CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 86

2019年10月12日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 0






音楽やラジオをかけていない車中はエンジン音とロードノイズが聞こえるのみで、気まずいくらいに静かだった。
バックミラー越しに確認すると、後部座席に沈み込んでいるジョンシンは瞼を閉じて、一言も発さずに時折息苦しそうに溜息をついている。


『俺もアンタのこと……同じように思えるのはいつなんだろうな……』


先ほどのジョンシンの力ない呟きは、しこりとしてヨンファの心の中に残っていた。
丸ごと受け止められないのに、半端な気持ちでお節介を焼いたことが裏目に出てしまったようだ。
衝動的に言葉をかけたくなったが、かえってジョンシンのプライドを傷つけることになりかねないと思い直し、やめておいた。
考え込んだところで状況は変わらないし、なるようにしかならない。
滅多なことでは本心を見せず、豪傑でありながら繊細な一面を隠し持っている男とごく自然に向き合えるようになるまで、もう少し時間がかかりそうな気がした。


努めて平静を装い、ぎこちない空気を払拭するように運転に集中しながら、これから訪ねるキム・チャンワン医師の穏やかな風貌と柔らかな物腰を思い浮かべると、当時の記憶が瞬時に甦る。
かつて他組織の組員に襲われて怪我を負った時に治療だけでなく、長年の鬱屈した心情を吐露したヨンファを優しく受け止め、励ましてくれたのだ。
あの時の温かい言葉の数々はひどく胸に沁みて、いまだに忘れられない。
医学部生だったヨンファが屋敷を出たばかりの頃、今後は同じ医師としてお世話になることもあるだろうと挨拶に伺ったのが最後になってしまい、あれから五年経過した。
ずっと会いたいと思っていた人だ。


過去に思いを馳せつつハンドルを操作し、宣陵駅方面へ走ること十数分。
少し路地に入ると、視線の先にはディープなナイトスポットで有名な街並みが広がっている。
キム医師の診療所は、この一角の乱立している雑居ビルの中にあるのだ。
日中から近隣の人間や観光客が行き交っていて、夜の帳が下りる前であれば、さほど治安が悪いということはなかった。
付近のパーキングに車を停め、普段よりゆっくりとした足取りのジョンシンと肩を並べて建物のエントランスへと入る。
エレベーターで三階に上がり、扉が開くなり診療所の名前が入った自動ドアが視界に飛び込んできた。
懐かしいような気持ちで足を踏み入れると、こぢんまりとした待合室は複数の患者でごった返していて、何列か置かれている長椅子はほぼ埋まっているように見える。


「うへぇ……激込みかよ」


これは待ち時間が長いな……、と思ったところで、傍らのジョンシンがうんざりしたようにぼそりと呟くのが聞こえた。
冬の訪れを告げるように先月から風邪やインフルエンザが蔓延しだしたので、どこの医療機関も繫忙期なのだ。
場所柄のせいか、水商売系と思しき者の方が一般の人たちよりも多い。
しかも、極道出身の医師だと業界内では昔から知れ渡っているため、黒いスーツや派手なスタジャンを着た強面の男たちも数人確認できた。
どうやらジョンシンとは顔見知りらしく、揃ったようにこちらを見るなり、「よお」と親しげに軽く手を上げてくる。
遠慮するようにドアのそばに立ち、それに応えている本人に代わって受付に近づいたヨンファに、見覚えのない三十代半ばくらいのぽっちゃりした女性が愛想よく微笑みかけてきた。


「今日はどうされましたか?」
「あの……連れなんですが、インフルエンザに感染している可能性がありまして」


あらかじめジョンシンから預かっていた健康保険証と診察券を差し出すと、代理でも構わないと言われ、ヨンファが問診票に記入する。
「では、第三診察室の中でお待ち下さい」という言葉に従い、ジョンシンを促して一番右端の部屋に入った。
三つある診察室は壁で区切られて出入り口も別々だが、奥はひとつに繋がっている。
キム医師ひとりで切り盛りしているので、動線を意識した構造にするなど、少しでも多くの患者を診るための工夫が随所に見受けられた。


「じゃあ、俺は外にいるな」


患者用の回転椅子にジョンシンを座らせて出ていこうとすると、「待てよ」と呼び止められる。


「待合室には、うちの傘下の連中がいる。あんま顔とか覚えられたくねぇだろ?」


ジョンシンと話をしていた男たちは、青龍組の系列組織の者らしい。
南部洞組を筆頭に、組織間の垣根を越えて交流を図ることは結束を強固なものにし、双方にとってメリットが大きいため、ソウルに複数存在することはヨンファも知っていた。


「もちろんだ。知られない方がいい」
「だったら、ここにいろよ。……親父さんの息子と分かれば、アイツら絶対泡を食うだろうけど」


そういえば、受付の女性とやり取りしている時に、至るところから視線を感じていたのだ。
敢えて背後を振り返りもしなかったが、ジョンシンの同行者が誰なのか興味が湧いたのだろうか。
こちらの素性が知れると確かに面倒なので、付き添うことにした。
椅子に腰を下ろしたままじっと見据えてきた男にヨンファは小さく頷き、ふと気づいたことがあって口を開く。


「帽子は脱いでおけよ」
「……なんで?」
「室内だし、キム先生に失礼だろ」
「えー……、あったかいのに……」


往生際の悪い男は、キャップごと頭を手で押さえて子供みたいに反抗する。
何事もなかったような顔で、いつもの飄々としたジョンシンに戻っていることに心なしかほっとしながら、ヨンファは眉を顰めた。


「いいから、脱げって」


埒が明かないと思って仕方なく黒キャップに手を伸ばした時、軽快な足音とともに突如、白衣姿の温厚そうな初老の男が姿を見せる。


「ジョンシン、悪いんだがな」


もう六十を越えたはずなのに、まったく年月を感じさせない懐かしい面影を前にして、ヨンファは慌ててサージカルマスクを外した。


「キム先生!」


嬉しさのあまり思わず声が出てしまい、こちらを向いたキムは視線が合うなり瞠目し、途端に柔和な顔を綻ばせる。


「おおっ、誰かと思えば、ヨンファじゃないか」
「ご無沙汰しております」


頭を下げると、「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」と眼鏡越しにくしゃっと目尻に皺を寄せ、ほぼ同時に腕が伸びてきてぎゅっと手を握られた。
ヨンファも微笑みながら、相好を崩したキムの温かい手をそっと握り返す。


「ちょっと今、立て込んでいてな。ジョンシンをすぐに診てやれそうにないと思ったが、ヨンファが一緒に来ているとは渡りに船だ」
「はい?」


キムの言う意味が咄嗟に理解できず、ヨンファは眼鏡の奥の優しげな眼差しを見つめたまま訊き返すと、いきなり予想外のことを告げられた。


「よかったら、私の代わりに診察してやってくれんか。ヨンファの評判はいろんなところから耳に入ってきているからな」
「ええと、俺が……ですか?」


思いがけない提案に困惑混じりに瞬くと、キムは椅子に座っている長身の男の方に向き直る。


「ジョンシンもその状態で、あと一時間は待てんだろう?」
「……絶対に無理っす」


眉間に皺を寄せたジョンシンが黒マスク越しにぼそりと即答するや否や、「よし、決まりだな」と慌ただしく取って返したキムが、すぐさま手に何かを持って戻ってきた。


「分からないことがあれば、遠慮なく訊いてくれ」


さらりとした声音とともに手渡されたのは、新品未開封の白衣だ。
鷹揚に笑うキムは「任せたぞ」と言い置いて、そそくさと隣の診察室へと踵を返す。
突然の展開に、呆然としたままその後ろ姿を見送ったヨンファは、同じように驚いた様子のジョンシンと思わず顔を見合わせた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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