CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 90

2019年11月25日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 2






「実は、まだ晩メシを食っていないんだが……」


連絡があった通り、午後十時を少し回った頃に冷たい外気を纏ってやってきたジョンヒョンは、出迎えたヨンファの顔を見るなり開口一番にそう言った。


「え……、食べていなかったのか?」
「ちょっと立て込んでいたから、摂る時間がなかった。何か腹に入れるようなもんはあるか?」


ダークスーツの上に高級感のあるチャコールのカシミアコートを一分の隙もなく着こなした男を奥へと通して、「夕飯の残りとかならあるけど……」とヨンファはちらりとキッチンへ視線を投げかける。
大抵深夜に来訪するため、出すのはもっぱらコーヒーくらいで、今日も当然食事を済ませているものとばかり思っていた。
食べずに来ると事前にわかっていれば、もう少しちゃんとしたものを用意しておいたのだ。


別段急ぎというわけではなかったので、『近いうちに』と幅を持たせたメール文を送信したのに、都合をつけて今夜訪ねてくれたのはヨンファを慮ってのことだろう。
年の瀬が近づいてきたのと、『Club Blueming』でハンやグンソクとの会話にあった新規ビジネスの件が関係しているのか定かではないが、幹部であるがゆえ、随分慌ただしい日々を送っているようだった。
にもかかわらず、精力的に仕事をこなしているジョンヒョンは疲れた様子を見せず、億劫そうな顔もしない。
ヨンファとこういう関係になっても、基本的には紳士然とした態度を崩さない上に、そういった心配りを当たり前のようにやってのける男なのだ。


「忙しいんだったら、またにした方がいいか?」


タイミングが悪かったかな……、とそれとなく気を使ってそう口にすると、途端にジョンヒョンは器用に片眉を上げた。


「冗談じゃない。空腹の俺を追い返さないでくれ」


勘弁してほしいと言わんばかりに苦笑しながら両手を軽く広げ、肩をすくめてみせる。


「あ、いや、そういう意味じゃなくて。食事はしてもらって構わないけど、てっきりまだ仕事が残っているのかと思ってさ」
「途中で抜けてきたわけじゃない。早く会いたかったから、先に全部片づけたんだ」


え……、と瞳を見開いたヨンファをよそに、その場で無造作に脱いだコートをぬっと目の前に突き出された。
慌てて受け取ると、ジョンヒョンは大きな歩幅でキッチンへと入っていき、冷蔵庫の中を物色するように覗き込んでいる。
素知らぬ顔をしているが、自分で言った台詞に照れているのだとわかった。
そこは敢えて触れないでおくことにして、気づかれないように笑みを浮かべたヨンファはコートをハンガーにかけるために自室へ足を向ける。
その時、背後から「俺の好物だ」という声が聞こえた。


備え付けのウォールラックにコートを吊り下げて踵を返すと、ジョンヒョンは冷蔵庫から取り出したタッパーの蓋を開けて、何やらつまみ食いをしている。
濃紺のシャドーストライプスーツにブラウン地の紋章柄のネクタイという付け入るところがない格好と、その稚拙な行動があまりにもアンバランスすぎて、思わず噴き出しそうになった。
よほど腹が空いているのだなと思いながら近づいたヨンファに、ガスコンロの深鍋に目を留めた男が蓋を開けて、「これはチゲか?」と穏やかな低音で尋ねてくる。


「そう。夕方に作ったスンドゥブチゲ」
「へぇ、旨そうだな。これももらっていいか?」
「もちろん。他にも用意するな」


表情を和らげたままこちらを振り返ったジョンヒョンにそう答え、コンロに火をつけてから冷凍ご飯を電子レンジで解凍させる。
まだ数えるほどだが、ジョンヒョンはヨンファの手料理を喜んで食べてくれるのだ。


S大学附属病院を辞めてから、ヨンファの生活は一変した。
これまでは時間に余裕がなく、たまにキッチンに立つ程度だったが、今では毎日ここで何かしら作業をしている。
やってみたら意外と楽しいもので、インターネットのレシピサイトで作り置きできる料理を事前に調べた上で必要な食材の買い出しに行き、極力自炊するように心掛けているのだ。
そのせいもあってか、以前に比べれば随分健康的な食生活を送れるようになった。


「何か手伝おうか?」
「いや、温めるだけだから、すぐできるよ。座って休んでいてくれ」
「急ですまないな。――……ヨンファ」


いつになく甘みを帯びた声音で名を呼ばれ、傍らに寄ってくる気配とともにプールオムの香りを強く感じる。
どきりとして、スタンドに立てていたカッティングボードをワークトップに置いたヨンファが振り向くより早く、背後からやんわりと抱き締められた。
ぴったりと密着するように触れ合い、心臓の鼓動がわずかに速まる。


「シャワーを浴びたんだな。シャンプーの香りがする」
「あ、……そう。さっき」


首筋に鼻先を埋められて、わずかにトーンを変えた声がヨンファの耳許で低く囁くのとほぼ同時に、背中にスーツ姿の男の体温がじわりと伝わってくる。
たったそれだけのことで満ち足りた気分になっていると、サイドの髪をすうっと梳きながら、こめかみのあたりに優しい口づけがひとつ落ちてきた。
まるで宝物でも扱うようにそっと押し当てられた唇は、心地よい温もりを残したまま離れていく。
ゆっくりと身体を反転させた途端、間近で目と目が合い、彫りの深い精悍な貌を上目遣いで見つめると、誰よりも愛しい男がふと表情を変えた。


「……ヒョニ」


お返しに自ら顔を寄せたヨンファは長い睫毛を半ば伏せ、ジョンヒョンの引き締まった唇にちゅっとキスをする。
すぐさま離れかけたのに、引き留めるかのように一瞬早く伸びてきた両手に左右の頬を包み込まれて、さらに唇が重なってくる。
戯れるように軽く唇同士を触れ合わせるライトキスから、いつしかかすかなリップ音が響くほど深まっていくのがわかった。


「……っ、ん……っ……」


うっすらと唇を開き、舌先を絡ませて応えながら、ジョンヒョンの屈強な肩に縋りつく。
情交の最中のような巧みなキスに翻弄されそうになり、ヨンファは無意識にスーツの上質な生地に指先を食い込ませた。
すると、さも愛しげに下唇をやさしく食むように吸われたのを最後に、ゆっくりとジョンヒョンの唇が離れる。


「このままベッドになだれ込みたい気持ちもあるんだが、さすがに空腹には勝てないな」


視線を上げると、吐息が触れ合うほどの至近距離から囁かれ、ヨンファの瞳の奥をじっと覗き込まれた。
ようやくはっと我に返り、その物言いにつられたように笑ってしまう。


「いろいろ作っているから、好きなだけ食べたらいい」
「それは楽しみだ。あと、レンジから音がしていたぞ」
「――あっ、しまった。ご飯!」


電子レンジを覗き込むと、とうに解凍が済んでいた。
ジョンヒョンは「じゃあ、頼むな」と言うなり、背を向けてリビングへ移動する。


――あれ以上続けられたら、全身が痺れたようになって何もできなくなるところだった。


ラップに包まれたほかほかご飯を茶碗に移し替えながら、ヨンファは今さらになって気恥ずかしくなった。
そもそも来てもらったのは再就職の件を伝えたいからなのだと、当初の目的を思い出す。
さて、どんなリアクションを取られるかだ。
相当驚くだろうな……、とある程度は察しがつくので、話を切り出すのは食後の方がいいかもしれない。
空腹の男をあまり待たせてはいけないと、ヨンファは急いでジョンヒョンの食事を用意し始めた。










手を洗ってからテーブルについたジョンヒョンの前に、温め直して器に盛りつけたスンドゥブチゲやプルコギ、冷蔵庫から取り出した青唐辛子の醤油漬け、ほうれん草のナムルなどのミッパンチャンを並べていく。
そして、コーヒーが入ったマグカップを手に取って返し、ヨンファは真向かいの椅子に腰を下ろした。
早速コーヒーに口をつけながら、目の前で自分の手料理を黙々と口に運んでいる男を何とはなしに眺める。


スーツの上着は着たままだが、きっちりと締めていたシルクのネクタイを抜き取り、ワイシャツのボタンをふたつ外した格好で旺盛な食欲を見せられて、ひどく微笑ましい気分になった。
こんなふうにテーブルを挟んで向かい合っていると、回想してしまうのは屋敷でともに暮らした懐かしい日々ばかりだ。
ジョンヒョンから極道の世界で生きると告げられたあの日までは、楽しい思い出しかない。
部屋住みの若い組員たちが作ってくれた食事を、ジョンヒョンと毎日のように一緒に摂っていた。
多忙かつ、生活リズムの異なる父親が同席することはほとんどなかったと記憶している。
また、組員らも別室に控えていたので、だだっ広いダイニングスペースにいるのはヨンファとジョンヒョンのふたりだけだった。


当時から食べ方が綺麗で、音を立てるといったこともなく、どことなく余裕を感じさせる所作は洗練された見た目に似つかわしい。
男振りや落ち着いた物腰は今さら言うまでもないが、箸を持つ節くれ立った指や薄い唇に食べ物が運ばれていくさまについ目を奪われるのだ。
気づかぬうちに引き込まれてしまい、コーヒーを飲みながらじっと見入っていると、ふいにジョンヒョンの箸の動きがぴたりと止まった。


「なんだか落ち着かないんだがな」
「――え?」


低音の美声に瞬いたヨンファは、ジョンヒョンが少し困ったような表情をしていることに気づく。
  

「何が?」
「そんなに見つめられると、どうしていいかわからない」


きょとんと目を見開いて訊き返すと、眦の切れ上がった双眸を弱り切ったように細められて、ようやく理解した。
昔に思いを馳せながら見惚れていたのだとは、到底気恥ずかしくて口には出せない。


「あ、ごめん……。そんなつもりじゃなかったんだけど。目の前にいたら、気が散るよな」


咄嗟に誤魔化すこともできず、あまりの決まりの悪さに席を立つと、ジョンヒョンはそんなヨンファを見据えて「いや」と首を振った。


「その……妙に緊張する」


少し思案する素振りを見せてから予想外のことを言われ、ぽかんとしたヨンファは「緊張? なんで?」と畳みかけるように問い返す。
あれだけ連日顔と顔を突き合わせていたのに、何を今さら……と首を傾げた。
ジョンヒョンはどこか遠くを見るような眼差しをしたのち、やがてゆっくりとヨンファに視線を戻す。


「あの頃も俺はいつもそうだった。顔に出さなかっただけで。……眩しくて、正視できなかった」
「――………」


懐かしそうな感慨深げな面持ちをしたジョンヒョンは、真っすぐにヨンファの瞳を見つめたまま静かに告げた。
思わぬ方向から直球が飛んできて、一気に鼓動が跳ね上がる。
声もなく瞬いたヨンファの頬はじんわりと熱くなり、耳朶まで朱が差したのが自分でもわかった。
洒落にならないくらい狼狽えてしまい、咄嗟に目を伏せたものの、顔の火照りはそう簡単には元に戻らない。


「なあ、ここにいてくれないか。片時も離れたくない」


続けて真顔で言われ、微妙に固まって赤面しているヨンファはぎこちなく椅子に座り直した。
驚くほどストレートな言葉をくれるようになったが、面と向かって言われることにいまだに慣れないのだ。
どう責任を取ってくれるのだと、熱くなったままの両頬を持て余しながら、気持ちを落ち着かせようとコーヒーをひと口飲む。


「――俺は逆だったな」
「ん?」


マグカップをテーブルに置いたタイミングでぽろりとこぼれた言葉に、ジョンヒョンが即反応した。
記憶をなぞるように当時を回想して、再び口を開く。


「あの頃のお前……細くて綺麗な顔をしていたから、結構ガン見してた」


ヨンファが極力さりげない顏で吐露すると、まったく思いもよらなかったらしく、食い入るようにこちらを注視していたジョンヒョンは驚いたようにゆるゆると瞠目した。
それを見て、自分がものすごく恥ずかしい台詞を口走ったのだと、一拍遅れて自覚する。
何事にも動じないはずの男は、「そうか……」とやや照れくさそうに口許に笑みを刻んだ。


「じゃあ、今の俺は? 昔と比べてどうだ?」


まさか、この話題をまだ引っ張って、さらに乗っかってくるとは思ってもみなかった。


「わかっていることをいちいち訊くなよ」
「わかっていても、言ってほしいんだ。ちゃんと聞きたい」


眉を寄せて窘めたヨンファに対し、ジョンヒョンは臆面もなくしれっと切り返してくる。
こうなってしまうと、もうお手上げ状態だ。
青龍組一の策士相手では、到底勝ち目はない。


「……十割増し」
「最高の褒め言葉だな。つまり、二倍ガン見されてるってわけだ」
「勝手に言ってろよ」


のうのうと言ってのける男を軽く睨んでみたものの逆効果だったらしく、真一文字に引き結んでいる口許を綻ばせて嬉しそうに破顔した。
心からの笑顔を目の当たりにして、何だか面映ゆくなる。
つい半年前までは、ジョンヒョンとこんなふうに穏やかな時間を過ごせる日がくるなどとは夢にも思わなかった。
気が遠くなるくらい長年想い続けて、離れても忘れられず、報われない恋情をずっと胸の奥深いところにしまい込んでいたのだ。


再会してから相思相愛だと知り、すれ違っていた長い年月を取り戻すかのように、限られた時間を積み重ねていくうちに自分たちの関係も徐々に変わってきた。
ここからが本当の始まりなのだと思う。
今みたいにちょっとしたことから思いがけない事実が明るみになったり、共有していた過去を一緒に懐かしんだりする。
二十八年間生きてきて、こんなに幸せだと感じられる日常がこれまであっただろうか。


このささやかなひとときを大切にし、笑っているジョンヒョンをこれからもそばで見守っていきたい。
リラックスした表情で自分の手料理を美味しそうに食べる姿を、ヨンファは温かな幸福感に満たされながら眺めていた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

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2019/11/26 (Tue) 19:10
haru

haru

ふ*******さん

こんばんは♡

読んで下さってありがとうございます♪
ムズムズをこらえながら書いてみたのですが、そんな風に言ってもらって嬉しいです。
私はふ*******さんの優しいお言葉に癒されて、気持ちがとてもほっこりします(*´ω`*)

ジョンヒョンのリアクションを書き始めたので、形になり次第アップしますね。
また、過去ネタを織り交ぜることもあるかもしれません。
少しでも楽しんでいただけるように頑張ります。

早いもので、もうすぐ12月ですね。
何かと慌ただしい時期になりますが、ふ*******さんもどうぞご自愛下さい♪

2019/11/26 (Tue) 22:32