CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

DESTINY 5

2016年03月08日
DESTINY 0






「そろそろテレビ局に行く時間だから、10分後に駐車場で」
「了解」


マネージャーの声に返事をしながら、ヨンファは作業室での仕事を終え、出かける準備を始めた。





年が明けても、ヨンファは休み返上で多忙な日々を送っていた。


もうじき1月14日はCNBLUEのデビュー5周年。
いつの間にかもうそんなに月日が経ってしまっていた。
5年前のあの日からすべてが始まり、メンバーとともにただひたすらに突っ走ってきて、気が付けばK-POP界でそれなりの地位を築き、アジアを代表するバンドと言われるようになっていた。


そして、その数日後には、ヨンファにとって初めてのソロアルバムが発売される。
全曲を自分で作詞作曲したもので、CNBLUEの音楽とはかなり異なった仕上げになっていて、バラード中心で楽器を使用しないし、音楽スタイルも違う。
初めての試みだが、どのような評価が下されるのか、非常に楽しみでもある。


これらに付随して、いつも以上に番組収録や雑誌の取材などの依頼が殺到し、目まぐるしいほどのスケジュールでほとんど休みなく動いていた。





時間通りに車に乗り込んで、今日の仕事内容についてマネージャーと確認し合い、ついでに明日のことも訊いてみる。


「こんな忙しい状態で、明日は休みをもらって本当にいいんだろうか?」
「明日は何も予定を入れていないから大丈夫だ。ヨンファは働きづくめなんだから、たまにはゆっくり休んだらいい」
「ん……じゃあ…そうさせてもらう」


マネージャーの有難い言葉にヨンファは嬉しそうに頷き、スマホを取り出した。
数件届いているメールの中に、ジョンヒョンからのものがあった。


開いてみると、『来週の夜、四人で集まりたいから、空いている日があったら教えてほしい』という内容だった。


―――あとで時間がある時に、マネージャーに確認してメールしよう。


ヨンファの口元には、笑みがこぼれていた。







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朝の10時を過ぎたというのに、ヨンファはキングサイズの大きなベッドの中で布団を被って丸くなっていた。


「眠ぃ……」


寒い季節はいつも以上に身体が動かない。
今日は久々に休みをもらえたのだが、どこに行くわけでもなく、家でのんびりしていた。


寝返りを打ったりしばらくゴロゴロして、不意に側に置いてあったスマホを手に取る。
基本的に、ヨンファにはあまり趣味と言えるものがない。
ほとんど仕事人間のようなところがあるから、たまの休みもこれといってすることがなく、テレビを観たり、ついついSNSばかりやっている。





ジョンシンのインスタを見てみると、愛犬シンバとジョンシンの足が写っていた。
散歩に行こうとしているのか、それとも帰ってきたところなのか。シンバにはリードがつけられている。


―――相変わらず、可愛がっているんだな。


微笑ましく思うとともに、ジョンシンのことを考えると、胸が痛くなる。


完全に会わなければ忘れることができるのだろうが、自分たちの立場からそれが無理だということは分かっている。
こんな気持ちを抱えたまま、仲間として一緒に歩み続けていかなければならないなんて、何て皮肉な運命なのだろう。


未だにジョンシンの気持ちが自分に向けられているなどとは思ってはいない。
以前のような熱っぽい視線や、それを彷彿とさせるような仕種は一切なく、兄貴に対してのもの以上の素振りも意味合いも感じられなくなった。


自分よりも若いし、いずれ彼女を紹介される日も近いかもしれない。
その時、自分はどうなっているのだろう。
新たな恋をして、ジョンシンとのことを笑い話にできるくらいになっているだろうか。


「………っ」


今みたいな状態がこれからも続くというのなら、それを望まずにはいられない。
自分で選んだ道なのだから。


今更未練がましくあれこれ考える自分に、ヨンファはほとほと嫌気が差していた。







*********************************************************************







ソロアルバムの発売を皮切りに、2月下旬からソロコンサートのアジアツアーが開催される運びとなっていた。
5ヶ国8都市を回り、歌もMCも全部一人でこなさなければならない。
未だかつてないプレッシャーが、ヨンファに圧しかかっていた。


それでも、ファンに新たな自分を見てもらえることは大きな喜びである。
ヨンファとしても非常にやりがいがあるし、今後の更なるステップアップのきっかけになればいいと考えていた。


今回は長丁場なので、スタッフたちと入念に打ち合わせをして、練習やリハーサルを繰り返し行っていると、何人かと仲良くなり、
一緒に食事に行くこともあった。


この日も練習終了後、マネージャーとともに帰ろうとした時、親しい女性スタッフに『この後、皆で夕食でもどう?』と誘われた。


「すみませんっ。今日はこれからメンバーと会う約束をしているんですよ」
「まあ、それは残念!相変わらず四人は仲がいいわねー」
「最近、全員で集まることがあまりなかったんで…」
「ソロ活動で忙しいものね。今日は楽しんでいらっしゃいな」
「ありがとうございます。また誘って下さい」


女性スタッフは人の良さそうな笑みを浮かべて、『じゃあ』と手を振って、他のスタッフたちと帰っていった。











今日は久々にメンバー四人がジョンシンの家に集まって、一緒に夕飯を食べようという約束をしていた。


ジョンシンには何も持って来なくていいと言われていたが、さすがに手ぶらで行くのは気が引けたので、マネージャーに付き添ってもらい、ヨンファは何種類かのアルコールとキムパプを買ってから向かった。


正直、ジョンシンと仕事以外で会うのは内心複雑だったが、平然とその感情を押し殺すことにあまりにも慣れ過ぎていた。





ジョンシンの家に着くと、色とりどりのエプロンを身に着けた三人と愛犬シンバが出迎えてくれて、ヨンファは思わず噴き出しそうになった。


「ごめん、遅くなって…つーか、何だよ、三人揃ってその格好っ。あれ、俺もエプロン持って来なくちゃいけなかったのか?」
「ヒョンはいいんだよ。今日はお祝いなんだから」
「お祝い?」


ジョンシンに言われてリビングに行くと、テーブルには所狭しと豪華な料理が並んでいた。
チムタク、プルコギ、チヂミ、オイソバギ、テンジャンチゲ。
ヨンファの大好物ばかりだった。


「すげー。もしかして三人で作ったのか?誰かの誕生日…じゃないよな。何かあったっけ?」


「ヨンファヒョン、ソロデビューおめでとう!」


突然、三人に言われて、ヨンファは目を丸くして驚いた。


「ええっ、何だよ、いきなり。それで今日、集まってくれたのか?……わざわざありがとうな」


照れながら笑みを浮かべて、いつのも癖で三人と握手を交わしていくと、またかという顔で笑われた。


「もうヨン議員はいいって。それより、座って食おうぜ。ヒョンの好きなテンジャンチゲもあるよ」


ジョンヒョンが待ちきれないと言わんばかりに、テーブルに着いて、小さな器に盛り付けていく。





「マジで美味いなぁ、これ」


ヨンファがジョンシンの作ったテンジャンチゲを食べながら思わず言うと、本人も嬉しそうな顔をして食べ始める。


「イマドキの男子は料理が作れた方が絶対モテるし、将来結婚する時プラスになるんだって」
「じゃあ、ジョンシナはまったく心配ないな」


ミニョクとジョンヒョンの話に、ヨンファの手が止まる。


「ヨンファヒョンは何かいい話とかないのか?」
「いい話?」
「恋人とかさ」


ジョンヒョンが意味ありげな目つきをして聞いてくる。


「そんなのいないってことは、お前らが一番よく知ってるだろ?」
「まあねぇ~」


即同意する三人の頭の中には、一緒に共同生活を送っていた頃のヨンファを思い出しているのだろう。
朝はなかなか起きない。家事はしない。脱いだものはそこら辺へ放り投げる。部屋は散らかしっぱなし。時間があればSNSばっかり。


「見た目はカッコイイのに、行動が三枚目以下だもんな」
「……悪かったな」


ヨンファとジョンヒョンの会話に、ジョンシンとミニョクがゲラゲラ笑っている。
人前に出る時と私生活とのギャップがありすぎると、仲間内ではよく言われる。
多少は自覚しているが、とにかく散々な言われようなのだ。


「ヒョンはさ、何でもできる器用な子が合ってるんだよ。例えば……ジョンシナとか」


ゲホゲホッ!!


飲んでいたビールが気管に入り、ヨンファは思いっきりむせてしまった。


「だって、ジョンシナはヒョンの彼女みたいなもんだからな」
「そうそう」
「一緒に住んでいた時も、甲斐甲斐しく世話を焼いてたし」
「見てて涙ぐましかったよね」


ジョンヒョンとミニョクが好き勝手なことを言い始めた。
ここにきてジョンシンとの話題を出されて、ヨンファは胸中穏やかではなかった。


「お前らな……。男なのに、彼女もクソもあるか。ジョンシナも笑ってないで、何とか言えよ」


ヨンファはすっかり脱力してしまい、ジョンシンに振る。


「まあ、ヒョンはチョディンだからな。でも、ちゃんと好きな人いるよね」
「ええーっ、嘘ぉ、誰!?」


ジョンヒョンとミニョクがものすごく驚いた顔をして、ヨンファとジョンシンを交互に見る。


―――ホンギのことだ……。


すると、どんな人なのか、芸能人なのかとあれこれ質問攻めにあい、うんざりする。


「俺の話はもういいから、今度はお前らのことを聞かせろよ」


これ以上言うとボロが出そうなので、ヨンファは適当に話を切り上げて、食べることに専念した。
三人が楽しそうに話しているのを聞きながら、気付かれないように小さく溜息をついた。







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―――頭が痛い……。


ソロコンサートのリハーサル中、ヨンファは自分の身体の異変に気付いていた。
朝起きた時から少し身体が怠いような兆候はあった。恐らく微熱もあるのかもしれない。


元々身体は丈夫な方なので、この程度のことで仕事に穴を空けるわけにはいかない。


―――気合で治すしかないな。


今までもこういったことは何度もあった。
微熱程度なら、当日中か翌日の朝までには大抵下がっていたので、この時もそんなに心配はしていなかった。
薬を飲んで早めに寝れば大丈夫だろう。
幸いなことに、リハーサルが終わった後にスタッフとの打ち合わせしたら、今日の仕事は終わる。


……あとでマネージャーに連絡して、薬を買ってきてもらおう。










ベッドに横になっていると、インターホンが鳴った。
マネージャーはエントランスの暗証番号を知っているので、自分で中に入って、そのまま上がってくることができる。


ヨンファは頭を押さえながらドアを開けて、マネージャーを中へ招き入れた。
有難いことに、薬や食料品等をいろいろ買ってきてくれたようだ。


「熱は測った?」
「38度弱くらい」
「今からでも病院に連れて行こうか?」
「いや、このくらい耐えられるし、病院に行くと騒ぎになるからいい」


実家が遠くて親に頼れないヨンファにとって、マネージャーはメンバーと同様、家族同然の存在だ。
世間に顔が知られすぎているため、欲しいものがあっても買いに行けない時は、いつも代わりに動いてもらっている。


ヨンファはビニール袋の中から消化の良さそうなものを胃袋に納めて、薬を飲んだ。
それから、パジャマに着替えてベッドに入ると、うつらうつらし始めた。


マネージャーがキッチンで何かをしている音がする。
買ってきた物を冷蔵庫におさめたり、洗い物をしてくれているのだろうか。


その音を聞きながら、いつしかヨンファの意識はなくなっていった。










身体が……熱い……。頭も…熱くて痛い……。


意識が朦朧とする中でうっすらと目を開けると、部屋中真っ暗だった。


どうやら目論見が外れて、熱が上がってしまったようだ。
少し動いただけで頭がグラグラして目が回り始め、再びベッドに沈み込む。


喉から引っ切り無しに漏れる吐息は熱く、呼吸はかなり乱れている。
息苦しくて堪らない。


「…はぁ…はぁ……」


身体全体が火傷しそうなほど熱くて、無意識のうちに毛布を蹴飛ばしていた。
肢体は水を含んだように重く、まるで泥沼に沈み込んでしまったみたいに錯覚してしまう。
再び気が遠くなりそうになった時……、





不意に、冷たいタオルが額にのせられた。


―――ああ……気持ちが…いい……。マネ……なの…か……。





汗をかいていた首や胸元まで、濡らしたタオルで拭かれていく。
思わずほっと息を吐き出すと、一瞬、その動きは止まったが、やがてまた優しく拭き始めた。


その気持ち良さに、ヨンファはまた眠りに入ろうと意識を手放した瞬間、火のように熱くなっていた手を、冷たい大きな手が包み込んでくれた…ような気がした。










喉の渇きで唐突に目が覚めた。
周りは明るく、もう朝を迎えていた。


ベッドからゆっくりと起き上がると、身体はかなり楽になっており、気分もそう悪くはなかった。
熱が出たことがかえって良かったのかもしれない。


周りには誰もおらず、濡れたタオルが側に落ちていた。





マネージャーに連絡すると、今日の仕事は午後からに変更してくれていた。
これなら余裕で大丈夫だと感謝しつつ、ギリギリの時間まで身体を休めた。










「本当にいろいろ助かったよ。側にいてくれたお陰で早く熱も下がったし」


昼過ぎにマンションまで迎えに来てくれたマネージャーに礼を言うと、驚くことを聞かされた。


「それがあの後、事務所から急な呼び出しがあって、代わりにジョンシンに来てもらったんだ。ミニョクはちょうど仕事でいなかったから」
「え……」
「ヨンファは熱でうなされていたし、しばらく側についててくれたんじゃないかな。あとでお礼を言ったらいい」


ドクン。


ヨンファの心臓が激しく高鳴った。


あの時、看病してくれたのはジョンシナ?じゃあ、タオルで拭いてくれたのもアイツなのか……。


しかし、それを認識したからといって、ヨンファは何も期待しなかった。
マネージャーに頼まれたから来てくれただけで、他意はない。
ただ、一言礼は伝えなければと思いメールを送信したら、しばらくしてジョンシンから返信があった。


『ヨンファヒョン、やっぱ臍出してたよ!うそうそ。あんまり弟たちを心配させないようにな!』


ヨンファは自分の考えが当たっていたことに、自嘲気味に笑った。







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1月下旬、韓国版ビルボードと言われる「GAON CHART K-POP AWARDS 2014」がオリンピック体操競技場で行われた。
2014年のK-POPシーンを飾ったスターたちが授賞式でパフォーマンスを披露するもので、ヨンファたちCNBLUEも出席していた。


もうじき出番が近いということで、ステージ裏の控室にいると、ジョンフンとジェジンが慌てた様子で入ってきた。


「ヨンファ、ホンギを見なかったか?」
「ホンギ?いや、見てないけど。どうした?」
「次の次が俺たちの出番なのに、どこにもいないんだ」
「えっ?」


ジョンフンたちと手分けして、一緒に周辺を探すことにした。
もし見つからなくてステージに穴を開けるようなことになったら、FTだけの問題じゃなくてFNCエンターテインメントの沽券にかかわる。


控室を出て、他の部屋の中を探しながら奥へ進んでいくと、ジョンシンがこちらに向かって歩いてきた。


「ホンギを探しているんだが、見なかったか?」


ジョンシンがヨンファの顔を見て驚いたような顔をする。


「ホンギヒョンはえっと……」


ジョンシンの様子がおかしい。何か知っているような挙動不審な感じがする。


「何だよ。知ってるんなら教えろって」
「あっ…ちょっと、そっちは行かない方が……」
「もういい」


この先にホンギがいるのだと確信して歩いて行くと、ちょうど死角になっている場所に見慣れた後姿があった。
何だ、こんなところにいたのか。


「ホン…ギ…」


名前を呼び掛けて、語尾が小さくなった。
ホンギは一人じゃなかった。
誰かと抱き合っていて、よく見ると……キスをして…る…!?


呆然と立ちすくんでいると、ジョンシンが後ろからヨンファの腕を取って無言で引き返していく。
頭が混乱して、目の前で見た光景が何度も繰り返される。


信じられないことに、


相手は……ヒチョルヒョンだった……。





「ヒョン、大丈夫?」
「あ、ああ……」


ホンギがヒチョルヒョンとそんな仲だったとは……。
そう言えば以前飲み会で、二人の雰囲気に違和感を覚えたことがあった。
ホンギが情緒不安定だったのも、このことが関係していたのだろうか?


黙り込んだヨンファに、ジョンシンが心配そうな顔をする。


「だから、行くなって言ったのに」
「……別に平気だから」


ジョンシンがじっとヨンファを見つめてくる。


「無理すんなよ」
「無理なんか…してない」
「だって、泣きそうな顔してるだろ」


それは、お前に腕を引かれたから。
お前の体温に触れたから。
ホンギのことは関係ない。


「そ…んなわけない…っ」


突然、両目をジョンシンの手で塞がれた。真っ暗で何も見えなくなる。


「ちょっ…何すんだよ。前、見えない」
「涙腺を止めるおまじない」
「だから、泣いてないって……」


すると、唇に何か柔らかいものが触れた。
そして、それが何なのかを理解した途端、それはすぐに離れた。


ヨンファの目を覆っていた手がパッと離れ、瞼を開けると目の前いっぱいにジョンシンの顔があった。
躊躇なく見つめてくる黒い瞳に、喉の奥がカラカラに渇いていく。
ジョンシンの顔をまじまじと見つめるヨンファに、いたずらっ子のように片目を瞑ってみせる。


「ほら、ビックリして止まっただろ。ホンギヒョンは俺が呼びに行くから、先に戻ってて」


ヨンファは身体が固まって、一歩も動けなくなっていた。


―――ジョンシナに…キス…された……。


それも、触れたか触れていないのかよく分からないような、子供騙しのキス。
急に心臓がバクバクと脈打ち始めた。
それなのに、当の本人はいつもと変わらず平然とした顔をしていた。





ジョンシンが奥の方へ行き、話し声が聞こえたかと思うと、ホンギが走って出てきた。


「悪いっ」
「急げ。皆、待ってるから」


ヨンファもホンギのあとに続いた。
もうじき本番なのだから、気持ちを切り替えないといけない。
ヨンファは冷静になろうと心を落ち着かせた。





ホンギのことは驚いたが、それ以上に、ジョンシンにされたことの方がショックだった。
女に対してやるような手口で揶揄われて、ヨンファは憤りを感じていた。
ジョンシンにとってはただのジョークかもしれないが、ヨンファにとっては堪らなかった。


―――本当に……拷問だな……。


それとも仕返しなのか?
もうこんなことは耐えられない。
頼むから、これ以上気持ちを引っ掻き回すのはやめてほしかった。


表面上は兄と弟を取り繕っていても、ジョンシンが何も感じていなくても、自分はそうではない。以前とはあまりにも違ってしまっていた。
だから、冗談でもこんなことはしてほしくなかった。感情を乱されたくなかった。


ヨンファはきつく奥歯を噛み締めて、控室へと向かった。







*********************************************************************







ソロコンサートを目前にして、ヨンファは忙しさのあまり、日に日に疲労が蓄積されていた。
夜、ベッドに入っても、眠くて瞼は閉じているのに、逆に身体が疲れすぎているせいで興奮状態になっていて、なかなか寝付くことができない。
そのため、移動中の車の中や作業室の椅子でうとうとと眠る有様で、明らかに寝不足状態に陥っていた。


また、それに伴い食欲も落ち、ベルトの穴一つ分ほど体重が落ちてしまっていた。
それでも休む間もなく、ヨンファは連日の激務をこなしていた。


ヨンファの異変にいち早く気が付いたのは、メンバーとマネージャーだった。


ソウル市麻浦区近くのスタジオでリハーサルを終えた後、事務所の作業室に籠っていると、マネージャーが訴えてきた。


「ヨンファ、顔色が悪いから、病院に行って点滴を打ってもらった方がいい。スケジュールは何とか調整するから」
「いや、大丈夫。まだやることが残ってるから」


初めてのことばかりで、それに早く自分を近付けようと、ヨンファはいつも以上に焦って無理をしていた。
普段のヨンファらしくなく余裕がなく、何かに急かされているような、切羽詰まったような感じが見受けられた。


「そう言わずに。皆も心配しているんだから、病院へ行こう」


病院に行く時間なんて有りはしない。一分一秒でも惜しいくらいなのに。
自分にはやらなければならないことがたくさんある。
今のままじゃダメだ。もっともっといろんなことを吸収して、コンサートを成功させないと。
そうでないと、不安に押し潰されそうなんだ。


再びヨンファが拒否すると、マネージャーが困ったような顔をする。
二人が押し問答を続けていると、他のメンバーも入ってきた。


「ヨンファヒョン、マネの言うことを素直に聞いた方がいい。どう見ても普通の状態じゃない」
「今ぶっ倒れたら、元も子もないんだよ。ヒョン、病院に行って」


今のヨンファにとって、ジョンヒョンとミニョクの優しさや親切心はかえって重荷だった。
もう放っておいてほしい。俺のことなんかに構わないでほしい。
俺はちゃんと一人でやれるんだから。
今までもそうだったように、これからもそうなんだ。誰にも頼らずにやっていくんだ。


「いいって。大丈夫だから。俺の身体のことは俺が一番よく知っているんだからっ」


ムキになって行くのを拒み続けていると、突然、バンッとデスクが大きな音を立てた。


「それが逆に俺たちにとって迷惑なんだって!リーダーなら分かれよ、そのくらい!」


手の平をデスクに叩きつけたジョンシンに頭ごなしに怒鳴られて、ヨンファは言葉が出なかった。


「今、体調を崩してコンサートをやれなくなったらどうするんだよ?折角チケットを買って楽しみにしてくれてるファンを失望させたいのか!」


作業室にジョンシンの声が響き渡る。
真正面から見下ろしてくるジョンシンの瞳は真剣そのものだった。
きつい口調で言われ、ヨンファは立ち尽くしたまま、震えそうになる拳を強くギュッと握りしめた。
皆が静かに見守る中、何も言い返すことができなかった。


「病院まで行こう」


マネージャーの言葉に、ヨンファは素直に従った。










「ジョンシンはヨンファのことを心配してああ言ったんだから、あまり気にしないで」
「…ああ…分かってる……」


車を運転しながら、マネージャーが気遣って声をかけてくる。
ヨンファは胸の痛みに耐えるように顔を歪める。


分かっている。皆が俺のことを心配してくれているのは。
ジョンシナの言ったことは正論だ。
体調が悪い時点で早目に病院へ行くなどすれば良かった。それを忙しいからという理由をつけて、対処しようとしなかった自分が悪い。
結果的に皆に迷惑をかけることになってしまった。


ただ、頭ではそう理解しているのに、口には言い表せないほどの苛立ちとやるせない気持ちが身体中から溢れ出ていく。


あんな風に激高したジョンシンを見るのはどのくらいぶりだろうか。
少なくとも、また兄と弟のような関係に戻ってからは以前のように穏やかで、ヨンファと衝突することもなかったのに。
先程の目に焼きついた姿を振り切るかのように、ヨンファはきつく目を閉じた。





病院で点滴をしてもらっている間に眠気が襲ってきて、ヨンファは暫しベッドで寝ていた。
気を利かせた看護師が少し遅めに声をかけてくれ、目が覚めた時には、大分体調が良くなっていた。


医師には過労と診断された。
自分の父親と同世代ぐらいだろうか。
『あまり無理をしすぎないように』と、皆と同じようなことを言われ、栄養剤を処方してもらった。


それから、マネージャーに家まで送ってもらい、また一人きりになった。





人気のない、冷たいリビング。
何もする気が起きず、ヨンファはソファーに座り込んだ。


もうすぐアジアツアーが始まるというのに、こんなことで大丈夫なのだろうか。
気負いすぎて、すべてが空回りしているような錯覚に陥る。
そして、どうしても不安が拭えず、ネガティブなことばかり考えてしまう。


「くそ……っ」


深く苦い溜息をついて、ヨンファは両手で顔を覆った。


――― 一体、どうすればいい……。


ひどく惨めな気分だった。
弟たちやマネージャーの前でみっともない姿を晒し、世話が焼けるとさぞ呆れられたことだろう。
どうしたら、こんな気持ちから抜け出せるのだろう。


ヨンファの心の中は、暗い闇に包まれていた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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