CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 88

2019年11月03日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 2






こちらの心情を読み取ったかのように飄々とした声でさらりと言われ、思わず長身を見上げた。
発熱で常ほど鋭くない漆黒の双眸としばし見つめ合ってしまい、ジョンシンは「なっ?」とヨンファに視線を据えたまま唇の端を上げる。


「でも、いいのか? 何時になるか分からないぞ」
「いいって。俺、仕事の合間とか、ちょこちょこ寄らせてもらってるからさ。もう顔パスですもんね、先生」


訳知り顔とともに最後の同意を求めるような台詞は、椅子に腰かけている老医師へと投げかけられた。


「ジョンシンはここを休憩所と勘違いしとる節があるからな。まあ、好きなだけ寝たらいい」


悪びれるふうもないジョンシンの物言いを豪快に笑い飛ばしたキムは、指先で顎を掻きながら眼鏡の奥の柔和な目を細める。
ふたりがそこまで言ってくれるのなら、今さら断る理由はなかった。


「大したことはできませんが、お手伝いさせていただきます。ただ、キム先生を指名される可能性があるのでは?」
「ヨンファに頼みたいのは初診か新患だから、問題なかろう。急で申し訳ない。お礼はたっぷりさせてもらうよ。――それと、ジョンシン」


椅子からゆらりと立ち上がったキムは、長身の男に話しかける。


「食欲はあるか? 冷蔵庫にプリンが入っているんだが……」
「それくらいなら食えます」
「だったら、寝る前に食べて、頓服と抗生剤を飲んでおきなさい」


随分と懇意にしてもらっているようで、ジョンシンは「すいません。ありがとうございます」と言いながら、共有スペースの方へ歩いていくキムのあとに続いた。
ふたりのやり取りから親しい間柄だということが窺え、意外な組み合わせだな……、と不思議に思ったところで、新たなカルテを手にした受付の女性が姿を見せる。
今しがたキムから診察を依頼された件を端的に話すと、デスクの上に重ねて置かれていたカルテの中からいくつか抜き出してくれた。


「では、チョ・ファンウさんからですが、もうご案内してもいいですか?」
「はい、よろしくお願いします」


思わぬ成り行きではあるが、すぐさま気持ちを切り替えたヨンファは第三診察室へと踵を返す。
席に着いたのとほぼ同時にドアを開けて入ってきたのは、スーツを着用した四十代くらいのビジネスマンらしき男性だった。


「どうぞ。どうされましたか?」


ヨンファは優しく声をかけながら椅子を動かして患者に向き直り、S大学付属病院の内科医だった頃と同様に患者を迎え入れて診察を始めたのだ。













「最後の患者さんがお帰りになりました。お疲れ様でした」


不意にかかった声で、もうお役御免なのだと理解したヨンファは白衣を纏った肩の力をわずかに抜く。
診療を待つ患者であれだけ混み合っていた待合室はいつの間にか無人になっており、窓の外はすっかり真っ暗だ。
腕時計に目をやると、時刻は午後六時を回っていた。
二人目以降は水商売系の派手な男女が続き、駆け込みも含めれば、結局、七人ほど診察したことになる。
すべてひとりでやるのは手間ではあったものの、急き立てられることなく自分のペースで進められるのは非常にやりやすくて、新鮮な感覚を呼び起こされたような心地よい充足感に満たされていた。


情熱に突き動かされ、医学部を目指して学業に励んでいた過去や、研修医の頃の懐かしい日々を思い出す。
なぜこんな気持ちになるのか、正直不思議だった。
規模が大きい病院であくせく働くのはやりがいを感じたし、それだけ受ける刺激も大きかった一方で、精神的な余裕が欠片もなかったからかもしれない。
軽く息をつきながら椅子からそろりと腰を上げて、その場で借りていた白衣を脱いでいると、軽快な足音とともにキムが顔を覗かせた。


「ヨンファ、遅くまで仕事を押しつけてすまなかった。今日は休みだったのかね?」


喜色満面といった表情で礼を言われ、恐縮したヨンファは首を横に振る。
一瞬の逡巡ののち、「実は……」と要点を掻い摘んで、チルソン組の件や在籍していた大学病院の内科医を辞して目下求職中の身であることを明かした。
銃弾を受けたミニョクの手術を請け負ったのが、目の前のキムだと知っていたからだ。


「依頼されれば仕事として受けるが、私は内情には深入りしない主義なんだ。そういうことがあったとは……災難だったな、ヨンファ。組長の家族を狙うなどと、卑劣な真似をする連中だ。極道の風上にも置けん。それで、怪我は完治したのかね? そんなことで大学病院を辞めてしまうなんて、実にもったいない」


痛ましそうに顔を歪めたキムの温かみのある言葉が、じんわりとヨンファの胸に染み入る。


「怪我はもう大丈夫です。病院には言葉では言い尽くせないほどお世話になったんですが、地域に根差していて、患者にとって敷居が高くなく、もっと開かれた医療現場で仕事がしたいと以前から考えていたので、いい機会だったと思っています」


キムは眼鏡の奥の優しげな眼差しを眇め、「なるほど……」と穏やかな声音で続ける。


「私も経験したが、勤務医は過酷だからね。特に患者数の多い大学病院だと、一般の総合病院や個人医院の比ではないくらいてんてこ舞いだ。しかも、急患を率先して受け入れているから、夜中だろうが休日だろうが容赦なく呼び出される。自分がやりやすい環境を求めるのは至極当然なことだ。様々な現場で経験を積むのは、ヨンファにとって大いにプラスになるだろう。――今日はとても助かったよ。少しだが、これはほんのお礼だ」


真剣な顔でヨンファを見つめていたキムがおもむろに白衣のポケットから封筒を取り出したかと思うと、すっと目の前に差し出された。


「それは……いただけません。先生のご配慮のおかげで、ジョンシンをすぐ診てやることができましたし、現に今も休ませてもらっているので……」
「それとこれとは話が別だ。仕事を手伝ってくれたのに、ただ働きというわけにはいかん。ジョンシンとは一緒に飲みに行く仲でな。居心地がいいのか知らんが、普段から用事がなくてもふらっとここに顔を出すんだ」

    
聞くところによると、ふたりで何軒もハシゴして、明け方まで飲み歩いたこともあるという。
プライベートで親しくしているという事実に驚いたものの、眦の下がった細い目許を和ませながらさも楽しそうに話す老医師を見て、こちらまで温かい気持ちになった。
数時間前のやり取りからも感じたが、もしかすると、ジョンシンのことを息子のように可愛がっているのかもしれない。


「すみません。では、お言葉に甘えていただきます。いろいろとありがとうございました」


せっかくの厚意を無下にしては失礼になると思い、キムの心遣いに対して礼を言って封筒を受け取ると、「お、そうだ」と付け加える。


「ヨンファさえよければ、今度一緒に飲みに行くか? まだまだ話し足りないんでな」
「はいっ。是非ともご一緒させて下さい」


思いがけない誘いに、破願したヨンファが二つ返事で頷いて頭を下げると、「そんなにかしこまらなくていいから」と相好を崩したキムに肩をぽんぽんと軽く叩かれた。
すぐさまお互いにスマートフォンを手にアドレスを交換した直後、ふと思い出したようにキムが後ろを振り返る。


「シニョン、ちょっと来てくれ」


診察で使用した器具を洗浄している受付の女性をこちらに手招いたかと思えば、自分の娘だとヨンファに紹介した。


「え……、キム先生の娘さん……ですか?」


驚愕のあまり瞠目し、ふたりの顔を交互に見つめていると、「ジョンシンを呼んでこよう」とキムはあっさりとその場を離れていく。


「今日は、父が突然無茶なお願いをして申し訳ありませんでした。戸惑われたでしょう? ジョンさんのことは父からよく聞いていました。お会いできて嬉しいです」


思わぬ事実に瞬くばかりのヨンファに、丸顔の女性は声を弾ませてキム・シニョンと名乗り、にこやかな笑みを見せながら頭を下げた。
慌ててヨンファも会釈と同時に挨拶を返し、お詫びとお礼を述べる。
これまでキムの口から家族の話を聞いたことがなかったので、正直驚いたのだ。
三年前からこの診療所で働いているのだと気さくに話しだしたシニョンと雑談していると、ほどなくして奥の部屋から風格のある面持ちのキムが出てきた。
その背後には、今まさに起きましたと言わんばかりに大欠伸をしている眠そうな顔のジョンシンが見える。


「大丈夫か?」
「ああ……、さっきよりはマシかも」


のっそりと大股で近づいてきたジョンシンに声をかけたら、容態が若干落ち着いてきているのが窺えて、ヨンファはわずかに安堵した。
かなり体力がある男だけに、比例するように回復力も早いのだろう。


「そうか。それならよかった。じゃあ、帰ろうか」


ジョンシンの診察代は受け取れないと固辞されたので、上着を着込んだふたりはキム親子に改めて謝辞を述べ、温かみのあるこぢんまりとした診療所をあとにした。
建物から出るなり、澄み渡った外気は凍てつくほどに冷え込み、猛烈な寒さに反射的に身を縮める。
日が落ちるのが一気に早くなったせいで、もう完全に夜だ。
平日にもかかわらず、雑居ビルが立ち並ぶこの界隈は人で溢れかえっていて、賑やかな喧騒に満ちている。


隣接したビルの一階にある調剤薬局で薬を処方してもらい、肌を切るような冷たい夜気が全身に纏わりつく中、ジョンシンの歩調に合わせてパーキングへと向かった。
シルバーの愛車に乗り込み、街灯や派手なネオンサインに彩られた煌びやかな繁華街を抜けてジョンシンのアパートを目指す。
帰路の途中、ウィンカーを出してコンビニエンスストアに立ち寄ったヨンファは、「すぐ戻る」と言って外に出た。


今日はとことん世話を焼いてやろうと、レトルトのお粥といった消化によさそうな食料品やスポーツドリンクなどの飲料水を選び、レジで支払いを済ませる。
急いで取って返し、後部座席のドアを開けて、「ほら」とヨンファよりも大きくて無骨な手に強引にビニール袋を渡した。
意外だったのか、シートに頭を預けていたジョンシンが「え……」と驚いたように身を乗り出す。


「俺に……? なんで……」
「キム先生から臨時収入をいただいたんで、ジョンシナにも一部還元」


そう言って、ヒーターで十分温まっている運転席に再び収まったヨンファは、シートベルトを締めてからサイドブレーキを下ろした。
実は、交差点で信号待ちをしている時にキムから手渡された封筒を開けてみたのだが、驚いたことに5万ウォン札が10枚も入っていたのだ。
約二時間の手伝いにしては破格すぎて、キムの優しさがじんわりと身に染みてくる。


「……サンキュ」


ハンドルを右に切ったところで、背後からぽつりと低音が聞こえた。
交通量の多い道路を通り抜けると、次第にフロントガラスの向こうに目的の建物が見えてきて、ものの数分でジョンシンのアパートに辿り着く。
ヨンファはハザードランプを点滅させた状態で、路肩に寄せてゆっくりと停車させた。
後部座席のジョンシンを振り返り、「しっかり身体を休めろよ」と声をかける。


「今日はいろいろと世話になっちまって、ありがとな」
「どういたしまして。貸しひとつ、とは言わないから安心しろ」


珍しく神妙な面持ちをした男に、以前呟かれた台詞をそっくりそのまま使うと、途端に目を丸くした。
礼を言いたいのは、むしろこちらの方だ。
ジョンシンのことがきっかけとなり、キムと再会できた上に、診療所で有意義な時間を過ごせたのだから――。


「恩着せがましく言ってくれた方が、俺は嬉しいのによ」
「それは残念だったな。――何か食べられるようなら腹に入れて、暖かくして寝るんだぞ。薬は規定通りちゃんと飲み切るように」
「……ああ、分かってるよ」


まるで子供にでも言い含めるように念押しするヨンファに、ジョンシンが苦笑しながら広い肩を竦めてみせた。
ぶっきらぼうな短い返答には、照れが混じっている。
漆黒の双眸が真っすぐこちらを見据えたままでいたが、やがてふっと真顔になった。


「なあ……アンタ……、今、幸せか?」
「え、――……」


静かな声で尋ねられて、咄嗟に反応できなかったヨンファをさらにじっと見つめてくる。
その表情や口調に、揶揄めいた色や響きは一切なかった。
何と言えばいいか返答に窮していると、ジョンシンは口許に乾いた笑みを浮かべる。


「いや……愚問だな。顔、見てれば分かるよ。満たされてるんだな……って。喜ばなきゃなんねぇのに、困らせてばっかりだ。でも、嫌な顔せずにいつも優しくてさ」
「――ジョンシナ」
「もう少し時間をくれ。そうしたら……」


絞り出すような声音は何の含みもなく、まるで今のジョンシンの心情そのものを表しているようだった。
急に、車内はしんとした静寂に包まれる。
そのまま少し待ってみたが、ジョンシンはそれきり口を噤み、言葉を続ける素振りはなかった。
緩慢な動作で車から降りて片手を上げた長身の男に、ヨンファは「じゃあな」と少し下げたパワーウィンドウ越しに声をかけ、緩やかにアクセルを踏み込んで車を発進させる。


中途半端に途切れた言葉の先は――、なんとなく予想できた。
自分たちの関係が徐々にいい方向に向かっているような気がして、幾分胸が軽くなる。
「幸せか?」とジョンシンに問われ、真っ先に脳裏に浮かんだのは、三日前に会ったばかりのジョンヒョンの精悍な貌だった。


――今、何をしているだろう?


仕事柄、危険な目に遭っていなければいいが……、とどうしても心配は尽きない。
それでも、最愛の男がそばにいてくれるから、いつも心穏やかでいられるし、不思議と全身に力が漲ってくるのだ。
顔を見て、深みのある美声を聞くだけで癒されるのだとしみじみと噛み締めていると、次第に気持ちが膨らんでいき、無性にジョンヒョンに会いたくなった。


帰宅したら、メールでもしてみようか……。
以前の素直ではなかった自分からは考えられないくらい、こんなふうにごく自然に感情を表に出せるようになった。
とは言え、用件がある時しかこちらから連絡しないので、きっと驚くかもしれない。
内容はストレートかつ手短に、『今夜は来られるのか?』――と。
ジョンヒョンのリアクションを想像した途端、ハンドルを握っていたヨンファの表情はふっと和らぎ、思わず笑みがこぼれていた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

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2019/11/04 (Mon) 14:47
haru

haru

t*******さん

こんばんは♪

ヨンファが元気な姿で戻ってきてくれましたね♡
昨日のTLは凄すぎて、すべて辿れなかったです。
ジョンシン、ミニョク、ジョンヒョンの帰りもひたすら待ち続けます。

うちのジョンヒョンは次か、次の次くらいには登場させたいと思っています(´・ω・`)b

2019/11/04 (Mon) 20:25