CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 8

2016年04月08日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 6






「いてーっ」


静まり返った夜の診療所にジョンシンの声が響き渡った。
組事務所からさほど離れていない宣陵駅近くの繁華街の中にあり、元極道の医師キム・チャンワンが一人で切り盛りしている。
今から二十年ほど前に開業したとのことで、小ぢんまりとしているが医療設備は整っているし、腕も良い。それまでは病院の勤務医をしていたらしいから、技術的にも信頼がおける。


暴力団組織から重宝がられていて、いろんな組事務所の人間が出入りするため、たまに顔を合わせて気まずい相手もいるが、ジョンシンはここが気に入っていた。
キム医師は歯に衣着せぬ物言いなので遠慮がないし、医師特有の敷居が高い感じもない。
ヨンファとはまったく違うタイプだが、どちらも患者にとって良い医師であることには変わりなかった。


また、極道に理解があるため、怪我を負った経緯を包み隠さず話すことができ、時間外報酬を払えば二十四時間いつでも診察してもらえるという利点もある。
どうやらここから数分以内のところに居を構えているらしいのだが、診療所内の一室でも寝泊まりしているとの話だ。


「大の男が大声を出すんじゃない。また無茶しよって」
「先生、もうちょい優しくして下さいよ」


ボクサーパンツ姿のジョンシンは、椅子に座って怪我の治療を受けていた。
目に見えないような細かい破片が体内に残っている可能性があるため、キム医師は触診で痛みがあるかをジョンシンに確認しながら慎重に診察していく。


眼鏡の奥の優しそうな目許はいつになく真剣で、何箇所か深く刺さっていたガラス片はピンセットで取り除かれ、患部に消毒が施される。
それが痛みを伴うようで、ジョンシンは先程から呻き声を上げている。


「身体にいくつ傷を作ったら気が済むんだ。悲しむ人がいるだろうが」
「そんなのいないすよ」
「若いのに寂しいな」
「……放っといて下さい」


ガハハと笑われて顔が引きつりそうになるのを何とか抑えて、ジョンシンはポーカーフェイスを装った。
自分にそんな人間なんていやしない。
両親は幼い頃に離婚して、父親のみならず育ててもらった母親とも縁を切った状態であるし、家を出てから兄とも一度も会っていない。


ジョンシンに気のある人間なら案外悲しんでくれるかもしれないが、嬉しくもなんともない。
本当にそう思ってもらいたい相手は、自分にまったく関心がないときている。
そもそもそんな対象にすらされていない。
数時間前のことを思い返すと何とも言えない気持ちになり、ジョンシンはひっそりと溜息をついた。


患部に滅菌ガーゼをあて、その上から防水テープを張る作業をジョンシンは静かな目で眺めていた。両腕は傷が集中しているため、包帯が巻かれる。
出血の多かったこめかみも止血され、ガーゼとテープで処置された。


「手榴弾か?」
「間違いないっすね」
「それでよくこの程度の怪我で済んだもんだ。運が良かったとしか思えん」


ジョンシンは衣服を身につけながら、襲撃に遭った時のことを思い返してみる。
確かに一歩間違えば、こんなものじゃ済まなかったかもしれない。
ガラスの破片で身体の随所に傷を負ったものの、どれも致命傷ではなかったし、火傷の被害もなかった。


不幸中の幸いだったのは、ジョンシンの咄嗟の判断でヨンファが無事だったことだ。
たまたま近くにいて、爆音と同時に身体が動いていた。
頭で考えたのではなくて、本能がそうさせた。
もしあの時、自分が覆い被さっていなければ、彼はどうなっていただろうか。
考えただけで、ゾッとする。


恋は盲目とはよく言ったものだ。
どれほど真摯に想い願っても、報われないことはよく分かっている。
どんなに狂おしく恋焦がれても、手に入れることはできないのに、それでも何かせずにはいられない。


軽蔑すらしてもらえないと悟った時、ジョンシンは何も言葉にならなかった。
彼の頭の中はジョンヒョンで占められていて、自分のことなど眼中にないのだ。
それが痛いほどよく分かり、絶望的な息苦しさが襲ってきた。


出血している自分を見た時、彼は驚愕の表情を浮かべ心配してくれたが、辛辣な台詞の数々が心に引っかかっていて、素直になれずあんな言い方しかできなかった。
ただでさえ良い印象を持たれていないのに、皮肉なものだと唇が苦く歪んだ。


「ところで、ヨンファは元気にしているか?医者になったと聞いたが、さぞ立派にやっているんだろうな」
「患者のことを思いやる優しい先生みたいすよ」
「ヨンファらしいな」


いつぞやハンの見舞いに行った時のヨンファを思い浮かべてそう答えると、キム医師は懐かしそうに相好を崩す。
組長の息子ゆえに何度か他の組織から狙われたことのあるヨンファも、怪我をするたびにここで治療してもらっていたようだ。


「利発な子供だったから、極道になるのはもったいないと思っていたが、ちゃんと自分の夢を叶えるところがすごいな。元気そうで何よりだ」
「……昔のヨンファヒョンってどんな感じだったんすか?」


「初めて出会った時ヨンファは中学生だったが、すでに人生を達観しているような子だったよ。一般とは異なる家に生まれて、幼い頃に母親を亡くしたことも要因しているのだろうが、子供と思えないほどしっかりしていた」


ジョンシンがよく知っている大学生の頃も、見た目に反して中身はすでに大人びていた。
それ以前からそういう要素があったとは、一体どんな子供時代を過ごしてきたのだろうか。


「しかも、あの通り見た目もいいし、ジョン組長にとってもさぞかし自慢の息子だろう。ただ、一度だけ私の前で自分を曝け出したことがあった。診察を受けにきた時、ついポロッと元組員だったって話をしたら、目を丸くして驚いてな。それまで遠慮がちだったのが、いろいろと胸の内を話してくれて、自分が極道の息子という境遇に相当苦しんでいるようだった」


「……苦しんでいた?」


彼のイメージとはまったくそぐわない言葉が出てきて、思わず訊き返した。
あまりそういう姿を見たことがなかったから、想像できなくてただ驚く。
ジョンシンの知る限り笑っているか、突然言葉遣いが乱暴になって毒舌を吐くか、真剣な顔をして相手を思いやるか、そんなヨンファしか知らなかった。


「ヨンファは表には一切出さないが、裏では様々なことに耐えている。父親が組長で、母親を抗争で亡くしたというだけでも、想像を絶するほどの重いものを背負ってきたに違いない。それを跳ね返すだけの精神力と頭脳を持っていて、子供の頃から苦労をしてきたからこそ、人に対して優しくできるんだろう。ヨンファはそういう子だ」


今まで気にも留めていなかったが、確かに子供にとってはあまりにも酷すぎる人生と言えるだろう。彼がこれまでそういう道を耐え忍んで歩んできたのかと思うと、胸が痛くなった。
それをヨンファはおくびにも出したことはない。
時々言い方がきつい時はあるが、本質的には優しくて思いやりがあり、自分のことよりも相手を慮るところがある。


ふと、ジョンシンはヨンファを庇って怪我を負った直後のことを思い出した。
つれない態度をとったが、心から自分のことを心配してくれているのが伝わってきた。
こんな自分にも分け隔てなく手を差し伸べてくる。
そんなヨンファだから、いくら可能性がないと分かっていても、完全に想い切ることができないのだ。


「ヨンファに会うことがあったら、よろしく言っといてくれ。それと、傷の状態を診たいから、また三日後に来なさい」
「……はい。お世話になりました」


ジョンシンはキム医師に頭を下げて礼を言うと、診察室をあとにした。










診療所を出ると雨が降っていた。
ジョンシンは軒下で煙草を咥えると、ライターで火をつけて、真っ暗な空に向かって煙を吐く。


今まで自分ほど不幸な人間はいないと思っていたが、ヨンファの話を聞いて居た堪れなくなった。
外見ばかりに囚われて、彼の心の闇にはまったく気づきもしなかった。


裏にある脆い部分を隠そうと気の強さを前面に出しているのだとしたら……。
いかにも彼らしいと思うと同時に愛しくてたまらなくなり、胸が張り裂けそうになった。


程なくして目の前に一台の黒い車が止まり、ジョンシンは煙草を消して足早に助手席へ乗り込む。
運転席のミニョクはジョンシンがシートベルトを締めたのを見て、再び車を発進させた。
ドリンクホルダーには缶コーヒーが二本置いてあり、勧められるままにジョンシンはプルトップを開けて飲む。


「その腕、大丈夫なのか?怪我の具合はどうだったんだ?」


包帯を巻かれた両腕を見て、ミニョクが眉を顰める。
かなり痛々しく見えるのだろう。


「ガラス片が体内に入り込んでいる形跡はないし、外傷だけで済んだ。大したことはねぇって先生のお墨付き」
「そうか……。あんまり心配させるなよ。血だらけの姿を見た時はマジでビビッたんだぞ。
……しかしお前、運が良いというか、不死身すぎて笑えるわ」


「はぁ~?」と思いっきり不機嫌そうな声を出すと、運転席の男が目を細めて噴き出している。
わざと場を和ますために面白可笑しく話を持っていくのは、配慮のあるミニョクらしい。
ジョンシンも口許を緩めて、敢えてそれに乗っかっておく。


「ほっとけよ。で、そっちは?」
「表で二人とっ捕まえて、裏の駐車場に一人伸びてる奴がいた。恐らくヒョニヒョンが倒したんだろうけど、三人とも警察に引き渡したよ」
「他に怪我人は出てないのか?」
「それは大丈夫だ。被害に遭ったのはお前くらいだから。あと……」
「どうした?」


急にミニョクが言い淀むから気になって訊ねると、思いがけない答えが返ってきた。


「その場にいたわけじゃないから断定できないけど、ヒョニヒョンが怪我をしているかもしれない」
「何で分かる?」
「駐車場に血痕が残っていたんだ。伸びていた奴は出血していなかったから、ヨンファヒョンかヒョニヒョンのどっちかが怪我をしている可能性がある。となると、ヒョニヒョンとしか考えられないだろ」


確かにミニョクの言うように、ジョンヒョンがそばにいながらヨンファが傷を負うことは到底考えられない。
身体を張ってでも守り切るに違いないからだ。


「ヒョニヒョンは戻ってきたのか?」
「いや、まだ。連絡もない」
「……あれから随分時間が経ってるだろ」
「案外ヨンファヒョンに手当てしてもらってるのかもな。医者だから」


ミニョクが何気なく漏らした言葉が耳に入ってきた途端、ジョンシンの動きが止まった。
急に車中の温度が下がったような気がした。


手当て?ヒョンのマンションで…か?
今の状態の彼らが、もし部屋で二人きりになっていたとしたら……。


バキッ。
ジョンシンは思わず手にしていた缶コーヒーを握り潰していた。
その光景を想像しただけで、目の奥が真っ赤に染まったような気がした。


「……物に当たるなよ」


運転席からチラリと一瞬向けられた視線は、非難めいた色を含んでいる。


「ミニョク、お前は平気なのか?」


激情を押し殺すようにいつもより低音で問うと、再び真っ直ぐ前を向いて運転するミニョクの顔が一瞬歪んだのを、ジョンシンは見逃さなかった。


「あの二人の間に割り込むことなんか誰にもできないさ。そういうお前こそ、もう少しスンヒョンのことを考えてやったらどうだ?あれだけお前に尽くして、いじらしすぎるだろ。いい加減振り向いてもらえない相手を想い続けても仕方ないんじゃないのか?……まぁ、それは俺にも言えるけど」


ミニョクが寂しげに乾いた笑いをする。
ほとんど諦めにも似たような表情を浮かべ、見ていて切ないほどだ。
しかし、それに賛同することはできず、ジョンシンは身体中から今にも溢れ出しそうな感情を抑え込む。


「本当に欲しいものじゃないと、手に入れても意味はねぇ」


吐き捨てるように言って、ジョンシンは潰した缶を握っていた手に力を込めた。
それに対して、ミニョクは黙ったままだった。


二人がお互いに想い合っていることは、ジョンシンが部屋住みをしていた頃から気づいていた。そして、今もその気持ちが失われていないことも。
彼らの間に入る隙間はないと諦めていたが、それは二人が一定の距離を保ったままの関係だったからだ。


ヨンファが誰かのものになる。
初めて現実に起こり得ることを目の前に突きつけられて、今まで感じたことのないほどの凄まじい嫉妬心が芽生えてくる。
あの白い肌に誰かの手や唇が触れると思っただけで、全身の血液が沸騰したような感覚に支配され、身体の奥で何かが音を立てて崩壊していくのが聞こえた気がした。


誰であろうと認めない。
それが仮に、若頭補佐のジョンヒョンだったとしても。


「お前、今日当番だったよな?」
「そうだけど、どうした?」
「行き先を変更してくれ。俺も事務所に出る」
「何を言ってるんだ、その怪我で。アパートに送るからちゃんと休めよ」


こんな気持ちのまま一人でいると、ロクなことにならない。
また誰かを引っ張り込んで、意味のない欲望をぶつける行為に走りそうになる。
身体の奥底に巣食っている飢餓感は、身代わりごときでは決して満たされることはない。
事務所にいた方が、余程気が紛れるだろう。


「仮眠室で休むから心配ない」
「ジョンシナ……」


それきり口を噤んだジョンシンに何を言っても無駄と思ったのか、ミニョクはひとつ溜息をついて来た道をUターンした。


窓に打ちつける激しい雨をじっと見つめながら、言いようのない胸騒ぎを覚える。
今、この瞬間、あの二人の間に何かが起きているような予感がして、ジョンシンはギリッと血が滲むほど強く唇を噛んだ。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(6)

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2016/04/09 (Sat) 01:03

haru

**さん

こんにちは。はじめまして♪

拙い話を読んで下さり、どうもありがとうございます♡♡
とても温かいお言葉に心より感謝します(///o///)

いろんなキャラが出すのがマイブームなのですが、書きわけが上手くできていないという難点がありまして(・Θ・;)
しかも、性格を勝手に作っているので、違和感があったらごめんなさい(TωT)

少しでも萌えをお届けできればと思っておりますので、今後ともどうぞ宜しくお願いします♪

2016/04/09 (Sat) 11:55

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2016/04/09 (Sat) 14:20

haru

t*******さん

こんばんは♡♡

ありがとうございます(〃∇〃)
こんなに入り組むのは初の試みなので、違う意味でものすごくドキドキしてます(TωT)

2016/04/09 (Sat) 20:21

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2016/04/12 (Tue) 08:55

haru

m*******さん

こんにちは♡
拙い話を読んで下さり、どうもありがとうございます(〃∇〃)
慣れないジャンルなので、毎回大汗なんですよ(・Θ・;)

m*******さんのガッツリ系ですごいですよね!!
またお邪魔させてもらいます♡♡

2016/04/12 (Tue) 18:00