CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

その男、不遜につき 18

2019年12月22日
奇跡のチカラ シリーズ(リーマンパロ) 10






為替ディーラーの朝は早い。
十二月上旬の金曜日、いつものように午前六時十五分を回ったのを腕時計で確認したジョンシンは、スーツの上に厚手のロングコートを着込んで自宅を出た。
日の出の時刻よりも一時間以上早いだけあって、共有スペースの通路からちらりと視界に入った空は完全に真っ暗だ。


たとえこちらが深夜でも、時差の関係で海外マーケットは常に動き続けている。
したがって、七時に出社したら、まずマーケットや経済情勢の変化について情報収集することから始まるのだ。
加えて、午前九時から国内市場の取引が開始されるため、それまでに社内のディーラーやファンドマネージャーたちとマーケット動向を踏まえて打ち合わせをし、当日の取引方針を決定しなければならない。
土日が休みだけに、週明けや週末は独自の動きを見せるので、特に注意が必要だ。


思案しながら外廊下の突き当たりにあるエレベーターの前で立ち止まり、下りのボタンを押す。
その時、ガチャッという音が横の方から聞こえた。
そろりと視線を向ければ、ジョンシンの部屋の隣室のドアが開き、中からすらりとした人影が出てくる。
わずかに目を眇めると、日付が変わる時刻まで一緒にいたヨンファがブリーフケースを手に、黒いコートの裾を翻しながら颯爽とこちらへ歩いてきた。
しんと静まり返った空間に、ストレートチップの靴音がコツコツと響く。


今日、早出だということは別に何も聞いていなかった。
似たような内容の仕事をしていても、勤務先が違えば自宅を出る時刻に多少のずれが生じる。
つまり、出勤時に顔を合わせるのは非常に稀なのだ。
偶然にも同じタイミングになったことに、ジョンシンの頬がふっと緩む。
日頃はラフな格好ばかり見ているので、こういうぱりっとした服装のヨンファは妙に新鮮だった。
エレベーター待ちをしているジョンシンに気づくなり、一瞬驚いたような表情をしたのが遠目からでもわかる。


「よお」
「……おはよう」


ダウンライトに照らされながら、優美な身のこなしで近づいてきたヨンファが傍らで立ち止まると、纏っている空気がふわりと香った。
仕事柄、香水の類はつけていないはずなのに、いつもいい匂いがする。
コートの下にはセンスのいいスーツを着用し、六時間ほど前にジョンシンの腕の中であえかなる吐息を漏らし続けていた本人とは思えないくらい、凛としたストイックさを感じさせた。
癖のない艶やかな黒髪は隙なく整えられているが、繊細な美貌はまだ少し眠そうで、ほんのりと赤い目許は憂いを帯びている。


「いつもより早いな。忙しいのか?」
「やり残していた仕事があるんだ」


声を落として尋ねると、ヨンファは目を合わせようとはせず、長い睫毛を伏せ気味にしてぼそりと答えた。
なるほど。それで、第二ラウンドを拒んできたわけか。
てっきり仕事で疲れているか、もしくは気が乗らないのかと思っていたので、理由がわかって心なしか安堵する。
ほどなくして到着したエレベーターにジョンシンが先に乗り込んで、ヨンファがあとに続いた。


扉が閉じ、階数表示を見上げたままで気づいていないのをいいことに、ジョンシンは自分より頭半分低いヨンファを後ろからそっと盗み見る。
そこはかとなく漂っている気怠そうな色香に吸い寄せられるように、黒コートの襟許から覗く白いうなじに目を奪われた。
情事の名残りが垣間見えて、思わずどきりとする。
無自覚に色気を振り撒いていることなど、本人はまったくわかっていないのだろう。
魅せられたように眺めているうちに、ベッドの中での痴態の数々が脳裏によみがえってきた。


シーツの上でしなやかにたわんだ痩身をきつく抱き締め、仰け反った首許に痕を残さないように優しく何度も唇を這わせると、なめらかな肌をわななかせて喘ぐ。
どこをどんなふうに愛撫すれば、どういう反応が返ってくるのかほぼ把握しているため、すぐさま与え、時にはわざと焦らしてとことん官能を煽り立てた。
無防備に身体を開き、大きな黒い瞳を潤ませながら見上げられると、縁にあるほくろがさらに妖艶さを引き立たせてジョンシンの心をより狂わせる。
半ば意識が飛んでいるせいか、甘えるようにしなだれかかってくるヨンファは何ものにも代えがたいほど綺麗なのだ。
不埒な思考ですっかり頭の中を占領されていたジョンシンは、目の前から聞こえたふうっというかすかな溜息に、ふと我に返る。


「身体、平気か?」
「訊くな」


どうやら気恥ずかしいらしく、こちらをちらりとも振り返りもせずに正面を向いたまま即答された。
つれない態度をとられても、へこむどころか可愛くて仕方がないと思える自分は相当イカれているのかもしれないが、ここでおとなしく引き下がるつもりはさらさらない。
むしろ、そうこなくっちゃな……、とジョンシンはひとりほくそ笑んだ。


「俺も頑張りすぎて、腰がだりーよ」
「うるさい。言うな」


めげずに話しかけると、非の打ちどころのない際立った容姿とは裏腹に、粗野な言葉遣いでぴしゃりと遮られた。
セックスの最中はあんなに甘い嬌声を上げながら強く縋りついてきたのに、素気無く一蹴するこのギャップがたまらない。
辛辣な切り返しは、かなりクセになるのだ。
過去、身体だけの割り切った関係の相手には、こんな気持ちを抱いたことなどなかった。
つい追い打ちをかけたくなって、軽く身を屈めたジョンシンは横からヨンファの整った貌を覗き込む。


「今日、仕事じゃなかったら、延長戦に入ってたのにな。残念」
「………っ」


鼻先が触れんばかりに顔を寄せて言うと、途端に瞳を大きく見開き、その近さに驚いたようだった。
もろにぶつかった視線を気まずそうに逸らしたが、煌々とした天井照明の下では想い人の頬がうっすら赤くなったのがすべて丸わかりだ。
しかも、幾度となく口づけを交わした唇が普段よりもふっくら艶やかなことに、ジョンシンは内心にんまりする。


一応、付き合い始めて半年が経とうとしているのに、いまだに物慣れない初々しいヨンファが限りなく愛おしい。
自覚しないままに、ジョンシンのツボをこれでもかと突きまくるから、どうしてもあれこれと構いたくなってしまうのだ。
我ながらいい性格をしていると思うが、期待通りのリアクションにジョンシンの悪戯心がむくむくと頭を擡げる。
ひょいと腕を伸ばして、黒コート越しにほっそりした腰のラインを手のひらで撫でると、ヨンファはびくっと身を竦ませた。


「馬鹿っ。場所を考えろ。防犯カメラに映っているんだぞ」


下降していく狭いエレベーターの中で、ジョンシンの脇腹あたりを狙って小突こうとしたヨンファの肘攻撃を辛うじて躱す。
抱かれる側になっても、気に入らないことがあれば即負けん気の強さを露わにするところがやっぱり男だなと、妙に嬉しくなった。
秀麗な面差しに似合わず凶暴な一面も、ジョンシンは結構気に入っているのだ。


「あー、大丈夫、大丈夫。録画されてるだけで誰も見ねぇって」


うそぶくように軽い口調でさらりと言えば、咎めるような目で見上げてきた。
形のいい眉根を寄せたまま軽く睨まれてもこちらを喜ばすだけなのに、そんな思惑を鈍感なヨンファが気づいているとは思えない。
胡乱げな眼差しを向けられながらも、そこかしこから独特のフェロモンというか、相変わらず匂い立つような色香はダダ洩れ状態だ。
ジョンシンよりふたつ年上の三十近い男には到底見えないのも、魅了される要因のひとつだろう。


「お前ぐらい神経が図太ければ、仕事もやすやすとこなせそうだな」
「お陰様でな。職場の先輩にも言われる」


溜息をひとつついて、ヨンファは伏し目がちに当てこすりを口にしたが、仲のいい四期上のグンソクの顔を思い浮かべながらジョンシンはしれっと言い返した。
多額の資金を動かすため、為替取引をする上で必要なのは冷静な判断、決断力、そして度胸――すなわちメンタルの強さだ。
上司からもそれなりにいい評価を得ているし、自分でもこれ以上向いている仕事はないと思っている。
ぐっと詰まったのちに、どこか物言いたげな顔で黙り込んだヨンファを同じように無言で見下ろしていると、やがて口を開いた。


「……掴みどころがないし」


力なくぽつりと呟いたヨンファに、ジョンシンはわずかに目を瞠る。
軽い振動とともにエレベーターが停止し、気づいたら他のフロアで止まることなく、一階に辿り着いていた。
扉が開くや否や、足早に降りたヨンファを即座に追いかける。


「それは、どういう意味だ?」


眉を顰めたジョンシンは眼前の華奢な背中に向かって問いかけてみたが、立ち止まる素振りはなかった。
ふたりとも裏口から外に出て、身を切るような寒さの中、駐車場へと向かう。
今年は冷え込みが厳しい日が続き、気温が例年よりも下回っているようだ。
街灯があっても暗い上に人影がまったくない敷地内で、「おい……、ヨンファ」と後ろから呼ぶと、彼は速めていた足を急に止めて振り返った。


「意地が悪いのか優しいのか、よくわからないってことだ」


一社会人のジョンシンとて目上の人には当然敬意を払っているし、同い年や年下であろうとも、相手によって話し口調は多少異なるが、ぞんざいにならないように気をつけている。
ヨンファに対して明け透けな物言いになってしまうのは、それだけジョンシンが心を許しているからだ。


「そんなにわかりにくいか?」
「余計な一言が多すぎるからな」
「あー……、別に悪気はねぇんだけど。まあ、つい言っちまうんだよな。ほら、クラスに気になる子がいたら、ちょっかいかけたくなるって心理?」
「お前は小学生か。あと、疑問形で返してくるな。気持ち悪い」


向き合った状態でジョンシンが珍しく素直に本音を吐露すると、ばっさりと一刀両断された。
冷ややかな上目で見つめられるだけで征服欲を掻き立てられてしまい、落ち込むどころか逆にぞくぞくしてくる。
馬鹿正直に告げれば、顔を真っ赤にして激高するのがわかっているから敢えて伏せておくが、こういう女王様気質がどうしようもなくジョンシンの加虐心を煽るのだ。


「ひでーな。そこまで言うか? しょうがねぇだろ。アンタの反応が可愛くて、つい、な」
「なにが『つい』だ。すぐ開き直るし、可愛いって言うな」
「そんなに尖るなって。焼肉奢るから」
「……焼肉?」


駄目元で提案した途端、ヨンファはきょとんと目を丸くし、ギスギスしていた気配さえも若干和らぐ。


「仕事が終わったら、どっかで待ち合わせして食いに行こうぜ。明日、休みだし」


部屋が隣同士ということもあり、もっぱらジョンシンの自宅で手料理を振舞うばかりで、ふたりで外食したのは数えるほどしかなかった。
思いもよらなかったのか、ぽかんとしたような無防備な顔でジョンシンを見上げてくる。
隙だらけのヨンファがたまらなく可愛くて、出勤前で気を引き締めないといけないのに、朝っぱらから鼻の下が伸びそうになった。


「焼肉かぁ。割り勘なら行こうかな」


こういうところが律義というかなんというか、一方的に何かをしてもらうのは年上の男としてどうも抵抗があるらしい。
ふわりと目を細めて笑いかけられ、飾り気のない表情に心臓を素手でぎゅっと鷲掴みされたような衝撃を受けた。
凄まじい破壊力に動揺するのと同時に柄にもなく照れてしまい、顔が赤くなりかけたのを咄嗟に胡麻化そうと口を開く。


「たっぷり精をつけて、またベッドで張り切らねぇと」
「――………」


何か気の利いたことでもと思い、焦ったのがいけなかった。
だから、下半身男だの万年発情期男などと言われ放題なのだ。
つい本音がぽろりとこぼれ落ちてしまい、これはまずいかも……、と慌てて訂正する。


「……あ、今のナシ。聞かなかったことにしてくれ」
「言ってるそばからお前は……」
「仕方ねぇだろ。正直な気持ちなんだからよ。割り勘でも何でもいいから、もう予定に入れとくぞ。ドタキャンはナシ。以上」


強引に話をまとめると、目の前のヨンファの表情がふっと緩んだ。
「了解」と穏やかな声で唇の端を上げるのを見て、虚を衝かれたジョンシンは思い出したように腕時計に視線を落とす。
まだ話をしていたい気分だったが、そうも言っていられない。


「また、昼休みの時でも連絡するよ」


揃って駐車場に足を踏み入れ、別れ際にジョンシンが声をかけると、「ああ」と頷いたヨンファは小さく片手を上げて車の方へ歩き出した。
自然と口許が綻んだジョンシンも自分の愛車に向かいながら、いつになく心が浮き立つのを感じる。
偶然の成り行きで再会した当初に比べればだが、徐々にふたりの間の距離が近づいていると実感できるからだ。


決して手に届かなかったヨンファが高校を卒業し、数年以上顔を合わせていなかったにもかかわらず、その存在を記憶から完全に失くすことができなかった初恋が再燃して現状に至っているのは奇跡としか言いようがない。
毎日が同じことの繰り返しで何ら変わり映えせず、あれだけ色褪せていた日常が彼と付き合うようになってから色鮮やかなものへと変貌を遂げた。
前以上に仕事に張りが出るし、料理を作るのも楽しい。
肉体的な繋がりが先行している感は否めないものの、関係が進んでいくにつれヨンファの未知の一面がちらほらと出てきて、もっともっと深く知りたくなる。


同性を恋愛対象にしたことがない相手の牙城を切り崩すのは至難の業だが、これほどまでに心を奪われる相手は後にも先にもヨンファだけだと、ジョンシンは強く確信していた。
絶対に手放す気などない。


満ち足りたような思いで雲ひとつない真っ暗な空を見上げると、綺麗な冬晴れになりそうな予感がした。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(10)

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2019/12/23 (Mon) 07:25

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2019/12/23 (Mon) 14:09
haru

haru

し****さん

こんばんは♡ はじめまして♪
コメント、どうもありがとうございます。

5ヶ月ぶりにようやくお届けできました。お待たせしてごめんなさい。
まだ時間がかかると思いますが、完結するまで書く予定です。
蒼き運命の続きもまた形にしていきますね(*´ω`*)

2019/12/23 (Mon) 22:05
haru

haru

t*******さん

こんばんは♡
読んで下さってどうもありがとうございます♪

GRAZIAのヨンファにやられました(〃ω〃)
本気モードになると、すごい破壊力ですね。
また四人で活動できる日がくることを、ただひたすら願っています。

2019/12/23 (Mon) 22:28

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2019/12/24 (Tue) 10:12
haru

haru

n***さん

こんばんは♡ n***さん、お久しぶりです♪

私個人の考えですが、希望を持ちたいけれども、依然として厳しい状況にあるのかなと思っています。
良い方向に向かうように、ただ願うばかりです。

Twitterは個人が好きなことを自由に呟くツールなので、どうしてもいろんなものが目に入ってきますが、人間が違えば思考も違いますし、置かれている状況や立場によって様々な考え方があるのだなという風に私は捉えています。
こんな答え方しかできなくてごめんなさい。
n***さんのお気持ちはとてもよく分かります。
そんな中、拙いものばかりなのに、読んで下さってどうもありがとうございます♪

私はこのまま静観しながら、少しでも長く書いていきたいです。
ポンコツ頭なので時間がかかりますが、完結を目指して進めていきますね(*´ω`*)

2019/12/24 (Tue) 22:04

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2019/12/25 (Wed) 13:08
haru

haru

m******さん

こんばんは♡
読んで下さってどうもありがとうございます♪

m******さんの心中お察しします。
今は耐えなければいけない時なのかなと、私も何とか気持ちを奮い立たせています。
コメントはどうかお気になさらないで下さいね。
気が向いた時にふらっと覗きにきていただけるだけですごく有難いです。

両日ともファンミに行かれたんですね。さぞ素敵なクリスマスだったと思います。
ジョンシンのことを話題にしてくれるのはとても嬉しいですね♡♡
ソウルコンの時、駐車場でジョンシンがヨンファのご両親とお会いしているのを見て、異様なほど興奮してしまいました。
あんなことで萌え禿げる私って。
ある程度のところまで不遜を書きますので、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
いつもありがとうございます(*´ω`*)

2019/12/25 (Wed) 23:11

hoshi

haruさま☺

ありがとうございます!幸せすぎて言葉が出てこないということはこういう状況なのか、としみじみ感じています。

やっぱり、haruさんちの、ジョンシンはかっこいいしヨンファはかわいいけど芯があるしたまらんです。

こういう何て言うのかな?
日常の会話とかそういうものがたまらなく好きです。

悶々として私ときたら、ものすごく幸せ。

続きものんびりお待ちします。
推しは推せるときに推せ。
この先私は、動きます!

幸せな時間をありがとうございます!

2019/12/27 (Fri) 20:03
haru

haru

hoshiさん

おはようございます♡
コメント、どうもありがとう♪

久々のシンヨンだったんだけど、そんな風に言ってもらって恐縮しています(〃ω〃)
どちらかというと、甘々よりもこういう方が書きやすいかな。背中のムズムズもないし。
続きが書けたら、またアップします。

2019/12/28 (Sat) 05:31