CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 83

2019年09月15日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 2






かすかな物音が聞こえたような気がして、唐突にふっと目が覚めた。
周囲をほのかに照らしているベッドサイドライトのやさしい光が視界に入り、ミニョクは自分がベッドに横たわっていることに気づく。
どうやら本を読んでいるうちにいつの間にか寝入ってしまったせいで、消し損ねたらしい。
息を殺してじっと耳を澄ませると、少し距離があるものの、間違いなく玄関の方から音がした。


――ヒョニヒョンが帰ってきたんだ……。


ようやく帰宅したのだとほっと安堵の息をついたミニョクは、即座にベッドから身を起こす。
視線を巡らせて枕許のスマートフォンを手に取ってみれば、時刻は午前四時半過ぎだ。
ちょうど仕事が一段落した頃に兄貴分であるジョンヒョンからの電話で先に帰るように言われ、清潭洞の一角に聳え立つタワーマンションへ戻ってきたのは今から三時間前のことだった。


地上29階建ての最上階で角部屋。
居住面積は、優に150㎡くらいはあるだろうか。
モデルルームさながらに、モノトーンのシンプルモダンかつスタイリッシュなデザインで統一されており、だだっ広くて生活感がないため、どことなく落ち着かない。
男のひとり暮らしにしては、贅沢すぎるほどの住空間だ。
定期的にハウスクリーニング業者が出入りしているので、室内は常に清潔に保たれていた。


考えるより先に、自室として使わせてもらっているゲストルームから出ると、辺り一面に煌々とした照明が自動点灯している。
漆黒の大理石が敷き詰められたエントランスから入ってきたのは、上質なスーツの上にブラックステンカラーコートを羽織った格好のジョンヒョンだった。この部屋の所有者でもある。


「……お帰りなさい」


咄嗟に声をかけると、リビングダイニングスペースの入り口に近い廊下に立っているミニョクに気づいたジョンヒョンが一瞬、動きを止めた。


「すまん。起こしたか?」


出迎えを予期していなかったはずなのに、冷静沈着な彼は眉ひとつ動かさず、耳当たりのいい低音とともにミニョクに視線を向ける。
怜悧に整った顔立ちに若干疲れを滲ませているのが見て取れ、顎のあたりにはうっすら無精髭が伸びていた。
多忙ゆえに帰宅時間は日によってまちまちで、ミニョクの運転で一緒に帰路に就くこともあれば、別の舎弟の車で夜中や明け方に戻ってくる。


「ううん、事務所でも少し寝たから、なんか目が覚めてしまって」
「そうか」


慌てて首を横に振るミニョクに、ジョンヒョンは思い出したように付け加えた。


「半グレの件が片付き次第、新たな試みをしようと思っている。ミニョクにもいろいろ動いてもらいたいから、そのつもりでいてくれ」
「それって、以前言ってた国際金融ビジネス?」
「そうだ。詳しい話は、また追い追いな」


確信めいた手応えがあるのか、ジョンヒョンはほんの少し唇の端を上げてみせる。
非合法活動はご法度という経営方針に従い、青龍組の現在の主な収入源は国内の金融、不動産、土建、興行、会社整理、債権回収、縄張り内のトラブル処理など、違法性がない仕事によるものだった。
でも、時代の流れとともに変化が生じるため、新たな事業を展開する必要があるということをジョンヒョンは常日頃から舎弟たちの前で語っていたのだ。
短い説明に頷くと、ぽんと軽く肩を叩かれた。


「頼りにしているからな」


頭の回転が速い彼は普段の仕事ぶりにおいて、周囲からの評価がすこぶる高い。
決して妥協を許さず、まったく手を抜くことなく課せられた仕事を機械的かつ要領よくこなした結果、若くして若頭補佐というポジションに抜擢されたのだ。
就任してからも重圧をものともせず、どこか楽しんでいるように類稀なる才覚をいかんなく発揮している。
優秀な兄貴分の信頼に応えることが自分にとっての役割だと思っているので、その揺るぎない言葉と、ミニョクの腕を買って任せてくれている事実が何よりも嬉しかった。


「今から三時間ほど寝る。もし起きなかったら、呼びにきてくれ」


そう続けて言いながらミニョクの横を通った時に、ジョンヒョンの全身から馴染みのあるオードトワレではなく、シトラス系の甘い香りがふわりと漂ってきて思わずどきりとする。


――ああ、そうか……。また、ヨンファヒョンのところにいたんだね。


何度も同じ匂いを感じ取っていたため、香りの正体がボディソープであることはとうに気づいていた。
ヨンファの自宅マンションでバスルームを借りる理由は、ひとつしか思い当たらない。
何となくそんな気がしていたとはいえ、現実を目の前に突きつけられると気持ちが沈んだ。


「うん、分かった。ええと――朝食は何がいい?」


肩越しに振り返ったジョンヒョンを見つめたまま、ミニョクは静かに問いかける。


「そうだな……、腹に溜まるもんがいいな。米にしてくれるか。あとは任せる」


目の前の表情の薄い容貌はいつになく柔らかく、纏っている気配が穏やかで温かいような気がした。
なかなか休息が取れない立場のジョンヒョンはここ数ヶ月ですっかり顔色がよくなり、目の下のクマも随分目立たなくなっている。
以前は自分に関してどこか投げやりというか、生きていることにあまり執着していないように見えたものだ。
時期的に、ヨンファと再会を果たした頃とちょうど重なっていて、心から満たされているのだな……というのがこちらにも伝わってきた。


「じゃあ、起きたら、すぐに食べられるように準備しておくね」
「よろしく頼む」


端的な返答とともに広い背中が長い廊下の奥のプライベートルームへと消えていくのを見送って、ミニョクは小さく息を吐く。
ふたりが恋人同士だととっくに知っているのに、いまだにこんな感情を抱き続ける自分に心底呆れた。
ベッドに戻っても眠れないと判断したミニョクは、高い天井とパノラミックな景色が広がる開放的なリビングダイニングに併設されているオープンカウンターキッチンに足を向ける。
作り置きのミッパンチャンを何品か冷蔵庫に常備しているから、あとは炊き立てのご飯に温かいスープや卵料理を直前に作れば事足りるだろう。
幸いにも、出した料理は何でも食べてくれるのだ。
ここにあるものは自由に使っていいと言われているため、ミニョクは早速コーヒーを飲もうと、コーヒーメーカーをセットする。


ジョンヒョンのことを意識し始めたのは、部屋住み時代だった。
その当時、まだ舎弟だったひとつ年上の彼はミニョクと同じように口数が少なく物静かで、あまり感情を表に出すタイプではなかった。
あれは、青龍組に入って間もない頃の出来事だと記憶している。
今では到底考えられないけれど、事務所でジョンシンとともに電話番をしていたところ、古参の組員に用件を伝え間違えたことがあった。
とんでもないケアレスミスをしたと真っ青になった時、傍らにいたジョンヒョンがさりげなくフォローしてくれたお陰で事なきを得たのだ。


年齢が近いせいもあるのか、実の兄のように何かと面倒を見てくれて、世渡りのイロハを学んだのも彼からだった。
何事にも動じず、寡黙ながら時折垣間見える優しさに触れ、次第にこの人の下でこの人のために働きたい……、と思うようになった。
尊敬の念を抱く以上にどんどん惹かれていく自分を押しとどめられなかったのは、仕方がなかったのかもしれない。
ついジョンヒョンばかり目で追ってしまうため、そのうちほんの一瞬ではあるが、見ているこちらが切なくなるような寂しげな表情を浮かべる時があることに気づいた。
こういう顔もするのだと、ミニョクはなぜか胸の奥が引き絞られるような息苦しさを覚えたものだ。
そして、ある日、その何かに囚われているような昏い双眸が、ひとりの青年に向けられているのをやや離れた場所から目撃してしまった。


彼の視線の先にいたのは――、ジョン組長のひとり息子であるヨンファだった。
どことなく品格が滲み出た透明感のある美貌の青年はミニョクよりふたつ年上で、柔らかく微笑みかけられるだけでその場が和やかな雰囲気になるような人だ。
極道の家に生まれながらS大の医学部生だと知った時はとても驚いたものの、理知的な一面が見え隠れしていたので、それも納得できた。
見た目に反してまったく飾りけがないヨンファは、つい緊張して身構えてしまうミニョクに対して優しい口調で気さくに接してくれ、毎日作る手料理を喜んで食べてくれたことも今ではいい思い出となっている。


そんな魅力に溢れた青年と過去に何かあったのか、ジョンヒョンと話をしている場面に遭遇したことは一度もなかった。
仲違いするような出来事があったのかもしれないけれど、誰ひとり詮索したり話題にする組員はいなかったから、事情は知る由もない。
ただ、不思議と勘のようなものが働き、ふたりが互いに意識し合っているのではないかとずっと思っていた。
そういう過去を直接そばで見知っているからこそ、弟分のミニョクはヨンファとジョンヒョンの現状を喜ばなくてはならないのだ。


親の顏や家庭の温かさを知らず、児童養護施設で育ったミニョクにとって、周りの大人たちは義務感だけでやり取りすべてが事務的だと子供ながらに冷静に受け止めていた。
学校は公立小学校から公立高校まで行かせてもらえたものの、ごく普通に親の愛情を受けているクラスメイトとは生育環境がまったく違うのだから、その集団の中に当然馴染めるはずがない。
高校を卒業すると、児童養護施設を退所しなければならないため、事実上、ひとりで生きていかねばならなくなった。


住み込みを希望していたので、雇用安定センターに足を運んで求人希望企業を紹介してもらったが、ミニョクが施設育ちという話がどこからか知れ渡ってしまい、奇異の目で見られるという居心地の悪さから辞めざるを得なくなってしまった。
それが何社か続き、疲れ果てて夜の街を彷徨い、目についた飲み屋で酒を浴びるように飲んだ。
フラフラになりながら店を出た途端、二人組の男たちと肩がぶつかってしまい、咄嗟に謝ったにもかかわらず言いがかりをつけられたのだ。
しまいには金まで要求され、ミニョクの苛立ちは頂点に達した。


児童養護施設にほど近い公民館で武道を習った経験から腕にはわりと自信があったので、路地裏に場所を移して仕方なしに相手をしてやった。
ものの数分もしないうちに回し蹴りを決め、ふたりをほぼ同時に倒した時、背後から射貫くような視線を感じた。
仲間かと思ってさっと振り返ると、そこには高級そうなスーツに身を包んだ男が立っていて、数歩後ろに自分とさほど変わらない年齢の若者の姿も見えた。


『おとなしそうな顔をしてやるなぁ』


声をかけてきたのは、たまたまその場を通りかかったらしい甘めに整った容貌の男――のちに分かったのだが、前若頭のイ・ドンゴンと舎弟だった。
どこか人を食ったようなのんびりとした物言いに反して、その眼光は背筋がぞくりとするほど鋭く、身体が竦み上がってしまったのはいまだに忘れることができない。
身なりはビジネスマンのようでも、ひと目で堅気の人間ではないと察した。
酒に酔っていたミニョクはこちらをじっと見据えてくる視線に怯むことなく、これまでの顛末をすべてぶちまけた。
初対面の相手に言っても仕方がないのに、溜まりに溜まった不満は一度言葉にすると止まらなくなってしまったのだ。


『行く当てがないのなら、うちに来るか? お前さんみたいに、何かを抱えて生きている連中ばかりだ』


悠然と腕組みしたまま、黙ってミニョクの戯言を最後まで興味深そうに聞いていた男がふと目許を和らげる。
思わず耳を疑ってしまったが、所持金がほとんど底を尽きかけていただけに、自分に合う仕事を探す猶予などもうなかった。
加えて、同じような境遇の人間が本当にいるのなら会ってみたいという気持ちが先立ち、自ら裏社会の扉を開けたのだ。


これまで縁のなかった世界に恐る恐る足を踏み入れてみて、辛い思いを抱えながら生きているのは自分ひとりではないのだとすぐに知ることになる。
ミニョクと同様に施設で育った者、親が離婚して居場所を失った者、家族を事故で亡くして天涯孤独になった者、そこはさまざまな人間の集まりだった。
その中に怯まず溶け込めたのは、己の過去を否定せず、かつ卑屈にならずに前を向き、組のために、仲間や自分たちのために動いている人たちばかりだからだ。
しかも、青龍組は世間一般の極道のイメージとはまったく異なっていた。
違法なことには手を出さない、大義がなければむやみに人を傷つけないという方針を掲げている上、血が繋がっているわけでもないのに、組員たちは皆それぞれ苦労を背負ってきた分、誰に対しても温かいのだ。


そして、ヨンファやジョンヒョンの優しさにどれほど救われてきたことか。
自分はまだ節度を保っているからいいとして、むしろ気がかりなのは同い年で親友のジョンシンのことだった。
ほぼ同時期にジョン家の屋敷でともに暮らしていたため、ミニョクにとっては一番遠慮がなくて気が合う仲間だ。
ジョンシンがヨンファに対して並々ならぬ恋情を募らせていることは、当時から知っていた。
一生報われる日は訪れないから諦めろと、ふたりで飲みに行くたびに諭しても、いまだに頑なに首を縦に振らない。
つくづく往生際の悪い奴だと思うものの、本人もそれは分かっていながら、すんなりと踏ん切りをつけられないのだろう。


ミニョク自身も、このタワーマンションで居候させてもらうまではそんな感じだった。
退院を目前に控えた時、ジョンヒョンからの思いがけない申し出がたまらなく嬉しくて、夢でも見ているのかと思ったほどだ。
実際にここで寝起きするようになって、ひと月近くが経とうとしている。
退院後も定期的に通院して主治医の診察を受け、リハビリを続けたお陰で傷口は完全に癒えており、日常生活を送るのにまったく支障はなくなった。
仕事のみならずジョンヒョンの自宅でも同じ時間を共有でき、もう十分すぎるくらいよくしてもらった。
感慨深げに溜息を洩らしたミニョクは、次の瞬間、いきなり我に返る。


自分はこれ以上ないくらい満たされた日々だったが、あの青年は――ヨンファは、きっと複雑な心境でいるに違いないのだ。
そこに思い至るなり、胸の底がしんと冷える。
急に言いようのない罪悪感に見舞われ、ジョンヒョンの厚意に甘えすぎていたのと、ヨンファの気持ちを思いやれなかった自分がひどく恥ずかしくなった。


こちらから出ていくことを申し出ない限り、ジョンヒョンからは何も告げてこないだろう。彼はそういう人だ。
今までの恩は、これからも実の兄と思って慕い、仕事の面で返していけばいい。
叶う可能性のない恋慕に終止符を打とうと決断するや否や気持ちが軽くなっていき、自分でも驚くほどすっきりしていた。
頭で考えただけでなく、行動に移さなければ何も始まらない。
ジョンヒョンが起きたら、今週中に独り住まいのアパートに戻ることを伝えよう。
抽出したばかりのコーヒーをマグカップに注ぎながら、彼への想いを完全に断ち切るようにミニョクは腹を決めた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

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2019/09/17 (Tue) 16:12
haru

haru

M*****さん

こんばんは♡

M*****さん、コメントどうもありがとう♪
3月以降、この半年間は本当にいろいろあったね。
今後どうなるんだろうって大半の方が不安に思っている中で、本来は妄想なんかやってる場合じゃないのに、私の我儘で書かせてもらっていました。
一気読みしてくれてありがとう♡ コメントは気にしないで~。

私も知らず知らずのうちに溜息ばっかりついてます。
大学が決まった直後は、長女がいない寂しさをCNで癒してもらおうとか、チケットが取れたら武道館に行きたいとか、いろいろ考えていたんだけどね。
ちなみに、長女ロスは10日間くらいで癒えました。←早すぎ?
4月に入学式のために日帰りで東京へ行ったから年内はもうないけど、来年また上京するつもりです。
是非飲みに行きたいね♪

ホストジョンシン、待っててね。
今書いている話の中ではあまり触れられないと思うので、いずれまた何らかの形で。
SMタウン行ったんだ。イケメンチャニョルを見れて良かったね♡
私もCNを知る前の2ヶ月間はEXOにハマっていたから。チャンベクとルーミン、好きだったなぁ。
不遜が途中で止まっててごめんね。
チャニョル登場シーンを考えていたけど、キリのいいところまで極道に専念しますv(。・ω・。)

2019/09/17 (Tue) 22:46