CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

その男、不遜につき 20

2020年01月12日
奇跡のチカラ シリーズ(リーマンパロ) 6






ダウンライトに照らされた外廊下に潮が引いたように静寂が訪れ、自分が何を言ったのか今さらのように認識した。
そして、縋るようにジョンシンのコートを掴んでいたことも。
無意識に凭れかかっていた大柄な体躯から離れ、そろりと振り返ると、ジョンシンが驚いた顔でヨンファを見下ろしていた。
急に黙り込んだ男に、迷惑だっただろうかと居たたまれなくなる。
心が搔き乱されている状態でアルコールまで加わったからか、まともに思考が働いていないヨンファは支離滅裂な言動でジョンシンを振り回してばかりだ。


「じゃあ、ついでに泊まっていけよ」


気まずくなって視線を逸らしかけた時、奇妙な沈黙を先に破ったのはジョンシンだった。
思いがけないほど落ち着いた声とともに、どきりとするような真っすぐな眼差しを高い位置から向けてくる。
こういう時こそ冗談めかして言うか、笑い飛ばしてくれた方が決まりの悪さをごまかせるのに……。
伏し目のまま身を固くしていると、やんわりと背中を押される。
ふらついたヨンファを咄嗟に抱き留めたジョンシンはそれ以上何も言わず、力強い腕に支えられたまま隣へ移動した。


カードキーで施錠を解除した男に真後ろから抱き込まれるように室内へと足を踏み入れると、センサーライトが玄関を明るく照らし、オンドルの暖かさが冷えた身体を優しく包み込む。
ヨンファの部屋よりもわずかに広い空間は、ことのほか自分に馴染んでしまっているようだ。
頻繁に出入りしているからといって、すぐ隣に自宅がありながら当たり前のようにここに来てしまうとは。
ジョンシンにしてみれば迷惑以外の何ものでもないだろうが、どうしてもひとりになりたくなかったのだ。


背後で重厚なドアが閉まる音を聞いたヨンファは、ふたりきりだという事実にわずかに心拍数が上がったような気がした。
過剰なまでに意識しているのを押し隠して、ジョンシンの手を借りながら不安定な足取りで上がり込む。
そのままリビングのソファに連れていかれ、倒れるように腰を下ろすと、途端に全身の力が抜けていくような深い安堵感に包まれた。
もう一歩も動きたくない。
かすかに痛む額を押さえて小さく吐息を漏らし、気怠げに背凭れに寄りかかった時だ。


「水分補給した方がいいぞ」


ふいにミネラルウォーターのペットボトルを差し出され、ヨンファは急に喉の渇きを覚える。
礼を言って受け取ると、仕立てのいいコートを羽織ったスーツ姿のジョンシンは「ちょっと着替えてくる」と言い置き、大股でリビングを出ていった。
力の入らない手で何とかキャップを外し、口をつけてごくごくと飲めば、ひんやりとした水が心地よく喉を潤してくれる。
半分近く飲んだところでほうっと息をついたヨンファは、緩慢な動作でペットボトルを眼前のローテーブルに置いた。


こんなに酔ったのは、新入行員の頃以来だろうか。
当時は自分の限界の酒量を完全に把握していなかったし、慣れない仕事に対するもどかしさやストレスをアルコールで発散していたようなところがあった。
また、上司や先輩に勧められて断り切れなかったのも理由に挙げられる。
それからは徐々に学習していき、無理のない範囲でペース配分して人前で醜態を晒すような真似はしなかったのに、この体たらくだ。


なんとなく落ち込んでしまい、だらりとソファに座ったままコートとスーツの上着をのろのろと脱いだタイミングで、シンプルなルームウェアに着替えたジョンシンが衣服を手に戻ってくる。
「手伝おうか?」との申し出にぎょっとしたが、「自分でする」と慌てて首を横に振ってネクタイの結び目に指をかけた。
脱いだもの一式を皺にならないようにハンガーにかけてくれるのか、ジョンシンが寝室へ持ち去る。
その間に、ヨンファはジョンシンが用意してくれたスウェットの上下を身に着けた。
明らかにオーバーサイズで余った袖や裾がだぶついているのが気になったものの、どうやら洗い立てらしく、ふんわりと鼻孔をくすぐるシトラス系の香りが不思議と気持ちを穏やかにしてくれる。


時にふてぶてしい態度で剛直な面を見せる男だが、綺麗好きなのか、シンプルモダンに少し遊び心を加えたような洒落た部屋はいつもすっきりと片付いている。
料理が上手いくらいだから、掃除や洗濯も苦手ではないのかもしれない。
世の女性たちからすると、ルックス、勤務先、年収、学歴がすべて高レベルな上に家事全般までできるなんて、これほど絵に描いたような理想の相手はいないだろう。
実際に、例の合コンでもチョアを始め、その場にいた女の子全員をお持ち帰りするくらいの勢いでひとり注目を浴びていた。
ただ、当の本人は異性にまったく興味がないときているので、世の中は本当にわからないものだ。
あまりにも至れり尽くせり状態だから、女性大好きな自分も魔が差したんだろうな……、と無理矢理に結論づけると、横合いから「なあ」と低い声がかかる。


「シャワーはどうする? ふらついてるから、やめておくか?」
「……明日にする。もうかったるくて動きたくない」
「眠るつもりなら、ちゃんとベッドに入った方がいい」
「いいよ、ここで」


また移動するのが面倒くさくて、ごろりとソファに寝そべったヨンファが半ば投げやりに答えると、腕組みしたジョンシンが怪訝そうに眉を顰めた。


「ここ? いくらなんでも狭すぎるだろ」


ジョンシンの部屋に泊まるのは、何も今日が初めてではない。
過去一度もソファを借りたことなどないのに、突然こんなことを言い出したら誰でも不審に思うだろう。


「そうでもない。あったかいし……。布団を貸してくれたら」
「駄目だ。連れていくから、負ぶされ」


間近で見下ろしていたジョンシンにぴしゃりと諫められ、何も言えなくなった。
組んでいた両腕をほどき、こちらに背を向けて屈み込まれてしまえば、否も応もない。
断固として退かない様子に逆らう気力さえなくて、よろよろと立ち上がったヨンファは複雑な心境のまま広い背中に覆い被さる。
ジョンシンが立ち上がったのと同時に身体がふわりと浮き、視界の高さに驚くとともに、慣れない感覚に思わず目の前の首に腕を回してしがみついた。
いくら長身だからとはいえ、小柄ではないヨンファを造作もなく背負ったまますたすたと寝室へと向かう危なげない足取りに、ひどく面食らってしまう。


まさか、この歳になっておんぶをされるとは夢にも思わなかった。
どんな表情をしているのか見えなかったが、ジョンシンの黒髪が頬に当たり、なんだか面映ゆいような、くすぐったいような気持ちになる。
広々としたキングサイズのベッドにそっと下ろされ、成り行きに任せて寝転がると、布団と毛布を肩までかけられた。
そこかしこからよく知っている残り香が漂い、まるでジョンシンの長い腕にくるまれているみたいな錯覚に陥る。


凝り固まっていた心が徐々にほぐれていくのを感じながら、楽な体勢になろうと布団の中で横向きに身を丸めると、ジョンシンがベッドに近づいてくる気配がした。
すぐ傍らに立ったのがわかった次の瞬間、おもむろに枕許に座り込む。
ぎしりとスプリングが沈んだのが横たわっているヨンファにも伝わり、近すぎる距離にどきりとした。
顔を上げなくても、ジョンシンがじっとこちらを見つめているのを痛いほどに感じる。


「こんなになるまで飲んで……、何があったんだよ。俺じゃ、そんなに頼りねぇか?」


声がいつもと違って聞こえて、咄嗟に返事ができなかった。
真実を話せないので、仕事上のことだと勘違いしてくれればこちらとしても好都合だと敢えて取り繕わなかっただけに、どうして急に無茶飲みしだしたのか、焼肉店でずっと訝しんでいるふうだったのだ。
ヨンファの不自然な様子に、違和感を覚えるのも当然だろう。
理由までは思い当たらないと高を括って飲み続けるのを目の前で見せられて、あまり気分のいいものではなかったはずだ。
それきり沈黙が落ち、ヨンファの言葉を待っているようだったが、酔っていて無駄だと思ったのか、ジョンシンが続けて口を開いた。


「言いたくないならいい。でも、心配してることくらいわかれよ」


普段のどこか揶揄うような物言いとは打って変わり、いつになく真摯な口調に驚かされる。
いとも簡単に垣根を飛び越え、ヨンファの心の奥底まで深く踏み込んでくるのはジョンシンだけだ。
問い詰めるつもりはないらしく、代わりにすっと伸びてきた大きな手のひらが気遣わしげに頭に触れてきて、ヨンファは思わず瞬いた。
長い指を差し込まれ、やけに丁寧な手つきで髪の毛を優しく梳かれる。
まるで聞き分けのない子供を落ち着かせるように、安心させるように。
ヨンファに馴染みきっている体温がじんわりと伝わってきて、堰を切ったように気持ちが溢れてきた。


違う。そうじゃない。頼りないなんて、一度も思ったことはない。
ジョンシンのスマートフォンに後輩からメール着信があっただけで過剰反応し、勝手に嫉妬して不機嫌になった挙句、酒に逃げたのは自分だ。
仕事上がりで疲れているはずのジョンシンを最後まで付き合わせて、しかも、追い打ちをかけるように厚かましく自宅に押しかけてしまった。
冷静になってみると、随分子供じみた真似をしてしまったものだと、ヨンファは内心で自嘲する。
普通なら呆れ果てるか、嫌味のひとつやふたつ言われてもおかしくないレベルなのに、ジョンシンはどんな時もすんなりとありのままのヨンファを受け入れてくれるのだ。


こちらは甘えてばかりいるにもかかわらず、逆に要求されることはほとんどなかった。
唖然とするような過激な言動をするわりには、これまで実際に行動に移されたことがなく、案外、ヨンファが嫌がっているのを見て楽しんでいるだけなのかもしれない。
結局は、冗談めかした態度に拍子抜けしたり、時には救われもした。
高校時代は背が高いばかりでひょろっと線の細かった二年後輩の男が、自分よりもよほど大人で度量が大きいのだと改めて認識する。


ふと影が差し、慈しむようにヨンファの前髪を掻き上げていたジョンシンはゆっくりと身を屈めてきた。
ほんの数秒で温もりが消え、額にキスされたのだとようやく気づく。
間を置かずに再び端正な貌が近づいてきたと思ったら、今度は唇が合わさった。
されるがままになっていると、軽く啄んだあとに柔らかく吸われただけで、ふたりの吐息が混じり合う前にすっとヨンファから離れていく。


肩透かしを食わされたような物足りなさを覚え、そろりと瞳を開いた途端、至近距離から覗き込んでくる神妙な面持ちのジョンシンと視線が絡み合い、時間が止まったような気がした。
縫い留められてしまったみたいに目を逸らせずにいると、何かを確かめるようにわずかに細められた漆黒の双眸の奥に、かすかに揺らいでいるものが見える。
言葉にならない感情が込み上げてきて、ヨンファは温もりを追いかけるように手を伸ばした。
すると、すぐさま互いの指を絡ませるように強く握り込まれ、ひどく安堵する。


「ジョン…シナ……」
「ん? 何だ?」


即座に訊き返してくれる優しい響きが心地よくて、ヨンファは大きな手をそっと握り返した。


「……世話が焼けると思ってるか?」
「いや、むしろ嬉しい」
「でも……面倒くさい奴だろ」


みっともない姿を晒してしまったという自己嫌悪から抜け出せず、迷いのない端的な返答に対し、どうしても自虐的な言い方になってしまう。


「誰彼構わず隙を見せないアンタは、理由もなく羽目を外したりしない。裏を返せば、それだけ俺に気を許してるってことだろ。違うか?」


畳みかけるような言葉は驚くほど的を射たもので、目を瞠ったヨンファは一拍置いてから素直に認める。


「……違わない」
「だったら、とことん凭れかかれよ。俺がしっかりと受け止めてやるから」


決して揺らぐことのない口調ですっぱりと言い切られ、どうしようもなく心が震えた。
枕許に腰を落ち着けた男を見上げると、目許を和らげて真上から愛おしげに見下ろしてくる。
まるで恋人に向けるような熱っぽい眼差しだと思った瞬間、どくんと心臓が音を立てた。


本人の口からはっきりと聞いたのは、中学生の時にヨンファに一目惚れして、初恋の相手だったということだけだ。
さらに、手繰り寄せるように過去の記憶を辿っていくと、ふいに『親密な恋人同士』という声が脳裏によみがえる。
事後のベッドの中で、ジョンシンの誕生日が話題になった時に自分たちの関係をたとえてそう言われた。
一向に噛み合わない会話にイライラが募り、ふたりの間に険悪な空気が漂い始めた頃、ヨンファが『セフレに毛が生えたようなもん』と言い返し、本人を激怒させてしまったのを思い出す。
あの時はまだジョンシンに対する想いを自覚していなかったから、あまり深く気にも留めていなかったのだ。
――少しくらい自意識過剰になってもいいのだろうか。


「そう、だな。……ありがとう」


ぽつりとこぼれ落ちた声は小さく掠れていたものの、ほっとしたようにわずかに緩めた表情から、ジョンシンがちゃんと聞き取ってくれたのだとわかった。
こんなふうに胸の内を明かしたのは、初めてかもしれない。
ふっと心が軽くなった途端、次第に瞼が重くなっていくのをおぼろげに感じる。


「ヨンファ? ――眠いのか?」
「――………」


もっと話していたいのに意思に反して思考にも靄がかかり始め、言葉を発することができなかった。
生理的欲求に抗えずに静かに瞳を閉じると、握られたままの指先に少しばかり力が込められる。
温もりのある大きな手に安らぎを覚えながら意識が遠のいていく中、ほのかな体温が唇を掠めたような気がした。


「……おやすみ」


その感覚と心に染み入るような優しい声にいざなわれ、ヨンファは忍び寄ってきた睡魔に呑み込まれていった。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(6)

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2020/01/13 (Mon) 14:02
haru

haru

t*******さん

こんばんは♡

ジョンシンのことを言ってもらって、すごく嬉しいです(〃ω〃)
続きが書けたら、またアップします。

ジョンシン、ミニョク、ジョンヒョンがもうじき除隊しますね。
今からすでにドキドキです。
今年もどうぞよろしくお願いします♪

2020/01/13 (Mon) 21:49

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2020/01/17 (Fri) 22:01
haru

haru

n***さん

こんばんは♡

ドキドキして下さって嬉しいです♪
ジョンシンは私が抱いているイメージに、個人的な贔屓目が加わっています(笑)
ヨンファは昔のスリム体形で妄想していますが、彼自身がとても魅力に溢れているので、そこに受けの要素をプラスした感じでしょうか。
メンタルが強くて、とてもクレバーな人ですよね。
二人の仲を進展させたいのですが、うまいこと書けなかったらごめんなさい( ̄ω ̄;)

n***さんのお気持ち、一言一句逃さず読ませていただきました。
同様に考えていらっしゃる方は多いと思います。
3月に三人が除隊してから、今後について何らかの形が見えてくるのでしょうね。
まだまだCNを好きでいたいので、自分自身が揺らがないように冷静でありたいです。

2020/01/18 (Sat) 22:47

hoshi

haruさま。

ありがとうございます!ああああああああ、どうしよう←
幸せすぎて、ちょっと深呼吸させてくださいませ。

おんぶされるヨンファとか想像するとちょっと異世界へと連れていかれそうになります。
たまらなく切なくて温かいですね。
二人の距離感がたまらなく甘くて切なくてどうしようもない。

少しずつ変化していくだろう関係。
ヨンファの方が頑ななのかしら?と思いながら。
心締め付けられました!
ジョンシンに凭れかかるヨンファ好き。それを受け止めるジョンシンも好き!です。

ありがとう、haruさーーーーーん。

ちょい、実生活でどうしようもなくなっちゃっていたけれど、力いただけました。
続きもまたお利口にしてお待ちします。

あーーーー、好きすぎてどうしようかと部屋の中を右往左往しております。

2020/01/19 (Sun) 20:01
haru

haru

hoshiさん

こんばんは♡

TLで現実を見るたびに、自分の妄想が恥ずかしくてたまらなくなるんだけど、どうもありがとう♪
おんぶとかいろいろ、ちょっとしたシチュエーションでかつ静かに時間が流れる感じが好きなので、そういう雰囲気が伝わっていたら嬉しいです。
二ヶ月後にはジョンシンとミニョクが除隊するね。
それを楽しみに、妄想に耽ります(*´ω`*)

2020/01/19 (Sun) 23:28