CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 4

2016年03月19日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 2






車がほとんどいない深夜の道路を一定の速度で走りながら、ヨンファはフロントガラスに向けていた視線を運転席に移した。
本格的な夏を迎え、いつもダークスーツに身を包んでいた男は、今日はクールビズの格好になっていた。
一見、普通のサラリーマンのようであるが、身のこなしに隙がなく、目の奥には鋭利な刃物のような鋭さを秘めていて、住む世界はあまりにも違いすぎる。


手慣れたハンドル捌きで右折したジョンヒョンの横顔をまじまじと見つめながら、ヨンファは数日前から気づいていたことを口にした。


「ちゃんと寝てるのか?」
「寝てますよ」
「嘘つけ。目の下に思いっきりクマができてるだろうが」


さらりと返ってきた言葉を一刀両断すると、疲労の影を纏っている横顔が少しだけ狼狽えたのを、ヨンファは見逃さなかった。
日によって若干のズレはあるものの、朝出勤する時と夜もしくは深夜に帰宅する時のみ、ジョンヒョンに車での送迎をしてもらっている。
時間は予め決めておいて、大幅に前後しそうな時だけ事前にメールをしているが、今のところ特に問題はない。


それ以外の病院からのイレギュラーな呼び出し時には、チルソン組の連中もそこまでは読めないだろうとヨンファが言い張り、ジョンヒョンの反対を押し切って、自分で車を運転して病院まで行くようにしていた。


半ば強引に身辺警護を約束させられたとはいえ、若頭補佐としての仕事もある多忙な男を運転手代わりにして多少は気が引けていたところに、やはりと言うか、その整った貌には明らかに睡眠不足の症状が表れていた。


「それは、ヨンファさんも同じでしょう。私は普段からそんなに長く寝る方じゃないので、大したことはありません」


そう切り返されるとは思っていなかったため、ヨンファは一瞬言葉に詰まる。
毎日会っているせいか、ジョンヒョンはヨンファに対して昔みたいに遠慮がなくなってきたのか、結構言うようになってきた。


「俺はもう慣れてるし、ずっとこんな顔だ。あのな、ヒョニ。今はお前の身体のことを心配して言ってるんだから、話をすり替えるなよ」


ヨンファの台詞が余程意外だったのか、一瞬だけチラッとこちらに視線を流して、すぐさま前方に戻される。
ジョンヒョンの横顔は虚を衝かれたように瞬いた。


「仕事も忙しいんじゃないのか?グンソクの補佐をしているということは、組の運営にも携わっているんだろう?」


今まであまりジョンヒョンの仕事について触れなかったヨンファに驚きを隠せないようで、少し間があってからようやく口を開く。


「……ぼちぼちやってますよ。変なことには手を染めていないので、安心して下さい」
「安心はしてる。親父がいなくても、お前たちがちゃんとやっていることくらいは分かる」


真面目に心配しているのに何だかはぐらかされたような気がして、ヨンファは正直面白くなかった。


「まだ送迎を続けるつもりなのか?奴らはあれっきり現れないんだから、もう大丈夫だろ」
「油断はできません。何かあってからでは遅いので、もう少し様子を見させて下さい」
「……………」


自分のことを気にかけてくれるジョンヒョンに対して胸が疼くような気持ちになるが、その分負担をかけていると思うと、手放しで喜べるはずがなかった。
だから、自分の口からは何も言えず黙っていたが、ジョンヒョンはそれを承諾の返事ととったようだ。


「……親父の退院は来週だったよな?」
「ええ、そうです。特に変更はないようなので、会いに行かれますか?」
「退院したら、家に帰るよ」
「では、その時また私が迎えにきます」


ジョンヒョンが横目でこちらを見る。その瞳の色には読めない感情が含まれていて、ヨンファは普通の表情を装いながら真っ暗な外に顔を向け、溜息混じりに助手席のシートに凭れかかった。
暗い密室の中に二人きりでいると、息が詰まる。


この気持ちを伝えたら、ジョンヒョンはどんな顔をするだろうか。
自分も同じ気持ちだと、都合のいいことを言ってはくれないだろうか。


ジョンヒョンの素振りからその可能性は1%にも満たないとは思うが、玉砕覚悟でぶちまけてみたい気もする。
そんな愚かな考えが一瞬ヨンファの脳裏を掠めたが、実際にはそんなことは訊けるはずがなかった。


前方にマンションが見えてきて、ジョンヒョンと過ごせる短い時間に終わりが来る。
そんなに話をしているわけでもないのに、別れるこの瞬間だけは未だに慣れない。


いつものように公園のそばの路肩に駐車するのを待って、シートベルトを外す。
ジョンヒョンも同じようにするのを、ヨンファは初めてやんわりと制した。
忙しい身なのだろうから、早く解放してやりたいという思いがあった。


「今日は、ここまででいい」


そう言って外に出ようと助手席のドアレバーに手をかけた途端、いきなり左腕を掴まれ引き戻された。


「駄目です。ドアのところまで一緒に行きます」


いつになく強い口調で即反対された。
腕を掴む手には痛みを感じるほどの力が籠っていて、「痛い…」とヨンファが言うと、あっさり手が離れた。


「……過保護だな」
「どう言われようと構いません。貴方にもしものことがあれば、親父さんを始め組員たちが悲しみます」
「お前は?」
「はい?」
「お前も悲しんでくれるのか?」


ヨンファが一歩踏み込んだことを訊くと、ジョンヒョンは困惑したように表情を僅かに翳らせ、少し目を逸らし気味にする。
また言葉巧みにかわすのだろうなと、ヨンファは期待せずに再びドアを開けようとした。


「貴方に危険が及ぶようなことは、私が絶対にさせない」


力強い決意が漲っている美声に耳を疑って振り向くと、ジョンヒョンはヨンファを見ていた。
面と向かって初めて言われた台詞に驚愕すると同時に胸が締めつけられ、真剣な眼差しに射貫かれて身体に震えが走った。


「行きましょう」


でも、そこまでだった。
それ以上のことは何も言ってくれない。
ヨンファの望んでいる言葉はいくら待っても、その口から語られることはないのだ。


「……ああ」


我に返って、ヨンファはどうにか平静を装った。
落ち着いた低い声に促されて、二人して車から降りる。
いつものように落胆しつつも、ヨンファは慣れた調子で自分の気持ちを押し殺した。
当たり前だ。あれから何年経ったと思っている。十年だ。その事実に、ヨンファは自嘲した。


日付が変わっている時間帯のせいで人影は皆無で、周りはかなり暗く、マンションの電灯で敷地内だけはよく見渡せた。


スタスタと歩いて行こうとするといきなりジョンヒョンに腕を引かれ、背中に手を置かれる。
まるで外敵から守るようにピッタリと寄り添われて、寡黙な男に似つかわしくない大胆な行動に、ヨンファの鼓動が跳ね上がった。
触れられた箇所にジョンヒョンの温もりを感じながらも、肌は痺れるほど熱を持ち始めて、まるで蛇の生殺しのようだ。


周囲を警戒しているジョンヒョンの気配には殺気が混じっていて、それとは対照的に、背後から漂う甘い香水の香りが鼻腔を擽り、酔いそうになった。
半袖のワイシャツから出ている腕は太く逞しくなっていて、それを目にしただけで心臓が早鐘のように鳴り始める。
その音を聞かれやしないか、ヨンファは気が気じゃなかった。


マンションの裏口まで来ると、取り出した鍵で重いドアを開ける。
中に入り振り向くと、男らしい精悍な顔が穏やかな色を滲ませて見つめてきた。


「ゆっくり休んで下さい。また7時過ぎには迎えに来ます」
「悪いな。お前もちゃんと寝ろよ」
「はい。では、おやすみなさい」


その返事を合図にドアをゆっくりと閉めて、ヨンファは深く息をつく。
知らず知らずのうちに緊張していたのか、全身から一気に力が抜け、しばらくその場から動けなかった。






*********************************************************************






組事務所のある江南区の歓楽街は日中は閑散としているが、夜の帳が下りる頃になると、一斉に看板に明かりが灯り輝きを増した。
表の大通りや裏の狭い路地にはスナック、バー、クラブなど酒類の提供を主とする飲食店や性風俗店などがひしめき合うように並んでいて、それぞれが煌びやかなネオンに彩られ、夜の街へと変貌していく。


ジョンシンは若頭のグンソクのお供でみかじめ料の回収のため、雑居ビルに入っているキャバクラや風俗店などに片っ端から顔を出していた。


近年、警察による取り締まりが強化され、公では禁止行為となっており、店から金品を徴収しないよう中止命令が出されているが、守らない暴力団組織は多い。


一般的には、店に言い掛りをつけてみかじめ料を要求し、断られると組の威厳を示して威嚇し、店側が受け入れるまで執拗な嫌がらせ行為を繰り返すことなどが行われているが、青龍組ではそのようなことは一切していなかった。
組長以下、幹部たちの考えに即していないのと、そのような脅し行為をする必要がないからだ。


歓楽街の中に組事務所が所在しているため、普段から組員たちがプライベートで店を利用することは多く、それを店側が快く思ってくれていて、逆に店側から組に何らかの相談事が持ち込まれ、代紋の力で問題を解決することがある。
その感謝の意から、自らみかじめ料を払いだした店は少なくない。


金額は一ヶ月あたり、飲食店は30~50万、風俗店は50~100万、闇スロ、闇カジなどのアンダーグラウンドは100~150万、パチンコ店は一律300万ウォンが相場で、組にとっての重要な資金源の一つとなっていた。


しかも、青龍組はイケメン組員が多いことで広く知られていて、みかじめ料を支払うからと、様々な依頼が入る。
例えば、悪質な客層や同業者から嫌がらせを受けないために定期的に店を巡回する用心棒的な仕事や、何らかのトラブルが起きてしまった時の後ろ盾などで、組員たちは二つ返事で快く引き受けるようにしていた。






グンソクのあとに続いてジョンシンも馴染みのキャバクラに入ると、華やかな店内でまず黒服の男が丁寧に頭を下げて出迎え、奥の席へと案内された。
すぐさまママが挨拶に来て、グンソクと話をしている間、ジョンシンは手持無沙汰になり、立ち上がってレストルームへ向かう。


用を済ませてから席に戻る途中で、何人ものキャバ嬢が熱の籠った視線を送ってくるのを慣れた調子で難なく躱していると、見知った顔が席を立つのが見えた。


「あ~、ジョンシンだぁ。最近、ちっとも来てくれないじゃない」


甘えたような声とともに、ピンクを基調としたミニ丈ドレスに身を包んだスレンダーな美女が、豊満なバストを揺らしながら歩み寄ってくる。
この店の人気ナンバーワンキャバ嬢のチョアはジョンシンの前まで来ると、嬉しそうにこちらを見上げた。
短めのドレスからすらりとした美脚が覗いていて、大抵の男はこれで悩殺される。


「よぉ、久しぶり。ちょっと、いろいろと忙しくてな」
「もう、嘘ばっかり。先週、『エンゼルアロマ』のユナから聞いたわよ。激しすぎて失神しそうだったって、ご満悦だったけど?」


『エンゼルアロマ』とは、このビルの上階に入っている風俗店の名前で、以前よりそこのソープ嬢から執拗に誘われていて、先日初めて客として行ったのだ。


青龍組は極道とはいえ、義理人情を重んずる組長の意志を組員たちも受け継いでいて、みかじめ料をもらっている店には、『たまには客として顔を出して金を落とす』という風潮にある。
そういった組員たちの気持ちが伝わるのか、店側も喜んでみかじめ料を支払ってくれるから、お互いにギブアンドテイクの精神で信頼関係が築けているのだ。


それにしても、まさかチョアとユナが知り合いとは思わなかった。
一般人の女とは違い、こういう仕事をしているからか、変に恨まれたり、ひどい嫉妬をされないのは有難い。


「ホント妬けちゃうわね。格安料金でいっぱいサービスするから、いつでも来て」


誘うように巨乳をわざと押しつけて妖艶な笑みを浮かべる彼女に、真上から見下ろしながら何度も直に触れたことのある形の良いヒップに手を滑らすと、途端にトロンとした目つきになりしなだれかかってくる。


「また時間が取れたらな」


ジョンシンが耳許で囁くと、ますますしがみついて身体を押しつけてきた。


「ほら、仕事中だろ」
「うん。じゃあ、戻るね」


チョアは名残惜しそうに離れると、微笑んで他の客が待っている席へと戻って行った。






最近、ジョンシンは自分というものが分からなくなってきていた。
プライベートでは『来る者拒まず去る者追わず』的なスタイルを貫き、相手は男女問わずで年齢を重ねるごとに経験値だけは高くなり、言い訳の一つもできないくらいやりたい放題の人生を送ってきた。


そんな自分の生き方を以前は肯定できたのに、今では虚しさを感じるようになっていた。
その原因が何かは、自分でもよく分かっている。
チョアに対してもそれなりに魅力を感じていたが、ヨンファと再会してから、一切その気がなくなった。
しかも、先日初めて見た白衣姿のヨンファばかりが脳裏に焼きついて離れないのだ。


最高顧問のハンが彼の勤務する病院に入院し、その見舞いに行くというジョンヒョンに頼み込み同行させてもらったのだが、特別病棟だからという理由で、ジョンシンは慣れないスーツを着ることを余儀なくされた。
興味本位で行ってみたかっただけで、まさか本当に会えるとは思っておらず、病室に入ってきたヨンファに息を呑んだ。


皺ひとつない真っ白な白衣に身を包み、知性を感じさせるエリート然とした風貌をさらに際立たせて、ある意味神聖な病室で妙な色気まで滲み出ていた。
非常に目に毒なものを見てしまい、一言で表現すると、ジョンシンにとってはまさに『駄目押し』だった。


仕事をしている彼は、優しい口調で時折笑みを浮かべながら患者のハンに話しかけていて、その姿に見惚れつつ、いつもこんな風に患者と接しているのだと、何だか心が温まるような気がして嬉しかった。


一生懸命仕事に打ち込んでいる彼を見ていると、ジョンシンは自分のやっていることが堪らなく恥ずかしく思えてきたのだ。
不特定多数の中から適当な相手を選び、ただ性欲を吐き出すための行為を繰り返す節操のない男だと、もし彼に知られたら軽蔑されるに違いない。


全身を白衣で覆っているため、露出している肌がことさら強調され、思わず目が釘付けになった。
柔らかそうな栗色の髪の毛がかかる白い襟足や滑らかな首筋を惜しげもなく晒して、歯を立てたい衝動に駆られた。


少し伸びた前髪から覗く澄んだ瞳は驚くほど綺麗で、ジョンシンが話しかけても警戒しているのか、つれない態度がいい。
向こうっ気が強く誰にも媚びなくて、あの瞳で睨まれるとゾクゾクする。
自分では無意識なのだろうが、伏し目がちの表情がまた堪らない。


その彼を独占しているのが若頭補佐のジョンヒョンで、連日マンションから病院まで車で送迎をしている。
二人きりの車中で何も起こらないとは考えにくいが、今のところジョンヒョンの様子に変化はない。
それを確かめてどこかホッとしている自分がいるが、それも時間の問題かもしれない。


このまま一緒に行動し続ければ、必ず二人の関係は変わるだろう。
その時、果たして自分は正気でいられるのだろうか。考えただけで胸が張り裂けそうになる。


愛しい彼を想いながら、その反面、ジョンシンは決して口に出せないようなことを頭の中で考えている。
白衣を着た彼を思いきり凌辱したいと―――。


歪んだ愛情と性欲がジョンシンを苦しめ、いくら他の人間を抱いても乾きは決して癒せない。
絶対にこちらを振り向いてくれない彼に、ジョンシンは気が遠くなるほど飽くなき想いを抱き続けていた。










予定していた件数分のみかじめ料を回収し終わり、ジョンシンはグンソクと徒歩圏内の組事務所へと戻り始めた。
夏場なのに涼しげな顔でブランドスーツを着こなし、道すがら知り合いに会うたびに気さくに声をかけるグンソクは、見事としか言いようがない。
いつもスマートで頭が切れ、一般の極道の幹部のように階級や能力をひけらかすことを一切しないところが、組員たちから尊敬され慕われている要因になっていて、当然ながらジョンシンもその一人だった。


「お前かミ二ョクが同行してくれれば、店の女たちが喜ぶから、回収がはかどるな」
「そうすか?若頭一人でも十分だと思いますけど」


見てくれのいい男は一人より二人の方が、店の女たちは色めき立っていつもより払いが早いとグンソクは言いたいようだ。
しかし、みかじめ料を店のママから直接受け取るグンソクは邪魔が入らなくていいだろうが、その間、自分たちが他の複数の女たちから話しかけられすぎて、逆に余計な時間がかかっているのではないかとジョンシンは思っている。
実際に足止めを食うことはよくあるのだ。
単にママを独占したいだけなのでは?と胡乱げな眼差しを向けると、鋭い眼光が返ってきた。


「何か言いたげだな、ジョンシナ」
「なんもないっす」


見目麗しい相手に興味を引かれるらしく、ヨンファの前だとでれーっとなる癖に、他の組織の連中からは陰で『青龍のソギ』と呼ばれるほど恐れられている。
物静かな仮面の下には凶暴な殺気が眠っていて、組織同士の対立などになると、その本性が表に出るのだ。
普段はほとんど見ることはなく、目上の者を敬い目下の者を可愛がるので組員たちからの信頼も厚く、まさに男が惚れる男と言える。






二人でしゃべりながら歩いていると、鉄筋コンクリートの四階建ての大きなビルが視界に入った。
一見すると普通の建物のようで、とても組事務所には見えない外観になっている。


自分たちのデスクが置いてある一室に入ると、それに気づいたミニョクとスンヒョンがパソコンのキーボードを操っていた手を止め、二人に労いの言葉をかけてきた。


「おかえりなさい」
「お疲れ様です!」


パソコンで何か入力作業をしているところを見ると、昨日までに入金された会計処理でもしているのだろう。
窓のブラインドはすべて下ろされ、事務所の中は静まり返り、カタカタとキーボードを叩く音のみが部屋に響いていた。
ジョンシンはグンソクから札の入った袋を受け取り、金庫の中へ収める。


「若頭、あとは俺たちが残るんで、もう休んで下さい」
「ああ。今日はお前たちが当番なんだな」


ジョンシンの台詞に、グンソクの方もそれまで張り詰めていたものが緩んだのか、頭をひと振りして少し乱れ落ちていた髪をかき上げる。
責任の重い立場にあり、常に周囲に注意を張り巡らせていれば、仕事が終わる頃には疲弊した様子が垣間見えるのも無理からぬことだ。


事務所には電話番や何かあった時の使いっ走りとして、二十四時間体制で数人を常駐させている。
仮眠室もあるから、交代で寝ることもできる。
今日の当番は、今この部屋にいるグンソクを除いた三人だった。


「ミニョク、スンョン。俺の留守中、何か変わったことはあったか?」
「いえ、何もありません」
「電話もかかってきませんでした」


二人の報告を聞くと、グンソクは息をついて手櫛で髪を整える。


「そうか。じゃあ、悪いが先に帰らせてもらう。もし何かあれば、すぐに連絡してくれ」
「了解です」
「お疲れ様でした!」


グンソクは軽く手を上げると、そのまま部屋から出て行った。






「よし、全部入力できたぞ」


一心不乱に作業をしていたミニョクが声を出す。
一度取りかかると集中して最後まで一気にやるタイプなので、ミニョクは案外事務仕事に向いているのかもしれない。
両腕を上げ大きく伸びをする姿を見て、ジョンシンは部屋の一角にある備えつけのキッチンスペースでコーヒーを淹れてやることにした。


組長を始め、コーヒー好きの組員が多いことから、最高級モデルのコーヒーメーカーが置いてある。
ネスプレッソのカプセルを使用したカプセル式コーヒーメーカーで、最大25個のカプセルをセットすることが可能であり、タッチパネルディスプレイなどの機能に加えて、使用者の好みに合わせて9種類の抽出量をプログラムでき、コーヒーやエスプレッソだけでなく、ダブルの設定もできる優れものなのだ。


「兄貴、すみませんっ。俺がやらなくちゃいけないのに」
「いいって。座ってろ」
「……はい」


チラリと視線を上げると、スンヒョンの目とぶつかり、嬉しそうな顔でこちらを見ている。
コイツのことも何とかしないといけないとは思っている。
好意に付け込んで好き放題に扱ってきたが、自分のようなろくでなしではなく、他の相手に目を向けるように言ってやった方がいいのではないかと、考えるようになっていた。
従順で自分を慕ってくるのを可愛いとは思うが、それ以上の感情はどうしても湧いてこなかった。


そんなことを考えながら、三人分のコーヒーカップにコーヒーを注いでいると、ドアの開く音がしてジョンシンは現実に引き戻された。


「あっ、おかえりなさい」


ミニョクの弾んだ声で、それが誰だか分かる。
ジョンヒョンが帰ってきた。彼を無事マンションまで送り届けたのだろう。


「ああ。当番か、お疲れ」


ジョンシンとスンヒョンも追うように声をかけて、コーヒーカップを一つ追加した。
野性味のある整った顔をした男は、ミニョクの隣の椅子を引くと、音を立てて座る。


身長は自分より低いものの、鍛え上げられた体躯は目を瞠るものがあり、物怖じせずに相手を真っ直ぐに見据える瞳は肌と同様に色素が薄いながらも、その意志の強さを感じさせる。
基本的には饒舌ではないが、優れた洞察力で相手の次の行動を読むほど才知に長けていた。


「不審者らしき奴はいた?」
「いいや、今日も見当たらなかったな」


ミニョクとジョンヒョンが座っているデスクの上にコーヒーカップを置いて、ジョンシンが声をかける。


「……その身辺警護ってのは、いつまでやるつもりなんだ?」
「ほとぼりが冷めるまでと思っているが、まだ分からん」
「ヒョニヒョン一人だと大変だろ?交代にしたらどう?」
「必要ない。俺だけで十分だ。お前らは他にやることがあるだろう?」


素気無く即答され、ぐうの音も出ない。
ジョンヒョンはコーヒーを一口飲んで、眦の切れ上がった目でじっと見据えてきた。


「ジョンシナ、何か俺に言いたいことでもあるのか?」


言いたいことは山ほどある。
ヨンファの顔が見たい。声が聞きたい。自分が代わりに送迎して、少しでも彼の近くにいたい。
言い出したらキリがない。


しかし、お互いに想い合っている二人からすると、自分の存在はただの邪魔者でしかないだろう。
ジョンヒョンには、組に入った当初から本当の弟のように目をかけて可愛がってもらっているので、頭も上がらないし、これ以上は何も言えなかった。


「……何もねぇよ。もしヒョニヒョンが行けない時は、俺とミニョクが請け負うから遠慮なく言ってくれ」
「あっ、そうだよ。俺もいくらでも手伝うから」


横からミニョクが賛同してくれたが、ジョンヒョンがこの役目を誰かに譲るとは到底考えられなかった。


「ああ。分かった」


いつも落ち着き払っていて、大人の雰囲気を漂わせたジョンヒョンに自分が叶うはずはない。
しかし、だからと言って、ヨンファに対する想いを捨て去ることなどできやしない。
一体、どうすればいいのだろうか。
ジョンシンの心の中は、散り散りに乱れていた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

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2016/03/20 (Sun) 07:23

haru

ありがとうございます♡

ta**さん、こんばんは♡
いつもありがとうございます(〃∇〃)

本当に3人がどうなるのかな~?ですね。
他人事のように私が言ってどうする!ですが・・・(・Θ・;)

2016/03/20 (Sun) 20:34