CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 91

2019年12月12日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 0






テーブルに並べた料理をすべて平らげ、ソファでゆったりと寛いでいるジョンヒョンに食後のコーヒーをソーサーごと手渡したタイミングで、「それはそうと、話というのは?」と待ち構えていたように尋ねられた。
ラフなルームウェア姿のヨンファは男の傍らに腰を下ろして、二杯目のマグカップの中身に口をつける。
最近はインスタントではなくドリッパーで抽出するようにしているのだが、淹れたてのコーヒーは香りも含めてリラックス効果があるらしく、気持ちがとても落ち着くのだ。


言うなら今だ……、と些細なことでも忘れずにいてくれるのを幸いに、思いきって再就職の件を切り出してみた。
誤解されたくなかったので、ジョンシンに関するくだりは敢えて省き、キム医師の診療所で働くことが決まったという内容を話し始める。
途端に、隣で悠然とコーヒーカップを傾けていたジョンヒョンが弾かれたようにこちらを向いた。


「……どうしてそういうことになったんだ? 中小規模の病院で面接を受けたんだろう? 採用がほぼ決まっていたんじゃないのか」


よほど意外だったのか、数秒間沈黙したあとに畳みかけるように言う。
途中経過すら報告していなかったから、驚かれるのも当然だろう。
ある程度予想していたヨンファは瞠目している男を静かに見返し、口を開いた。


「事前に提出した履歴書を見て判断されたのか、給与等に関しては好待遇を約束されたんだけど」
「何か気にいらないことでもあったのか?」
「当直のことで、どうしても折り合いがつかなかったんだ。回数を減らしてほしいと要望してみたが、難しいと言われてしまって不採用になった」


多くの勤務医にとって悩みの種であり、転職時の希望としてもっとも多いのが『当直を減らしたい』ということだとはっきり統計が出ている。
なぜならば、睡眠不足の上に疲労が蓄積された状態で当直明けの勤務があるからだ。
それが何日も続くケースも珍しくなく、判断力の低下やミスにも繋がりやすいので、常に細心の注意を払わなければならない。
だが、医師不足により、大半の医療機関において当直負担を改善できていないのが現状だ。
よって、希望を口にしたところで面接官にいい顔をされないのも無理はないと思う。


「そうか。通常勤務に夜間が加わっただけでも負担が大きいのに、連続してまた通常勤務とは信じられんな。実際、ヨンファと再会した時も、顔色の悪さとあまりのやつれ具合に驚いたものだ」
「まあ、結構ハードな職場だったからな。その点、キム先生の診療所なら自分のペースで仕事を進められるし、ひとりひとりの患者に時間をかけられる。しかも、内科については、診療時間外の夜間や休祝日に出勤することがほぼないらしい」


当時を振り返っていたヨンファが隣に視線を移すと、ワイシャツにスラックス姿のジョンヒョンはソファの背凭れに寄りかかり、優雅に脚を組んだままこちらを見つめている。


「なるほど。事情はよくわかった。俺は、基本的にはヨンファの考えを支持し、尊重するスタンスだ」


万一の場合、反対される可能性を危惧していただけに、実にあっさりと認めてくれて正直驚いた。
わずかに安堵していると、コーヒーカップを口許に運んでいたジョンヒョンが静かに続ける。


「だが、いいのか? あそこは裏社会御用達だぞ。うちと南部の息がかかっているから、危険なことはないと思うが」
「ああ、承知している。でも、堅気の患者だっている」
「まあ……そうだが。それに、診療所だとやりがいという面で物足りないんじゃないか? いくら当直がないとはいえ」


これは自分自身の胸の内にとどめておこうと思っていたのだが、何も感じていないみたいに平然と訊いてくるジョンヒョンに、ヨンファは一抹の寂しさを覚えてしまった。


「患者と向き合うのに規模は関係ないよ。大丈夫だ。――もしかすると、ヒョニは俺と会う時間が減っても平気か?」
「なんだ、いきなり」
「当直がある病院に決めたら、前みたいな物理的なすれ違いが生じるのは目に見えてる。お前はそれでもいいのか? 俺は嫌だ。それだけはどうしても避けたかった」
「ヨンファ、まさか……俺のために?」


まだ半分残っているマグカップのコーヒーに視線を落としていても、ジョンヒョンが息を呑んだのが気配でわかる。


「あと、俺自身がそうしたいから。――せっかく気持ちが通じ合ったのに、また逆戻りなんか耐えられない。もう二度と昔のようなつらい思いはしたくないんだ」


長い道のりを経て、やっと今の形に落ち着いたのだ。
幹部のひとりとして重責を担い、多忙でフリーになれる時間が限られている男だからこそ、多少はこちらから歩み寄ることも必要だと思っている。
絞り出すように言い募ると、馴染みのある温もりがソファに置いていたヨンファの手にそっと重なってきた。
指先で優しく撫でられて、指同士を絡ませるようにぎゅっと上から握り込まれる。
横を向いたヨンファに、表情を和らげたジョンヒョンが愛しげに目を細めた。


「そんなふうに考えてくれているとは思わなかった。嬉しいよ。俺も、できるだけ長い時間一緒にいたい。欲を言えば、毎日会いたいんだがな」
「……うん。忙しいのはわかっているから、そう言ってくれるだけで十分だ」


言葉を惜しまないジョンヒョンに、ヨンファは笑ってみせる。
何も焦る必要などない。この関係を築くまでに、十年以上の歳月が流れているのだ。
ふたりの心に灯った火が決して消えないように、ゆっくりとしたペースでともに歩んでいければそれでいい。


「――で、キム先生のところで働くのはいつからだ?」


互いにもう片方の手にカップを持ったままなので、ジョンヒョンの手が名残惜しげに離れながら低い声で問われた。


「実は今、先生は胃潰瘍で検査入院されていて」
「入院?」
「じきに退院されるようだけれど、心配なんで来週の中頃には」
「確か、娘さんが手伝っているんだったな」
「ああ。シニョンさんが受付もされているから、内科だけなら俺ひとりでも対応できると思う」


ジョンヒョンは「そうか」と頷いた直後、付け加えるようにぼそりと呟く。


「ただ、親父さんがどういう反応をするかだな」


二口ほど飲んでマグカップを目の前のローテーブルに戻した時、思いがけないことを言われて、神妙な面持ちになったジョンヒョンを見返した。


「親父は関係ないだろう。いい歳をした息子の仕事先について、あれこれ口を挟んだりするはずがない。昔から自分が決めたようにやれって言われているしな」
「それならいいんだが。キム先生とは知らない仲じゃないから、驚かれるだろうな」
「多分な。折を見て報告はしようと思ってる」


不意に、S大学附属病院勤務が決まり、電話で報告した際に父親がひどく喜んでくれたことを思い出す。
ひとり息子なのに跡目は継がさないと早々に決め、常にヨンファの気持ちを第一優先で考えてくれる人だ。
『社会に恩返ししなさい』と通話越しに言われた言葉は、今もしっかりとヨンファの胸に深く刻まれている。
今回の決断も、度量の大きい父親なら理解してくれるだろう。


「しかし、どうして急にこういう展開になったんだ?」


横合いの声で現実に引き戻されると、飲み終えたコーヒーカップをジョンヒョンがローテーブルに置いたところだった。


「どうしてって……。キム先生と思いがけず再会した日に、大学病院を辞めたことを伝えて――」
「どこでお会いしたんだ?」
「え?」


間髪を容れず訊かれて、一瞬言葉に詰まった。
目をやれば、じっとこちらを見ていたジョンヒョンと視線が合う。
まさかそんな細かいところまで言及されるとは考えてもみなかった。


「日頃は接点がないはずなのに、やけに偶然すぎる出来事だと思ってな」


訝しげに眉根を寄せた男は、おもむろに脚を組み替える。


「……そうだな。先生の診療所でなんだ。すごく懐かしかったよ」


含みのある言い方に内心困惑したものの、わずかに睫毛を伏せたまま気取られないように答えを返した。
今日に限ってこんなに食い下がってくるなんて、まったくの想定外だ。
曖昧な態度を見せるのをよしとしない性格なのは、昔から知っている。
加えて仕事柄、納得できないことに対して退くどころか、とことん追及する男だというのもわかっていた。


「診療所まで行ったのか? ここからだと距離があるし、体調を崩していたようには見えなかったが」


即座に切り返されて、己が発した言葉を反芻してみる。
思いがけずと言いながら診療所で会ったとなると、明らかに矛盾しているじゃないか……、と今さらのように気づいて頭を抱えたくなった。
何か理由があってのことだと捉えるのは至極当然で、いっそのこと、街中でばったり出会ったと偽った方がよかったかもしれない。
ちらりと頭の片隅で思った矢先、頬に射るような視線を感じた。
まずい……。非常にまずい。


「ええと、ちょっとした用事があってな」


頼むからこれ以上追い詰めないでくれと半ば逃げ腰で、苦し紛れに言ってみた。
自ら傷口を広げた感があり、スラブニットのイージーパンツを穿いた膝の上で組んでいる両手に、我知らず力が入る。
不自然にならないようにさりげなく見返すと、何かを察したようにわずかに眉を顰める様子は、まるでこちらの表情ひとつ見逃すまいとしているようだった。
少し間が空いただけなのに、怪訝そうな顔つきになったジョンヒョンが腕組みをして黙り込む。
ヨンファの返答に対して納得していないように見えるのは、気のせいではないだろう。
一拍置いて、かすかに息を吐くのが聞こえた。


「……ヨンファ、何か俺に隠しているな」


どうやら、内心の動揺までも見透かされてしまったらしい。
表情には出さないように徹していたにもかかわらず断定口調で指摘され、ヨンファはぎくりと瞬いた。
眦の切れ上がった双眸をじわりと眇めながら、真っ向から見据えられる。
先ほどまでの穏やかな物腰が嘘のようにジョンヒョンの気配が尖り、急に周囲の空気が変わったような気がした。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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