CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Manito 19

2018年11月23日
Manito 4






タワーマンションのエントランスに設置されているインターホンパネルのテンキーで暗証番号を入力して解錠すると、ジョンシンは堂に入った身のこなしで建物内に足を踏み入れた。
周囲から『端整』などの言葉で形容される自分の顔が、少しばかり緊張しているのが分かる。
黙ったまま眉間に皺を寄せるだけで不機嫌に見られがちなのを思い出し、慌てて小さく息をついた。
フロントに常駐している顔見知りのコンシェルジュと挨拶を交わしてから、複数基あるエレベーターのひとつに乗り込む。
高速で上昇していく箱の振動に揺られながら、ジョンシンは目的階へと近づいていく階数表示をじっと眺めていた。


ここを訪れたのは、約一ヶ月ぶりだ。
だが、今までのように自然と心が浮き立つような感覚はない。
ヨンファから突然別れを切り出されて以来、ジョンシンは自分の無力さに歯噛みするような思いでずっと慎重な姿勢を取り続けてきた。
多忙な彼を追い詰めたくなかったのと、込み入った内容だけになかなか会話の糸口が掴めなかったからだ。
それに、当然ながら周囲には内密の関係でもあり、人目がある事務所ではどうしても落ち着いて話ができない。


ふたりとも仕事にプロ意識を持っているため、顔を合わせても互いに軽口を叩いたり、ジョークを言い合ったりするなど、表面上はこれまでと何ら変わらなかった。
ただ、自分しか気づいていないだろうが、ヨンファのジョンシンに対する態度が以前に比べて若干遠慮がちな気がして、目に見えない壁のようなものを感じてしまう。
これ以上時間を置けば却って修復が難しくなるのは明白で、居ても立ってもいられないような不安と焦燥に駆られたジョンシンは、アジアツアー真っ只中にもかかわらず行動を起こすことにした。
ちょうど仕事の谷間が一日オフになり、今日のうちに会って話をするべきだと思い立ったのだ。
ここなら誰にも話を聞かれる心配はないし、横から割って入られることもない。


事前に電話をかければ断られる可能性が高いと判断し、ジョンシンはそれなりの気構えをした上で、直接ヨンファの自宅マンションに踏み込んだ。
休みの日は大抵自宅で過ごすのを知っているため、恐らく外出していないだろう。
午前中は就寝していることも考えられるので、敢えて昼下がりの時間帯を狙ってみたのだが――。


下手をすると、発言を撤回させるどころかヨンファを完全に失ってしまうかもしれない。
取り返しがつかない事態になることだけは避けなければ……、そう頭で分かっていても、ただ指を咥えて見ているばかりでは何も変わらないのだ。
どうしても諦めたくない。こんなことで、自分たちの関係を終わらせたくない。
だから、みっともなくても、どんなに滑稽でも、とことん足掻いてやるつもりだった。


エレベーターを降りたジョンシンは脇目も振らずに、一番奥まったところにある角部屋を目指す。
気ばかりが急くのに加えてコンパスが長いため、大股で歩くと瞬く間にヨンファの自宅に辿り着いた。
心を落ち着かせながらインターホンを鳴らすと、ほどなくして解錠音が響き、微かな人の気配とともにドアがガチャッと開く。
こちらの目算通り在宅していたことに、ジョンシンはほっと胸を撫で下ろした。


「……はい」


ドアの隙間から見えたのはやや俯き気味に出てきたルームウェア姿のヨンファで、どこか放心したような少し疲れた面持ちをしていた。
マニラ公演を終えたばかりだし、ノンストップで日々慌ただしく仕事に追われているのだから無理もない。
のろのろと力のない視線を上げたヨンファとようやくまともに目が合い、突然の訪問者がジョンシンだと認識するなり、不意を突かれたように大きな瞳が見開かれた。
どういう目的でここに来たのか、瞬時に察しがついたのだろう。
狼狽も露わなその顔は不自然に強張り、怖じけるような気配が痛々しいほどこちらにも伝わってくる。
一瞬、胸の奥が締めつけられたみたいに複雑な気持ちになったが、ジョンシンとて、せっかくの機会をみすみす無駄な結果に終わらす気は毛頭なかった。


「連絡もせずに、いきなり来てごめん。話があるんだけど、入ってもいい?」


身じろぎもせずに呆然と立ち尽くしているヨンファに、静かな口調で断りを入れてみる。
ジョンシンを見上げる表情には驚愕とも怯えともつかない色が滲んでいて、どうやら起き抜けらしく、何も答えようとしない彼の目尻のあたりが少し腫れぼったいのに気づいた。


「目が赤いけど、寝起きだった?」


わずかに長身を屈め、伸ばした指でこめかみに触れながら穏やかに尋ねる。
するとその途端に、不自然なほどびくっと肩を揺らしたヨンファは反射的に身を引き、ぎこちなくジョンシンの手から離れた。


「――え、……ああ、そう……」


慌てて片手で目許を隠したヨンファは、ジョンシンの視線から逃れるようにふいと顔を背ける。
どこか気まずそうな一連の仕草を目の当たりにして、自分がいまだに意識される存在でいるのだと確信した。


「起こして、ごめん」
「いや、その前に目は覚めてたから……。――まあ、入れよ」


周囲に人がいる時とは違った平淡な声で、しかも、ジョンシンと視線を合わせるのを恐れているのか、遠慮がちに目を伏せたままだ。
以前はこんな――どこか寂しそうな、見ているこちらの方が切なくなるような曖昧な表情はしなかったのに。
仕事には一切手を抜かず、メンバーやスタッフたちを優しく気遣うヨンファは、自分自身に対して何もかも諦めているような危うさを感じてしまう。
納得のいくものを生み出すために孤独を背負うことを甘んじて受け入れ、自らを意識的に追い込んでいるような気がしてならないのだ。


中へと促されて、まともに自分を見ようとしないヨンファのあとを追うように、ジョンシンは室内に上がり込んだ。
不意に、前を歩く後ろ姿がひどく頼りなげに映り、思わず腕を伸ばして抱き締めたい衝動に駆られたが、寸でのところで捩じ伏せる。
大きな窓から射し込む光に照らされたリビングはこれまでと変わらない雰囲気で、『好きな奴ができた』と告げられた言葉を信じていないものの、他の人間の気配がまったくしないことに安堵した。


「コーヒーでも淹れよう。適当に座っていてくれ」
「俺はいいよ。さっき飲んだばっかりなんだ」


多少気詰まりを感じているのか、そそくさとキッチンへ向かいかけるのを引き止めると、どこか悄然としたヨンファは瞬間的に動きを止める。
「……そうか」と静かに一言だけ漏らし、一拍間を置いてからこちらを振り返った。


「それで、話って?お前の着替えはいつでも渡せるようにひとまとめにしておいたから、来てくれてちょうどよかったよ」


冴えない顔色のまま、いきなりジョンシンの私物のことを持ち出されて、そうきたか……、と内心戸惑いを覚える。
口火を切ろうとしたところで、明らか自分と距離を置こうとしているヨンファに先回りされてしまった。
店に入ろうとした瞬間に、いきなり目の前でシャッターを下ろされた気分だ。


「悪いけど、これからも着るから、今まで通り置かせておいて」


自然と眉が寄りそうになるのをこらえて、さりげないふうを装って告げれば、ヨンファが驚いたような顔でジョンシンを見上げてきた。


「『着る』って……、何を言ってるんだ。もうそんな機会があるわけないじゃないか。今日中に全部持っていってくれ」


あからさまに困惑した様子で、整った顔は瞬く間に曇る。
自分より低い位置にある綺麗な瞳を覗き込みながら、ひとつ息を吐いたジョンシンは核心に切り込んだ。


「この間の話の続きだけど、俺は別れたつもりはないよ」


きっぱりと言い切ると、ヨンファは信じられないとばかりに目を大きく瞠る。
そのまますっと表情が消え、しばしの沈黙のあと、たちの悪いジョークを聞いたように薄く笑った。


「――何を今さら……。あの時、『分かった』って承知したじゃないか」
「そう言っただけで、承知したわけじゃない。事務所の中で込み入った話なんかできないだろ」


あの日、頑なになってしまったヨンファに何を言っても、拗れるばかりできっと平行線だったに違いない。
それに、互いに仕事の合間だったので、改めて時間を取って話し合った方がいいと思ったのだ。
それまでどことなく遠慮がちだったヨンファの態度は、ジョンシンの言葉で一変した。


「……そんなことをほじくり返すために、わざわざ来たのか。言っておくが、俺は撤回するつもりはないからな。あの時点でもう終わったんだ。頼むから、早く荷物を持って帰ってくれないか」


真っすぐ向けられた双眸に反発するような強い光が宿り、かつてないほど鋭く睨みつけてくる。
少し苛立った声でぴしゃりと撥ねつけられたのに、引き込まれるようにその表情に見入りながら、ジョンシンは不思議と冷静に受け止めることができた。
彼らしくない辛辣な物言いは悲痛な叫びにしか聞こえず、言葉を投げつけたヨンファの方が傷ついたようなつらそうな顔をしている。
感情を剥き出しにして、流されまいと必死になって抵抗するヨンファの姿に胸を鷲掴みにされた。
こんな時でも、なんて無防備で綺麗な人なんだろう……、と惹きつけられてしまう。


今年に入ってから、不可解な言動の裏に何か押し隠しているような気がしていたが、今日ほど相手の気持ちが手に取るように分かったことはなかった。
以前なら些細なことで不安を覚え、苛立ちを抑えきれずに不平不満をぶつけたり、年上のヨンファを立てて逆にこちらが折れたりした。
極力仕事の邪魔にならないようにと、遠慮していたところも多分にある。
だが、今回ばかりは絶対にここで退くわけにはいかないのだ。


「まだ終わってない」
「………っ」


ジョンシンは長身を折り曲げて、わけが分からないといった様子で眉根をきつく寄せるヨンファに視線を合わせた。


「俺の気持ちはまったく変わっていない。今でもヨンファが好きだ。これからも、そばにいてほしい」
「!」


途端に、ヨンファは虚を衝かれたように瞠目した。
たった今、耳にしたことが信じられないのか、微動だにしない。
絶句したまま呆然と見上げてくる濁りのない綺麗な瞳を受け止めているうちに、ジョンシンは情動を抑えきれなくなった。


「好きな奴ができたっていうのは、嘘なんだろ?」
「……………」
「俺たちはちゃんと上手くいっていたはずだ。それに、ヨンファがそんな不誠実なことをするわけがないことくらい、俺にだって分かる。何年一緒にいると思ってんだよ」


ひどく混乱しきったヨンファはまさに隙だらけで、動揺したように視線を彷徨わせている。
あまり感情の起伏が激しくないだけに、取り繕わなければ彼の心の中は裸も同然だ。
ほんの一瞬、黒目がちの瞳に切なげな色が滲んだが、すぐさままた曖昧な表情に上書きされてしまった。


「――でも、もう決めたんだ。いつまでもこのままじゃいられないし、ちょうどいい機会なんだよ」


これ以上気持ちを見透かされたくないのか、ふいっとジョンシンから視線を逸らす。
少し声のトーンを落として諭すように呟いた揺るぎない響きが、ヨンファの本気度を表していた。
何がいい機会だ。ふざけんな……っ、と喉まで出かかった台詞をどうにか呑み込み、できるだけ冷静な口調を保ったまま辛抱強く尋ね返す。


「じゃあ、俺の意思はどうなる?無視か?そんなの勝手に決めないでくれ」
「お前は現実を分かっていないだけだ。そのうち、俺のことが間違いなく足枷になる。別れてよかったって、あとで必ずそう思える日がくる」


感情を押し殺したような静かな言葉はまるで自分にも言い聞かせているみたいで、ジョンシンはその内容に愕然とした。
ヨンファが終わりにしたいと望んだのは、秘密の関係を続けることに疲れたわけでも、嫌われたからでもない。
解放してやろうとか女性と付き合えと言ったのは、これからもこの世界で生きていくための自己保身ではなく、自分という存在がいずれ負担になるのだと、ジョンシンの今後を考えた上での決断だったのだ。


一体いつからこんなふうに思っていたのか……、とひどくやりきれない気持ちになった。
それきり口を噤んだヨンファは、何かに耐えるような表情で目を伏せている。
この先もずっと一緒にいたいというジョンシンの想いとは対照的に、ふたりの関係の行く末をすでに悟っていたのか。
それを仕方がないと抵抗することなく受け入れているのが分かり、これまでまったく気づかなかった自分に歯噛みしたくなった。


ヨンファの真意が初めて見えて、尚さら手放したくないとジョンシンは強く思う。
頑なな心をどう切り崩そうか、思案を巡らせながらすっと視線を落とした時だった。
何かに引き寄せられるように突然それが目に飛び込んできて、思わず二度見してしまう。


――あれは、まさか……。


ほっそりとしたヨンファの左手の薬指に見覚えのあるものを見つけ、ジョンシンは大きく息を呑んだ。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(4)

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2018/11/23 (Fri) 06:09
haru

haru

m******さん

こんばんは♡

こちらこそ、いつも読んで下さってありがとうございます♪
指輪はつけています。ジョンシンが贈ったものです。
途中で回想シーンを入れたことにより分かりづらいかもしれないので、補足しておきますね。
11話で指輪を嵌めたまま寝てしまい、その間に過去の夢(回想シーン)を見て、それから午前10時くらいに起きて、リビングでテレビを観ている最中にまた寝て、午後2時頃に起きたらちょうどジョンシンが訪ねてきたという風に繋がっています。
ややこしくてごめんなさい( ̄ω ̄;)

島銃士の中で、ホドンさんを前にして自分のことを語ったヨンファは見ていてとても切なかったですね。
その時吐露してくれた心情を、今回の話に滲ませています。
何とかジョンシンに頑張ってもらって(=私ですね)、いい形にしてみますね。
いろいろと感じて下さってありがとうございます♡
急に寒くなったので、m******さんもくれぐれもご自愛下さいね(*´ω`*)

2018/11/23 (Fri) 21:25

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2018/11/23 (Fri) 22:12
haru

haru

t***さん

こんばんは♡

とんでもないです!結構難産でした。
大好きなジョンシンのいいところを何とか出せればと文字と悪戦苦闘しまくりなので、t***さんにそう言ってもらって嬉しいです(´;ω;`)
ジョンシンに送ってもらった有難いエールは、私へのものでもあると受け止めさせてもらって頑張ります。

リハーサルの合間の仲良し動画、私もデレ顔で観ています♡
すごくほっこりしますよね。
なのに、私が書くとなんでこうなるかな、アホじゃなかろうかと(←実際アホですが)いっつも思っております( ̄ω ̄;)
寒さに対抗できるくらいの暖かい話になるようにもっていって、必ずヨンファを幸せにしてみますね♪

2018/11/24 (Sat) 20:26