CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

止まない雨 3

2019年04月17日
蒼き運命 番外編 8






長年恋焦がれている相手は極道の世界と決別するかのように、実にあっさりと屋敷を去っていった。
『もう会うこともないだろうけど……』という言葉通り、ヨンファとはそれきり一度も顔を合わせていない。
彼と袂を分かったあの瞬間から心にぽっかりと穴が空き、ジョンヒョンは底知れぬ喪失感に襲われた。
それでも、こちらの事情などお構いなしに日常は繰り返される。
まるで何事もなかったみたいに、ジョンヒョンを取り巻く環境は待ったなしなのだ。


『お前もこれまで通り自分の決めた道を歩めばいい』


別れ際にかけられた言葉を、みたび静かに噛み締めてみる。
ジョンヒョンは一切の感情を捨て去り、青龍組と運命をともにする覚悟で、ただがむしゃらに働いてきた。
組も屋敷もこれまでと同様、一見何ら変わっていないように思える。
しかしながら、彼がそこにいないというだけで、目にするものがことごとく色褪せて見えた。
仕事が多忙だからなのか、一時的にでも屋敷に戻ったという話は耳にしていない。
いわば表と裏の相反する社会の中でそれぞれ生きているため、実家といえどもおいそれとは帰れないだろう。
本人にその意思があれば、の話だが――。


あれから四年も経つというのに、最後のやり取りは克明に脳裏に焼きついて離れず、ジョンヒョンを胸苦しくさせる。
埋めようのない寂寥感に苛まれ、生産性のない堂々巡りに翻弄されているのだ。
時の経過とともに忘れられるだろう……、とはじめは短絡的に考えていたが、彼という存在が自分の中で小さくなることはなかった。


普段は表に出さないように隠しおおせている激情は、少しでも気を抜くと自己主張をし始める。
一度切れた繋がりを元に戻すのは不可能だと、それについては割り切ったつもりでも、胸中に秘めた恋情までは消し去ることができない――ということか。
心ごと抉り取られたみたいに、人間らしさなんてものはとうに失ったと思っていたが、こんなふうに彼のことを考えると、ごく当たり前の感情がわずかに残っていたのかと驚いてしまう。
無意識のうちに、ジョンヒョンは腕を組んだまま両方の拳をぐっと強く握り締めた。


「――………だな」
「え、今、何か言った?」


ミニョクの声に、深くシートに凭れて思いを馳せていたジョンヒョンははっと我に返る。
内心で呟いたつもりが、不覚にも我知らず声がこぼれていたようだ。


「――いや、なんでもない」


助手席から首を回してきた弟分に対し、ジョンヒョンは咄嗟に表情を取り繕って短く答えた。
車窓に視線を転じると、一定の速度で通り過ぎる景色は暗い上に雨粒でよく見えない。
未練がましい自分のことを笑えるほど滑稽だな……、と思ってしまったのだ。


恋しくて愛おしくて、欲しくてたまらない。
切ないほどの想いが決して許されない禁忌だということも、いまだに消化できずに自分の中で燻り続けていることも承知している。
平穏とは言い難い日々を送るジョンヒョンにとっての心の拠りどころになっているのは明白で、どれほど時間が刻々と過ぎ去っても際立った美貌のヨンファに囚われたままだ。
もはや、己の執念深さに自嘲するほかない。


過去を思い巡らせているうちに、夜の闇の中に溶け込むように走っていた車は、いつの間にかジョンヒョンの自宅マンションのすぐそばまで辿り着いていた。
ちょうど赤信号になり、手慣れたハンドル操作で運転していたジョンシンが緩やかにブレーキを踏み、完全に停まったタイミングでジョンヒョンが口を開く。


「悪いが、ここで降りる」


一言断りを入れてドアハンドルに手をかけると、運転席のジョンシンは身を捩るように背後を振り返って、怪訝そうに眉を顰めた。


「えっ。でも、まだ100メートルは先だけど」
「大した距離じゃないから、歩いていく」


きっぱりと告げれば、ジョンシンは得心がいったようにひとつ頷く。


「分かった。じゃあ、ここで。また、九時に迎えにきたらいいんだよな?」
「ああ、よろしく頼む」
「了解」


さらりと言い放つジョンシンに鷹揚に頷き返したジョンヒョンは、後部座席のドアを開けるためだけに外へ出ようとしたミニョクを「必要ない」と手で制し、悠然とアスファルトに降り立った。
途端に、湿り気を帯びた独特の雨の匂いが鼻を衝く。
すっかり夜も更けていたので、通りには人影すらなかった。
あれほど激しく降っていたのが不思議なくらい雨脚は弱まっていて、小降りだからいいかと、ジョンヒョンは濡れるのも構わず雨の中を歩き出す。


夜目にも分かるほどの霧のような細かな雨は、いつもと同じ周囲の景色をぼんやりと滲ませていた。
「待って、ヒョニヒョン」と呼ぶ声に、ゆっくりと振り返って目を細める。
助手席から傘を手にしたデニムシャツ姿のミニョクが、慌てたように降りてくるところだった。


「やっぱり濡れるから入って」


俊敏な動きで傍らに近づき、ジョンヒョンが濡れずに済むように開いた傘を差しかけてきた。
基本、物静かで控えめだが、時にこちらが驚くほどまめに世話を焼いてくれるのだ。


「過保護だな、ミニョクは」
「ヒョニヒョンが無頓着すぎるんだよ。風邪でも引いたらどうするの」


信号が青に変わったらしく、ミニョクの背後に見えていたBMW7シリーズはわずかに直進したのち、ハザードランプを点滅させながら路肩に一時停車するのが見えた。


「そこまで柔じゃないから心配するな。それと……、少し雨に打たれたい気分なんだ」


感情を表さない声音でそう言ったジョンヒョンに、ミニョクは少し迷うような様子を見せてから、遠慮がちにやや声を潜める。


「――定例会で何かあったの?」


意図をはかりかね、いつものジョンヒョンらしくないと思ったのだろう。
気遣わしげに尋ねる声に何か言いたげな含みが滲んでいたが、間を置かずに即答する。


「いや、いつも通りだ。少し飲みすぎたんで、頭を冷やしたくなっただけだ」
「ヒョニヒョン……」


自嘲混じりに告げると、ジョンヒョンの些細な心情を敏感に感じ取ったのか、傘を差しかけたままのミニョクは神妙な面持ちで見つめてくる。
どこか感情を抑えたような一重の静謐な眼差しとぶつかり合い、真っすぐな視線に何もかも見透かされているような気がした。
それがどういう類のものか承知しているが、自分にとって今後も必要な弟分のひとりであるため、敢えて気づかない振りをしているのだ。
「……そう」と素直に頷いたミニョクは、それきり何も訊かずにさっと身を退いた。


「できるだけ早く建物の中に入ってね。……じゃあ、おやすみなさい」
「ああ」


やんわりとした口調とともに背中に痛いほどの視線を感じつつ、ジョンヒョンはゆっくりと歩を進める。
目を眇めて真っ暗な空を仰ぐと、細い雨滴が頬に当たった。
しとしとと絶えず降り注ぐ雨は髪やスーツの肩を濡らし、もうじき夏になろうというのに少し肌寒く感じた。
だが、不思議なほど不快ではなく、むしろ心地いい。


ミニョクに言ったことは、あながち嘘ではなかった。
アルコールでいつもより熱くなっている肌をさますには、手っ取り早くてちょうどいい。
加えて、頭の中も適度に冷えれば、かえって冴え冴えとするだろう。
静かで優しい雨音を聞きながら、ジョンヒョンは泰然とした足取りで歩き続けた。





To be continued





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています♡バナーを押していただけると、励みになります♡♡
スポンサーサイト



haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(8)

There are no comments yet.

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/20 (Sat) 20:11
haru

haru

ち**さん

こんばんは♡ はじめまして♪
温かいコメントをどうもありがとうございます。

私の書いた拙いものでCNBLUEにハマって下さったのですかΣ(・ω・ノ)ノ
恐れ多いです。どうもありがとうございます。
自分好みに盛っている部分が多いので、好きと言っていただいてとても嬉しいです。
先行きが不透明な状況ではありますが、何とか踏ん張りたいと思っていますので、いつでも覗きにきて下さいね(*´ω`*)

2019/04/20 (Sat) 22:45

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/21 (Sun) 19:01

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/21 (Sun) 20:56
haru

haru

ふ*******さん

こんばんは♡

かなり力不足なのに、もったいないお言葉をどうもありがとうございます♪
CNファンの皆さんに読んでいただいているので、下手なりに何とか形を整えて、雰囲気だけでも伝わればいいなと思っています。
紫陽花も雨が似合う花ですね。大好きです。
たまたま私が住んでいる街で毎年六月上旬に「花菖蒲まつり」というイベントがあるんですが、娘たちが小学生の頃に何度か足を運んだのを思い出しまして、花菖蒲にしてみました。ヨンに合ってましたか(笑)

この話はオールバニ視点で進めているので、喜んでもらって良かったです。
二人が仲良しだった頃のエピソードですね。リクエスト、ありがとうございます♡
今書いているラストが終われば、本編の続きに戻るので、また何らかの形で実現できるように頭の中に入れておきますねv(。・ω・。)

2019/04/21 (Sun) 22:08
haru

haru

は*さん

こんばんは♡

お名前がなかったのですが、内容からは*さんだと確信しました♪
新年度に入ってお忙しくされているんですね。お疲れ様です。
私は、長女が上京した直後もちょっとしたことで涙腺が緩んだりしていたものの、LINEのビデオ通話もありますし、ようやく三人家族に慣れてきました。
お互いにいい形で子供が巣立ったので、幸せだし、喜ばしいことですよね。

私も四人のCNが大好きです。一番の元気の素です。
仕事も含めて日々いろいろありますが、もっと頑張っている人は世の中に大勢いるんだからと、弱音や愚痴は極力吐かないようにしています。
は*さんもそうなんですね。その方が人生楽しいはず。
本当、同じ空の下で繋がっていますものね。
今書いている話のバニも、内心ではヨンに対してそんなふうに思っているかもしれません(*´ω`*)

2019/04/21 (Sun) 23:06

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2019/04/22 (Mon) 06:46
haru

haru

は*さん

お疲れ様です♡

いいえ~。私も何度かは*さんのお名前を入れ忘れていたドジ太郎なので( ̄ω ̄;)
GWまであとわずか。頑張りましょうね♪

2019/04/22 (Mon) 12:19