CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Forbidden Love 11 Last 

2016年03月13日
Forbidden Love(兄弟パロ) 2






バスルームから出ると、濡れた髪をタオルで押さえながら、ヨンファはリビングのソファーに座り込んだ。
ジョンシンと話をしたいと思っているのに、なかなか帰ってこない。
残業にしては遅すぎるような気がする。


今日、会社で父親から聞いた話は衝撃的だった。
入社してまだ四ヶ月しか経っていないジョンシンがアメリカ支社へ異動を希望しているというもので、自分が原因なのは明らかだった。そこで、何とか説得を試みようと、ヨンファはジョンシンの帰りを待っていた。


溜息混じりに何か飲もうかと腰を上げ、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを取り出す。
直接口をつけてゴクゴクと飲みながらタオルを洗濯機に入れに行くと、玄関の方から音がした。
ジョンシンが帰ってきた。


「おかえり。遅かったな」
「……ああ」


靴を脱いで入ってきたジョンシンともろに目が合った瞬間、その表情がすっと硬くなったが、ヨンファは気にしなかった。


「仕事、そんなに忙しいのか?」
「まぁな」


そのままジョンシンが自室へ入ろうとするのを追いかける。


「夕飯は?」
「食ってきた」
「話があるから、着替えたらリビングに来てくれるか?」
「……今じゃ駄目なのか?」


ヨンファが丁重な物言いをしているのに、ジョンシンは訝しげに眉を寄せ、冷ややかな声を返してくる。
仕事で疲れているのは分かるが、もう少し何とかならないものだろうか。
本当はリビングでコーヒーでも飲みながら、腰を落ち着けて話そうと思っていたのに。
促されて、ヨンファは仕方なく口を開いた。


「アメリカ支社への異動を希望してるらしいな」


クローゼットを開けて部屋着に着替えようとしているジョンシンを真っ向から見つめて言うと、チッと舌打ちする音が聞こえる。


「親父から聞いたのか?」
「そうだ。いつも俺に相談もなしに勝手に決めるんだな」
「正式に内示が下りれば、話すつもりだった」
「今まで通りここにいたらいいって言っただろう?」
「俺が無理だ」


ことごとく素気無く即答され思わずムッときたが、喧嘩腰になったら逆効果だと思い、ヨンファは一つ息を吐いて心を落ち着かせた。


「それなら、ここを出るだけで、何もアメリカに戻ることはないじゃないか」
「もう決めたことだ。それと、今週末から実家で暮らすことにしたから」


突然の話に頭がついていかず、急に鼓動が早くなる。
ヨンファは未練がましい気持ちを抑えられず、グッと奥歯を噛んで見上げると、ジョンシンは眉根を寄せてこちらを見ていた。


「早まるな。お前はまだここで学ぶべきことがあるはずだろう?」
「アンタ、馬鹿か。あれだけのことをされて、まだ凝りてないのか?」


ジョンシンの声は、押し殺したように低くて苦しげだった。


「だから、お人好しすぎるってんだよ。昔から誰にでも良い顔をするきらいがあるよな」
「そんなことはない」
「アンタにしたことを誰かに漏らしたり、それを逆手に揺すったりしたりしないから安心しろよ」
「そういうことを言ってるんじゃない」
「前みたいに無理矢理犯されてもいいのか?俺がそばにいたら身の保証はできないんだぞ?分かってんのかっ」


ヨンファは喉が詰まったように声が出なかった。
ジョンシンはわざと嫌な台詞を選んで、自分から離れようとしているとしか思えなかった。


「ここにいたら同じことの繰り返しになる。多分、俺は変われねぇ。ヨンファだって俺がいない方がいいだろうが」
「……俺はお前にいてほしいと思ってる」
「アンタは誰にでも優しいからな」
「お前の力が必要なんだ」
「俺に頼まなくても、優秀な奴がそばにくっついてるじゃねぇか」
「グンソクはお前とは違う」


まさに堂々巡りだった。ジョンシンの中ではすでに決定事項になっていて、自分と離れることに何の迷いもない。ヨンファはもう為すすべがなかった。
何度か身体を合わせただけで、ジョンシンの意思を変えれると思った自分が恥ずかしい。
頼めば思い留まってくれると、簡単に考えていた。


「とにかく、決めたことだから、もう言うな」
「こんなに頼んでも駄目なのか?」
「これ以上、俺を追い詰めないでくれ」


言われた台詞に、ヨンファの全身がスーッと冷たくなった。
追い詰めるつもりなどまったくない。どうして自分の想いが伝わらないのかと、泣きたくなった。
ヨンファがこれほどまでに懇願しても、やはりジョンシンの意志は変わらない。


LAの大学に進学したいと聞いたのも、6年前のちょうど今と同じ時期だった。
もう何をやっても無駄なのだろうか……。


着替え終わったジョンシンがバスルームへと向かう後ろ姿を、ヨンファはただ見ているしかなかった。










翌朝、いつもと同じ時刻に迎えに来たグンソクの車に乗り込み、ヨンファは溜息混じりに呟いた。


「説得は無理だったよ」
「……そうですか。このことはチョン社長には?」
「昨夜、電話で報告済みだ。向こうの貿易部に空きがあるそうだから、関係部署と調整をはかると言っていた」


車中に沈黙が落ちる。
ヨンファの心の大半は諦めの境地になっていたが、どこか割り切れないような違和感があるのも、また事実だった。
しかし、自分にできることはもう何もないのだ。


「ヨンファさんは本当にこれでいいんですか?」
「……俺の力ではどうすることもできないよ」


そんなヨンファの気持ちを察したのか、グンソクはそれ以上何も言わず、車中は静かな空気で満たされた。







*********************************************************************







週末の土曜日、ジョンシンは実家に帰るため、朝から大きなバッグに荷物を詰め始めた。
すぐに必要なものだけ持ち出して、また日を改めて車で私物を取りに来るらしい。
そうやって、ここから少しずつジョンシンの持ち物がなくなっていくのだろう。
その作業を見ているのが辛くて、ヨンファは自室のベッドに寝転がり、ウォークマンで音楽を聴いていた。


10月の異動に合わせて渡米するらしく、まだ一ヶ月以上の期間がある。
それまでは会社等で会う機会もあるのだろうが、ヨンファにとってはこれで最後のような感じがしていた。


「じゃあ、そろそろ行くな」


ノックの音とともに入ってきたジョンシンは、まるで吹っ切れたような清々しい表情をしていて、いつもより機嫌も良さそうだ。
身体を起こして目の前に立つジョンシンを見上げると、胸の奥が痛くなり呼吸まで苦しくなった。
言いたいことがあるはずなのに、声になってくれない。


こんな風に割りきって、いろんなものを切り捨てて行くジョンシンは、もう前しか見えないのだろう。
結局、自分には引き止める力すらなかった。
悔しい気持ちが込み上げてきて、ヨンファは胡坐をかいた自分の膝に視線を落とし、唇を噛み締めた。


「ヨンファ、最後くらい笑顔で送り出せよ」
「……別に最後じゃないだろう。まだ渡米まで日があるじゃないか」


突然、変な要求をしてきたジョンシンに唖然となる。
急に笑顔をしろと言われても、できるものではなかった。ましてや、こんな状況で笑えるはずがない。
喧嘩をしているわけではないが、とても素直な気持ちになんかなれやしなかった。
そんなヨンファを、ジョンシンが長身を屈めて覗き込んできた。


「まっ、しょうがねぇか。散々ひどいことしたもんな」


ジョンシンは苦い顔をしたままヨンファの瞳を見つめ、そっと手を伸ばしてくる。
金縛りにあったように動けないヨンファの頬を、大きな両手が包み込んだ。


「アンタは笑ってる顔が一番いいよ」


唇が微かに震え、ヨンファは何も言うことができなかった。
ゆっくりと手を離し、背筋を伸ばした長身が部屋を出る際、ポツリと呟いた。


「ヨンファの幸せをいつも願ってる」


そう言って玄関へ向かうのを、ヨンファはただベッドに座って見送るしかできなかった。
不意にどこかで聞いたことのある言葉だと思った。
それが一体何なのか思い巡らせ、その答えに辿り着いた瞬間、胸を突き上げるほどの想いが満ち溢れてきた。
それは、ジョンシンが渡米する日にヨンファが最後にかけた言葉だった。


自分にとって、こんなに愛しくて切ない存在は他にはいない。


6年前は周りに家族がいたし、無力な自分には引き留めることもできず、後ろ姿をただ見送るしか術はなかった。
あれから歳月が流れ、今のヨンファは学生の頃とは違い、それなりに成長したと自負している。
でも、このまま何もしなけけば、あの時とまったく同じではないか。
それに気付いたヨンファは、考えるよりも先に身体が動いていた。


「ジョンシナ……ッ」


靴を履いたジョンシンに追いつき、ヨンファはその広い背中に夢中でしがみついていた。
その温もりに全身が震え、心臓が壊れそうなほど激しく脈打つ。
ヨンファの突然の行動に、ジョンシンの身体が大きく揺れ、そのまま微動だにしなくなった。


「お願いだから、どこへも行かないでくれ」


振り払われて拒絶されるかもしれないと思ったが、もう構わなかった。
ヨンファは更にギュッとしがみつく力を強め、ビクッと震えたジョンシンの背中に、唇を寄せて囁いた。


「6年前も本当は行ってほしくなかったんだ。お前がいなくなって、俺は毎日寂しくて辛くて、自暴自棄になってた…。どうしていつもお前ばかりが割を食わなきゃならないんだ?俺一人だけ家族の近くにいて、ぬくぬくとした環境で生きていくなんて、おかしいだろう……っ」


堰を切ったように、想いが溢れて止まらない。


「罰を受けなければならないのは、俺の方なのに……。俺たちが一緒にいたらいけない運命なのだとしたら、お前じゃなくて俺が遠くへ行くべきなんだ」


ジョンシンがヨンファの手をゆっくりと外し、こちらを振り返った。
その顔は驚愕に大きく目を見開き、呆然としていた。


「ヨン…ファ……?」


表情を確かめるみたいにじっと見つめてくる真っ直ぐな瞳を、ヨンファは静かに見返した。
兄弟としての絆まで失いたくないばかりに、幾度となくこの想いを封印しようとしてきた。
表に出ないように自分の中で押し潰し、ずっと呑み込んできた言葉。
でも、もう隠し通すことなんてできない。


「……好き…なんだ。弟としてじゃなく……」


その刹那、ジョンシンの双眸が極限まで見開かれた。


「知られたらいけないと思って抑え込んでいたものが、目に見えない形で出ていたのかもしれない。お前はきっと俺の想いに引きずられてこうなったんだと思う。……突然、こんな気持ちの悪いことを言ってごめん。兄弟の縁を切ってもらっても……」


「今の話は…本当か…?」


ヨンファの言葉を遮って発せられたジョンシンの声が震えている。
低い声で問われて、一瞬責められるのかと思わず後ずさると、そのまま背中を玄関の壁に押しつけられ、真上から顔を覗き込まれた。


「冗談じゃねぇ…よな?」


獲物を前にしたような鋭い眼光で確かめてくるジョンシンのあまりの迫力に負けて、ヨンファがゆっくりと頷くと、信じられないというような表情で顔を横に振っている。


「それなら、アイツから奪い返すぞ。あんな奴にくれてやるために、俺はアンタを諦めたわけじゃねぇ…っ」


ものすごい力で息が止まるほどきつく抱き締められ、頭が真っ白になった。
ジョンシンの口から出た言葉がにわかには信じられなくて、ヨンファは声を失った。
腕を緩め、真っ直ぐにヨンファを見下ろす瞳は見たこともないほど真剣で、逸らすことができなかった。


そんな都合の良いことが起こるはずがないから夢じゃないのかと、この現実を受け入れられないでいると、顎を捕えられ、激しく唇を奪われた。
強く舌を吸われ、歯列の裏まで掬い上げるように舐められ、呼吸が上手くできない。
口腔内を荒々しく貪られて、ヨンファは気が遠くなりそうになった。


食らいつくようなキスに溺れていると、不意に頬を濡らす感触があり、反射的に目を開ける。
それがジョンシンの瞳から零れたものだと分かり、自分から手を伸ばして抱きつく。
唇が離れると、ヨンファは震えそうになる声で、胸の中にしまい込んでいた想いを吐露した。


「お前のいない人生なんて考えられない。お前と離れ離れになるくらいなら、死んだ方がマシだ」


広い背中がひと際大きく揺れて、ジョンシンの腕の締めつけが尚更きつくなる。
ヨンファはようやくジョンシンの気持ちが自分と同じだったことに気づき、抑えていたものが一気に溢れ出してきた。
頬を伝う涙を温かい唇に受け止められて、再び吐息を塞がれる。
息ができないくらい続けざまに舌先を吸われて、何度か「ジョンシナ」と口にしようとすると、またキスに呑み込まれた。


抱き締められた腕の力は背筋が軋むかと思うほど強く、ジョンシンの心を表しているようだった。
不意に「ヨンファ…」と押し殺したような声で名前を呼ばれ、正面から見つめられた。


「俺はアンタのことを兄貴だと思ったことはない。……ずっとずっと気の遠くなるほど前から……愛してる…」
「ジョン…シナ……」


初めてジョンシンの気持ちを言葉で聞いて、歓喜に打ち震えた。
永遠に手に入らないと分かっていても、心の中で欲して求め続けた言葉。


ジョンシンに弟以上の感情を抱くようになってから、ヨンファは長い間ずっと葛藤を抱えながら生きてきた。
血の繋がりから、相手に真実を告げられないもどかしさに臍を噛み、かと言って想いを振り切ることもできなかった。
本音を言えないから、それが歪んだ形となって現れて、身体だけを繋ぐ結果になってしまったのかもしれない。


お互い肝心なことには口を噤み平静を装っていたから、相手の気持ちに気づくことさえなかった。
あの夏の日々と渡米する直前の行為の意味するものが今、ようやく分かったような気がする。
単なる性欲解消のためだけと結論づけ、ジョンシンの言葉の裏の気持ちを読み取ることは一切しなかった。
ヨンファは自分の想いを悟られないようにすることばかりに気を取られていたのだ。


思い返してみると、ジョンシンの言動は、幾千の言葉よりも雄弁に物語っていたような気がする。
ヨンファは今まで経験したことがないくらいの幸福感に包まれて、目の奥がジンと熱くなるのを感じた。


「俺はいつからか分からないくらい、この感情と闘ってきた。報われない想いを抱いてもアンタに迷惑をかけるだけだから、いろんな奴と付き合ったが、代わりになる奴は一人もいなかった。何で俺たちは兄弟として生まれてきたんだろうな……」


ジョンシンが項垂れて、ヨンファの肩に額を押しつけてくる。


「高三の時、もう限界だったんだ。いつアンタを犯しても不思議がないくらい気持ちが膨れ上がってて……、それであんなことを持ちかけた。あの頃はまだガキで、ああ言うしかなかった。脅すような形でひどい真似をして、本当に悪かった」


「謝るなよ。俺…お前に抱かれて嬉しかったんだ。それがどんな理由でも……」


ヨンファは潤んだ瞳でジョンシンを見つめた。もう自分の気持ちを偽る必要はないのだ。
両手で最愛の人のこめかみから頬をなぞるように触れる。
こんな風に自分から求めてはいけないとずっと思っていた。


ジョンシンの髪の毛を優しく梳くと、ヨンファの手を包み込むように大きな手が重なってきた。
それを自分の口許に持っていき、優しく口づけをされ、例えようのないほどの愛しさが込み上げてきた。
ヨンファはジョンシンの首に腕を回すと、自分から唇を押し当てた。
戯れるような甘いキスに酩酊していると、唇が顎に下り軽く歯を立てられる。


「……ん…っ」
「ヨンファ……ヨンファ……」


仰け反った白い喉元にむしゃぶりつき、うわごとのように何度も名前を繰り返し呼ばれた。
ジョンシンは至るところに啄むようなキスをしながら、服の上からヨンファの身体のラインを確かめるように手を這わせてくる。
ヨンファの息が少しずつ乱れてくると、ジョンシンの顔に情欲の色が浮かんできた。


「ヨンファ…」


興奮を滲ませた声で呼ばれ、ヨンファの身体の奥に小さな熱が灯り始めた。
膝から力が抜け、すぐさま逞しい腕に抱き留められたが、二人して廊下の上に座り込む。
行為は止まず、再び目許から頬にキスされ、顎から喉へと移動していく。
鎖骨に口づけをされると、シャツの胸許の隙間にジョンシンの唇が入り込んできて、その重みを支えきれず、ヨンファは廊下に仰向けに倒れ込んだ。


玄関先で、ドアを隔てた向こうはアルコープがあるといえ、その先は共用部分で近くにはエレベーターもある。
いつ誰に聞かれるとも分からない状況下なのに、身体は動こうとしなかった。


ジョンシンがボタンを外しながら露わになる白い肌に唇を這わせ、身体の線をなぞるように動き回る。
そして、目的のものを見つけると、口に含んできた。


「あ……っ」


舌先で突起を転がされ執拗に吸われたまま、もう片方は指で捏ねくり回されて、ヨンファは身悶えた。
徐々に硬くなり熱を持ったようにジンジンしてきて、頭がぼうっと白く霞んでくる。
ヨンファが片膝を立ててしどけなく横たわっていると、見下ろしていたジョンシンにひょいと抱き上げられた。


「な…に…?」


思わずジョンシンの首にしがみついて胸に寄りかかると、すごい早さで脈打っている鼓動が伝わってきた。
そのままジョンシンの部屋へと連れて行かれ、キングサイズの大きなベッドに下ろされて、ヨンファの身体に緊張が走る。
昼前の明るい日射しが差し込む部屋は、窓を閉めて遮光カーテンを引かれると、一気に薄暗くなった。
ジョンシンがリモコンを手に取りエアコンをつけるまでの無駄のない動きを、ヨンファは座ったまま眺めていた。


再びジョンシンが戻ってきて、ベッドが大きく揺れるのと同時に、顔が目の前まで迫ってきた。
求められるがままに唇を開くと、熱い舌が入り込んでくる。
音を立てながら口中を掻き回されて、濃厚なキスに酔いしれていると、いつしかジョンシンの胸の下に組み敷かれていた。


「アイツと何回寝た?」


低い声で咎めるように言われ、咄嗟に言葉が出なかった。
射貫くような眼差しを注がれ、ヨンファは静かに見つめ返す。


「寝てない」
「正直に言えよ。首にキスマークついてただろ」
「本当だって…っ」


ヨンファはふるふると首を横に振る。
ジョンシンは驚いた顔をしつつも、何度も執拗に繰り返し確認してくる。


「本当に本当か?」
「しつこい」
「こっちは嫉妬でブチ切れそうなんだぞっ。一週間も泊まって、本当に何もなかったのか?」
「そうだよ」
「でも、キスはしたんだろ?」


その問いに、ヨンファは固まってしまった。
こういう時、即座に嘘をつけない自分が恨めしい。


「……………」
「クソッ。今から全部塗り替えてやるからなっ」


ムキになって対抗意識を燃やす目の前の男が、堪らなく愛しくてどうにかなりそうだ。
表情が緩んでいたヨンファに気づいて、決まりの悪そうな顔をしたジョンシンだったが、すぐさま気を取り直して痕のついていた箇所を強く吸い上げてきた。


性急にヨンファの肌に触れてくるジョンシンに、先日の強引な行為を思い出した。
知らず知らずのうちに身体に力が入ってしまい、それをジョンシンに気づかれる。


「大丈夫だから、力を抜いて。この間みたいなひどいことは絶対にしない。ヨンファ、愛してるよ…」


先程とは一転して優しい口調になるが、瞳だけ飢えた獣のような鋭さがあり、欲望を剥き出しにした男の顔になっていた。
いつの間にか身に着けているものをすべて奪われ、ジョンシン自らも一糸まとわぬ姿になる。


「綺麗だ…」


熱の籠った視線を向けられながら真顔で言われて、神経が焼き切れそうになった。
何度も唇を求めてくるジョンシンの背中を抱き締め、ヨンファは甘い吐息を漏らす。
顔中の至るところにキスの雨が降り、時折愛の言葉を囁かれ、息をつく暇もなく再び唇が重ねられる。


愛撫は次第に下方に移動していき、ツンと勃ち上がっている両方の乳首を交互に吸われると、下半身に熱が集まり始め、あまりの気持ち良さにヨンファの思考は薄れていく。
チュッチュッと唇が臍の辺りまで下りてきて、濃厚になっていく愛撫に身悶えていると、腰骨を甘噛みされて身体がビクンッと跳ねた。
ジョンシンの顔が近づいてきたことに気づき、慌てて膝を立てて隠そうとすると、それを許さないかのように、両手でヨンファのしなやかな脚を大きく広げる。


「隠さず、全部俺に見せて」


触れてくる手は温かいのに、行為そのものには容赦がなく、ヨンファのすべてがジョンシンの前に晒された。
隈なく暴こうと奥までじっと視線を注がれて、余すところなく見られる。
羞恥のあまり顔を背けていると、形を変え始めていたヨンファの括れた部分を指で擦られ、思わず仰け反った。


「や……あっ……」


色白の肢体がしなやかに仰け反るさまは妙に艶めかしく、そんな自分の姿が弟の欲望を煽っているなどとヨンファは気づきもしなかった。


手の平で握り込まれて上下に扱かれると、急激に熱が高まりだす。
芯を持つように硬くなったのを見計らって、突然温かい粘膜に包まれたヨンファは息を呑んだ。
先端を強く吸い上げられ、丹念に唇でその形をなぞられると、今度は舌を尖らせて小さな隙間に捻じ込むように舐められて、頭の中がぐちゃぐちゃになってくる。


「んっ……あぁ……っ」


ジョンシンの口で愛撫されながら、長い指がゆっくりと身体の奥へと入り込んできた。
初めは慎重だった動きが少しずつ大胆になり、異物感が薄れていくと、今度は中を抉るように自由自在に動き回る。
一旦口を離し、ヨンファの乱れた姿を視姦しながら、ジョンシンはあらかじめ知っていたようにある場所に触れてきた。


その感覚をヨンファは知っていた。
前立腺にあたるように指で擦り上げられ、ヨンファの身体が大きく揺れる。
かつてジョンシンとセックスをした時に、男にもこんな快楽があったのかと身を持って教え込まれたのだ。
節張った指がその部分を執拗に穿つと、強烈な刺激にヨンファの嬌声が止まらなくなった。


「あっ……あっ……ンぁっ」


ジョンシンは再びヨンファの屹立に舌を絡みつかせ、敏感なところを刺激してくる。
前と後ろを同時に責められ、ヨンファはあまりの快感にジョンシンの指をきつく銜え込んで、腰を揺らめかせた。


「……もっ……離…せ……」


ジョンシンの頭を押しながら涙声で訴えたが聞き入れられず、喉の奥深くまでヨンファを呑み込もうとする。
ギリギリまで我慢したが、とうとう堪えきれずにヨンファはそのまま達していた。
すべてを飲み干すと、残滓まで吸い尽くし、ようやくジョンシンが唇を離す。
ヨンファが腕で顔を覆ったまま荒い呼吸を整えていると、指を引き抜かれた窄まりに唇が触れてきた。


「いや…だ…。俺ばっかり……」
「アンタを思うさま感じさせてやりたいんだ」


再び指を出し入れしながら隙間に舌が差し込まれ、中を拡げようとする。
逃げようとしても腰を押さえつけられ、何度も濡れた舌で蹂躙される。
室内が薄暗くなっているといえど、明るい時間帯に行為に耽る自分たちはどこか背徳的な感じがして、ヨンファは居た堪れなくなった。


与えられる刺激が強すぎて、ほとんど目を閉じて喘いでいたヨンファは、ジョンシンの身体を思いやる余裕がなかった。
そのため、自分以上に昂ぶっていて苦しそうなジョンシンにようやく気づいた。
そこにヨンファが手を伸ばすと、ジョンシンがギョッとした顔をする。
細い指で包み込むと、膨れ上がった塊はドクドクと脈打っていた。


「……俺もしようか?」
「いいっ。そんなことアンタがすることねぇ」
「でも、こんなになってて辛いだろう?」


手の中で擦ってやると、ジョンシンはものすごく焦った顔をしてヨンファの手首を掴んできた。


「綺麗な手を汚したくないからいい」


ひどく困った顔で呟くと、はち切れそうなほど高まった自身からヨンファの手を外す。


「気にしなくていいのに」


ヨンファがさらりと言うと、ジョンシンは何かを堪えるように顔を歪めた。
耳がほんのりと赤くなっていて、照れているようだ。
それに気を取られていると、膝を高く抱え上げられ、猛々しい塊が押し当てられる。


「俺はこっちが欲しい」
「………っ」
「ゆっくり入れるから、力を抜いて」


大きく張り詰めたジョンシンが、中を拡げながら入ってくる。
内臓が押し上げられるような圧迫感に、ヨンファは目の前の身体に縋りつく。
初めてじゃないのに、この瞬間だけはいつも慣れない。


「あ……っ……ん…ぅ……」


内壁を擦られる感覚に、声が止まらない。
時間をかけて慣れされたからなのか、あまり痛みは感じず、自分を穿つものの逞しさにヨンファは切なげに艶めいた声を上げた。


「はぁ……ああっ……ん……あ…っ」


腰を動かしながらヨンファの表情の変化を見逃すまいと、ジョンシンの視線が注がれる。


「痛いか?」
「へい…き…」


吐息がかかるほどの距離でそう訊かれ、ヨンファはゆっくりと瞼を開き、熱に浮かされたように潤んだ瞳を和らげた。
緩やかな波に揺さぶられながら唇を塞がれて、息が絶え絶えになる。


ジョンシンと何度か繋がって、この押し上げられる感覚に慣れていたはずなのに、今日は何かが違う。
圧迫感や異物感は変わらないのに、重なり合った場所から感じたことのない感覚が芽生えてきて、思わず息を呑む。


「どうした?」
「な…んか、今までより…あっ……」


ヨンファの中でジョンシンの質量がまた増したように感じて、眩暈がしそうになる。
指では届かなかった箇所まで長大なもので何度も突き上げられて、堪えきれない嬌声が迸った。


「ンあっ……あ、あぁ……っ」


快感に見舞われて腰が蕩けたようになり、無意識のうちにジョンシンの背中に爪を立てる。
経験したことのない深い快感に恐怖すら覚えて、ヨンファはジョンシンの首に縋りついた。
この変化にジョンシンも気づき、思わず目を瞠る。


「気持ちいいか?」
「ん……すご…く……いい……」


初めて素直に感じているヨンファをさも愛しげに見つめると、最後の抽挿に入る。
大きく揺さぶられながら夢中になって唇を重ね、ヨンファは目の前にある逞しい肩に額を擦りつけた。
あっという間に高みへと押し上げられ、ジョンシンとほぼ同時に絶頂を迎えたが、二人の想いは止まらなかった。


更に激しく求め合い、身体を繋げて、一緒に目の眩むような快楽を追った。
これらはすべてジョンシンから教えられたもので、今まで経験した女性との交わりでは決して得られないものだと、身体の隅々にまで焼きつけられた。今ほどそれを強く感じたことはない。


気持ちが通じ合ってからのセックスが、こんなに気持ち良いとは知らなかった。
見つめ合って愛の言葉を囁き合うことが、これほどまでに心から満たされるものだとは思いもしなかった。


「ジョンシナ…好きだよ……」


この世の誰よりも愛しいその名を口にすると、甘い愉悦が全身から溢れ、身も心も蕩けていく。
ヨンファの中で好きに動いていたジョンシンは、そっと耳朶にキスをして、低い声で囁いた。


「……愛してる」


それを耳にしてヨンファは嬉しそうに微笑むと、何度も何度も飽きることなくジョンシンとキスを繰り返した。










嵐のような時間が過ぎたあと、ヨンファはジョンシンと一緒にタオルケットに包まれていた。
汗をかいた身体に、エアコンの冷気が心地良い。
ようやく息が整ってきたヨンファを、ジョンシンが自分の胸に引き寄せる。


「無理をさせたか?歯止めが効かなくて悪かったな」
「ん……大丈夫」


甘い双眸で見つめられながら髪を優しく撫でられ、頬に軽くキスをされた。
二人の間に流れる空気が数時間前までとはあまりにも違いすぎて、ヨンファは内心かなり照れていた。
お返しとばかりに、ヨンファもはにかみながらジョンシンの黒髪に触れる。


「すっかり短くなったよな。俺、ジョンシナの長い髪が好きだったんだ。綺麗でよく似合ってた」


感慨深げに呟いてヨンファがその指通りを楽しんでいると、ジョンシンがくすぐったそうに目を眇める。


「こういう職種じゃなかったら、伸ばしてたかもしれないけどな。ヨンファが気に入ってくれてたなんて知らなかった」


ヨンファの方を向いた顔は思いのほか優しくて、こんな風に笑う奴だったかと改めて驚いた。
それと同時に、ジョンシンを地獄へと引きずり込もうとしていることに、良心の呵責に苛まれる。


「お前を巻き込みたくなかったのに、俺は取り返しのつかないことをしてしまった」
「……ヨンファ?どうかしたのか?」


様子のおかしいヨンファに気づき、ジョンシンが心配そうに声をかけてきた。


「さっきは衝動的に気持ちを告げたけど、だから、どうしたいってわけじゃないんだ。どこにも行って欲しくはないけど、ジョンシナがアメリカで仕事をしたいのなら応援するよ」


急に涙が込み上げてきそうになり、顔を見られまいと身体の向きを変える。


「なんで急にそんなことを言い出すんだ。両思いなんだから、離れる必要はないだろ?」
「でも、お前の将来を考えると……」


肩を掴まれて身体を返され、ジョンシンと至近距離で向き合う体勢になった。


「俺はヨンファのそばで仕事がしたい。渡米しようと思ったのは、アンタに迷惑をかけてると思ったからだ」
「でも、アメリカに待ってる人がいるんじゃないのか?以前、夜に電話してただろう?」
「電話?ああ、あれか……」


ジョンシンがばつの悪そうな顔をして、頭を掻いている。


「軽蔑されるだろうが、好きじゃなくてもセックスはできるし、相手の喜ぶ言葉を与えてやることもできる。向こうはどうか知らないが、俺は最初から本気で付き合ってたわけじゃない」
「お前、昔からモテすぎだもんな。いつも取っ替え引っ替えで、よく身体が保つよな」


ヨンファが拗ねたように呟くと、ジョンシンは慌ててガバッと身体を起こす。


「俺にはヨンファだけだ。中学に上がる前からずっとアンタしか見てないし、他の奴とは全然違うっ」


必死で言い募るジョンシンから意外な事実を知り、ヨンファは瞠目した。
そんな昔からそういう意味で好かれていたなんて、ちっとも知らなかった。


夜遅くまで一緒にゲームに興じていた頃には、すでにジョンシンに想われていたのだろうか。
自分よりも小さくて女の子みたいな容姿の時からそうだったなんて、信じられない。
確かに兄弟の中では自分に一番懐いていたが、純粋に兄に対しての愛情からだと思っていた。


「怒ったのか?悪かったよ。俺はアンタを傷付けてばっかりだったな。もう二度とブレねぇよ」
「お前の気持ちは嬉しいけど、もう遅いかもしれない。父さんも裏でいろいろ根回ししてたみたいだし…」
「親父には俺から話してみる」


自分たちの意向とは逆に事態は動いていて、取り消すのは難しい可能性がある。
その時、果たして自分は耐えられるだろうか。
またジョンシンと離れ離れになるなんて考えただけでゾッとするが、本人のことを思えばこの方がいいのかもしれない。
ヨンファは天井を見据え、小さな声で呟いた。


「引き返すのなら、今ならまだ間に合う。もし、異動が決定していたら、断らずに行った方がいい」
「な…に言ってんだ……。ふざけんなよっ。俺のことが好きって言ったよな?」


話が思わぬ方向に傾きだして、ジョンシンがそうさせまいと立ち向かってくる。
見下ろしてくるジョンシンの瞳は怒りに満ちていた。
ヨンファもベッドから身体を起こし、その視線を真っ向から受け止める。


「ジョンシナは不安じゃないのか?俺たちは正真正銘の兄弟なんだぞ」
「んなこたぁ今更言われなくても分かってる。ヨンファ、いい加減、覚悟を決めて俺の手を取れ。この程度のことでビビってんじゃねぇよ」
「一緒に地獄に堕ちるつもりか……?」


ヨンファは泣き笑いのような表情で言った。
二人の気持ちが同じになったからと言っても、これから進んでいくのは茨の道なのだ。
今は良くても、困難に差しかかった時にお互いを傷つけ合って喧嘩別れすることも、想像に難くない。


「いや、二人で天国行きの明るい道を探すさ。せっかく手に入れたのに、二度と手放すかよ」


揺るぎない自信を絵に描いたような男は、いつも以上に頼もしく見えたが、ヨンファの不安を払拭するまでには至らない。


「そんなに簡単にはいかない」


「ああ。分かってる。だから、誰にも文句を言わせないくらい実力をつけて、周りに認めさす。ただ単にアンタから逃げるためだけにLAに行ったわけじゃない。いずれ陰でサポートするつもりだったから、経営学を学びに行ったんだ。アンタが社長で、俺が副社長。良い組み合わせだと思わねぇか?」


大胆不敵に言い切るジョンシンは、この先に待ち受ける苦難をものともしていないようだった。
ヨンファが思っている以上のことを、すでに頭の中で考えているのかもしれない。


「困った時は俺が全力で助けてやる。だから、安心して俺に寄りかかっていればいい」


傲慢な台詞のようだが、ジョンシンが言うと説得力があり、従ってみようかという気になる。
それを裏打ちするほどの実力があるから、二歳年下の弟に言われても不思議と腹は立たなかった。


「でも、お前……」
「何?まだなんかあんのか?」
「いずれ結婚もしないといけないだろうし……」
「はぁ~?」


ジョンシンは呆れた顔で天を仰ぎ、ヨンファの肩を抱き寄せてくる。
目線を合わせ、ヨンファを諭すように口を開いた。


「あのな、そんなもんはする気はねぇ。まさかヨンファはしたいのか?」
「お前以外とそんなものするはずないだろう」


「なら、いいじゃねぇか、別に形に拘らなくても。要は会社を存続させればいいんだろ。俺たちのあとにヒョニヒョンかミニョクの子供を後継ぎにしてもいいし、無理なら養子を取る手もある。このご時世だから何とでもなるし、いろんな形があって当然だろ。俺はアンタに惚れて、アンタも俺を好きになってくれた。それがたまたま兄弟だったってだけだろーが」


真面目な顔で力説するジョンシンに、最初は呆気に取られていたヨンファも、次第に可笑しくなってきた。もう完敗だった。


「お前が言うと、悩んでいる自分が馬鹿らしく思えてくるよ」
「ヨンファはいつも真面目に考えすぎる。時にはそれも必要だが、それが度が過ぎると答えなんか出やしない。適当なところで折り合いをつけないとな」


お前と二人なら、なんとかやれそうな気がする。
以前の自分なら反発していたかもしれないが、今のジョンシンは自分よりも一回りも二回りも器が大きくて、とても頼りになった。


遠くない将来、父親の会社を二人で継いで、ずっと一緒にいられたらいい。
それがヨンファの夢であり、願いでもあった。


「ずっと一緒にいよう」
「ああ。ジョンシナ、ありがとう。お前とともに歩んでいくよ」


それは、まるで一生を誓い合うかのような言葉だった。


ヨンファは急に気恥ずかしくなって目を瞬かせると、ジョンシンはフッと口許に笑みを刻み、目の前の柔らかな髪をくしゃっと撫でた。







*********************************************************************







週明けの月曜日、ヨンファはグンソクとともに社長室に呼ばれた。
いつものように応接セットの皮張りのソファーに、父親と向かい合わせで座る。


「例のジョンシンのアメリカ行きの件だが、代わりにグンソクに行ってもらうことにした」
「えっ……!?」


予期していなかった父親の言葉に、ヨンファは呆然とした。


「補佐役をお役ご免になりました」


それに畳み掛けるように、ヨンファの隣に座っていたグンソクが言い、頭が真っ白になった。


「……それはどういうことですか?」
「いやなに、ジョンシンの異動が本決まりになっていたんだが、本人が貿易部は嫌だと言い出したんだ」
「そんな我儘を?」


自分で行きたいと言っておいて、今度はやめたいか。
もっと他に言いようがなかったんだろうか。子供のような真似をして。
しかも、それを父親といえど社長がすんなり認めてどうする?部下に示しがつかないじゃないか。


ヨンファは怒りを通り越して呆れてしまった。
父親はどうも末っ子のジョンシンに甘いところがある。


「まあ、そう睨むな、ヨンファ。それで、この話はなかったことにするつもりだったんだが、グンソクが行きたいと言い出してな」
「そんな……。グンソク、どうしてだ?」


父親を前にしていたが、感情が溢れてしまい、グンソクに対して責めるような言い方になる。
ヨンファはショックのあまり取り繕う気力がなくなっていた。


「本場のアメリカでビジネスのことをずっと学びたいと思っていました。だから、チョン社長からこのお話を伺った時に、代わりに行かせてもらえないかとお願いしたんです」
「だからって…俺はどうなる?」


「一生行くわけではありません。次の異動があるまでですから。それに、ヨンファさんなら私がいなくても大丈夫ですよ。ましてや、ジョンシンさんもいらっしゃる。彼はこれからますます力をつけて、大きく成長されるでしょう。貴方をそばで支え続けてくれます」
「……………」


含みのある言い方をされたように感じたのは、気のせいだろうか。
突然そんなことを言われても、到底納得できるものではなかった。


「ヨンファ、行かせてあげなさい。チャンくんははまだ若いから、ずっと秘書室に縛りつけておくのも気の毒だ。お前も入社以来世話になっていたんだから、感謝の気持ちがあるのなら、笑顔で見送ってやるべきじゃないのか?」
「……はい」


父親の言うことは尤もだった。
それは分かっている。それでも、すぐには割り切れないものがあった。










それから出発までの間、グンソクは渡米の準備のため、忙しそうに奔走していた。
補佐役でなくなったため、ヨンファを車で送迎する必要もなくなり、一緒にいることもほとんどなくなった。


父親から代わりの補佐役の話を出されたが、そんなに困ることもなかったので、ヨンファは丁重に断り、自分のことはすべて自分でするように変えていった。


初心に帰って、ヨンファがまた地下鉄を乗り継いで会社を往復していたら、それを見かねた父親が「ジョンシンと一緒なら車通勤にしたらどうか?」と提案してくれた。


それをジョンシンに話すとひと際喜んで、週末二人で新車を見にディーラーを訪れた。
ジョンシンが自ら運転を買って出たので、本人に車種を選ばせて即契約をすると、日数はかかったものの納車されてからは、ヨンファはジョンシンとともに車で通勤するようになっていた。







*********************************************************************







10月某日。
タクシーの後部座席に身体を預けていたヨンファは、目的地に着いたのを見て、隣のグンソクに視線を移す。


「時間通りだな」
「はい。渋滞してなくて良かったです」


平日の昼前にもかかわらず、仁川国際空港のロビーは結構混雑していた。
一人でタクシーで行くと言い張るグンソクを説き伏せて、ヨンファは見送りのために空港まで同行した。


「仕事を抜けて一緒に来てもらって、ありがとうございます」
「このくらい何てことはない。グンソクにしてもらったことに比べたら、俺は全然返せてない。それがすごく心残りだ」
「部下に気を使う必要なんてないのに、貴方はまったく変わりませんね」


グンソクは柔らかく微笑んで、じっとヨンファを見つめてくる。 


「寂しくなるな」
「そんな顔をしないで下さい。しっかり学んできます」
「今回の件を受けたのは俺のためか?ジョンシンを行かせないために?」
「そういうわけではありません。アメリカに行きたかったのは事実です。ただ、ヨンファさんから少し離れた方がいいと思っていたので、渡りに船でした」


顔を曇らせるヨンファに、グンソクは何事もなかったような穏やかさで笑う。


「いろいろと…すまない……」
「謝るのはなしです。また帰って来ますから」
「本当に世話になった。グンソクには心から感謝しているよ。どうか身体に気をつけて」
「ヨンファさんも。いつも笑顔でいて下さい。貴方のそばにいれて幸せでした」


温かみのある声で言われ、ヨンファの瞳が揺れる。
この男のお陰で、今の自分があると言っても過言ではなかった。


「グンソク……。帰って来るのをずっと待ってるよ」
「……はい。それでは、行ってきます」


ヨンファはグンソクと固い握手を交わした。
そして、スーツケースを引いて歩き去る後ろ姿が見えなくなるまで、ヨンファはグンソクから目を離さなかった。










見送りが終わり、会社に戻ろうと踵を返して歩いていると、ロビーの隅に見慣れたスーツ姿の長身が立っていた。
こちらを見つめるジョンシンにヨンファは目を瞠り、そばへと近づく。


「……なんだ。来てたのか。一緒に見送れば良かったのに」
「俺がいない方がいいだろ」


いつからいたのかは分からないが、ある程度のことは見られていたのかもしれない。
精悍な顔に浮かんでいたのは、憮然とした表情だった。


「車で来てるから」と言うジョンシンと肩を並べて駐車場へ行き、停められていた車に乗り込む。
エンジンのかかる音を聞きながら、ヨンファは助手席のシートに深く身を預けた。


晴れやかに澄んだ秋の陽光の下、ヨンファは車外の風景に目をやりながら、グンソクと出会ってからの数年間を思い起こしていた。
入社当初から支えとなってくれたグンソクと過ごした日々が、走馬灯のように駆け巡る。
ジョンシンのことがなければ、間違いなく好きになっていただろう。


最後の最後まで、自分を思い遣ってくれたことを決して忘れない。
どうか素敵な人と巡り会って、グンソクに幸福がもたらされることを切に願う。
そして、いつの日かまた再会して、ともに会社を盛り立てていきたいと、ヨンファは心からそう思った。


「アイツのことを考えてんのか」
「え…?」


運転席でハンドルを握るジョンシンが唐突に訊いてきて、ヨンファは外の景色から隣に視線を移した。
グンソクのことを指していると分かり、ヤキモチ焼きの恋人を怒らせたかと身構えつつ、ヨンファは端正な横顔を眺めながらそれを認めた。
ジョンシンはしばらく黙っていたが、ぶっきらぼうに口を開く。


「……いい。今だけなら許す。俺のいない間、アンタを支えてくれたんだからな」


声に不機嫌さが出ていたものの、意外なことを言われ、ヨンファは目を丸くした。


「でも、これからは俺がそばにいるんだから、他に目を向けるなよ」


粗野で不遜な命令口調なのに、その裏にはヨンファへの愛情が滲み出ているのが分かる。
前を向いたままなのは、恐らく照れ隠しだろう。
以前はただ腹を立てて不機嫌そうにしているとしか思わなかったが、想いが通じ合ってからは、ジョンシンのいろんな面が見えるようになってきた。


「初めから、お前にしか向いてないよ」


言葉にできないほど幸せで、ジョンシンさえいれば、他に何も必要ないとさえ思う。


どうしようもないくらいに愛しさが募ってきて、ヨンファはハンドルを握るジョンシンの手に、そっと自分の手を重ねた。
その横顔は満足そうな表情を浮かべ、口許に笑みを零した。





End





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

There are no comments yet.

hoshi

こんにちはーーー♡♡この小説のふたりに会いたくなり遊びにきました。
ずーっとドキドキしっ放しです。
お似合いだなあ、としみじみ. ゜*。:゜

途中のジョンシンの言葉『困った時は俺が全力で助けてやる~』が、好きすぎて悶絶してます。

そうなんですよね。
護ってやるではなくて助ける、支える……一緒に先の未来を歩いていく決意がたまらなく滲み出ていて、ジョンシンに惚れ直しました♡

haruさん、いつも素敵なお話をホントにありがとうございます♡♡

2016/05/12 (Thu) 14:48

haru

hoshiさん

読みに来て下さって、ありがとうございます♡♡
この二人のことを覚えていただいて、とても嬉しいです(〃∇〃)
いや~もう有難いお言葉に舞い上がっちゃいます♡

この話はジョンシンを完全に私好みで書きました(・Θ・;)
最終話はクサい台詞のオンパレードでしたが、hoshiさんにそう言っていただけて感激です♡

また落ち着いたら、シンヨンでシリアスものを書きたいと思っています♡♡
一緒に盛り上げていきましょうね♪

2016/05/12 (Thu) 20:36