CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 96

2020年05月13日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 0






「ヨンファ先生、患者さんは以上で終了です」


自分の父親くらいの年配の患者が頭を下げて診察室から出ていくのを見送ったところで、受付カウンターにいたシニョンから声がかかった。
デスクの上に次の患者のカルテが置かれていないことを確認し、「わかりました」と答えたヨンファは手許のカルテに診察結果等の所見を詳細に書き込む。


「すみません、これをお願いします」


数分後に記入し終えたカルテをシニョンに手渡すと、途端に白衣に包まれた肩から力が抜けていくのを感じた。
午前に引き続き、午後からの診療も問題なく順調に進み、それまでの慌ただしさは潮が引くように鎮まる。
壁掛け時計に目をやれば、診察終了時間の午後六時を十分ほど過ぎていた。
無床診療所は外来診療や日帰り手術等がメイン業務なので、これですべて終了だ。
当直やオンコールがない上に残業も少ないため、大学病院の勤務医時代よりも労働時間は減り、ワークライフバランスが取りやすくなったように感じる。


約二週間前、キム・チャンワン医師の退院を機に、ヨンファの日常は一変した。
まず、S大学附属病院に赴き、関係各所に再就職先が正式に決まった旨を報告して深々と頭を下げた。
医師同士で連携を図っておけば、今後、患者を紹介し合ったり、情報を共有することができるからだ。
そして、診療所で仕事内容や患者の引継ぎ等の綿密な打ち合わせをし、契約条件についても、固定給に加えて治療実績に応じた歩合制の給与体系にするという趣旨で合意に至った。


早速、翌日から内科医として勤務に就いたが、さしたる混乱もなく診療を終えられたのは、キムが外科外来を受け持ち、シニョンが受付や電話の応対から細かい雑事までてきぱきとこなしてくれたお陰だ。
想像していたよりも、非常に仕事がやりやすくて驚いた。
日が経つにつれて、さらにスムーズに流れるようになり、今ではヨンファも新しい環境にすっかり馴染んでいる。


大学病院と違って診療所は小規模で地域密着型なので、患者との信頼関係やコミュニケーションを深めるにはもってこいだ。
しかも、幅広い症状の患者と向き合い、常に臨機応変に対応できるスキルが求められるだけに、現場経験が豊富になるという利点があった。
また、ヨンファが元S大学附属病院に勤務していたという情報が広まっているらしく、徐々に新患の数が増えているのと、かつて担当したことのある患者が『やはりジョン先生に診てほしい』とわざわざ来院してくれるため、心底有難いと思っている。


「あっ、そう言えば、頂き物があったんだわ」


ヨンファがデスクの上を片づけていると、使用後の器具を洗浄していたシニョンがふと思い出したようにひとりごちた。
丸顔で愛嬌のある風貌と気さくな性格は、近所のお姉さんといった親しみやすさがある。
慌てて職員休憩室の中へ消えたかと思うと、備え付けの冷蔵庫の中から出してきたと思われるカラフルな赤い箱を手に戻ってきた。


「パクさんが一昨日のお礼にって、差し入れて下さったの」
「――ええと、パクさんというと、どなたでしたっけ?」


毎日、五十人ほどの患者を診察しているので、なかなかすぐには顔と名前が一致しない。


「ほら、診療時間外に小さなお嬢ちゃんを連れてこられたでしょう。すぐ近くにあるケーキ屋さんのご主人でね」
「ああ……、あの時の」


二日前の午後六時過ぎ頃、『娘が熱を出したんですが、診てもらえませんか?』という内容の電話がかかってきて、その数分後に、若い男性が五歳くらいの女の子と一緒に診療所を訪れたのだ。
熱を測ったら39度近くあり、すぐにインフルエンザの検査をしたところ陽性反応が出た。
幸いなことに、同じビル内の調剤薬局の薬剤師がまだ居残っていたため、状況を説明した上で薬を処方してもらい、事なきを得たのだ。


「ちょっと見てみましょうか」


そう言いながら、シニョンが傍らのスタンドテーブルに四角い箱を置く。
そろりと蓋を開けて、横からスライドするように取り出されたのは、クリスマスケーキの代名詞ともいえる、苺の生クリームケーキだった。
小ぶりサイズだが、つやつやとした大粒の苺がふんだんに使われていて、見るからに高級感がある。


「まあ、美味しそう!」
「あのお父さんが作られたんですか。すごいな」
「本当、さすがプロのパティシエよねぇ。あっ、……でも、困ったなぁ」
「え、どうかしましたか?」
「父は今、甘いものを控えているし、私はこれから女子会なのよ。ヨンファ先生はもちろん、今夜は素敵な方と過ごされるんでしょうね」


他意のない口調で、シニョンは開け放したままのドアの向こうに目を向ける。
つられるように視線を追った先は壁が淡いクリーム色の待合室で、その隅に置かれている150センチほどの高さのクリスマスツリーがちょうど視界に入った。
そうだ。すっかり意識の外にあったが、今日はクリスマス・イブだ。
先月末からクリスマス一色に染まっている街全体は今夜もっとも盛り上がりを見せるので、どこも人で溢れ返っているだろう。
色とりどりのオーナメントを遠目に眺めていると、ふいに大学病院で看護師たちが楽しそうに飾り付けしていた光景までもが懐かしく思い出された。


「ほう、ヨンファはこれからデートかね」


突如、背後から穏やかな声がかかり、ヨンファははっと我に返る。
反射的に振り向くと、自分たちの会話を聞きつけたのか、白衣を着たキムが後ろに立っていた。
シルバーフレームの丸眼鏡越しに柔和そうな目を細め、人当たりのいい笑みを浮かべている。
「あ、いえ……」と咄嗟に小さく首を振ったものの、偽るのは憚られた。


「向こうも仕事なので、これといって何も」


三日前に顔を合わせたばかりのジョンヒョンの理知的な容貌を思い浮かべながら、ヨンファはやんわりと言葉を濁す。
どうやら最近、仕事が立て込んでいるらしく、深夜だろうが早朝だろうが関係なしに連絡が入ってくるのだ。
電話やメールで指示して終わるため、ジョンヒョンが仕事に戻ることはないが、相変わらず多忙なのはわかる。
クリスマスのことはそもそも話題にすら上らなかったので、そんなものにかまけている場合ではないだろうと、敢えてこちらから訊きもしなかった。
時折、顔が見られればそれでいい。


「あら、じゃあ、よかったら持って帰って下さい。だって、先生が診察されたんですもの。ここのケーキ、美味しいので有名だから、お相手の方もきっと喜ばれると思うわ」
「そうと決まれば、早く着替えなさい」


にっこりと微笑んだシニョンの言葉に同調したキムは続けて「お疲れさん」と言い、促すようにヨンファの肩をぽんぽんと叩いた。
ジョンヒョンが今夜訪ねてくるかどうかわからないが、せっかくの厚意を無下にするのは失礼にあたる。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えます」


常に時間に追われていた頃と違い、ほぼ定時で帰れるのは非常に有難かった。
どこかほっとするような温かい人柄のふたりに礼を述べたヨンファは、半ば急き立てられるように更衣室へ向かう。
帰り支度のために白衣から私服に着替え始めたちょうどその時、まるでこちらの仕事終わりを待ち構えていたかのようにメールの着信音が鳴った。
ロッカーの中に置きっ放しにしていたスマートフォンを手に取ってみれば、送信者はジョンヒョンだ。


『今日、行っても構わないだろうか?』


あまりにもジャストタイミングすぎて、ヨンファは思わず目を丸くした。
こんな些細な出来事さえも何だか嬉しくなってしまい、あの男の存在が自分にとって計り知れないほどの安らぎをもたらしてくれるのだとわかる。
ごく短い本文の画面に了承の返事を打ち込んでいるヨンファの顏から、知らず知らずのうちに笑みがこぼれていた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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