CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 14

2016年05月09日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 2






「このアパートか……?」


タクシーから降りたヨンファは、手にしたスマートフォンの地図を確認して、目の前の高層アパートを見上げた。
地下鉄の最寄り駅やバス停が近くにあり、建物内にスーパーマーケット、クリーニング屋、薬局などのテナントが入っているから、一人暮らしには最適な環境といえる。


本来はヨンファもアパートの方がいいのだが、病院に比較的近い距離に立地している上、家賃補助を出してもらっているため、引っ越さずにずっと今のマンションに住み続けている。


エントランスに入り、ヨンファは左側にあるパネルの前に立ち、ジョンシンに教えられた部屋番号と呼び出しボタンを押した。
しかし、数秒待っても相手は応答せず、まだ帰宅していないのかと首をかしげて再び押してみると、ようやく低い声が聞こえてきた。


『今、開ける』


ジョンシンが部屋にいたことに安堵しつつ、自動ドアが開くと中に入り、エレベーターに乗り込んで八階で降りる。
インターホンを鳴らすと即座にドアが開き、濡れた髪を無造作にタオルで拭いているジョンシンが長身を屈めるようにして出てきた。
どうやらシャワーを浴びていたらしく、呼び出してもすぐに返答がなかったはずだ。


「悪ぃ。汗だくだったから、シャワーを浴びてたんだ。適当に座って」
「ああ……じゃあ、お邪魔します」


額に落ちる濡れた前髪を鬱陶しそうに掻き上げるジョンシンに促されて、ヨンファは中へと足を踏み入れた。
見たところ50㎡近くあるワンルームで、一番奥にベッドが配置され、その手前に広々としたソファーとローテーブルが置いてある。
キッチンは隣接されているため、一人で暮らすには十分すぎる広さだ。


幹部ではない組員がこんなにいい暮らしができるほど、極道は羽振りがいいのだろうか。
そんなことを考えながら部屋をざっと見渡して、それからジョンシンに視線を移した途端、ヨンファは言葉を失った。
ハーフパンツを穿いただけの格好で、逞しい褐色の胸や硬い筋肉に覆われた腕には、タオルで拭いきれていない水滴が残っている。


驚いたのは、その野性的な肉体の至るところにガーゼをあてて防水テープが貼られ、両腕には包帯が巻かれていることだった。
よく見ると、古い傷痕も多く見受けられる。
痛々しくて、とても直視できるようなものではなかった。


「……怪我は本当に大丈夫なのか?」
「どれも浅い傷ばっかりだからな」


本人は平然としているが、ヨンファはかける言葉が見つからなかった。
鵜呑みにしていいのか躊躇したが、あまり過剰に心配してもジョンシンのプライドを傷つけるだけだと思い、ヨンファはサラッと話題を変えることにする。


「これ、差し入れな」


ずっと手に提げていた大きめの紙袋を渡すと、ジョンシンは目を丸くして驚いた。
中身は高級肉や果物の詰め合わせだ。


「えっ、こんなに!?」
「何がいいかよく分からなかったからさ。食欲はあると思って、美味しそうなものを見繕って買ってきた。料理ができるお前ならどうとでもできるだろう。酒は傷が化膿する恐れがあるから、やめといたぞ」
「俺が勝手にやったことなのに……」
「そのお陰で俺は傷ひとつ負わなかったんだから、ほんの気持ちだ」


恩着せがましくならないように、ヨンファは軽い口調で言って小さく微笑むと、ジョンシンはふわりと目を細める。
それは、まるで大切なものを慈しんでいるような表情に見えた。


「……ありがとうな。遠慮なく貰うよ」


初めて見る優しい眼差しに、喜んでもらえたとヨンファは安堵する。
治療費を出すことも考えたが、ジョンシンは間違いなく受け取らないだろうし、せっかくの善意を踏みにじる行為になりかねないと思い、それはやめたのだ。


ジョンシンはヨンファより二つ年下だが、見上げるほど背が高く、身体も定期的に鍛えているのか以前より厚みを増している。
端整な顔立ちをしていながら瞳は鋭く、どこかやんちゃな雰囲気が未だに残っていて、こちらをじっと見下ろしていた。


なぜだか、その視線に搦め捕られるような錯覚に襲われる。
急に息苦しさを感じ、さり気なく視線を外すと、ヨンファは先程から気になっていた包帯に目を走らせた。


「包帯が緩んでるから、巻き直してやるよ」


動揺を押し隠すように包帯に触れると、ジョンシンの腕がビクッと反応する。
珍しく激しく狼狽している姿を目にして、ヨンファは唖然とした。
意外と怖がりなのだろうか。


「いいよ。このままで」
「遠慮するなって。新しい包帯はあるか?」
「ない。明日、また先生のところで替えてもらうから」


だろうな。とても一人でできるようには見えない。
及び腰のジョンシンを無理矢理ソファーへ座らせて、ヨンファも隣に腰を下ろすと、両腕の包帯を解いていく。
シャワーの飛沫がかかったのか、かなり濡れていた。


「まさかこのままシャワーを浴びたんじゃないだろうな」
「ビニールでカバーしてるけど、難しいんだよ」
「広げて乾かしてから巻いた方がいいか?」
「そのままでいい。そのうち乾くだろ」
「アバウトだな」


きつくないか確かめながら、丁寧な手つきでゆっくりと包帯を巻いていくのを、ジョンシンも黙ったまま見つめている。
作業はものの数分で終わり、ヨンファが顔を上げると、視線がぶつかった。
その瞳の横のこめかみにも治療の跡があり、かなり出血していたことを思い出す。


「お前には助けてもらってばかりだな……」


一緒に暮らしていた時も、ヨンファが危険な目に遭うたびジョンシンが盾となり、大事に至らずに済んだことが何度かあった。
組員とは言え、自分よりも若い者に怪我を負わせてしまったことに心が痛む。


「また余計な傷を作る羽目になってさ。俺のことはいいから、もっと自分を可愛がれよ。大事な人が見たら悲しむだろう?」
「そんなこと考えてたら、何もできねぇだろ。……ヒョンは悲しんでくれんの?」
「当たり前だ。お前は俺にとって大事な存在だよ。お前がいてくれて、本当に良かった」


ヨンファの言葉が予想外だったのか、ジョンシンが目を瞠る。
口を開いて何かを言いかけたが、結局は何も言わず、真剣な眼差しでじっとこちらを見つめてきた。
その強い視線に射竦められたように動けないでいると、フッと小さな溜息をつき、ジョンシンがソファーから立ち上がる。


「飯、食った?」
「……え?」


いきなり話題が変わって面食らっていると、ジョンシンはそばにあったTシャツを着ながらキッチンへと向かい、鍋を火にかけている。
何を言わんとしているのかが分かった。


「夕方におにぎりを食ったのが最後だな」
「そんなんじゃ、腹空いてるだろ。テンジャンチゲを作ったから食うか?」
「怪我人が何やってんだよ」


呆れてそう言うと、ジョンシンは気分を害した風でもなく苦笑した。
ジョンシンが鍋の蓋を開けると、食欲をそそる匂いが辺り一面に立ち込める。


「炊き立てのご飯とキムチもあるけど……」
「食う!」


ヨンファの好きなものばかり羅列されてたまらず即答すると、ジョンシンが声を出して笑った。
多少ばつが悪かったが、食い気には勝てない。
ヨンファは有難くご馳走になることにした。


手際のいい男は短時間で二人分の夕食を用意してくれ、ヨンファがローテーブルの上に並べていく。
ジョンシンもまだ食事を済ませていなかったようだ。


幼い頃に母親を亡くしたヨンファは、家を出るまではずっと部屋住みの組員の作るものを食べていたが、その中でも特にジョンシンの料理の腕は申し分なかった。
もともと得意だったのか先輩の舎弟に教わったのか、学業の忙しかったヨンファの知るところではないが、大好物のテンジャンチゲをリクエストしてよく作ってもらっていたのを思い出す。


向かい合わせに胡坐をかいて座り、ヨンファは早速テンジャンチゲを口にした。
あさりの旨味がよく出ていて、他の食材の持ち味と味噌のコクがそれに絡み合い、空腹の胃に染み渡っていく。


「美味いな……。手間だっただろう?」


素直に感想を述べると、ジョンシンがふっと目許を和らげた。


「こんなとこまでわざわざ来てもらったお礼」
「お前こそ気なんか使うなよ」


ほとんど寝に帰るだけの味気ない生活を送っているため、こんな風に誰かに食事を用意してもらうのは、とても嬉しく感じる。
ジョンシンよりも早く全部を平らげると、ヨンファが何も言わないのにお替りまでしてくれた。
食べながら無意識のうちに笑みが零れていたらしく、不意に視線を向けられるが、それは驚くほど優しい目だった。


「……なんだよ」
「いや……ヒョンはやっぱり笑ってる顔が一番いいと思ってさ」
「お前、そういう台詞は女に言えよ。……ったく、タラシだな」


ジョンシンは口許を緩めただけで、それ以上何も言わなかった。
遠慮のない間柄なのに、今日のジョンシンはいつもより物静かだ。
二人とも黙々と箸を進める。


「今朝、ミニョクが車で迎えに来てくれたんだが、屋敷を修理してるらしいな」
「破損した箇所を修復して、前よりも強力な防弾ガラスを取りつけてもらってるよ」
「そうか。また同じことが起こる可能性も有り得るしな。報復措置を取るって話が出てるらしいが?」
「幹部は全員、親父さんと同じ意向で反対しているけど、一部の組員たちが納得してない」


その名前を聞いてみると、ヨンファもよく知っている古参の組員たちばかりだ。
ヨンファが生まれた頃から組に在籍していて、母親の代わりに身の回りの世話や料理を作ってくれて、実の家族のように可愛がってもらったのだ。
そのことを思い出し、懐かしい記憶を手繰る。


「……ヒョニも忙しくしているんだろうな」


思わずあの男のことをポロッと口に出した途端、ジョンシンが無言のまま眉を顰めるのが分かった。
真っ直ぐにこちらを見据えてくるのに、何か気に障ることでも言ったのかと思ったが、すぐさま元の表情に戻る。


「最近はいつ寝てるのか不思議なくらいだな」
「そう…なのか?」
「俺たちと違って責任があるし、すべてのことを把握していないといけないから、今はなかなか休む時間が取れないみたいだ」
「……因果な商売だな」


命をかけて尽力した割には、決して報われない特殊な世界。
そこに自らが志願して身を置いたジョンヒョンは常に危険と隣り合わせで、組のためだけに生きているようなところがある。


義理堅い性格ゆえに、ジョン家に引き取られたことに恩義を感じて、ゆくゆくは組に入ろうといつの頃からか一人で決断していたのだろう。
その男の生き様がヨンファには哀しく思えて、どうしようもなく胸が痛んだ。
何もできない無力な自分に腹が立つ。


もし自分が跡目を継げば、ジョンヒョンのそばにいられるのではないか。
そんな馬鹿げた考えを抱いてしまう自分に嫌気が差す。
できもしないことをあれこれ考えても仕方ないのに、ジョンヒョンと身体を重ねことにより、ヨンファの気持ちは大きく揺れていた。


食べ終えた食器を片づけると、ジョンシンが気を利かせてコーヒーを淹れてくれる。
部屋中にいい香りが漂い、ヨンファは礼を言ってひとつを受け取った。


「そういえば、キム先生がヒョンによろしく言っといてくれって」
「もう随分、お会いしてないからな。一番よく通い詰めてたのは中学と高校の時だったなぁ」
「へぇ……」


ジョンシンが真面目な顔で、低く相槌を打つ。


「キム先生の目ってさ、人柄が表れてて温かいだろ。俺にとっては第二の父みたいな存在なんだ。親父は昔から組のことで手一杯だから、あまり話もできなかったしな。ジョンシナはちゃんと家に帰って親孝行してるか?」
「いや……縁を切ったも同然だからな」


男らしく整った顔が少し歪み、吐き捨てるように言われた。
ジョンシンにもいろいろと複雑な事情があるのだろう。


「そうか。俺も家を出てから親父とは一切連絡を取っていなかったが、入院したのを機にまた話ができるようになって良かったと思ってるよ。社会人になってから、子供の時には分からなかった親の有難味や、組長としての苦労も多少は理解できるようになった」
「なぁ、ヒョン。ひとつ聞いてもいい?」
「ん?」
「親父さんのことを恨んだことはあるのか?」


真剣な表情で問われてどう答えようかと逡巡したが、今更取り繕っても仕方ないと思い、ヨンファはストレートに言葉を口にした。


「当然あるさ。俺は何年もの間、親父のことが大嫌いだった。他の組織と抗争になって、親父が死んで組も潰れたらいいと思っていた。実際そうなったら、俺も路頭に迷うのにな……。中学生の頃はそんな洒落にならないことばかり考えてたよ。かなり最低な子供だろう?」


自嘲気味に言ったが、ジョンシンは別段驚きもしなかった。
この話をしたのは他にはキム医師くらいだったが、ここまで言葉を選ばずに本音を語ったのは、ジョンシンが初めてだった。


「そんなことねぇよ。子供は親を選べないんだから、その程度思うくらいは自由だろ。大人は何でも勝手すぎる。その陰で辛い思いをするのは、いつも子供だ」


まるで心に沁み込ませるように、ゆっくりとした口調で言われた。
柄にもなく心情を吐露して、どんな顔をしていいか分からずにいたが、あまりに真摯な響きが、ヨンファの心の中で燻り続けていたものを優しく包み込んでくれる。


縁を切ったも同然と言い放ったジョンシンも、自分と同じように家族のことで辛い過去があるのかもしれない。
今までこういう入り組んだ話をしたことがなかったから、ジョンシンの意外な一面を目の当たりにしたような気がした。


それきり会話が途切れて、部屋に沈黙が訪れた。
ちらりと腕時計に視線を落とすと、もうじき日付が変わる時刻になっていて驚いた。
いい加減帰らないと、明日の仕事に差し支える。
食後のコーヒーを飲み終えると、ヨンファはカップをキッチンの流しに運んで声をかけた。


「ご馳走様。そろそろ帰るよ」
「せっかく来たんだから、ゆっくりして行けよ」


まさか引き止められるとは思わなかった。
そのまま長身が黙ったまま見下ろしてきて、有無を言わせぬような力の籠った眼差しに身動きがとれなくなる。


「そうは言っても、明日も早いからな……」
「俺が車で送るから、時間は気にしなくていい」


いきなり肘を掴まれて、ヨンファは息を呑む。
目の前に立ち塞がり、執拗に帰らせまいとするジョンシンをつい訝しく見てしまった。
触れられた手からじっとりしたような熱を感じ、近すぎる距離に違和感を覚える。
一刻も早くこの場を立ち去った方がいいと、頭の中で警鐘が鳴り響いていた。


「悪いが、これ以上の長居は仕事に支障が出るし、タクシーを拾うから送る必要はない」


手を振り払い、絡みつく視線を無視して足早に玄関に向かおうとすると、突然後ろから抱き竦められた。


「……本当に帰んのか?」


腰に両腕を回されて、思わず身体が強張る。


「な…にを……っ」
「まだいいだろ。積もる話もたっぷりあるしな」


耳許で囁かれて、背筋がゾクリとする。
今にも触れそうなほど近くにある唇に、ヨンファは何か得体の知れない恐怖を感じた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

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2016/05/09 (Mon) 05:20

haru

t*******さん

私も心臓バクバクです。
自分で蒔いた種は自分で刈り取れってことですね(TωT)
何とか捻り出してみます(・Θ・;)

2016/05/09 (Mon) 19:44