CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

DESTINY 2

2016年03月08日
DESTINY 0






目を開けると、真っ暗闇だった。


一瞬ここがどこかと思ったが、周りを見渡して自分の部屋だと分かる。
枕元のスマホに手を伸ばして時間を確認すると、午前3時を過ぎていた。
あと数時間で夜が明ける。
ヨンファはそんな時間になっていることに驚きつつ、未だぼうっとした頭で記憶を辿った。


そして、昨日のことを思い出した。


―――そうだ。俺、ジョンシナに……。


ジョンシンが部屋から出て行った後、ヨンファは呆然としたまましばらく動けずにいた。
メンバーの中で一番仲が良く、ずっと弟のように可愛がってきたジョンシンに突然あのような行動をとられ、ヨンファは混乱した。
驚き、戸惑い、怒り……さまざまな感情がごちゃ混ぜになって、現状を受け入れることができなかった。
気分を変えようと再び雑誌を手に取ってはみたものの、内容が一向に頭に入ってこず、悶々としているうちに、いつの間にか寝てしまったようだ。


―――結局、夕飯を食べ損なったな。


その割に空腹感はなく、代わりに少し気怠い感じがした。
何気に自分の胸に触れてみると、身体がズキンとして、途端にあの場面が蘇る。


ジョンシンの唇に翻弄され、気が遠くなっていきそうだった自分の姿態にヨンファは思わず顔を顰めた。
それは、今まで経験したことのない感覚だった。
女性相手では決して得ることのできない悦楽。
あんな風に何も考えられなくなるほど一方的に求められたのは、初めてだった。

また、信じられないことに、相手が同性だということに不思議と嫌悪感はなかった。
それは嫌いな相手にされたのではないからだろうが、はっきりとした態度で拒絶しなかった自分が信じられなかった。


―――ジョンシナはどういうつもりであんなことをしたのだろう。


自分に好意があるのか、それとも酒に酔ったか、何か他に事情でもあるのか。
その理由を知りたいと思ったが、たかだかキスをされたくらいで騒ぎ立てるのも変だし、ジョンシンを問い詰めて掘り返すのも大袈裟のように思えた。
敢えて自分からアクションを起こすのは、やめておいた方が賢明だろう。


できれば何もなかったことにしたいところだが、そう都合よく事は進まないかもしれない。
ここで対応を間違えて、バンド内に亀裂が入るのは一番まずい。それだけは避けなければいけない。





この時、ヨンファはまだ自分の気持ちにはっきりと気付いていなかった。





夜が明けるまでまだ時間があったが、今日は朝から単独で雑誌の撮影が入っているため、このまま起きていることにした。
身体が少し汗ばんでいたので、シャワーを浴びるべく部屋を出る。
皆寝静まっているから、できるだけ音を立てないように配慮しながら、冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを出して飲んだ。
空っぽの胃に冷たい水が染み渡って生き返る。


そして、そのままバスルームへ行き、頭から熱いシャワーを浴びる。
シャワーヘッドから勢いよく出る湯が適度に肌を刺激して、何とも心地がいい。
身体全体を覆っていた粘りつくような感覚が、湯と一緒に排水口へと流れて消えていくようだった。


幾分スッキリして本来の自分を取り戻していくと、いつしか気持ちも落ち着いてきていた。


―――今日の仕事も精一杯やろう。ファンの皆に喜んでもらうために。





その時、脱衣所からじっと向けられる視線があったことを、ヨンファは知る由もなかった。







*********************************************************************







「お前の方から誘ってくるなんて珍しいな。どういう風の吹きまわしだ?」


ヨンファは、自分より年下の先輩で仲の良いイ・ホンギと一緒に、行きつけの店に飲みに来ていた。


ホンギとは同じ事務所に所属していて、自分たちよりも先にデビューし活躍していた憧れの存在だった。
そして、初めてヨンファが出演したドラマで共演して、すぐさま意気投合し、それ以来ずっと交流を深めている。


お互い多忙な日々を送っているため、なかなか以前のようにはいかないが、時間が合えばこういう機会を設けている。
ホンギはとにかく面白い奴で、一緒に酒を飲むと楽しいのだ。
だから、気分が沈んでいる時などに会えば、途端に元気をもらえる有難い存在でもある。


「そう言うなよ。なかなか時間がとれないのはお互い様だろ?」
「まぁ、今はな。でも、俺が誘っても、今日はマンネが一人だから早く帰るって断ってたのは、どこのどいつだっけ?」
「……っ、それはいつの話だよっ。しかも、そんなに断ってねーし」


突然ジョンシンのことを話題に出されて、ヨンファは思いっきり焦った。
そんなことを言ったか?……いや、言っていたかもしれない。


「お前、ジョンシンのことすごい可愛がってるもんなー」
「…まあ、俺のこと慕ってくれてるからな」


突如、あの時のシーンが走馬灯のように蘇ったが、それを無理矢理、頭の隅に追いやる。


「美人のリーダーさんはモテモテで羨ましいぜ。俺もあやかりてー」
「何だそれ」
「お前もさ、ジョンシンばっかり贔屓してねーで、ジョンヒョンとミニョクももっと構ってやれよ」
「そんなんじゃないってっ」


当初から、ヨンファがジョンシンを可愛がっているのは周知の事実で、以前ならそう言われても満更ではなかったが、今は複雑な心境でしかない。
そんなことは、ホンギの知るところではないが。


あの件があってから二日経つが、ジョンシンとはまだ顔を合わせていなかった。
一緒に住んでいるといっても、CNBLUEでの仕事以外は皆バラバラに活動しているので、四人全員が顔を合わす方がむしろ珍しい。
ヨンファが深夜に帰宅すると他のメンバーは寝ているか留守かで、また、ヨンファが早めに帰宅しても他の者は仕事で外出している等、すれ違うことが多い。
今夜もそろそろ午前様になる時間帯なので、宿舎に帰ってもジョンシンと顔を合わすことはないだろう。
無意識のうちに溜息が出ていた。


「どうした?顔色が冴えないけど、疲れてんのか?」


ジョンシンのことを考えていたのが顔に出ていたのか、ホンギがじっと覗き込んでくる。
本当のことは言えないので、さり気なく他の理由にすり替える。


「いろいろとやることが山積みでさ、押し潰されそうになるよ」
「そうだな。なかなか休みも取れないしなぁ。つーか代表も俺たちを働かせすぎなんだよ。いくら事務所を引っ張っていかなきゃならないってもな…。給料上げろってんだ」
「ハハッ、ホントだよな」


ホンギは物怖じしない性格で思ったことをズケズケ言うけど、明るくてユーモアがあるから誰からも好かれる。
また、それに見合うだけの実力を兼ね備えているので、文句を言うものは誰もいない。
周りに自然と人が集まるタイプなのだ。


そして、ホンギはヨンファが弱味を見せることができる数少ない友人の一人でもある。
CNBLUEのメンバーたちは同志と言えど自分よりも年下の弟たちだから、決してこんな姿は見せられない。
年長者でリーダーという立場が適度なプレッシャーとなり、ヨンファを奮い立たせる。


自分が悩んだり不安がっていたら、それがアイツらにも伝染してしまう。
今までもそれで上手くやってきたのだから、これからもやっていくしかない―――。


ただ、時折、メンバーの誰でもいいから、自分の本心を聞いてもらい、弱音を吐き出したいと思うことがある。
自分の背負ってるものを、少しでも一緒に担いでくれる奴がいれば……。
不意にジョンシンの顔が思い浮かんだが、ヨンファは慌ててそれを打ち消した。


心身ともに疲れ切ると、時折我儘な感情―――つまり甘えが表に出ようとしてくるが、それはヨンファの心の中にあるだけで、実際に行動に移すことはない。
鬱々とした気分を晴らしたくて、今日は羽目を外していいかなと、ヨンファにしては通常よりも酒量が増えた。
そして、帰る頃には足元が覚束ないほど酒が回っていた。





「おい、大丈夫か~?」


結構な量を飲んだにもかかわらず、普段とあまり変わりのないホンギがヨンファの腕を掴み、先を歩いて行く。
ホンギは酒が相当強い。
ヨンファも強い方だが、一緒に飲みに行くと、ヨンファの方が大抵先に潰れることが多い。
しかも、今日は自ら望んで飲みまくったので、自業自得としか言いようがない。


ホンギがタクシーを呼んでくれて、一緒に乗り合わせて帰ることにした。
先にヨンファの宿舎に着いたので降りようとすると、ホンギが運転手に待つように頼んで、一緒に降りてきた。


「何だよ、ホンギ」
「足元ふらついてて危ないから、一緒にエレベーターのとこまで行ってやる」
「マジで?優しいなホンギ。惚れてまうやろ~」
「バーカ。変な釜山弁使うんじゃねぇ」


そう言いながらも、さり気なくヨンファの腰に手を回してきた。
確かに頭はグルグル回り、身体がフワフワした状態なので、寄り掛からせてもらって助かる。


「あ~今日マジで楽しかった。最高~。ホンギまた飲みに行こうなっ」
「あーはいはい。お前もう少し酒強くなれよな」
「お前が強すぎるんだろ~」


宿舎のエントランスに入ろうとすると、見慣れない赤い車が近付いてきて、タクシーの後ろで止まった。
何だろうと思って見てみると、中から長身の男が一人降りてきた。


「じゃあね~ジョンシン、また誘うね~」


甲高い女性の声が、深夜の街並みに響き渡る。
その名前にハッとしてよく見ると、薄暗くて分かりづらかったが、確かにジョンシンだった。
そして、そのまま赤い車は走り去っていった。


ヨンファは一気に酔いが冷めて、身体が強張るのを感じた。
そんな事情を知らないホンギが、嬉しそうに能天気な声を上げる。


「あーちょうど良かったぜ、ジョンシナぁ。お前んとこのリーダーが酔っぱらって手に負えないから後頼むわ」
「えっ、エレベーターまで送ってくれるんじゃなかったのか?」


いきなりこんなタイミングで帰られて、ジョンシンと二人きりになるなんて困る。
どういう顔をすればいいんだ。


「ヨンファ、お前今日はマジ可愛すぎるな。折角だが、俺も早く帰んないと。タクシー待たせてるし」
「ヨンファヒョンが迷惑かけたみたいで、すみません」


ジョンシンがヨンファに代わって頭を下げている。
それをヨンファは、複雑な思いで見ていた。


「いいって。俺とヨンファの仲だから。じゃあな、おやすみ」
「あ、ホンギ、いろいろとありがと。またな~」


ホンギが乗ったタクシーを見送って、ジョンシンと二人きりになる。
途端に、心臓がドクドクと脈打ちだした。
やばい……かもしれない。


素面の時に会うよりマシとはいえ、ヨンファの意識はかなりはっきりとしていた。
もっと泥酔しておけば良かった。そうすれば、気が大きくなって、こんなに狼狽えることもなかっただろう。
本当にツイてない。
せっかく良い気分でいたのに、突然のことに気は動転するわ酔いは冷めるわで、ヨンファはその場にへたり込みたくなった。
それでも、ずっとここにいるわけにもいかず、フラフラする身体を前に進ませてエントランスに入る。


「……ヒョン、大丈夫?酔ってるんでしょ?」
「へーき、へーき」


ジョンシンが後ろから追ってきて背中に手を回されたが、スルリと交わして一人で歩く。


「……ヒョン、あの…」


ジョンシンが横から話しかけてくるが、ヨンファは目を閉じて大欠伸をした。


「ふわぁ~~、眠っ。なに~?」


―――俺は意気地なしで卑怯だった。
本当はこの場から逃げ出したいくらいビビッているくせに、こんな時でも虚勢を張って何でもないフリをしてしまう。
しかも、こうすれば相手が何も言えなくなるだろうと想定してやるんだから始末に負えない。


でも、すべてはあんなことをしたお前が悪いんだ。ジョンシナ―――。


普段通りのヨンファを見て、当てが外れたのだろうか。それとも、これ以上話をしても無駄だと思ったのだろうか。
一瞬目を開けて見たジョンシンの顔は少し強張っていたようだったが、それ以上、何も話しかけてこなかった。


「じゃ、俺、このまま寝るから。おやすみ~」


一緒に玄関に入るとジョンシンに一声かけて、ヨンファはすぐさま自分の部屋に入った。


酒のせいで頭がクラクラする。
着替えるのも面倒くさくてそのままベッドに横になるが、眠れるはずがない。
ジョンシンは何を言おうとしたのだろうか。
ちゃんと聞こうとしなかった自分が悪いのだが、気になって仕方がない。


そして―――。ジョンシンとあの赤い車の女性のことが頭から離れなかった。
よく顔が見えなかったが、一般人か業界人か…どちらだろう。
遠目だったが、運転席の横顔は美人といえるものだった。
雰囲気的に二人がただの知り合いには見えなかった。


―――彼女なの…か…。


かつてジョンシンが高校生の時に交際していた女性がいたと、ミニョクに聞いたことがある。
その人なのか、それとも、ジョンシンも個人の仕事が増えて交友関係が広がっているようだから、その中の人間かもしれない。
そう思っただけで、何故か胸が締め付けられた。


何でこんなに気になるんだろうか。ジョンシンのことが。
あんなことをされたから、少し精神状態が不安定になっているのだろうか。
こんな女々しくて情けない自分に、ヨンファは嫌気が差していた。







*********************************************************************







6月も半ばになり、また慌ただしい日々が続いていた。
再来月は日本で夏フェスと新曲の発売が控えている上、ヨンファのドラマ収録もあったため、かなり多忙を極めていた。
可能な限り練習室に足を運び、メンバー四人揃っての練習にも力を入れていた。
お互いのことをよく知り尽くしているからとてもやり易いし、やはり我が家に帰った時のような安心感がある。
ジョンシンとはまだ少しギクシャクしていたが、一緒に練習をしている時は、不思議とその気まずさが消えていた。


「じゃあ、もう一回初めから」


ヨンファの掛け声で、幾度となく練習を積み重ねていく。
この反復があってこそ、本番のライブで最高の音を創り出すことがことができる。
四人が一体となって一つのものを完成させるこの作業は、とても楽しくてワクワクする。


自分はやはり音楽が一番好きなのだと、ヨンファは改めて思う。
様々なジャンルの仕事をさせてもらって、勉強になるし経験値も上がっていくが、自分の原点は音楽なのだ。


だから、今この瞬間ほど幸せな時はない。


ジョンヒョンのギター、ミニョクのドラム、ジョンシンのベース、そして俺のギター。
これらの楽器の音が重なり合い、初めて自分たちの音楽になるのだ。


ギターを弾きながら歌っていると、ジョンシンがこちらを見てきた。
無意識のうちにヨンファが嬉しそうな顔をしていたのに、気付いたのかもしれない。
口角を上げて、ニコッと微笑みかけてきた。


俺の大好きなジョンシンの笑顔。


ヨンファもまた笑みを浮かべて、それに応えた。


―――そう。演奏している間はこんなにも気持ちが通じ合うのに、音楽から離れると何故噛み合わなくなるのだろう。
それを少しずつ修復して元に戻したいのに、あの日のことを未だに忘れられない自分がいる。
時間が解決してくれるだろうか。
自分自身がちゃんと立っていないと、皆に迷惑がかかる。


自分の態度がおかしいから、ジョンシンも未だに引きずっているのかもしれない。
何とか夏フェスまでに完全に消化しなければ―――。





ただ、それはヨンファにとって上辺だけのことで、自分の心の中に言葉では説明できない感情が芽生え始めていた。







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そんなある朝のこと。
ヨンファは珍しく早起きしていた。


今日の仕事は、午後から四人で夏フェスのセットリストを通しで練習する予定が入っていて、午前中は何もなかった。
そのため、敢えて早起きする必要はなかったが、弟たち三人が朝から別々の仕事が入っていると聞いていたので、朝食を用意してやることにしたのだ。
メニューはありきたりで、ベーコンエッグ、野菜サラダ、トースト、コーヒー。
三人が起きる頃を見計らってキッチンで作業をしていると、最初にミニョクが起きてきた。


「ええっー、これヨンファヒョンが作ったの?すごいっ。どうしたの急に?」
「俺もたまには家事をして、お前たちに少しは貢献してやろうと思ったわけ」
「へぇぇー、いつも起きるのが一番遅くて、あんなに何もやりたがらなかったヒョンがねー。雪でも降るかも」
「ミニョク、てめー」
「あーウソウソ。ギブギブ!」


朝っぱらプロレスの技を掛けてふざけ合う。
確かに料理、洗濯、掃除と、ほとんどミニョクとジョンシンに頼っていたので、何も言えない……。
ヨンファのサプライズに嬉しそうな顔をするミニョクに、自然と顔が綻ぶ。


二人の声で、ジョンヒョンとジョンシンも起きてきた。
テーブルに並べられたものを見て、同様に驚いている。


「ヨンファヒョンが料理できるなんて知らなかった。一番付き合い長いのに」
「そんなに上手くないけどな」
「何で今まで作ってくれなかったんだよ?」
「そりゃあ、ミニョクとジョンシナが作ってくれる方が美味しいからに決まってんじゃん」


ジョンヒョンまで喜んでくれたようなので、作った甲斐があったというものだ。
これならジョンシンもすごい笑顔で喜んでくれるだろうと期待して見ると、―――至って普通の反応だった。


「ありがとう、ヒョン。美味しそうだね」


もっと喜んでくれるかと思っていたのに、当てが外れた。
いや、ちゃんと嬉しそうな顔はしてくれているけれども、ヨンファのよく知っているジョンシンの反応とは少し違った。
何だろう……。避けられているわけではないのに、何だか他人行儀というか余所余所しい感じがした。





朝食が済むと、三人は出かける支度を始めた。
ヨンファが後片付けをしていると、ジョンシンが側に寄ってくる。


「洗い物……」
「いいよ。俺がやるから。早く行ってこい」
「うん、ありがと。行ってきます。じゃあ、また午後に」


ヨンファは三人を送り出した。
こういう家族みたいな関係がベストなんだ。心からそう思った。
だから、何故寂しいと感じてしまうのか自分でもよく分からなかったが、ジョンシンの気持ちが自分から離れているような気がした。


まただ。痛い。
ジョンシンのことを考えると、ズキズキと胸の辺りが痛んでくる。


それを振り切るかのように、ヨンファは洗い物に没頭した。







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それから数日後の午後6時過ぎ。ヨンファは作業室での仕事を終えた。
今日は朝からずっと缶詰め状態で新曲の制作にとりかかっていたため、頭の中が疲れ切って、早々に帰宅することにした。


事務所から宿舎までそんなに離れていないこともあり、途中寄り道をしながら徒歩で帰路に着いていると、突然の土砂降りに遭った。


―――今日、雨が降るって言ってたか?まったくツイてないっ。


大急ぎで宿舎に着いたものの、全身がズブ濡れになってしまった。
先に誰かが帰っていたら、すぐタオルを持って来てもらおう。
と思っていたが、まだ誰も帰っていなかった。


取り敢えず濡れた服を脱いで、ついでに風呂も一緒に済ませようと、シャワーを浴びることにした。
ヨンファがバスルームに直行するまでに、あちらこちら床が濡れてしまったが、まあ、後にしよう。
拭きさえすれば、ミニョクも文句は言わないだろう。


洗面所兼脱衣所で服を脱ごうとしたら、雨に濡れたせいで身体に密着して非常に脱ぎづらい。
半袖シャツを脱いで、その下のTシャツを捲り上げて脱ぎかけていた時、いきなりドアがガラリと開く音がした。
驚いてTシャツで隠れていた顔を出すと、同じように全身が濡れたジョンシンが立っていた。


誰もいないと思って開けたのだろう、相当驚いた顔をしている。
濡れた床を見れば分かりそうなものだが、驚いたのはこちらも同じで、咄嗟に言葉が出てこない。
こんなタイミングってあるか。


「―――あ。ごめん」
「あっ…いや、参ったよなぁ。いきなりゲリラ豪雨だろ。すぐ入ってくるから、ちょっと待てるか?」
「ああ…平気。待つから、先に入ってきて」


てっきりすぐ出ていくかと思ったのに、ジョンシンは洗面台に寄り掛かり、スマホをいじり始めた。
ヨンファは一瞬躊躇したが、急いで全部を脱ぎ捨て、濡れた服を洗濯機に入れるとバスルームに入った。
ジョンシンも全身ズブ濡れ状態だから、リビングのソファーにも座れないし、ここにいるしか方法がないのだろう。
脱衣所で待たれていると思うと落ち着かなくて、ヨンファは急いで髪と身体を洗った。


「悪いっ、待たせたなっ」


バスルームから出ると、ジョンシンは濡れた服を脱いで、上半身裸になっていた。
鍛え上げられたその身体に目を見張って、すぐさま視線を逸らす。


一般の家庭の洗面所に比べると広い方だが、男二人が立っているとやや狭く感じる。


……まあ、今日みたいなことは滅多にないだろうから、我慢するか。


腰にバスタオルを巻いて、タオルで髪の毛を拭きながら洗面台の前に移動する。
すると、ジョンシンがスマホをこちらに向けているのが、鏡越しに見えた。


「何だよ?」
「今日のインスタこれにしようか。背中のアップ」
「馬鹿、撮るなよ。何の写真かと変に思われるだろーが」


苦笑交じりに言うと、物言いたげな目で見返された。


「色…白いよね。羨ましいな…」


そう言って、突然ヨンファの背中に触れてきた。
雨に濡れたからなのか、冷えた手の感触に、温もった身体がビクリと反応する。
それがあの日のことを彷彿とさせて、また記憶が蘇えろうとしていた。


「……ここ、まだ濡れてる」


肩甲骨の辺りを指でなぞるように触れられて、目眩がしそうになる。
それを振り切るように、ヨンファはタオルを洗濯機へ入れようと、ジョンシンの手から離れた。


「早く入らないと、風邪ひくぞ」


不自然にならないように声を掛けて、ヨンファは脱衣所を出た。
自分の部屋で新しい服に着替えていると、少し触れられただけの背中が熱を持っているように感じた。


―――そんなこと、あるはずがないのに。どうかしている。


そして、ジョンシンの浅黒い肌が目に焼き付いて離れなかった。







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作業室で仕事をしようとヨンファが事務所へ行くと、受付横のロビーでばったりホンギに会った。


「ちょっと話があるんだけど、いいか?」
「ああ、どうかしたのか?」


いつにもなく真面目な顔をしているホンギに、何かあったのだと察知する。
誰にも聞かれない方がいいと判断して、一緒にヨンファの作業室に入る。


「最近、お前のとこのジョンシンがAHエンターテインメントの新人女優と付き合ってるって噂、知ってるか?」
「えっ、ジョンシナが?いや、初耳だ」
「以前、一緒に飲みに行って、お前を宿舎まで送って行ったことがあるだろ。あの時、ジョンシンと一緒にいた女じゃないかと思う」


ああ。あの赤い車の女性。
やっぱり付き合っているのか……。


「まあ、もう22か23だったか?遊びたい盛りなんだろうけど、俺たちにとってスキャンダルはご法度だぞ。しかも、ジョンシンはあんまりこういうの慣れてないだろ。
週刊誌に狙われてスクープされかねないから、よく注意しといた方がいいぞ。代表や理事の耳に入ったら煩いし」
「ああ、分かった。ジョンシナによく言って聞かす」










宿舎に帰ると、ジョンシンがミニョクと一緒にリビングでテレビを観ていた。


話をするなら早い方がいいと思ったが、ミニョクの前ではやめておこう。
余計な心配はかけない方がいいに越したことはない。


ミニョクがトイレに行った隙に、ジョンシンに声を掛ける。


「ちょっと話があるんだが、テレビを観終った後でいいから、俺の部屋に来てくれるか?」
「……あ、うん。分かった」





それから程なくして、ノックの音がした。
机についてパソコンを立ち上げようとしたところにジョンシンが来たので、それを中断して椅子ごとクルリと後方へ向いた。
ジョンシンにはベッドに座るように勧める。


「AHエンターテインメントの女優と付き合ってるって話を聞いたんだが、本当か?」


ヨンファの言ったことが想定外だったのか、ジョンシンは驚いた顔をしている。


「いきなり何?」
「あまりこういうことは言いたくないんだが、どこで記者が張り込んでいるか分からないんだから、自分の行動にはちゃんと責任を持てよ。もう噂になってるぞ」
「会っていることは事実だけど、付き合っているわけじゃない」
「別に反対してはいない。ジョンシナは業界人と噂が出るのは初めてだろ?だから、あまり人目につかないように配慮するとか、身辺には注意を払った方がいい。それが言いたかっただけ」


ひと通りのことをヨンファが話し終えると、ジョンシンは納得のいかないような顔をしていた。


「話ってこれで終わり?」
「そうだけど」
「ヨンファヒョンはこの話を聞いた時、どう思った?」


逆に聞かれて、戸惑う。
何でそんな分かりきったことを聞くのだろうか。


「どうって…お前がスクープされたらバンドや事務所に影響が出るし、イメージも悪くなるから心配だなって…」
「そこ…なんだ。ヒョンが心配なのはバンドと事務所のことだけ?じゃあ、俺が誰と付き合ってもいいのか?それは気にならないの?」
「俺がお前ら弟たちの心配をしないはずがないだろ。ちゃんと気にかけてる。ただ、お前が誰と付き合おうがそれは自由だ。
あまり派手な行動はせずに常識の範囲内での付き合いなら好きにすればいい」


ヨンファの言葉にジョンシンは暫らく無言だった。何かイライラしているようなピリピリとした雰囲気が伝わってくる。
気に入らないことでもあったのだろうか。
ジョンシンを責めたわけでも、無理難題を言ったわけでもない。
できるだけ傷付けないように、ジョンシンの意志を尊重するような言い方をしたつもりだ。
それなのに、どうして自分に対してこんな態度をとるのだろうか。


「それって有難迷惑なんだよね」
「迷…惑…?」
「二言目にはすぐ弟って言うけど、実の兄弟でも何でもないじゃないか」


ジョンシンの口調と表情がガラリと豹変した。射抜くような鋭い目でヨンファを睨み付け、言葉遣いも乱暴になっている。
しかし、それに怯まずヨンファは続けた。


「血は繋がっていなくても、お前は俺にとって弟だしマンネだ。ジョンヒョンやミニョクと同様に可愛いと思ってる。それが迷惑なのか?」
「マンネ、マンネってもううんざりなんだよっ!俺を子ども扱いしないでくれっ。アンタとはたった二歳しか違わないじゃないか!」


ジョンシンがベッドから立ち上がって、ヨンファに近付いてくる。
何故ジョンシンが急に怒りだしたのか分からない。
初めて自分に対し本気でぶつかってくるジョンシンを、信じられないものを見るかのようにヨンファは目を見張る。


今までずっとそんな風に思っていたんだろうか。
弟やマンネと言われ、そう扱われることがそんなに嫌だったのか。
いつも素直で優しいと思っていたジョンシンは、裏ではいつも不満を抱いていたというのか―――。


「ジョンシナ、落ち着いて」


ヨンファは椅子から立ち上がって、ジョンシンを宥めようとした。
しかし、それを拒むかのようにジョンシンの刺すような視線は変わらない。


「それに、あの日のことだって無かったことにしてるじゃないか。俺はずっと忘れられないのに……」
「!」


もうとっくにお互いの中で折り合いをつけて、過去のことになっていると思っていた。
ジョンシンはそのことにまったく触れてこなかったし、ヨンファも忘れたふりをしていた。
それを突然持ち出されて、ヨンファは耳を疑った。


「何を…言って…る……」


何故、今頃になって掘り起こす必要があるんだ。
あれは酒に酔ってたんだろ?ただの気まぐれだろ?
赤い車の女と付き合ってるんだろ―――。


「俺はあの時、酔ってなんかいない。自分がそうしたくてしただけだ。それをアンタが無かったことにしたがってたから、合わせただけで…」
「…無かったことにするしかないだろ。成り行きなんだから……」
「っ……成り行きって…なんだよっ」
「だってそうじゃないか」
「勝手に決めつけるのはやめてくれっ。俺の気持ちを知りもしないくせに!」
「お前の気持ちなんて分かるはずないだろっ。何にも言わずにあんなことをしたのは、お前の方じゃないか!」


感情が高ぶってくるのに任せて、今まで心の奥底でずっと言いたくても言えなかったことを、とうとう吐き出してしまった。
その途端、ヨンファはまずいと思った。
余計なことを言って、地雷を踏んでしまったんじゃないかと―――。
ジョンシンが高い位置から静かな目をしてヨンファを見下ろしてくる。
―――嫌な予感がする。


「俺は5年前、初めてアンタに会った時から」
「!」
「アンタのことが」
「ジョンシナ!」


ヨンファは咄嗟に大きな声を出して、ジョンシンの言葉を遮った。


「言うな。今ならまだ聞かなかったことにするから」


縋るような目で見上げるが、ジョンシンは決心したように穏やかな口調で言った。


「初めて会った時から魅かれていたんだ。アンタはものすごく綺麗で輝いていて…俺にとって眩しい存在だった」
「よせっ……」
「だんだんと世間に知られ売れるようになって、アンタはドラマとかいろいろ出て注目されて、ますます綺麗になって。
俺はバンドの一員にしか過ぎないから、いつも弟扱いで指を咥えて見てることしかできなかった」
「やめろ……それ以上言うな……」
「俺はアンタのことを兄貴だと思ったことは一度もない」
「俺たちは男同士なんだぞ?」
「性別なんて関係ない。アンタが好きだ。愛してる」


ジョンシンの言葉が心臓に突き刺さって、身体に衝撃が走った。
ヨンファにとって一番聞きたくて、一番聞きたくない言葉だった。


「頼むからそんなことを言わないでくれ…。聞きたくない……」


その場に崩れ落ちそうになったヨンファをジョンシンの腕が抱き留める。


「アンタはその方が都合がいいのかもしれないけど、俺の気持ちはどうなる?もう限界なんだ。吐き出さないと辛くて……。
もう夢の中で何度もアンタを犯してるんだ!」


パンッ。


これ以上聞いていられなくて、ヨンファは思わずジョンシンの頬を張っていた。


「そんなことは二度と言うなっ。迷惑だ!」


ジョンシンは項垂れて、苦痛に満ちた表情をしていた。
でも、ヨンファは叩いたことを後悔していなかった。


「とにかく頭を冷やせ。今の話は聞かなかったことにするから」


ヨンファはわざと強い口調でジョンシンを威圧するように言い放った。
そして、逃げるように自分の部屋を出た。





リビングにはミニョクがまだいた。
ヨンファを見ると、気まずいような何か言いたそうな顔をしたので、話が聞こえていたのかもしれない。


「ちょっと出てくる」


ヨンファはそのまま宿舎を飛び出した。





胸が張り裂けそうで、痛くて苦しくて、どうにかなりそうだった。
認めたくはなかった。ずっと自分の気持ちを心のどこかで誤魔化していたのだ。
それにもかかわらず、ジョンシンに想いを告げられて、嬉しいと思う自分がいた。
そして、ヨンファは自覚した。ジョンシンに対する想いが何だったのかを―――。
何故、あれほどまでにジョンシンの一挙手一投足に翻弄されてきたのかを―――。
ようやく点と線が繋がった。


だからといって、それをジョンシンに言うつもりはなかった。
絶対に応えてはいけない相手なのだ。
それで、本心ではない言葉を並べ立ててジョンシンを傷付けてしまった。でも、それ以上にヨンファ自身も深く傷付いていた。
誰よりもジョンシンのことが大事だから、これ以上傷付けるわけにはいかない。


―――お前にはいつも笑っていてほしいんだ。
皆から祝福されるような相手を見つけて、心から幸せになってほしい。


そのために、この想いは封印しないといけない。
誰にも知られてはいけない。


もう一刻を争う。
ヨンファはすぐにある決断をした。以前から考えていたことだったが、予定を早めて行動に移すことにした。
それが、自分たちにとって最善の方法だと思うから。


四人で築き上げてきたものをこんな一時の感情で壊してはならない。これはもう二人だけの問題じゃない。
ジョンヒョンとミニョク、事務所のスタッフ、親兄弟、自分たちを取り巻くすべての人を悲しませて裏切るわけにはいかない。


―――だから、俺を許してくれ。ジョンシナ……。


暗い夜道を歩きながら、ヨンファの頬にはいくつもの滴が落ちていった。










翌日、ヨンファは事務所に行き、ハン・ソンホ代表の部屋を訪れた。


「お忙しいところ、突然申し訳ありません。実はご相談したいことがありまして」
「まあ、座りなさい」


豪華な応接セットに案内されて、向かい合わせに座る。
代表を目の前にして、ヨンファの心はいつになく穏やかで落ち着いていた。


この時の判断が正しかったと、後になって分かる日がきっと来る。
そして、俺たちは今まで以上に上を目指して夢を追いかけ続けるんだ。


「実は自分たちの宿舎のことですが、共同生活を始めてもう四年になるので、メンバーそれぞれが成長するため、新たな道を模索したいと考えているんですが」
「…それは、つまり?」


「メンバー全員の一人暮らしを許可してもらえませんか?」





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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