CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Forbidden Love 10

2016年03月12日
Forbidden Love(兄弟パロ) 0






インターホンを押して、濡れそぼった身体を持て余していると、中からドアが開いた。
ヨンファの姿を見たグンソクは急に顔色を変えて、強い力で手首を掴んでくる。


「こんなに濡れて。早く上がって下さいっ」


ヨンファはそのまま廊下左側のバスルームに連れて行かれた。


「シャワーを使って下さい。着替えは私の服で申し訳ないですが、用意しておきますね」
「迷惑かけてすまない……」
「そんなことは気にしないでいいですよ」


せっかくなので、グンソクの好意に甘えることにした。
ヨンファは重い身体を騙し騙し服を脱ぎ捨てると、シャワーの中に身を投じる。
目を閉じて気持ちを落ち着かせようと、しばらくそのままでいたが、なかなか平常心を取り戻すことができない。


ボディーソープで身体の隅々まで洗っても、ジョンシンに触れられた箇所はまだ火がついたように熱く、身体の奥の疼痛は色濃く残っていた。
押さえつけられた両手首にも痛みを感じ、ジョンシンの横暴で切ない声を思い出し、先程の場面が蘇る。


―――どうして…こんなことに……っ。


一体何がジョンシンをあれほどまでに激昂させたというのだろうか。
思い通りにならないからと、怒りを露わにしてヨンファにぶつかってきたことは今までも多々ある。
しかし、あんな形で一方的に行為を強いられたのは初めてだった。


何度も唇を合わせ身体を繋いでいながら、心は何て遠いのだろう。
犯されるように蹂躙されたにもかかわらず、結局追い上げられて、そんな状況の下でさえ快感を貪ったこの身体が、非常に浅ましく惨めに感じる。


あの場に居たくなくて、逃げるようにマンションを出てきたが、今頃ジョンシンはどうしているだろうか。
いなくなった自分を、少しは気にかけてくれているのだろうか。
それとも、面倒な奴だと呆れているかもしれない。


胸の奥が軋むような痛みに襲われ、ヨンファは激しく降り注ぐシャワーに頭を垂れた。






バスルームから出ると、ヨンファは用意してもらったTシャツとスウェットパンツを身に着けた。
濡れ髪のままグンソクの姿を探したが、どこにもいない。買物にでも行ったのだろうか?
視線を彷徨わせていると、ベランダに人影が見える。
ヨンファが網戸に近付くと、その気配でグンソクがこちらを振り向いた。


「煙草を吸うなんて、知らなかった」
「すみません。学生の時の名残というか、随分本数は減ったんですけどね。一日に数本は吸ってます」
「会社では見たことがなかったな」
「喫煙者は肩身が狭いんで、会社では吸わないですよ。専ら自宅だけで、しかもベランダ限定ですから」
「冬もか?」
「そうです。ブルブル震えながら吸ってますよ」


その光景を思い浮かべると、グンソクのイメージと合わなくて、つい笑ってしまう。
4年も一緒にいたのに、プライベートの顔をまったく知らなかった。


「身体のためには、吸わない方がいい」
「ええ、そうですね。貴方がやめろと言うのなら、禁煙しますよ」


灰皿を手にベランタから戻ってきたグンソクは、ヨンファに空腹かどうかを訊いてくる。
何も食べていなかったが、まったく食欲が湧かず、ヨンファは首を横に振った。
すると、10畳ほどの広さの部屋に案内された。
綺麗に片付けられていて、配色にこだわっているのか、シンプルで統一感のある部屋だ。


「私の部屋で申し訳ないですが、この部屋を使って下さい。シーツは新しいものに替えてますから」
「グンソクはどこで?」
「私は別の部屋で寝ますから、心配には及びません。それでは…」


そう言って、そのまま踵を返そうとしたので、ヨンファは慌てて引き止めた。


「……何も聞かないのか?」
「今夜は遅いので、やめておきましょう」
「迷惑かけて、ごめん……」
「いいえ。仕事以外でも頼ってもらえて、嬉しいですよ」


グンソクはフッと目を細めて優しく笑いかけると、ヨンファの頬に触れてきた。


「ゆっくり休んで下さい。おやすみなさい」
「おやすみ」


ヨンファは電気を消して、ベッドに入った。
いろんなことがありすぎて疲れているはずなのに、感情が高ぶっていて少しも眠れなかった。
真っ暗な天井に目をやるとジョンシンの顔が思い浮かんだが、今はアイツのことを考えるだけで辛い。


最悪の事態になってしまったのに、不思議とヨンファは落ち着いていた。
ジョンシンの態度に、有りもしない何かを期待してもどうしようもない。今より状況が好転するとは到底思えなかった。
そばにいて惑わされるくらいなら距離を置いた方がいいのかもしれないが、あの体温や声を忘れることが果たしてできるのだろうか。


ヨンファは震える指先に、ギュッと強く力を込めた。







*********************************************************************







翌朝、目を開けると、目尻に溜まっていたものがツーとこめかみを伝って落ちていった。
寝ている間、知らず知らずのうちに泣いていたらしい。
どういう夢だったかは思い出せないが、とてつもなく悲しかったことだけは覚えている。


ヨンファは周りを見渡して、グンソクのマンションに泊まっていたことを思い出した。
昨夜は取り乱したまま突発的に自宅を飛び出して、ここに逃げ込んでしまったのだ。
気分は決して良いとは言えなかった。


身体を起こしてみると、何故だかまた勝手に涙が零れていく。
昨日は平気だったのに、どうしたというのだろうか。
急に喪失感が襲ってきて、どうしようもないほどの不安に苛まれる。
ヨンファは両腕を交差させ、自分で自分を抱き締めた。


どのくらい時間が経っただろうか。
ようやく気持ちを落ち着かせてから、ヨンファはゆっくりとベッドから立ち上がる。
部屋から出ると、コーヒーのいい香りがリビング中に漂っていた。
ヨンファに気付いたグンソクが、キッチンから包み込むような優しい目で見つめてくる。


「おはようございます」
「おはよう」


グンソクに促されテーブルにつくと、ソーセージと野菜がたっぷり入ったスープとバゲットが目の前に出された。


「食べれるようでしたらどうぞ」
「これ、グンソクが作ったのか?」
「はい。圧力鍋に材料と調味料を入れて煮込むだけなので、簡単なんですよ」


美味しそうな匂いに誘われて、急に食欲が出てきた。
そう言えば、昨日は夕飯を食べていなかったことを思い出す。
早速、口に運んでみると、食材の持ち味がしっかり引き出されていてとても美味しい。
空っぽの胃袋に優しい味が染み込んできて、少し元気が出たような気がした。


「今日は仕事を休まれますか?」
「いや、出社するよ。あとでうちのマンションに寄ってもらえないか?」


ジョンシンは大抵8時前には自宅を出ているから、鉢合わせすることもないだろう。
着替える時間も十分にある。


「分かりました。……でも、大丈夫ですか?」


グンソクがコーヒーを飲みながら、心配そうな顔で様子を窺ってくる。


「大丈夫だ。心配かけてすまない。良かったら、もう少し……ここにいたら駄目か?」
「私は構いません。むしろ嬉しいくらいです。必要なものは、あとでご自宅に寄った時に持ち出せばいいですよ」
「ありがとう。助かるよ」


ジョンシンと少し冷却期間を置きたかったため、ヨンファは数日間、グンソクのマンションに身を寄せることにした。










ヨンファは少し残業をしたあと、車で帰る道すがらグンソクと外食をした。
仕事の話をしながら夕食を終え、二人でグンソクのマンションへと帰る。
日中の暑さのせいか熱気が部屋の中に籠っていて、エアコンをつけるとようやく人心地がつけた。


服を着替えて、勧められるままソファーに腰を下ろすと、グンソクがアイスコーヒーを持ってきてくれた。
礼を言って飲みながら室内を見回すと、無駄なものが一切置いていなくて綺麗に片付いている。
グンソクらしいと思っていると、隣から視線を感じて、当の本人と思いきり近くで目が合った。


ヨンファの着ている少し大きめのTシャツにグンソクの手が伸びてきて、胸許のある一点を指で撫でられる。
ギョッとして驚きに声を上げるより先に、グンソクが口を開く。


「これは、あの人がつけたんですか?」


いきなり核心に触れられて、ヨンファの顔が強張った。
「あの人」というのが、ジョンシンのことを指しているのは一目瞭然で、ヨンファは震える手でグラスをローテーブルに置いた。
まったく気が付かなかったが、どうやらキスマークがついていたらしい。


咄嗟に否定して嘘をつこうとしたが、グンソクにそれをするのは憚られた。
誰よりもヨンファのそばにいて、バレないはずがない。
しかも、これほどまでに世話になっておきながら、あまりにも非礼な行為と思われるだろう。


「……軽蔑…するか?」
「いいえ。人を愛するのに、性別や血縁は関係ないと思っています」


そう言われても、俄かに信じられなかった。
もし、このことが両親や会社の人間に知られてしまえば、自分たちはもう終わりだ。
ヨンファは縋るような眼差しでグンソクを見つめた。


「……頼むから、知らなかったことにしてくれないか?」
「安心して下さい。一切、口外はしません。でも、これは合意の上ですか?」
「……………」


ヨンファは返事に詰まって、目を伏せる。
それが結果的に、真実を露呈した形となってしまったようだ。


「出過ぎたことを言うようですが、ヨンファさんを見ていると、到底そうは思えません」
「……俺は、平気だから……」


同性の、しかも弟と身体の関係を持ったことをグンソクに知られて、恥ずかしさと居た堪れない思いに見舞われ、これ以上他に言いようがなかった。


「貴方が傷ついているのを、そばで黙って見てろって言うんですか?いくら弟だからと言って、許されることじゃないでしょう」
「頼むから、それ以上は言わないでくれ」
 

第三者の口から言われると、この狂った行為がいかに非人道的であるかということを、改めて認識させられる。


「グンソク」
「はい?」
「……俺と…寝てくれないか?」


グラスを口に運ぼうとするグンソクの手が止まる。
自分からこんな風に誘うのは初めてで、視線を合わせることができなかった。


ジョンシンへの想いを吹っ切るためには、もうこの方法しかない。
このままでは同じことの繰り返しで何も変わらないし、自分たち二人とも駄目になってしまう。
そんな日常に、ヨンファはもう疲れ果てていた。
グンソクのことを好きになれば、変化が生じて再び前に進めそうな気がする。


「あまり自分を粗末にするものじゃありません。貴方の気持ちが私に向いているのなら遠慮はしない。でも、違うでしょう?」
「………っ」


グンソクが険しい表情をして、諭すような口調で言う。
見抜かれていることに、ヨンファは言葉を失った。


「私は同性しか愛せません。だから、ヨンファさんと出会ってから、日に日に貴方に魅かれていった。本気なんです。身代わりなんかにされたくない」


身代わりだなんて、そんなつもりは毛頭なかった。
でも、自分のことしか考えず、結果的にグンソクを傷つけてしまったことに変わりはない。


「……すまない。今のは忘れてくれ。お前の気持ちも考えずに……軽率だった」
「そんな顔をしないで。貴方を悲しませたいわけじゃない」


目の前の男を見つめていると、温かい腕に抱き寄せられ、額にそっと口付けられた。
ヨンファはその背中に腕を回した。


グンソクはヨンファに無理強いをせず、常に優しく見守ってくれている。
そばにいると、とても居心地が良く、心から癒される。
この男を好きになりたい。それが一番良いということは分かっているのに……。


その一方で、未だにジョンシンのことを考えてしまう自分がいる。
どんなに想っても決して報われることはないのだから、早く決断すべきなのに。
ヨンファの気持ちは、二人の間で大きく揺れ動いていた。







*********************************************************************







それから数日間、ヨンファはグンソクのマンションで過ごした。
グンソクの車で朝一緒に出社し、仕事が終わったあと、また二人でマンションに戻るという生活を繰り返していた。


とても心落ち着く場所だが、いつまでもここに居るわけにはいかない。
グンソクの用意してくれた夕飯を食べ、食器を下げている時に、ヨンファは口を開いた。


「明日、自分のマンションに帰ることにするよ」
「……そうですか」


キッチンで洗い物をしていたグンソクが、ゆっくりと顔を上げてこちらを見る。
その瞳が少し寂しそうに見えたのは、きっと気のせいではないだろう。


「長いこと迷惑をかけて申し訳なかった。お礼はまた改めてさせてもらうよ」
「それって、今じゃ、いけませんか?」
「えっ、今…って……」


突然言われてキョトンとしていると、グンソクがこちらに近付いてくる。


「ここに来た時、私と寝たいと言いましたよね。気が変わったので、今からもらいます」
「ちょっと待っ……」


いきなり手を引かれ、グンソクの部屋まで連れて行かれ、ベッドの前で立ち尽くす。
背後のバタンというドアを閉じる音に、ヨンファの身体がビクンとする。
身を竦ませて反射的に振り返ると、グンソクが見知らぬ人のように見えた。


「私が手に入れたいものはただ一つ。貴方が欲しい。それだけです。ずっと貴方だけを見てきた」
「グンソク……俺は……」
「抱きたくて、もう我慢できないんです…っ」


圧し掛かられるようにして、ヨンファは後ろのベッドに倒れ込んだ。
いつも冷静沈着なのに、その裏でこんなに激しい想いを秘めていたことをヨンファは知らなかった。
4年もこれほど近くにいながら、この男の何を見てきたのだろうか。


見上げると、感情を押し殺したような激しい視線とぶつかり、脳みそが焼けるような感覚に陥る。
体勢を整える間もなくグンソクに両腕を押さえこまれて、噛みつくようなキスが降ってきた。
突然のことに混乱し、咄嗟に押し返そうとした手は捕えられ、身動きができなくなる。


「………っ!」


唇が離れどうにか呼吸を整えていると、思いの外きつく抱き竦められて、首筋に熱い息がかかる。
チリッと痛みが走るほど強く首許に吸いつかれ、愛撫は徐々に下へと移動していく。
いつの間にかTシャツをたくし上げられて、露わになった白い胸に忙しく唇を押し当てられ、ヨンファは奥歯を噛み締める。


再びゆっくり唇が重なってきて、グンソクの舌が歯列を割って入り込んできた。
口付けをされながら手が下りて、ヨンファを優しく包み込んだ瞬間、例えようのない違和感を覚える。
その時、ジョンシンのことが脳裏をよぎった。


『ヨンファ……』


思い出すのは耳許で囁くアイツの低音。大きくてゴツゴツとした骨ばった手。
自分を見つめる時の熱い眼差し。そして、奪うように激しくて、時折驚くほど優しく触れてくる唇。
ジョンシンのすべてがヨンファの身体に刻み込まれていて、それ以外は心が頑なに拒もうとしている。
新たに塗り替えようとしても、無駄な行為でしかないことにヨンファは初めて気が付いた。


「だ…駄目…だ……やめ……っ」


唇が自由になった途端、ヨンファは思わずそう訴えていた。
自分が言い出したにもかかわらず、突如、後悔の念が襲ってきて、ヨンファは堪らず目の前の身体を押し退けた。


「やめてくれ……グンソク…ッ…」
「………っ」
「……俺には……無理…だ……」
「あの人は貴方の実の弟なんですよっ」


苦渋に満ちたグンソクの顔を見て、ヨンファは自分勝手な理由でこの男を振り回してしまったことに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「ごめん、グンソク。分かってる。でも、仕方ないんだ。何度も想い切ろうと思ったけど、どうしても無理で…。俺は最低な人間で心底反吐が出る。時期社長の器でも何でもない。生きることにほとほと疲れたよ……」
「……ヨンファさん」
「もう生きていたくない……っ」


グンソクなら受け入れられると思った。しかし、どうしても身体が拒絶してしまう。
どうやったらこの生き地獄から、脱け出せるというのだろうか―――。


「そんなことを言ったら駄目です。会社の未来はどうなるんですか?チョン社長のお気持ちは?あんなに素敵なご両親を悲しませてはいけません」


力強い言葉が、泣きそうな顔をしているヨンファの荒んだ心に沁み渡ってくる。


「自宅に戻って、二人でよく話し合った方がいい」
「話し合いなんて、今更やっても意味がない……」
「本気で今の現状を打破したいと思っているのなら、行動を起こさないと。でないと、何も変わりませんよ」
「行動……?」
「これ以上は言いません。私にも意地がありますから」


絶望の淵に立っているヨンファを、グンソクが救い出そうと助言してくれた。
これまで見て見ぬ振りをしてきたことに、一度向き合った方がいいのだろうか。
同じような結果に終わる可能性もあるが、まったく何もしないよりはマシかもしれない。


逃げかけていたヨンファの背中を、グンソクが押してくれたような気がした。







*********************************************************************







日曜日の昼前、ヨンファは一週間ぶりに自分のマンションへと帰った。


鍵を開けてドアをゆっくりと開けると、玄関にジョンシンの靴がある。
途端にヨンファの身体に緊張が走ったが、できるだけ音を立てないように室内に入った。
荷物を自室に置きリビングを覗くと、ソファーに仰向けになって寝ているジョンシンの姿があった。


ローテーブルにはビールの空き缶が散乱していて、その横には会社から持ち帰ったと思われる書類が積み重なっている。
ヨンファはひどい惨状に言葉も出なかった。
いくら8月と言えど身体に何も掛けていないところを見ると、ここで飲みながら仕事をしたあと、そのまま眠ってしまったようだ。


この一週間、偶然にも会社では顔を合わさなかったため、ジョンシンの顔を見るのはあの日以来だった。
ソファーから思いっきり飛び出している脚は嫌味なくらい長くて、どんなシチュエーションでも絵になる奴だと思う。
仕事の時は額を出しているが、休日は前髪を下ろしていることが多い艶やかな黒髪が、閉じた瞳にかかりそうだ。


その精悍な寝顔はいつもより疲労が色濃く出ていて、仕事の大変さを物語っている。
こんなに飲むほど、何かあったのだろうか。
ミスをしたという話は聞いていないので、携わっている仕事量が半端なく多いに違いない。
そのため、ついアルコールに手が伸びたのだろう。
日頃あまり飲まないジョンシンだけに、それほどまでに追い詰められているのかと、ヨンファは驚きを隠せなかった。


このままの状態を放っておくわけにもいかず、ヨンファはテーブルの上を片付け始めた。
すると、その音でジョンシンの身体がビクンと反応した。


ヨンファの姿に気付いて、ガバッと身体を起こしたジョンシンと真っ向から目が合う。
思ったとおり、かなり疲れた顔をしていた。


一週間前、あんな仕打ちをされながら、それでも弟の心配をしている自分に笑ってしまう。
やはり、まだ好きなのだ。
自分の中に、ジョンシンを嫌いになる要素がないことに、ヨンファは愕然とした。


「こんなに飲んだら、身体に毒だろう」
「もう帰ってこないかと思った……」


二人ともそれっきり口を噤んでしまい、お互いに何を喋っていいのか会話の糸口がつかめず、奇妙な沈黙が生まれてしまう。
ヨンファが空き缶をキッチンに持って行く様子を、ジョンシンは座ったまま眺めていた。
自分で飲んでおきながら片付けようとしない男に、通常なら文句の一つでも言ってやりたいところだったが、あの顔を見るとヨンファは何も言えなかった。


ひと通り片付けが終わると、意外なことに重苦しい空気を破ったのはジョンシンの方からだった。


「ひどいことをして、悪かった」


ジョンシンは神妙な面持ちで、ヨンファに頭を下げてきた。
まさか謝られるとは思いもせず、その場に立ち尽くしてしまう。
こんなジョンシンを見たのは初めてだった。


だからなのか、不意にヨンファが可愛がっていた頃の頼りなくて幼かった弟の姿が思い浮かんだ。
それとダブって、目の前の大きな身体がいつもより小さく見えて、不思議な感じがする。
ヨンファの方が身体と心に傷を負っているというのに、何故ジョンシンがこれほどまでに苦しそうな顔をしているのか。


「親父とお袋に全部報告したらいい。俺がここから出て行くから、もし嫌でなければ戻ってきてくれ」
「……………」


何て言っていいのか、言葉が見つからない。
どうやらジョンシンなりに、先日のことを悔いて反省しているようだ。
しかし、ヨンファは両親に言うつもりは一切なかった。
これからどうしたものかと逡巡していると、ジョンシンがじっとヨンファの首の辺りを凝視していることに気付く。


「アイツのところに行ってたんだな」
「え?」
「……首」


硬い声で指摘されて、ヨンファは即座に手で隠す。
昨夜のことを思い返し、グンソクの唇によってつけられたものだと確信した。
ジョンシンは狼狽えているヨンファを静かな目で見つめたあと、自嘲気味に口元を歪める。


「ち、違うっ……これは……」
「別に隠さなくていい」


すぐさま否定したが、言い訳にしか聞こえないだろう。
そもそもジョンシンに真実を述べたところで仕方のないことなのに、グンソクとそういう関係だと誤解されたままでいるのは嫌だった。
リビングが再び重々しい雰囲気に包まれる。


「俺はソヒョンならいい子だし、アンタとお似合いだと思ってた。それなのに、いつの間にあんな野郎なんかと……っ!」


急に鋭い声が飛んできて、ヨンファは驚いてビクリと肩を揺らした。
ジョンシンの迫力に気圧され、思わず顔を背ける。


「……俺が怖いのか?」


ジョンシンの声がどこか辛そうに聞こえたのは、気のせいだろうか。


「俺はそんなにアンタを追い詰めてるのか?……やっぱり帰ってくるべきじゃなかったな」


帰国したことを後悔しているように言われ、ヨンファは遣りきれなくなる。
そんな言葉を聞きたかったわけじゃない。
ヨンファは一石を投じようと、自分たちの関係を修復する提案をしてみた。


「今までのことは全部なかったことにして、昔みたいな普通の兄弟に戻れないか?」
「普通の兄弟?それがアンタの望みか?」
「また一からやり直したらいいじゃないか。それなら……」
「無理だろ。どう考えても。何度もセックスしておいて、また兄弟ごっこに戻れってか?そんなのできるわけねぇだろ」


間髪入れずに一刀両断されて、ヨンファの顔が強張る。
何とか元の関係に戻りたいと願っているのは、やはり自分だけなのだろうか。
ジョンシンにとっては取るに足らないことなのか。


「じゃあ、どうすればいいんだよっ…」
「……………」
「このままじゃいけないってことは、お前だって分かってるだろ?お前は一体俺をどうしたいんだ?新しく関係を作るって、どういう意味なんだよ?」


ジョンシンは真一文字に口を結んで、何も語ろうとはしなかった。
眉根を寄せたまましばらく逡巡したのち、ヨンファから顔を背けてしてしまう。


「お前が全部悪いんだ。お前があんなことをしなかったら、こんなに辛い思いをすることはなかったんだぞっ」


そう言いながら、ヨンファは胸を締め付けるような苦しさに襲われる。
自分はこれだけ本音を曝け出しているのに、本心を見せようとしないジョンシンがもどかしくて仕方がない。


「分かってる。俺がすべての元凶だ」


潔く自分の非を認めるのに、何故ジョンシンは心を開いてくれないのだろうか。
潰れるような胸の痛みに、目の奥から熱いものが滲んでくる。
どうしてか自分でもよく分からなくて、ヨンファは激しく混乱していた。


「ヨンファ……」


ジョンシンが呆然としたようにヨンファを見つめている。どうやら気付かれたらしい。
瞬きをした途端、涙が零れてしまい、ヨンファは片手で両目を隠した。


「そ…だよ。お前のせいだ……」


もう一度、ヨンファが同じような台詞を繰り返すと、ジョンシンが「クソッ」と低く呟いてソファーから立ち上がると、いきなり力強い腕に抱き締められた。
目の前に顔が迫ってきて、噛みつくような勢いで唇を塞がれる。
逃げようとしても力の差は歴然としていて、どうすることもできなかった。


「……ぅん……っ」


性急に侵入してくる舌を止める術などなくて、押し返すだけの力もない。
キスが次第に熱を帯びてきて、ヨンファはただされるがまま身を任せていた。


ジョンシンのことを想い切る、他の男を好きになると言って表面上は取り繕ってきたが、そんなのはすべてまやかしだった。
この大切な存在を忘れることなんて、どうしても自分にはできない。
他に方法がないから、単に逃げていただけにすぎなかった。


でも、それに気付いたからと言って、何かが変わるわけでもない。
これから先もこの想いと葛藤して、生きていかなければならないのだ。


ジョンシンの口付けはすぐに貪るような濃厚なものに変わり、その激しさに眩暈がしそうだった。
口腔内を縦横無尽に動き回り、腰を支えてもらっていなければ、後ろに倒れそうなくらい全身から力が抜けていた。


いけないと分かっているのに求めずにいられない。もっともっと触れ合いたくなる。
それは、ジョンシンも同じなのではないだろうか。
この身体を気に入っているからなのか、それとも血の繋がりがそうさせるのか、理由は分からない。
自分たちはこれからも、ずっとこんな不安定な関係しか築けないのかもしれない。


顎が怠くなるまで唇を思うさま蹂躙され、ヨンファはようやく解放された。
ジョンシンの興奮が滲んだ顔を見ると、身体の奥が疼いてきて、思わず目を逸らせた。


「……なんで、こんなことするんだよ。お前、アメリカに恋人がいるんだろう?こんな真似して悪いと思わないのか?」
「恋人?そんなもん、俺の人生の中でいたことは一度もねぇな。後腐れの無い奴としか付き合わない主義だから」
「それで、俺もその中に入れようとしてるのか?そんなの無理に決まってるっ」


思わず責めるような声を上げると、ジョンシンの眉間が歪んだ。
怒った顔をして、目の前のヨンファを見下ろしてくる。


「……そうじゃねぇ」
「じゃあ何なんだよ。お前の言ってること、さっぱり分からないよ」


お互いに割り切った、セフレのような関係を望んでいるんじゃないのか。
身体だけ繋げても、ヨンファにとっては虚しいだけの行為なのに、切なく重苦しい気持ちが込み上げてきて、どうしようもなく胸が軋んだ。


「許してくれとは言わない。俺はこういう形でしかアンタと向き合えない運命なんだろうな」


何かを諦めるように、ジョンシンがフーッと息を吐き出す。
その顔は皮肉げな笑みで歪んでいて、ひどく傷ついたように見えた。
ジョンシンはそれ以上、核心には触れようとはしなかった。
肝心なことになるとすぐ口を閉ざしてしまうのは、昔とまったく変わらない。


「このことを知っているのはグンソクだけだ。彼は口が堅いから心配はいらないし、父さんたちにも言うつもりはない。お前は家族にとっても会社にとっても必要な人間だから、今まで通りここにいろ」
「どうでもいい相手から必要とされても、嬉しくもなんともないがな」


淡々と呟く声に、言い知れぬ切なさを感じた。
どうすれば、ジョンシンの心の中に入り込めるのだろうか。
そう思ってみても、自分もそのどうでもいい相手の一人にすぎないのだから、どうしようもない。


ジョンシンの横顔がひどく頼りなげで、ヨンファはただ見つめることしかできなかった。







*********************************************************************







その三日後、秘書室から呼び出しがあり、ヨンファは10階の社長室に来ていた。


「最近、ジョンシンに変わった様子はなかったか?」


突然、父親からジョンシンの名前を出されて、ヨンファは内心ヒヤリとする。


「特にないですが、何か…?」
「昨日、ジョンシン本人の口から、アメリカ支社の赴任を希望してきた。お前は何か聞いていないか?」
「いいえ、初耳です」


予想だにしていなかった父親の言葉にヨンファは目を瞠り、そばにいるグンソクと顔を見合わせる。


アメリカ支社は韓国食品の輸出を行うため、ヨンファが大学生の時にLAに新たに設立されたもので、アメリカの小売店や飲食店に幅広く商品を卸している。
今後はアメリカ現地の関係会社と協力体制を築きながら、マーケットの拡大を本格的に始動していく手筈になっていた。


「ジョンシンは英語が堪能だから、ここよりもむしろアメリカ支社の方が実力を発揮しやすいだろうが、私としては、ゆくゆくは副社長として会社を支えてもらいたいと考えている。そのために、ここでいろんなことを学ばせたいんだが、ヨンファはどう思う?」


「英語ができる人材は他にも大勢いますから、将来のことを考えて経営戦略を学ばせたいと考えているのなら、ここに残るべきだと思います。でも、本人がどうしてもと希望しているのなら、引き留めることは難しいでしょうね」


父親が腕を組んで難しそうな顔をしている。
どうすべきか決めかねているのだろう。


「今の話は決定ですか?」
「いや、まだだ。これから関係部署の部長クラスに相談してみようと思っている」
「でしたら、少しの間、この件は保留にしてもらえませんか?僕からジョンシンに話をしてみます」
「分かった。ただ、もうあまり日がないから、早めに頼むぞ、ヨンファ」
「はい、分かりました」






社長室から出ると、物言いたげなグンソクの視線に気付かない振りをして、ヨンファは一人エレベーターに乗った。
ジョンシンは本気で自分から離れようとしている。そのための決断に間違いなかった。


かつてジョンシンが大学受験した時も、こんな風だった。
一人で決めて、両親だけに相談して、ヨンファたち兄弟には事後報告という形で知らされた。


ジョンシンがまた手の届かない遠くに行ってしまう。
考えただけで、ヨンファはゾッとした。
再び離れ離れになって、悶々とした日々を過ごさなければならないのか。
嫌だ。もう二度とあんな辛い思いはしたくない。


気まずくても、ほとんど会話をすることがなくても、ただ近くにいてくれさえすればそれでいい。
これ以上は何も望まない。


一度決意したことを覆させるのは難しいかもしれないが、ジョンシンを説得するしかない。


ヨンファは開いたエレベーターから降りると、前を見据えて歩き出した。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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