中を叩いて抵抗するが、ジョンシンは一向に口づけをやめようとしなかった。


腕の力は決して緩まず、骨が軋むかと思うほど強く抱き締められる。
容赦のないキスに気が遠くなりかけた頃、ようやく名残惜しそうに唇が離れた。
あまりの屈辱に、その瞬間、ヨンファは目の前の男の頬を思いっきり平手で打っていた。


『いい加減にしろっ。どこまで好き勝手をしたら気が済むんだ!』
『俺は絶対に諦めねぇ。アンタの心があの男のものだったとしてもな』
『――――ッ』


痛いはずなのに、ジョンシンは顔色ひとつ変えなかった。
それどころか、至近距離から真摯な表情で告げられて、ヨンファは声を失った。
それ以上聞きたくなくて目を伏せると、スッと手が伸びてきて、顎を上向かせられる。


『俺を見ろよ』


ぞんざいな口のきき方にむかっ腹が立ったが、指先の力を強められて、仕方なしに切れ長のきつい目をした男を睨みつけた。


『俺はアンタ以外を好きになることは一生ない。たとえ報われなくても、代わりになる奴はこの世に誰一人としていねぇ』


迷いなく断言されて、激情の渦に呑まれそうになった。
ジョンシンの声は揺るぎなく、何事にも動じないような力の籠った眼差しに、どう答えていいのか分からない。
気づくと拘束が緩んでいて、ヨンファは気まずい沈黙を断ち切るように、男の顔を見ずに車から降りた。


卑怯かもしれないが、何か言えばジョンシンを刺激して、収拾がつかなくなりそうだったのだ。
背中を向けてマンションの敷地内に入る間中、その鋭い視線がずっと身体に纏わりついているような気がしてならなかった。


マンションの部屋に帰り着くと、ヨンファはすぐさまバスルームへと向かった。
温めのシャワーを頭から浴び、自分の身に起こったことをすべて洗い流そうと、目を閉じたまましばらくその場に佇む。
しかし、そんなことをしても気休めにしかならず、いい加減なところで切り上げて、バスタオルで髪や身体を拭いている時だった。


目の前の洗面台の鏡に映り込んだ自分の裸を見て、ヨンファは愕然とした。
消えかかっている刻印にまるで対抗するかのように、真新しい赤い痣が胸のあちらこちらにつけられている。
それがジョンシンの愛撫の痕跡だと分かり、ヨンファは全身から力が抜けていくのを感じた。
ベッドに入ってもなかなか眠れず、結局そのまま朝を迎えてしまったのだ。





―――どうしてこんなことになってしまったのだろうか……。
ヨンファは人気のない廊下を歩きながら、詰めていた息をそっと吐いた。
手首を強く掴まれた感触が、未だに残っている。
唇をギュッと噛み締めて、ヨンファは何とか表情を引き締めた。
決して楽観できる状況ではないが、自分ではどうすることもできない。


その時、ひとつ年下の男の顔が思い浮かび、どうしようもなく胸の奥がざわついた。
無性に会いたくなったが、それがすぐに叶わないことも分かっている。
予想もしていなかったことが一度に起こりすぎて、ヨンファの頭の中はかなり混乱し、心は散り散りに乱れていた。


麻酔科の医局で用事を済ませたヨンファは、職員専用エレベーターで一階まで下りる。
日中は患者や見舞客が大勢行き交い、かなり騒然としているが、時間外になると不要な電灯は消され、人もあまりいなかった。


しんと静まり返る中、院内にあるコンビニに寄ろうと向かっている時だった。
ボーダーカットソーに黒シャツを合わせた見知った姿が反対側から歩いてきて、相手もほぼ同時にこちらに気づく。
この偶然に驚きながらもヨンファが軽く手を上げて近づくと、自分よりもやや小柄な男は目力のある大きな瞳を和らげた。


「よぉ、久しぶりだな。ヨンファに会えるなんて、超ラッキー!」


ふざけた口調で話す十年来の親友であるイ・ホンギと会うのは、昨年末、一緒に飲みに行って以来だった。
高校ニ、三年生の時、二年間同じクラスで、自由奔放でマイペースなホンギとは出会ってすぐに意気投合し、今でも仲の良い間柄だ。
そして、南部洞組のイ組長の長男で、若頭補佐でもある。


あまり自分の組のことに興味がなかったせいもあるが、お互いが組長の息子ということも一切知らず、親しくなるにつれて相手の家に遊びに行った時に、初めて同じ境遇なのだと分かった。
それ以来、他の友人にはない同志のような仲間意識が芽生え、道を違えた今でも、ヨンファにとっては大切な存在であると言える。


「どうした?ホンギがここに来るなんて珍しいな」
「組員の見舞いにな」
「……何かあったのか?」
「ほら、お前んとこと同じだ」


声のトーンを抑えて周囲を気にするホンギに、ヨンファは話を振ってみる。


「ホンギ、今、時間あるか?」
「俺は帰るだけだから、いくらでも。ヨンファこそ忙しいんじゃねぇのか」
「少しくらい平気だ。ちょうど何か飲もうと思ってたから、一緒にどうだ?」


薄暗い外来の待合室の横をホンギを促すように肩を並べて歩き、ヨンファは白衣のポケットから小銭を出すと、自動販売機で二人分のコーヒーを買い、紙コップの一つをホンギに差し出した。


「悪ぃ。ゴチになる」
「いいって、このくらい」


すぐそばの無人の待合室の椅子に、並んで腰を下ろす。
時々、医師や看護師が近くを通り過ぎるが、二人を気にする者は誰一人としていない。


「……さっきのチルソン組のことだろう?」
「最近、ちょくちょくうちのシマを荒らしに来やがって、相当迷惑被ってんだよ。組が経営してるキャバクらで、奴らとうちの舎弟らがやり合ってよ。怪我をしてここに入院してんだ」
「そんなことがあったのか……」
「あまり公にはしたくねぇから極秘扱いでな。本当はキム先生のところがいいんだが、あそこは入院設備がねぇだろ。……ヨンファの方も大変だったらしいな」
「ああ。ちょうど俺が実家に帰ってた時に襲撃されたんだ」


ヨンファが呟くのに、コーヒーに口をつけていたホンギがこちらを見る。


「くれぐれも気をつけろよ。水面下でもアイツら動いてるぞ」
「水面下……」


瞬いたヨンファに視線をあてたまま、ホンギはいつになく真剣な顔で静かに続けた。


「それと、青龍組が内部分裂しそうになってるって知ってるか?」


掠れた声を若干落として漏らされた言葉に、ヨンファは弾かれたように目を瞠る。


「報復措置のことで意見が割れてるとは聞いたが……それはどういうことだ?随分と穏やかじゃないな」
「うちとお前んとこは友好関係にあるから、いろいろと情報が入って来るんだけどよ。チルソンの奴らに戦争を仕掛けるって、勢いづいてる連中がいるらしいぞ。おやっさんの言うことを聞かずに、勝手に動き始めてるって話だ」
「……そうか」


ただでさえ外敵に狙われているというのに、内輪で揉めている場合じゃない。
こんな状況下で、また襲撃にでも遭えば……。
ヨンファが押し黙っていると、ホンギはすかさず口を開いた。


「まさか放っておくつもりじゃねぇよな?」


息を詰めたヨンファを、渋い顔つきになったホンギが真っ直ぐに見据えてくる。


「このままだと、間違いなく二分するぞ」
「気にはなるが、組とは関係ない人間が口を出すわけにはいかない」
「はっ。お前も随分真面目ちゃんになったもんだな。昔はよく組員に啖呵を切ってたのによ。おやっさんの息子のくせして、遠慮してどうするよ。組に入ってねぇってのは、ただの言い訳だろうが」


鋭い指摘に、二の句が継げなかった。
ヨンファが屋敷に住んでいた頃は常に身近に組員たちがいたし、自身も何度か危険な目に遭っていたから、割と言いたいことはすぐ口に出していた。
特に中高生の頃は子供だった分、もっと言いたい放題だったかもしれない。


しかし、縁を切ったも同然だったここ数年はすっかり傍観者になっていたから、どうしても二の足を踏んでしまう。
一瞬、考え込むヨンファに、ホンギはたたみかけた。


「何もしなかったら変わらねぇぞ。このまま指を咥えて、組が分裂するのを黙って見てんのか?」
「……俺は……ずっと組なんか潰れたらいいと思ってた」
「ああ……分かってる」


高校生の時に、自分たちの不幸な生い立ちについて、ホンギとよく愚痴り合っていた。
白い目で見られ、陰口を叩かれ、腫れものに触るように扱われ、自暴自棄になっていた過去を持つ自分と同じ共通点を持ったこの親友だけに真の姿を曝け出し、ヨンファにとって心の拠り所だった。
ジョンヒョンにさえ、これほどまでに自分を見せてはいない。


幼い頃から、自分は周りとは違って特殊なのだということを理解し、常に孤独を味わい、親や組を恨んできた。
その反面、見えないところで組員たちに可愛がられ、助けてもらった面が多かったのも自覚している。


「でも……今は違う」


ずっと認めたくはなかった。世間から後ろ指をさされる裏社会の人間が、自分にとってはかけがえのない存在だということを――。
今なら自分の気持ちに素直になれる。
家族同然の組員たちが危険に晒されるのを、このまま黙って見過ごすことなどできない。
誰も傷つけずに元の組に戻すためには、何をすべきか。


『案外、ヨンファヒョンの言うことなら聞くかもしれないけど……』


突然、ミ二ョクに言われた言葉を思い出した。
古参の組員たちを説得する。
父親や幹部たちにできなかったことが、果たして自分にできるのだろうか。


「俺に……できると思うか?」
「お前にできなければ、他の誰が説得しても、同じ結果だろうよ」


ミニョクとホンギの言葉が、背中を押してくれたような気がして、ヨンファは心を決めた。


「……分かった。無駄に終わるかもしれないが、話をしてみよう」
「事務所に行くんなら、俺も別件で用があるから、同行するぜ」
「ありがとう。頼む」


拳と拳を軽くぶつけ合い、ヨンファが笑みを見せると、ホンギはニヤリと不敵に口角を上げる。
そして、二人は温くなったコーヒーを飲み干した。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(6)

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2016/05/22 (Sun) 06:10

haru

t*******さん

こんばんは♡

ありがとうございます♡♡
好きすぎて格好良く書きたいんですが、腕がついていかないぃぃ(TωT)
まだまだ続くので、頑張りたいところです♪

今日の名古屋、盛り上がったみたいですね(ё_ё)
私もいつか参戦したいなぁ♡

2016/05/22 (Sun) 20:49

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2016/05/23 (Mon) 08:56

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2016/05/23 (Mon) 13:38

haru

は*さん

こんばんは♡

それぞれのキャラを一言で表わして下さって、ものすごく感激しました(//∇//)
まさにそんな感じで書いているので、本当に嬉しいです。どうもありがとうございます♡♡
やる気スイッチが入りましたので、頑張って続きを書きます♪

2016/05/23 (Mon) 19:18

haru

つ*さん

こんばんは♡

ものすごく嬉しいお言葉をありがとうございます(≧▽≦)
大好きすぎて、つい気合が入ってしまうのですが、そのようにおっしゃって下さり、感激のあまり倒れそうになりました♡♡

ヨンとホンギのやり取りは、書いていてとても楽しいです。
少しでも楽しんでいただけるよう頑張ります♪

2016/05/23 (Mon) 19:50