CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Forbidden Love 8

2016年03月12日
Forbidden Love(兄弟パロ) 0






ヨンファは家族の存在を忘れて、呆然と立ち竦んだまま目の前のジョンシンを見つめた。
がっしりとした肩幅に、見上げるほどの長身。
この6年もの間、結局想い切れなかった相手がアメリカから帰ってきたのだ。


「なに、ヨンファ?貴方を驚かせようと内緒にしてたんだけど、ちょっとビックリさせすぎたかしら。ジョンシンがようやく大学院を卒業して戻ってきたのよ」


もはや周りの声は一切耳に入らず、突然の再会にヨンファは心の動揺を隠しきれなかった。
視線はずっとジョンシンに釘付けで、心臓がどうにかなりそうなほど早鐘を打っていた。


「……元気だったか、ヨンファ?……少し雰囲気が変わったな」


ジョンシンも見つめ返してきて、真正面から目と瞳が合った瞬間、不覚にも涙が出そうになった。
目を眇めて見てくる表情が、男の色香を感じさせる。
6年間忘れられなかった声はあの頃よりも更に低音になり、少し渋さが増したような気がした。


離れ離れになってから、ひと時も忘れたことはなかった。
自分の知らない間に水面下で渡米の準備を始め、あれよあれよと言う間に本決まりになり、ヨンファにはどうすることもできなかった。会えない辛さに何度も心が折れそうになりながらも、いつかまた再会できることを心の拠り所にして、躍起になって前だけを向いて歩いてきた。


そのずっと会いたいと焦がれ続けていた相手が今、目の前にいる。
本当に夢でも見ているのかと思うくらい、信じられなかった。


「お、お前こそ変わりすぎて別人かと思ったじゃないか。全然帰って来ないから、ちゃんとやってんのか心配してたんだぞ」
「まぁ、この通り無事卒業できたし、何とかやってたよ」


ヨンファは口の中がカラカラに乾いて、緊張で声が震えた。
長身のジョンシンが6年前よりも高い位置から見下ろしてくる。明らかに背が高くなっていて、向き合って立っていると、当時よりももっと目線を上げなければならないほどだ。


「すっかり変身していて驚いたでしょう?昔はあんなにチャラチャラしてたのにね。すごく男前になって、自分の息子と思えないほどだわ」
「そ…うだね……」


母親の言う通り、本当にジョンシンなのかと思うほど変貌していた。
長かった茶髪は短めの黒髪に変わり、額を出しているとより一層精悍さが増す。
挑むような強い眼差しは揺るぎなく見据えていて、アメリカで経験を積んだ自信の表れのようだ。


また、身体つきも以前よりガッチリしていて、服の上からでもかなり逞しくなったことが窺える。
高校生の時の派手さは鳴りを潜めて、落ち着いた雰囲気を醸し出した大人の男になっていた。


「よく大学院まで進んで卒業できたな。一人で大変だったと思うけど、俺はお前を誇りに思うよ」
「こんなの、どうってことねぇよ」


何でもないことのようにさらりと告げて、肩を軽く竦める。
しゃべり口調だけは以前とあまり変わっておらず、自分の知っているジョンシンの一面が見えたことにホッとする。


ジョンシンは大学を卒業したあと、そのまま大学院に入った。
一度やりだしたらとことん突き詰めるタイプだから、何か学びたいことでもあったのだろう。
結局この6年間、一度も帰国することはなく、逆にヨンファを除く家族が何度かジョンシンの元を訪れていたようだった。


「立ち話もなんだから座ったら?ヨンファは何も食べていないんでしょう?」
「あ、うん。食べてない」


以前よりも大人びた黒い瞳は、相変わらずヨンファを間近で見つめ続け、何だか落ち着かない気分になる。言いようのない息苦しさを感じ、ジョンシンから視線を逸らすと、スーツの上着を脱いでネクタイを緩めた。
母親に言われるまま一人ダイニングテーブルについて、用意してくれた夕飯を食べながら家族の話に耳を傾ける。


会話の大半はLAでのジョンシンのことばかりで、ジョンヒョンとミニョクがそれぞれ友人を連れて遊びに行った時の話も出てきた。
一度ヨンファも誘われたが、社会人になったばかりでそれどころではなかった。
もし時間が取れていたとしても、同行はしなかっただろう。





「ヨンファ、あまり食べていないわね。体調でも悪いの?」


お茶を継ぎ足してくれた母親が、あまり箸の進まないヨンファを見て、心配そうな顔をする。


「食べる時間って日によってまちまちだから、今それほどお腹が空いていないんだ」
「そう…。あまりここにも帰って来ないし、忙しいの?ちゃんと食べてる?」
「食べてるから大丈夫だよ」


母親を安心させようと笑顔で答えても、表情は曇ったままで「ご飯を作りに行った方がいい?」とまで言い出した。
どうすれば母親を納得させられるかとヨンファが思案していると、父親が助け船を出してくれた。


「母さん、そんなに心配しなくてもヨンファももう大人なんだから」
「いくつになっても我が子には変わりないわ。以前会った時よりも明らかに痩せているんだもの」
「ヨンファにはチャンくんがついているから大丈夫だよ」
「そうだけど…チャンさんがサポートして下さっているのは仕事のことだけで、食事面のことは関与していないでしょう?」


珍しく食い下がってくる母親に、ヨンファはジョークを交えて宥めようとした。


「そりゃそうだよ。グンソクはコックじゃないんだから」
「……チャン…って誰?」


聞き慣れない名前が出てきたからか、ジョンシンが会話に入って訊ねてくる。


「ヨンファの補佐役をしている部下だよ。ヨンファが入社する前は、一年間だけ私の秘書を務めてもらったこともあるんだ」
「入社二年目で社長秘書に抜擢されるなんて、相当仕事のできる方なのね。チャンさんをうちにご招待したいんだけど、ヨンファ、貴方からお誘いしてみてくれる?」
「そうだね。また声をかけてみるよ」


これまでも、家族で集まった時にグンソクの話題は何度か出ていて、母親は一度直接会って礼を言いたいようだ。
しかし、ヨンファのマンションでさえ未だに上がろうとしないのだから、誘っても難しいだろうなと、内心そう思っていた。





夕飯を食べ終わり、母親がソファーから立とうとするのを制してヨンファが自分で食器を洗っていると、ジョンヒョンとミニョクがコーヒーを淹れに来た。


「ヨンファヒョンも飲む?」
「飲むよ。サンキュ、ミニョ。あ…そうだ。お前たち、今日はここに泊まるのか?それとも自分らのところに帰るのか?」


ミニョクが慣れた手つきで、コーヒーメーカーにフィルターをセットしてコーヒー粉を入れている。


「俺はもう飲んでるから泊まるよ。ミニョクもだよな?」
「うん、僕もそうする。明日早めにここを出て、うちに帰ってから会社に行くよ」


ジョンヒョンとミニョクは二人一緒に父の所有するマンションに住んでいる。
大学在学中から何となくそんな気はしていたが、二人は父親の会社には入らず、ジョンヒョンは音楽制作会社、ミニョクは大手清涼飲料メーカーにそれぞれ就職した。


「ヒョンはどうするんだ?」
「俺は飲んでないから帰るよ」


コーヒーメーカーが自動でコーヒーを抽出するのを、三人でひたすら話をしながら待つ。


「そっか、残念だな。忙しそうだけど、ジョンシナも帰ってきたことだし、今度四人で飲みに行こうぜ」
「それは、いいな。また日程とか打ち合わせよう」
「お店は僕が探しておくから」
「頼むな、ミニョ」


家族全員のコーヒーを手分けしてローテーブルに運ぶと、母親がジョンシンと何やら話し込んでいた。


「ここでも悪いことはないけど、そのマンションは結構広いのよ。いっそのこと一緒に住んだらどう?部屋はたくさんあるし、会社からもそんなに離れていないものね」


――― 一緒に住む?……誰と誰が……?


「ねぇ、ヨンファ。良い考えでしょう?」
「えっ……何が?」
「ジョンシンが貴方のマンションで一緒に暮らすって話よ」


―――冗…談…だろ……?


ヨンファがキッチンにいる間に、話が勝手にどんどん進んでいたようだ。


「母さん、それは俺たちだけで決めても駄目だろ。ジョンシナの意見も聞かないと…」
「だって、ジョンシンもお父さんの会社に入るんだから、何の不都合もないでしょ?」


必死に阻止したいのに、母親にさらりと核心をつかれて、ヨンファは言葉に詰まる。
不都合はある。ありすぎるほどある。


「ジョンシンは何か問題ある?」
「俺はそれでいいよ」


すんなりOKを出され、ヨンファは弾かれたようにジョンシンの顔を凝視した。
その真っ黒な深い眼差しからは、表情がよく読み取れなかった。


―――お前は本当にそれでいいのか?


ヨンファは突然降って湧いた事態に、為すすべがなかった。
時刻を見るとかなり遅い時間になっていたため、ヨンファは激しい動揺を誤魔化すように急いでコーヒーを飲み干すと、ソファーから立ち上がる。


「じゃあ、俺、そろそろ帰るから」
「あら、そう…。泊まっていってもいいのよ?」
「せっかくだけど、明日も早いから」


ヨンファは母親が持ってきた上着に腕を通して、ネクタイをきっちりと締め直す。


「お父さんは……飲んじゃってるから車の運転は無理ね。タクシーでも呼びましょう」
「いや、いいよ。最終には間に合うから、電車で帰るよ」
「そう?遅いからくれぐれも気を付けてね」
「大丈夫だって」


皆に挨拶をしてリビングを出ようとしたところで、後ろから声がかかった。


「俺が車で送る。ちょうどコンビニで買いたいものもあるし。親父の車、借りてもいいか?」


突然ジョンシンが追いかけてきて、高い位置から降ってきた声に心臓が跳ねる。
ヨンファは慌てて断ろうとした。


「なっ……いいって」
「構わない。好きに乗りなさい」


自分が望んでもいないことを、周りが勝手に決めていく。
よりによって何故ジョンシンなのかと、ヨンファは恨みたくなった。


「お前…飲んでるんだろ?飲酒運転はご法度だぞ」
「ノンアルコールのしか飲んでないから、心配ない」


そこまで言われて、ヨンファは断ることができなかった。頑なに拒否すれば、皆に不審に思われるだろう。
ただでさえ、いきなり再会を果たしたばかりで狼狽しているというのに、この上二人きりになるなんて冗談じゃなかった。


ヨンファは溜息をつくと、半ば押し切られる形で助手席にしぶしぶ乗る。
ジョンンシンの顔からは心の中までは窺い知ることはできないが、有無を言わせない空気があった。





ジョンシンの運転する車に乗る日が来るなんて、思ってもみなかった。
高校を卒業した時点でのジョンシンしか知らないから、不思議な感じがする。


不意にステアリングを握る手に目が釘付けになった。
大きくて筋張った男っぽい手。こんな手は知らない。
ヨンファが知っているのは、サイズは大きくて指も長かったが、もっとしなやか手だった。


かつてこの手に触れられたのだと、余計なことまで思い出してしまい、ヨンファは慌てて視線を外の景色に向ける。
6年前、ジョンシンが渡米したのをきっかけに、この想いを封印しようと深く心に刻んでいたはずなのに、未だに想い切れていないことにヨンファは愕然とし、自分の愚かさに奥歯を噛み締めた。


―――俺はまた同じことを繰り返すのか……。


二人きりになった途端、お互いに何を話していいのか分からなくなり、ぎこちなくなってしまった。
それは、やはりあの過ちがあるからだろう。
双方が相手の出方を窺っているような節があり、車内に沈黙が落ちる。


ジョンシンが当時の戯れ事を後悔して、葬りたがっていることはよく分かっている。
二人とも社会人となり、若いと言っていられる年齢ではなくなりつつある。
若気の至りで起こした衝動的な行動は、もう過去のことなのだ。
だから、ヨンファもそのことに触れるつもりは一切なかった。


『……俺たちはきっと……一緒にいない方がいい』


あの時、ジョンシンに告げられた台詞を思い出して、ヨンファの胸は苦しくなった。
もう終わったことだから気にしなくていいと、本当は運転席に顔を向けて言ってやりたいぐらいだった。


でも、ヨンファにはそんなことを言える度胸などなく、結局沈黙に耐えられなくなり、当たり障りのない話題を出した。
アメリカでの生活や会社でのことをしゃべりながら、 多少は間が持ててホッと胸を撫で下ろす。
短時間の車中でこれほど緊張を強いられるのに、同居なんかして果たして大丈夫なのだろうかと不安が過った。


そうこうしているうちに、ヨンファのマンションが近づいてきた。


「次を左折して……100メートルくらい先に高層マンションがあるだろ?」


ヨンファがナビをして、目的地に到着した。


「……いつ引っ越してくるんだ?」
「必要なものを買い揃えることになるだろうから、一週間後ってところかな」
「そうか…。分かった。じゃあ、送ってくれてありがとうな」


ヨンファがドアに手をかけて車から降りようとすると、後ろから腕を掴まれた。
驚いて振り向くと、切れ長の鋭い双眸が真っ直ぐに向けられていた。


「一緒に住むのが迷惑なら、はっきり言ってくれ」


ジョンシンの目が剣呑な光を放ち、ひどく物言いたげにじっと見据えてくる。
複雑な感情を押し込めて、ヨンファは無理矢理笑顔を作った。


「なに言ってんだよ。そんなことない」
「お袋と話してる時、そんな感じだったから……」
「迷惑なんかじゃない。お前は昔も今も俺にとって大事な弟だよ」


ヨンファは首を横に振ると、ジョンシンが僅かに目許を細める。
その澄んだ黒い瞳をゆっくりと見つめ返し、ヨンファはドアを開けた。


「じゃあ、またな……」
「ああ」


エントランスを突っ切りエレベーターに乗り込むと、ヨンファはようやく息をついて壁に凭れかかった。
胸が引き絞られるように痛くなって、スーツの上から胸許を押さえる。
全身に震えが走り、どうしようもなかった。


承諾してしまったが、いずれ後悔することになるのではないかという思いが脳裏を過り、ヨンファは強く目を閉じた。







*********************************************************************







ジョンシンがヨンファのマンションに移り住んだのは、それから五日後のことだった。


驚いたことに数日中の間に、ヨンファのマンションの空き部屋は瞬く間にジョンシンの部屋へと変身した。
日中はヨンファが仕事で不在のため、母親とジョンシンが合鍵を使って中に入り、業者に指示してベッド、デスク、パソコン等を運び入れ、クローゼットの中はスーツ等の衣類で埋め尽くされていた。


ジョンシンが今後も実家に泊まる可能性があるということで、自室にあったものはそのまま置いておくことにして、ヨンファの時と同様に母親と必要なものを検討して新たに購入したようだ。


同居を始めたと言っても、疲れて夜遅く帰るヨンファとそんなに話をするわけでもなく、ジョンシンは気楽に好きなことをして過ごしていた。今だけでも家事を請け負ってくれるのは大いに助かるので、ヨンファは家の中のことはほとんどジョンシンに任せていた。










そして、4月の半ば、ジョンシンはBLUE貿易株式会社に入社した。
社長の四男ということと、その類まれなルックスで瞬く間に会社中で注目の的となり、当分の間はジョンシンの話題で持ちきりだった。圧倒的な存在感があって、どこにいても自然と視線を集めてしまう。
しかし、当の本人は我関せず的なところがあり、まったく気にしていない様子だった。


ヨンファはキム課長の事業管理課を離れて営業企画課に配属となり、それと入れ替わるようにジョンシンがヨンファのあとにおさまった。ヨンファと違い補佐役はつかなかったが、英語がすでに堪能ということでいきなり即戦力になっているようだ。


ジョンシンも忙しくなったため、掃除や洗濯などの家事はきっちり線引きせずに、時間に余裕がある方がすることにした。また、二人とも仕事で帰宅時間が遅いことから、平日の夕食は出来合いのものを買うか、もしくは外食で済ませることが多かった。









ジョンシンは連日、疲れた顔をして帰ってきた。
キム課長のジョンシンに対する期待は高いようで、相当扱かれているのが分かる。
社会人になったばかりで、慣れない環境と仕事は相当堪えているようだった。


ヨンファのように車の送迎はなく、仕事が終わったあと地下鉄を乗り継いで帰ってくるので、余計に疲労困憊するのだろう。
しかし、ジョンシンはそれに対して、一切不満を漏らすことはなかった。


時間的にはそんなに変わらないが、ヨンファの方が若干先に帰宅することが多いため、今日は二人分の弁当を買って帰った。
ヨンファが私服に着替えて部屋を出たところで、ちょうどジョンシンが玄関から入ってきた。


「おかえり。弁当を買ってきてるぞ」


声をかけると、少し疲れた顔をヨンファに向けた。


「ああ、ただいま。サンキュ」


ジョンシンは背が高くスタイルが良いため、スーツ姿がことのほかよく似合い、普段以上に大人っぽく見えた。
見慣れない姿にドギマギして、つい盗み見るような視線を投げかけていることはヨンファも自覚している。
そして、その都度自分の胸がざわついていることも。
普通の兄弟として関わっていくのは、やはり不可能なのだろうか。





ヨンファがキッチンで二人分のお茶を注いでいると、上着だけ自分の部屋に置きに行ったジョンシンがリビングに現れた。
余程堅苦しい格好が嫌なのか、セットされた前髪を掻き乱しネクタイを取っ払うと、ワイシャツのボタンを外しながらダイニングテーブルの椅子に座る。
その何気ない仕種にゾクゾクするような色香を感じて、やはりそばにいることは危険だと知らせてくる。


想いを消し去ることも叶わず、またジョンシンから遠ざかることもできない今の状況は、拷問以外の何者でもない。
平然とした顔を取り繕わなければならない日々に、ヨンファはいつまで自分の心が持ちこたえるられるか不安だった。


二人きりで向かい合って食事をすると緊張感が拭えず、どこか胸が詰まったような感じだったが、幸いなことに、ョンシンにはまったく気付かれていないようだ。
変わらぬ態度で接してくる弟に、自分だけが気にしていることは絶対に知られたくなかった。


取り留めのない話をして、ようやく弁当を食べ終わる。
ヨンファがテーブルの上を片付けようすると、骨ばった大きな手に遮られた。


「いいよ、俺がやるから」
「あ……悪い」


真っ向から目がかち合い、早くなる鼓動を誤魔化そうとジョンシンの頭に視線を向ける。


「お前、随分と背が伸びたよな」
「肉食が中心だったからだろうな。向こうに行ってから5センチ以上は伸びた。ヨンファは同じだよな?」
「とっくの昔に成長が止まってるんだから、伸びるはずないだろ」
「そう突っかかるなよ。別におかしいことじゃない」


クククと小さく笑って目を細めるジョンシンに、6年もの歳月を感じた。
強引で我儘なところはよく分からないが、ガキっぽさがなくなり、落ち着いた大人の雰囲気を纏うようになった。
アメリカにいた間に苦労や挫折を味わうなど、様々な経験を積んだのだろう。


ただ、どこか違和感があった。
ジョンシンが無理をしているような、以前のような自然な感じが失われたような、そんな気がした。





一緒に暮らしていても二人の行動パターンは異なった。
ヨンファがリビングでテレビを観ていても、ジョンシンは自室に籠ったりするなど、家の中でもバラバラなことが多い。
相手に一切気を使うことなく、自分の好きなように振る舞えるから今のところ衝突やストレスもないし、共有する時間が短ければ、それだけヨンファもリラックスができた。


ソファーに寝そべったまま画面を見ていると、次第に瞼が重くなってきたので、そろそろ寝ようかと腰を上げる。
部屋向かっていると脱衣所のドアが開き、ジョンシンとぶつかりそうになった。


「あっ……」
「おっと」


瞬時に躱したが、ヨンファは目の前の身体に息を呑んだ。
シャワーを浴びていたらしく、上半身は裸で腰にバスタオルを巻いただけの格好で、濡れた髪からはポタポタと滴が落ちている。
以前よりも鍛え上げられた浅黒い身体に言葉を失った。ヨンファと肌を重ねた時の名残は微塵もなかった。


この身体で一体何人の女性を抱いてきたのだろう。
容易に想像がつくほど、逞しい裸体からは経験値の高さとセクシャルな魅力が滲み出ていた。


交際しても大して長続きせず、社会人になってからは仕事一本でやってきた自分とは全然違う。
生っ白い自分の身体と対比させると妙に気恥ずかしくなり、慌てて視線を逸らせた。


「床が濡れてるから、ちゃんと拭いとけよ」


そう言い捨てて、ヨンファは逃げるように自分の部屋へ入った。










深夜、喉の渇きを覚えて、ヨンファは目が覚めた。
水でも飲もうと部屋から出ると、リビングのドアから明かりが漏れていた。


ジョンシナ…?まだ起きているのか……。


数時間前に見た姿はまだ脳裏に焼きついていて、思い出すだけで鼓動が早くなる。
回れ右して部屋に戻ろうとすると、背後から英語が聞こえてきた。
ジョンシンが国際電話をかけているのだと分かり、ヨンファの足がピタリと止まる。


盗み聞きするつもりはなかったが、時には笑いながら楽しそうにしゃべっていて、親密そうな雰囲気が伝わってきた。
恐らくただの友人ではないだろう。


「I love you,too.」


その言葉が耳に入ってきた途端、ヨンファは胸に棘が刺さったような痛みを感じた。
ジョンシンは昔からよくモテて、常に女性に事欠くことなく、複数の相手と同時に交際するのも珍しくはなかった。
当然ジョンシンに恋人がいても不思議じゃない。逆にいない方が不自然だ。周りが放っておくはずがない。


ヨンファは自嘲して唇を噛んだ。
嫉妬の感情に支配されている醜い自分を誰にも知られたくなくて、ヨンファはこれまでも必死に押し隠してきた。
また、6年前と同じことを繰り返そうとしている自分にほとほと呆れて、そんな自分自身を蔑んだ。


ジョンシンに幸せになってもらいたいと願いつつ、本当にそういう姿を見せられるとジェラシーを抱く。
自分は何て心が狭いのだと、情けなくて笑うしかなかった。







*********************************************************************







その日、ヨンファは朝から妙に身体が重いと感じていた。
起きた時点で違和感があったが、熱がなかったので普段段通り出社した。


はっきりとした異変に気付いたのは午後3時を過ぎた頃で、身体中に寒気を感じ始めた。
そのうち時間が経つにつれて、頭痛がして足許もグラつき、本格的に風邪を引いたのだという結論に達した。
仕事をしていてもいつもより精彩を欠き集中しきれずにいたが、 幸いなことに残業がなかったため、上司に一言断りを入れて定時で退社させてもらうことにした。


その旨をグンソクに連絡すると、案の定低音に怒気が混じっていた。
そして、営業企画課まで赴いてきて、心底具合の悪そうなヨンファを見ると、グンソクが低く呟いた。


「どうしてもっと早く言わなかったんですか」
「……すまない。やることもあったし、早退だけは避けたかったんだ」


ヨンファは元気のない顔で軽く笑ってみせる。
すると、グンソクは探るような目でこちらを見つめてきた。


「失礼します」


そう一言断りを入れてから、突然、グンソクの冷たい手が額に触れてきた。
ヨンファは反射的にビクリと身体を震わせる。


「……熱がありますね」


グンソクが眉根を寄せた。
ぐらりと視界が揺れ、ヨンファが立ち眩みでよろめくと、グンソクが慌てて背中を支えてくれる。
症状はかなり悪くなっているようだ。


「すぐ病院へ行きましょう」


ヨンファは会社から一番近くにある総合病院に連れて行ってもらい、診察を受けた。
熱を測ると、39度を超えていて、そばに控えていたグンソクに大目玉を食らった。
高熱でフラフラしていたのと、朝から食欲がなくて何も食べていなかったので点滴を打ってもらい、処方された薬を持って病院をあとにした。


それから10分ほど車を走らせて、ヨンファのマンションに到着した。
いつもならグンソクとは車の中で別れるのだが、今日は違っていた。
グンソクは率先して車から降り、ヨンファを半ば抱えるようにしてマンションの中に入る。


「私の肩に掴まって下さい」
「すまない……」


グンソクは上階まででなく家の中に入って、ヨンファの部屋まで付き添ってくれた。


「着替えた方がいいですね。スーツを脱ぎましょうか」


言われた通りに緩慢な動作で上着を脱ぐと、それをグンソクがハンガーにかけてくれる。
次にネクタイに手をかけたが、指が震えて手間取っていると、「失礼」と言って、グンソクの手が伸びてきた。
長い指先が器用にネクタイを解いていき、ついでにワイシャツのボタンを外してくれる。
ヨンファはぼーっとした頭で、されるがままになっていた。


「補佐役っていうのは、勝手にのこのこと人の家に上がり込んで、服まで脱がせるのか?」


いつの間に帰ってきたのか、ヨンファの部屋のドアに凭れるようにして、ジョンシンが立っていた。
グンソクの肩越しに見たジョンシンの目は鋭く光り、ヨンファは息を呑んだ。


「いつもではありません。今日はヨンファさんの体調が思わしくないので、付き添って中に入ったまでのこと」
「それにしちゃ、ちょっと過剰サービスすぎると思うがな」


不機嫌そうな顔をして唸るような声を出したジョンシンに、グンソクは眉を顰める。


「……身体が動かないから……手伝ってもらってる…だけだ……」


正直、高熱で喋るのも辛いほどだったが、ヨンファは荒い息を吐きながら、何とか言葉を絞り出す。


「あとは俺がするから、帰ってもらおうか」
「失礼ですが、私はヨンファさんの部下なので、ジョンシンさんに従うことはできません」


二人の間に生じた剣呑な雰囲気を察知し、ヨンファはグンソクに帰ってもらうことにした。


「グンソク……いろいろと…手間をかけてすまない。もう…大丈夫だから」
「しかし……」
「あとは弟もいるし……」
「……そうですか。分かりました。ちょうど明日から休みで良かったです。ゆっくり身体を休めて下さい」
「いろいろ…ありがとう」
「いいえ。では、私はこれで」


グンソクはドアのそばに立っていたジョンシンにも一礼して帰って行った。





「へぇー。アイツが今のアンタの相手なのか。お楽しみの邪魔をしたか?」


言われている意味がよく分からなくて、ヨンファが苦しげな顔で見返すと、ジョンシンは怖いほどの無表情をしていた。


「本当はアイツの方が良かったんだろう?悪かったな、俺で」
「何を…言ってる?」


ジョンシンは目の前まで来ると、ワイシャツの残りのボタンを慣れた手つきで外し始めた。
ヨンファはギョッとして身を固くする。


「いいっ、自分でやる…」


―――冗談じゃない。ジョンシンに脱がしてもらうなんて、そんなこと耐えられない。


ヨンファが避けようと身体の向きを変えたが、その手は強引で離れる気配がなかった。


「自分でできないんだろ?嫌でも少しくらい我慢しろよ」


不愉快そうに顔を歪めたまま、吐き捨てるように言い放たれて、ヨンファは全身が強張るのを感じた。
ジョンシンの動作には躊躇いがなく、ボタンをすべて外すとシャツを身体から剥がしにかかる。
上半身裸になったヨンファを、細めた双眸で食い入るように見つめられて、ますます居た堪れなくなる。


「粥を作ってやるから、ベッドに横になってろ。それと、今後アイツをここに連れ込むのはやめろよな」
「…ジョンシナ、待てって……」


慌てて止めようとしたが、頭がグラリと揺れて、ヨンファはよろけるようにしてベッドに座った。
辛辣な言葉を投げつけられて、胸にズキンとした痛みを感じた。
ひどい言われ方だったが、誤解されても仕方のないところを見られてしまった。
ヨンファはふらつく身体と格闘しながら、どうにかラフな室内着に着替えてベッドに入る。





しばらくすると、ジョンシンがお粥とペットボトルのスポーツ飲料を持って来てくれた。
わざわざ買いに行ってくれたのだろうか。


ジョンシンは相変わらず不機嫌そうだったが、ヨンファは無理矢理咀嚼して胃袋に収めると、病院でもらってきた薬を飲んで、再びベッドに横になった。
目を閉じても、先程のジョンシンに投げつけられた言葉と、あの視線が頭から離れなかった。





どのくらい寝ていたのか分からないが、苦しさと熱さで、ヨンファは唐突に目が覚めた。
部屋が真っ暗なため時刻は不明で、手探りで自分のスマホを探したが、周りには見当たらなかった。
濡れたタオルで冷やそうと、ヨンファは身体の節々が痛むのを我慢して、ベッドから下りる。


鉛が入ったように重い足をどうにか動かし、洗面所へと歩を進める。
身体がガタガタ震えるほど寒気がして、全身に力が入らない。
荒い息を何度も吐きながら、ヨンファは廊下の壁に凭れたまま座り込んでしまった。


「はぁ……はぁ……」


肩を上下させ、ぐったりしていると、音に気付いたのか、ジョンシンが部屋から出てきた。


「何やってんだよ」
「……タオルを…濡らそうと…思って……」


訝しげな顔つきのジョンシンが、ヨンファと目が合うなり不快感を示す。
何とか言葉を絞り出したが、ジョンシンはすぐに返答しなかった。
短い溜息が聞こえたと同時に、ヨンファの目線まで屈んできて、両膝に力強い腕が差し込まれたかと思うと、軽々と抱き上げられる。


「あっ……」
「じっとしてろ」


焦った声を上げて、慌てて反射的にジョンシンの肩にしがみつくと、厚い胸の張りを感じた。
密着したジョンシンの身体から甘い香りが鼻先を掠め、心臓が早鐘を打ち始める。
ジョンシンは気にする風でもなく、そのまま歩き出した。


ヨンファの部屋に入り、ベッドに下ろされると、身体中をゾクゾクとしたものが走り抜けていく。
まるでこのまま情欲を交わすかのようなシチュエーションに、そんな馬鹿な期待を抱いた自分に唇を噛む。
じっとこちらを見下ろす視線は、何やらもの言いたげに鋭く尖っていた。


「俺が持ってくる」


程なくして、水を張った洗面器と濡れたタオルを持って来てくれた。


「ほら、自分で冷やせるか?」
「ごめ…ん」
「ただでさえ忙しいのに、俺の負担を増やすなよ」


突き放すような冷たい声で言われ、ヨンファは顔が強張った。
ジョンシンは入社したばかりで、当時ヨンファがそうだったように、基礎的な知識を覚えることが多く、いろいろ大変なのだろう。


「悪い…あとはいいから……お前は自分のことを……」
「言われなくてもそうする」


ジョンシンはヨンファの台詞を皆まで聞かずに遮って、一方的に低い声で言い放つ。
ヨンファは身の置き場がなくなって、ジョンシンの視線を避けるようにベッドに潜り込んだ。
軽く頭を振っただけで眩暈がする。


ヨンファは暴れたくなるほどの羞恥に襲われ、唇を噛み締めて寝返りを打つ。
背後の気配は少しずつ遠ざかり、乱暴にドアの閉まる音がした。
部屋は真っ暗闇になり、また一人になってしまった。
こんなことを考えるのはお門違いだが、まるで置き去りにされたようで、ヨンファは惨めな気分になった。










朝を迎えても、ヨンファの熱は下がらなかった。
意識は朦朧とし、ヨンファは寝たり起きたりを繰り返していた。
途中、何度かジョンシンの気配を感じたが、目を開ける気力すらなく、うとうととしていた。


喉が渇くたびにスポーツドリンクを飲み、完全に目が覚めても身体を動かす気力がなく、ベッドに臥せっていた。
そのまま目を閉じていると、不意に額にひんやりとしたものが触れてくる。
驚いて目を開けた途端、見下ろしてくる男と視線がぶつかり、息を呑んだ。


「何か腹に入れた方がいいだろ。食えるか?」
「……お粥…なら」


額の上に乗っていたのはジョンシンの大きな手で、冷たくて気持ちが良かった。


少しして、お粥をトレイに載せて持って来てくれた。
礼を言って食べ始めると、ジョンシンの態度とは反対でとても優しい味がして、昨日より食は進んだ。


スマホと体温計を渡され、時刻はすでに昼を過ぎている。
熱を測ると37度台まで下がっていたが、若干頭が痛いのと、まだ身体が怠かった。


この日も一日中ベッドでゴロゴロと過ごし、翌日の日曜日になると完全に回復して、元のように身体を動かせるようになった。





午後7時、消化の良い食事を摂ったあとにソファーに座ってメールチェックをしていると、新たなメール着信があった。
見ると、グンソクからだった。


『お休みのところすみません。その後、風邪の具合はいかがですか?』


返信を打とうとしたが、喋った方が早いと思い、直接電話をかけることにした。


「グンソク、俺だけど」
『ヨンファさん、もう大丈夫なんですか?』
「完全に熱は下がったから、明日、いつもの時間に迎えに来てくれ」
『分かりました。油断しないように、今夜もゆっくり身体を休めて下さい』
「ありがとう。それじゃ」


「休みなのにわざわざ電話をするんだな。本当に仕事だけの付き合いか?」


話を終えた途端、向かいのソファーに座ってきたジョンシンが怪訝そうな顔で見てくる。
ヨンファは軽く溜息をついた。


ジョンシナ、お前は何か思い違いをしてる。補佐役は俺が頼んでしてもらってるわけじゃない。
父さんが決めたことだ。何がそんなに気に入らないんだ?」
「男同士でイチャイチャして目障りなんだよ」
「……イチャイチャだと?」
「社内でも、いつもアンタにベッタリ寄り添ってるだろ」


いくら温和なヨンファでも、この台詞は聞き捨てならなかった。


「いつもじゃない。たまたまお前が見た時、そばにいたんだろう」
「アイツのアンタを見る目が普通じゃないことくらいは分かる。アンタの手管にやられたんじゃないのか?男を咥え込むのは得意だもんな」


ジョンシンの台詞に、ヨンファは目を瞠った。
互いに封印した過去として、暗黙の了解で一度もこの件に触れなかったのに、ジョンシンの方からいとも簡単に口火を切った。
この件は絶対になかったものにしたかったが、ここまで言われてもう後戻りはできない。


「……ふざけるな。きっかけを作ったのはお前じゃないか……」


息苦しさを堪えて、やっとのことで声を絞り出す。


「あの時、俺はどうかしていた。あんな真似をするんじゃなかった」


ぼそりと呟かれた言葉が、冷たく尖った杭のようにヨンファの心臓に深く突き刺さった。
思ってもみなかったジョンシンの言葉に、ヨンファは何も言うことができずに唇を震わせた。


そんなことは、今更言われなくても分かっていた。
敢えて言葉にされて、ヨンファはショックで頭の中が真っ白になる。
これ以上、もう何も聞きたくなかった。
自分を支えてくれたあの日々を完全に否定されて、ヨンファの心は粉々に砕け散ってしまった。


「……今更だな。そんなことは最初から分かっていたことだろう。あんなものに意味なんてないことは。
俺のことはいくら罵っても構わないが、グンソクのことを悪く言うな。彼には俺が入社以来ずっと支えてもらっていて、会社にも貢献してくれている。何の事情も知らないくせに、あれこれ言う資格はお前にはない」


ジョンシンの言葉によって切り刻まれた箇所を、今度は自ら追い打ちをかけるように傷口を抉る。


「随分、あの男にご執心なんだな」
「そう思いたければ、思っておけ」


ジョンシンの顔は、皮肉げな笑みで歪んでいた。
何でそういう話になるのか、ヨンファは馬鹿らしくなって苦笑を漏らす。
もうどうでもいい。グンソクと付き合っている方がジョンシンにとって好都合ならば、そう思えばいい。


ジョンシンはしばらく黙り込んだあと、フーッと息を吐いて、前髪を掻き上げた。
そして、そのままリビングを出て行った。


自分よりもひと回り以上しっかりとした広い背中は、完全にヨンファを拒絶していた。







*********************************************************************







マンション入口に近い路肩スペースにグンソクのシルバーの愛車が停まっていた。
いつものようにヨンファは助手席に乗り込む。


「おはようございます。顔色はいいようですね」
「おはよう。いろいろと心配かけてすまなかった。もうすっかり良くなったよ」


よく気が付くグンソクは、栄養ドリンクとビタミン剤を差し出してくれた。


「ありがとう。それと、弟が失礼なことを言って申し訳ない」


ヨンファは受け取るとすぐにそれらを飲み、身体の力を抜いてシートに深く凭れた。


「失礼ですが、ジョンシンさんとは本当のご兄弟なんですよね?」


隣に視線を投げると、グンソクのいつも以上に真摯な顔を目にして、ヨンファは訊き返す。


「そうだが、どういう意味だ?」
「いいえ、あまり似ていらっしゃらないと思いまして…」
「正真正銘の血の繋がった弟だ。これでも昔はよく目元が似ていると言われていたんだが、今はそうでもなくなったな」
「……そうですか」


それから、今週のスケジュールについて確認し合っているうちに、会社へと到着した。





この日は大事な会議以外ではそんなに仕事は立て込んでいなかった。
どうやら、グンソクがヨンファの体調を気遣い、気を利かせて調整してくれたらしい。
ヨンファが口に出さなくても、察して便宜を図ってくれ、本当に有能でとても助かっている。


残業もなく、いつもより早めに帰宅することができた。
まだ食欲が完全に戻っていないので、有り合わせの材料で消化に良いクッパを作ろうと、ジョンシンを待っていた。


午後9時頃に帰ってきたので、あらかじめ具だけを調理していた鍋を温めて、器に盛ったご飯の上にかけて出すと、ジョンシンはその顔をはっきりと曇らせた。


「俺の分までわざわざ作らなくていい。アンタだって疲れてるし、体調だってまだ万全じゃないんだろ?」
「そうだけど、一人分も二人分も大して変わらないから」
「いらんお節介なんだよ。外で食うか、何か買ってくれば問題ないだろ」


どうやらコンビニで夕飯を買ってきていたようだ。
面倒くさそうな態度を隠しもせず、切り捨てるような口調で言われ、胸がじくじくと痛むのを何とか抑える。


「それなら俺だけ食べるから、お前は買ってきたものを食べろよ」
「いいよ、食うって」


ジョンシンは大きく息をついて席に座ると、無言のまま食べ始めた。
どうも自分のやっていること、すべて裏目に出ていて、ジョンシンの神経を逆撫でしているようだ。


ここ数日、ジョンシンと気まずくなっていたから、それを解消したいと思って夕食を用意したのだが、火に油を注ぐ結果となってしまった。同居しているのだから、少しでも上手くやっていきたいと思うのは当然のことなのに、それはどうやらヨンファだけでジョンシンの頭の中にはその考えはまったくないようだった。


やはり6年という歳月は、少々のことでは埋めきれない、目に見えない溝があるのだろう。
目の前にいるのに、ヨンファにはジョンシンの気持ちが一向に見えなかった。










その数日後の夜、ヨンファはシャワーを浴びたあと、自分のベッドに寝転んでいた。
リビングにいると、どうしてもジョンシンと顔を合わせてしまうため、できる限り接触を避けようとして、ついつい籠ってしまうようになった。


こういうことをすると余計でも事態はよくならないのだろうが、あれから数日間様子を窺っていたが、ジョンシンの態度は相変わらず硬化したままだ。


掛け違えたボタンをきちんと嵌め直すには、どうすればいいのだろう。


グンソクに部屋まで送ってもらった日を境に、ジョンシンのヨンファへの態度はあからさまに変わった。
声色も向けられる視線もかつてとはまったく違い、口から出るのは辛辣な言葉ばかりだ。


何よりヨンファが堪えたのは、ジョンシンが笑ってくれなくなったことだ。
それまでは、以前のようにいかないまでも、多少は穏やかで優しい表情もしていた。
それが、明らかに軽蔑するような目で、ヨンファに向ける顔は冷ややかなものになった。


この気持ち普通じゃない。それだけは、紛うことなき事実だとはっきりと分かる。
だから、ジョンシン本人には絶対に知られてはならない。
心臓が凍えるような感覚とともに、ヨンファは改めてそう思う。


これまで一度もヨンファに対してあんな態度を見せなかったジョンシンが、あれほど露骨に侮蔑の感情を見せてきた。
ヨンファの本心を少しでも悟られたら、ただでは済まないだろう。
家族を巻き込んでしまう可能性も大いにある。
だから、ヨンファはこの想いを墓場まで持って行くつもりだった。





ジョンシンにはせめて普通の兄弟として接して欲しいという願いを持っていたが、それすら叶わなくなってしまった。


こんなにも近くにいるのに、心は遠い。
もうこのまま修復は不可能なのだろうか。


ヨンファは放心したように、天井を見つめ続けていた。





To be continued





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています♡バナーを押していただけると、励みになります♡♡
スポンサーサイト



haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(0)

There are no comments yet.