CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Forbidden Love 2

2016年03月10日
Forbidden Love(兄弟パロ) 0






まるで見知らぬ男を見ているようだった。
ジョンシンは闘争本能を剥き出しにしたような、今にも飛びかからんばかりの様相を呈している。


どうして突然怒りだしたのだろうか。ヨンファの頭の中は混乱しきって、何が何だか分からなかった。
シャツは完全に胸元がはだけた状態で、足元にはボタンが散らばっていた。


相変わらず険しい眼差しで見つめてくるジョンシンに、ヨンファは背筋にゾクッとするものを感じた。
何がそんなに気に入らなくて、弟をここまで荒れさせているのだろうか。


「お前さ、一体なんなわけ?俺のシャツに口紅がついてることで何か迷惑をかけたか?お前が洗濯するわけじゃないだろ?」
「……うるせぇな」
「はぁ?人の服を勝手に破いておいて、その言い草はなんなんだよっ!」
「無性にイライラするんだよ…っ」


吐き捨てるように言われ、カッと頭に血が上った。
一発殴ってやろうと反射的にヨンファが右手を振り上げると、間一髪躱されて、逆にジョンシンに強い力で腕を掴まれる。


「……っ。くそっ、離せよっ。……お前、まだ俺に対抗意識を燃やしてるのか?高校に上がった途端、妙に生意気になって、何かにつけ突っかかってきたよな。俺が告られたって聞くとすぐ不機嫌になって、『俺の方がモテる』 とかほざきやがったし、付き合いかけたのを邪魔されたこともあったっけ」


右手を捕えられたままでジョンシンの鳩尾に膝蹴りを入れるが、大して堪えていない様子の弟に、ヨンファは目を瞠った。
縦にも横にも自分より大きくて、力も強いジョンシンに到底敵うはずがなく、その差は歴然としていた。
ジョンシンは相手にならないと思っているのか、完全に受け身になっていて、攻撃を仕掛けてこない。


「何がそんなに不満なんだよ。お前の方が余程女に困らない生活をしてるじゃないか。ちょっと俺が合コンに行って、女の子と仲良くなったからって、お前にどうこう言われる筋合いはないだろっ」
「……その女と付き合うのか?」


見下ろす視線の鋭さに怯むことなく、ヨンファも負けじと睨み返す。


「さっき会ったばかりなのに、そんなの分かるかよっ。痛いから離せってっ!」


ずっと握られたままだった腕を渾身の力で引っ張ると、パッと手を離され、その反動でバランスを崩したヨンファは、後ろの勉強机に頭が激突しそうになった。
思わずギュッと目を瞑ったが、痛みは襲ってこず、代わりに大きな身体に受け止められた。


「………っ」
「!」


ジョンシンを見ると、声こそ出さなかったが、痛そうに顔を歪めていた。


―――もしかして、俺を庇ってくれた…のか?





「さっきからうるさいっ。二人ともいい加減にしとけよっ!」


ジョンヒョンがドアのところに仁王立ちして、声を荒げた。
ヨンファがゆっくり立ち上がると、ジョンシンはジョンヒョンを押し退けるようにして、自分の部屋へと入って行った。


すっかり興奮していて周りが見えていなかったが、相当騒がしかったようだ。
ジョンヒョンは普段は穏やかだが、キレると迫力があって結構怖い。


「一体、何の騒ぎなんだよ?ミニョクもビビッてたぞ」
「……ジョンシナが一方的に突っかかってきた」
「ヒョンらしくないな。いつもなら適当にやり過ごすだろうに」


腕を組んだまま眉を上げるようにして、ジョンヒョンが意外そうな顔をする。


「ごめん。ついカッとなって、我慢できなかった」
「まあ、事あるごとにヒョンにちょっかいを出すから気持ちは分かるがな。アイツが本気でぶつかるの、ヒョンにだけだろ」
「嫌われてるんだよ」
「……そうじゃなくて、気を許してるからだと思うけど」


気を許してる?アイツが俺に…!?
ジョンシンが中学生の頃までは確かにいろいろ相談を受けたり頼られることが多かったが、今はまったく違う。
「思い過ごしだろう」とヨンファが言うと、ジョンヒョンは肩を竦めた。


「アイツ、中身はガキのまんまだから、気持ちを上手く表現することができないんだよ。受験でナーバスになってるのもあるだろうし」
「俺よりジョンヒョナの方が、アイツのことをよく分かってるな」
「そんなことはないけど、少し離れたところから見ると、ジョンシナって結構分かりやすいよ」
「そうかな」


冷静になってみると、理由はどうであれ、先に手を出した自分の方に非があるのかもしれない。
それに、怪我を負いそうになった時、助けてくれたのは偶然ではないはずだ。


ジョンヒンは「早く仲直りしなよ」という言葉を残して、部屋から出て行った。





シャワーを浴びたあと、ヨンファは自室で課題に手をつけ始めたが、ジョンシンのことが気になって、なかなか集中できなかった。
怒りやイライラが混ぜこぜになって、これを消化しなければ、気持ちの切り替えができそうになかった。


正直、このまま無視して放っておきたい気分だったが、ジョンヒョンに言われた台詞と、両親がいない今、年長者として自分が大人にならなければという思いが相まって、ヨンファの心を揺さぶっていた。


性格からして、ジョンシンの方から素直になって歩み寄ってくることは無いに等しい。
大事な大学受験を控えていることも考慮しなければならないだろう。
となると、癪には障るが、やはり早いうちに自分の方から行動を起こさないと、という結論に達した。


バスルームへ向かったジョンシンを待つために、ヨンファはリビングでスマホをいじりながら時間を潰していた。


程なくして出てきたジョンシンは、Tシャツにハーフパンツ姿だった。
いつもは暑がって上半身裸でウロウロするくせに、今日に限ってきっちり着ているとは、理由は一つしかない。


「背中、見せてみろよ」


寝転がっていたソファーから身体を起こしてヨンファが話しかけると、ジョンシンは一瞬目を見開いたあと、ぼそぼそと呟く。


「……いいよ」
「見せろって!」


いつにもなく強い口調のヨンファに、ジョンシンは小さく舌打ちして渋々従った。
ヨンファの言うままにソファーに座りTシャツを脱ぐと、引き締まった広い背中が現れた。
案の定、腰の辺りが青黒く内出血している。


ヨンファが指でそっと触れると、ジョンシンの背中がビクッと動いた。
かなり腫れていて熱を持っている。なんとも痛々しかった。


「痛いだろ?」
「……いや」
「やせ我慢」


ヨンファの方を振り返ったジョンシンは、決まり悪げな顔をしていた。
薬箱から湿布を取り出して患部に張ってやると、ジョンシンはそのまま何も言わず立ち上がろうとした。
ヨンファは慌ててジョンシンの肩に手をかけて引き戻す。


「まだ話は終わっていない。なぁ、俺のやる事なす事がそんなに気に食わないのか?最近ずっとおかしいだろ。俺の何がお前をイライラさせるんだ?」


現にジョンシンがジョンヒョンやミニョクに突っかかるのを見たことがない。
揶揄うのも世話を焼かせるのも、そして、ぶつかってくるのも確かにヨンファに対してだけだった。
ジョンヒョンは「気を許している」と言ったが、何か不満があるとしか思えない。


背中を向けたジョンシンは無言のままだった。ヨンファの言葉をただじっと聞いている。


「お前が夜遊びをするようになったのは、父さんと母さんがアメリカへ行ってからだよな。性欲のことだけじゃなくて、悩みでもあるんじゃないのか?」
「……………」
「ジョンシナ、だんまりはやめろ」
「……別にアンタが嫌とか、そんなんじゃねぇよ」
「でも、さっきだって、明らかに俺に腹を立ててたじゃないか。忙しいお前からすると、俺がのほほんと気楽なように見えるのか?」
「……そういうわけじゃねぇ…」


不意に大きな背中が泣いているように、ヨンファの目に映った。
口に出せない何かを抱えていて、ジョンシンなりに悩んでいるのかもしれない。
そんな弟を見ていると、思わず後ろから抱き締めてやりたい衝動に駆られた。


「あまり一人で抱え込むなよ。お前は頭の良い奴だ。理由もないのに、荒れるはずがないだろう?」
「……ムシャクシャしてたんだよ」
「俺にできることがあれば何でも言えよ。以前はよく頼ってきたじゃないか……」


ジョンシンの綺麗な髪に触れたくなって、子供にするように頭を撫でて髪を梳いてやる。
すると、こちらが驚くくらいビクリと全身を揺らして、身体の向きを変えると、強い力で手首を掴まえられた。


「よせよ。ガキじゃねーんだから」
「俺からしたらガキだよ。イライラして当り散らしたりするのは、まさにそうだろ」


ジョンシンは何とも言えない複雑な表情を浮かべていて、その瞳は不思議な色をしていた。


「昔みたいに仲良くするのは無理かもしれないけど、一緒に暮らしているんだから、普通に接してほしいんだ」
「……………」
「約束しろよ、ジョンシナ」
「……分かったよ」


その横顔は何故か苦しそうで、見ているこちらの胸まで痛くなりそうだった。
きつく握り込まれていた手首をおずおずと外されると、そこは熱を持ったようにジンジンとしていた。







*********************************************************************







リビングのソファーに座って、ヨンファとジョンヒョンが一緒にテレビを観ていると、ミニョクとジョンシンが塾から帰ってきた。


「ただいま」
「あー疲れた」


学校が終わるとすぐ塾に直行する二人は、長時間に渡る勉強にさすがに疲れた顔をしていた。


ほとんど毎日のように夜遊びを繰り返していたジョンシンが、ここ最近早く帰宅するようになった。
塾が終わってもミニョクとは別行動を取っていたのに、一緒に帰ってくるようになり、急な変化にただ驚いている。
先日、ヨンファと喧嘩になって、そのあと話をしたのが良かったのかもしれない。
どういう心境の変化か分からないが、素行が良くなってくれたことに対し、ヨンファもホッと胸を撫で下ろしていた。


「おかえり」
「お疲れさん」


ジョンヒョンとともに労いの言葉をかけると、ヨンファは弟たちが服を着替えに自室に上がったのを見て、キッチンへ移動した。
先にジョンヒョンと夕飯を済ませていたので、二人のためにスープを温め直しながらパンチャンを電子レンジでチンして、茶碗にご飯をよそってやる。


二人とも塾に行く途中コンビニで軽食を買って、授業が始まる前に食べているようだが、180センチを優に超える長身の二人の胃袋がそれで満たされるはずがない。
いつも大体午後10時頃に帰ってきても、当然のごとくまた夕飯を食べる。


ダイニングテーブルに夕飯のメニューを並べていると、私服に着替えたミニョクとジョンシンが現れた。


「あー美味そー。腹空いて死ぬかと思った」
「ジョンシナさ、授業の前におにぎり2個と菓子パンを食べたのにな。すごい食欲」
「頭使うのに、あんなんで足りるかよ」


猛烈な勢いで食べ始めるジョンシンを見ながら、ミニョクも箸を動かす。
双子とは言っても二卵性双生児なので、見た目や性格はあまり似ていない。背か高い分、ジョンシンの方が兄貴のように見える。
ヨンファが二人の前に冷たいお茶を置くと、ミニョクが思い出したようにこちらを見てくる。


「そういや、ハン先生がヨンファヒョンにお願いしたいことがあるから、また電話するって言ってたよ」
「ハン先生が俺に?何だろう……」


ハン・ソンホ先生は二人が通っている塾のカリスマ講師として有名で、ヨンファもかつて高校三年間お世話になった。
教え方が非常に分かりやすくて、ユーモアがあって、塾生からとても慕われている。


「もうじき夏休みだから、夏期講習のアルバイト講師を頼みたいんじゃないか?」


ジョンヒョンが二人分のアイスコーヒーを入れてきて、一つをヨンファに手渡しながら突拍子もないことを言い出した。


「それはないだろ」
「昨年の夏期講習の時、ハン先生が冗談交じりに 『ヨンファがアルバイト講師をやってくれたらなぁ』 ってぼやいてたことあったよ」
「そんなこと一度も言われたことないし、時間が取れないからバイトは無理だ。多分、他の用件だろ。それより、ジョンヒョナは夏休みどうするんだ?」
「軽音サークルの合宿があるのと、バイトに勤しむ予定」


ジョンヒョンは私立のY大学に通っている。
ヨンファのS大学と違って時間的にも余裕があるから、比較的サークルやバイトに精を出す学生が多いらしい。
学業が忙しいヨンファからすると、実に羨ましい限りだ。


「いいよな、私立大は呑気で。バイトをする時間があるんなら、もうちょっとヨンファの負担を減らしてやればいいのに」


ジョンシンが素っ気なく言うと、ジョンヒョンは「まあな…」と申し訳なさそうな顔をした。
確かに国立大の方が夏休みの日数も少ないし、試験や課題も結構あるから、私立に比べると遊ぶ時間は少ないかもしれない。


「でも、俺が家にいる時間が一番長いしな……」


横に座っているジョンヒョンから視線を外すと、正面のジョンシンと目が合った。思いがけない真剣な眼差しがヨンファを見ていた。
忙しい自分を気にかけてくれているのが分かり、表情を緩める。
すると、ジョンシンは目を逸らせてスープを口にした。


「夏期講習で思い出したけど、例の合宿のプリントをもらってきたから、あとで渡すね」


ミニョクが言うと、ジョンシンが面倒くさそうな顔をする。


「最初にミニョクのクラスで、その一週間後が俺のクラス。合宿なんて見張られていないと勉強しない奴だけが行けばいいんだよ。
缶詰状態で朝から晩までって馬っ鹿じゃねぇ」
「毎年恒例なんだから仕方ないだろ。俺も昨年はマジでしんどかったし、ヒョンもそうだったよな?」
「最後の追い込みの夏だからな。あの一週間は頭の中がぐちゃぐちゃだったよ」


ヨンファ以下、四人とも中学受験をして中高一貫校に入学したため、高校受験の経験はない。
六年ぶりの大学受験は当たり前の話だが、中学受験とは比較にならないほど大変だった。


兄貴二人の言葉を聞いた双子は、もうじき始まる勉強合宿を想像して、ものすごく嫌そうな顔をしながら大きな溜息をついていた。





二人が遅い夕飯を食べ終わり、洗い物をしようとヨンファがスポンジに洗剤を垂らすと、横からそれを奪われた。


「いいよ、俺がするから」


有無を言わせぬような声で制止したジョンシンは、大きな手を器用に動かして、汚れた食器を洗っていく。


「でも、疲れてるんだろ?」
「それはお互い様だっての」


ぶっきらぼうだけど、さり気ないジョンシンの温かさが身に沁みた。
綺麗になった食器をヨンファが布巾で拭いて、食器棚に戻していく。
一番高い棚に置こうとしてヨンファが手を伸ばしていると、それに気付いたジョンシンがそばに来て余裕で収めてくれた。


「サンキュ」


隣の長身に礼を言うと、ジョンシンは少し眉根を寄せて、こちらを見ていた。
何かを錯覚してしまいそうなその目が少しずつ近寄ってきて、ヨンファは固まってしまった。


「目、充血してる。疲れてんじゃねぇの?」
「えっ、そうか?」


そうして、大きな身体はゆっくりと離れていった。


―――キスをされるのかと思った。
そんなこと、あるはずないのに。
まるで自分がそういう展開を期待していたかのようで、ヨンファはまだ想い切れていない浅ましい自分を恥じた。










そして、翌日、夕飯を食べ終わった頃にハン先生から電話がかかってきた。


『CNゼミナールのハンと申しますが』
「先生、僕です。お久しぶりです」
『おお、ヨンファか。元気にしているか?』
「はい、元気です。いつも弟たちがお世話になっています」
『いやいや。実はヨンファに頼みたいことがあって電話したんだ。受験を控えた塾生たちの前で、大学受験のノウハウについて、実体験を散りばめて話してもらえないだろうか?』
「僕がですか?」


そう言えば、ヨンファが高校三年生の時に、S大学の先輩が皆の前で受験の極意について話をしてくれたことがあった。
年齢も近いし、知りたい箇所をかいつまんで説明してもらい、とても為になった記憶がある。
ハン先生には何かと目をかけてもらい、お世話になりっぱなしだったので、少しでも役に立てるのならとヨンファは即了承した。


『夏期講習期間内に時間を設けようと思っているから、詳細については追って連絡するよ』
「はい、分かりました」


早々に用件が終わり、電話は切れた。


まだ少し日数があったが、早めにやっておいた方がいいに越したことはない。
ヨンファは当時の記憶を手繰り寄せながら、話す内容を頭の中で組み立てて、レポート用紙に書き出そうと思い立った。







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夏期講習が始まって最初の土曜日の昼、ヨンファはCNゼミナールに来ていた。
昼食時間を利用して、大教室に集まった高校三年生の前で話をすることになった。


ハン先生と一緒に教室に入ると、ヨンファの存在に気が付いた塾生たちがザワザワし始めた。
女の子たちがキャーキャー囁き合う声がそこかしこで聞こえる。


「S大学二年生のチョン・ヨンファくんです。かつてここの塾生で、君たちの先輩でもあります。高三の夏、どのようにして勉強に取り組んでいたかを今から話してもらうので、よく聞いて参考にして下さい」


ハン先生の紹介を聞きながら、好奇心いっぱいの視線が一気にヨンファに集まる。
さすがに100名近い塾生の前で話をするのは、予想していたよりも緊張した。


「いくらイケメンすぎるからって、お前らボーッとして話を聞き逃すなよ」


それを察知してか、ハン先生がジョークを交えてくれたので、教室がドッと笑い声に包まれた。
お陰でヨンファも肩の力が少し抜けたし、皆の顔も柔らかい雰囲気に変わっていた。
全体を見回すと、全員がこちらに注目していて、ちょうどミニョクとジョンシンの姿も見える。
そして、驚いたことに、一番前の席にソヒョンが座っていた。


大きな瞳をより一層丸くして、同じようにこちらを見ている。
ヨンファがさり気なく目配せすると、恥ずかしそうにニコッと笑いかけてくれた。


「皆さん、こんにちは。しっかり勉強していますか?『夏を制する者は受験を制す』という言葉があるくらい、この夏休みの過ごし方一つで皆さんの将来が大きく変わるので、 後悔しないように頑張って下さい。


今から話す内容はあくまでも僕のやり方なので、この通り真似る必要はありません。皆さんそれぞれが自分のやり易い勉強方法を模索すればいいので、参考程度に聞いて下さい。


勉強で一番大事なことは、とにかく問題を解くこと。これに限ると思います。僕の場合はどんなに集中しても、頭の中に入るのは四時間が限度でした。いろんな問題集に手を付けるのではなく、一冊を網羅して次の問題集に移っていました。そして、―――――」





話は10分ほどで終わった。
全員が熱心に聞いてくれたようなので、ヨンファとしても肩の荷が下りた心境だった。
何人かの塾生に質問を受けてお開きになると、皆一斉に昼食タイムになったので、ヨンファは教室を出た。


「ヨンファ、今日はどうもありがとう。受験生目線での話をしてもらって、すごく良かったよ」
「お役に立ったかどうか分かりませんが……」
「いやいや。大助かりだよ。これで皆が奮起してくれるといいんだがな。これはアルバイト代だ。また何かあればよろしく頼むよ」
「いいんですか?ありがとうございます」


白い封筒を手渡され、ヨンファは有難く受け取ることにした。
ハン先生と話が終わって振り向くと、ソヒョン、ミニョク、ジョンシンの三人が立っていた。


「まさかヨンファさんが二人のお兄さんだったなんて驚きました」
「俺もビックリしたよ。弟と同じ塾だったんだね」


はにかんだような笑顔のソヒョンに、思わずヨンファも笑みがこぼれる。


「ソヒョンとヨンファヒョンが知り合いだったなんてね」
「ミニョク、以前話したでしょ。姉の代わりに合コンに出なきゃいけないって話。その時、ヨンファさんに会ったの」
「ええーっ、あの時の合コン!?マジで?そりゃ、すごい偶然だね」


ミニョクがものすごく驚いた顔をしている。


「ヨンファさん、あのシャツの汚れ、落ちましたか?」


ソヒョンの口紅がついたシャツのことだ。
一瞬、どう言おうかと迷ったが、ジョンシンの視線を感じながら、ヨンファは無難な答えを返した。


「あ…うん。ありがとう。君のお陰で綺麗になったよ」


嘘をつくのは忍びなかったが、ここで本当のことを話すわけにはいかなかった。
結局、ボタンは取れ生地も破れて処分したのだ。


「えっ、何の話?」
「ヨンファさんのシャツに私の口紅がついちゃって……」
「ええっ、二人はそんな仲なの!?」
「ち、違うのっ。そうじゃなくて……」


ミニョクがとんでもない誤解をして、ソヒョンが真っ赤な顔をしている。
この会話を聞けば、普通に考えて、誰でもいい仲だと思うだろう。


「たまたまついただけだって。もう済んだことだから、ソヒョンも気にすることないよ」
「はい…」
「じゃあ、俺、そろそろ帰るから。三人とも早く食べないと時間がなくなるぞ」


そう言ってヨンファが三人を見ると、ソヒョンとミニョクは急に慌てだして、ジョンシンだけ一人硬い表情をしていた。
まただ。あの不思議な瞳の色。久しぶりに目にした。
それが何を意味しているのか追究してはいけないような気がして、見て見ぬふりをする。
急に胸がザワザワし始めたが、それを意識的に抑え込んで、ヨンファは塾をあとにした。







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「ミニョはいつ帰ってくるんだっけ?」


向かい合って朝食のトーストを齧りながらヨンファが訊ねる。


「日曜日の夜に帰ってくるよ。夕飯はここで食べるから」
「じゃあ、ジョンヒョナと同じ日か。何か用意しとくな」
「よろしく」


ミニョクは今日から某宿泊施設で6泊7日の夏期特訓会、いわゆる塾合宿が始まる。
これが相当ハードスケジュールで食事や風呂以外はほとんど勉強をして過ごすのだ。
ヨンファも二年前に参加したが、かなり辛かった記憶がある。


「じゃあ、今週は俺とジョンシナの二人だけなんだな」
「家事が大分楽になるね」


ジョンヒョンは一週間前から軽音サークルの合宿に行っていて留守にしている。
二週間の予定らしいから、今週末の日曜日には帰ってくるらしい。


そして、ジョンシンは夏休みということで、そろそろ8時になるのにまだ寝ている。
相変わらずヨンファが起こす役目になっていて、本当にウンザリだった。





結局8時半を過ぎても下りてこないジョンシンに業を煮やして叩き起こすと、朝食を摂らせて塾に送り出した。
掃除と洗濯を済ませるとあとは自分の時間なので、のんびりと過ごし、午後から課題に取り掛かる。


億劫だったので買物には行かず、夕飯は冷蔵庫にあるもので済まそうと思った。
夏期講習は午後7時に終わるので、ヨンファはジョンシンが帰宅してから、肉と野菜をたっぷり入れたインスタントラーメンを作った。


「手抜きだけど、我慢して食えよ」
「十分うまいって。ヨンファの作るラーメンなら毎日でもいい」
「そうか?」


多少のリップサービスはあるのだろうが、こんな風に砕けて会話ができるようになってヨンファは安堵していた。
一時はどうなることかと思ったが、ジョンシンは夜遊びをやめ、家に女を連れてくることもなくなり、生活態度が一般の高校生らしくなった。
時々、ジョンシンのスマホにそれらしい電話がかかってくるので、ヨンファに咎められないように上手いことやっているのだろう。
そのことに気付いても、ヨンファは前ほど胸が痛まなくなっていた。
それと、茶髪にロン毛はどうかと思うが、本人はいたく気に入っているようなので、これについては敢えて目を瞑っている。


テレビ中継しているプロ野球を観ながら、ジョンシンとああだこうだと言い合いながら、ヨンファはラーメンを食べ終えた。
洗い物を済ませ、シャワーを浴びたヨンファは、リビングのローテーブルに置いたままだったスマホにメール着信があるのに気付いた。
見ると、ソヒョンからだった。
メールを開くと、模試の結果がA判定になったと、絵文字つきでの報告だった。


「おっ、やったじゃん」


相当、嬉しかったのだろう。文面からそれが窺い知れる。
ヨンファは首にかけていたタオルで濡れた髪の毛をぞんざいに拭き、ソファーに座ってすぐに返信メールを打ち始めた。


すると、ジョンシンが二階から下りてきて、キッチンに設置してあるコーヒーメーカーでコーヒーを淹れようとしていたので、自分の分も頼んだ。


「……誰から?」
「ソヒョン。S大の合格判定がAになったって」
「ふーん」


ジョンシンは硬い顔つきで相槌を打ち、唇を引き結んでしまった。
ヨンファは画面から目を離さずに話を続ける。


「ジョンシナも今日、結果もらったんだろ?S大は確実?」
「まあな」
「この間、ハン先生からもお墨付きをもらったぞ。良かったな」


ジョンシンから受け取ったコーヒーを飲みながら送信すると、ヨンファはスマホをローテーブルに置いた。


「わざわざこんなことでメールしてくるとは、ソヒョンは余程アンタに惚れ込んでるんだな。もう付き合ってんのか?」
「付き合ってないって。あの子は妹みたいなものだから」
「俺がソヒョンと付き合いたいって言ったらどうする?」


予想だにしていなかったことを突然ジョンシンから言われ、思わず耳を疑った。


「お前にはもう彼女がいるじゃないか」
「別に一人に固執する必要なんてない。何人いても困らないし、ああいう純情そうな子ってあんまりいないから逆に新鮮なんだよな。間違いなく処女だろうし」


先程までのジョンシンとは雰囲気が変わっていた。


「何を言ってる…?」
「付き合ってないんだったら、文句はないだろ」
「ソヒョンに手を出すな」
「さあ……。どうしようかな」


あんないい子がジョンシンの毒牙にかかるようなことにでもなったら大変だ。想像しただけでも身震いがする。
それだけは絶対に阻止しないといけない。ヨンファは思わず立ち上がっていた。


「あの子はよせ。お前ならもっと他に付き合いたいと思ってる女がゴマンといるだろ。その中から選べよ。もしソヒョンに何かしたら、俺はお前を一生許さないからな」
「じゃあ、ヨンファが身代わりになるか?俺はそれでもいいけど」


予め言葉を用意していたかのようにサラッと言われて、一瞬、その言葉が理解できなかった。
ヨンファが怪訝そうな顔をして聞き返すと、黒い瞳が近付いてきた。


「前々から男にも興味があってさ。一度どんなのか試してみたいんだよな」


頭をガツンと殴られたようなショックが襲ってきた。


「お前…自分が何を言っているのか分かってんのか…?」
「女と違って妊娠の心配もないし、手軽でいいだろ」
「ふざけんなっ。そんなにやりたいなら、他の男を探せよ。なんで俺が…っ」


徐々に雲行きが怪しくなってきて、ジョンシンの口から飛び出てくる台詞の数々にヨンファは絶句する。
口調は軽いが、その瞳はいつもとは違った色を帯びていた。


「そんなにマジになることないだろ。兄弟って倒錯的な感じがすると思わねぇ?しかも、俺の周りってあんまり綺麗な男がいないんだよな。その点、ヨンファなら条件にピッタリ」


少しずつジョンシンが距離を縮めてくる。
ソヒョンに興味があると言っていたのに、どうしていつの間にか自分が当事者にすり替わっているのか分からない。


「ジョンシナ、頼むから馬鹿なことを言うのはやめてくれ。冗談なんだろ?俺を揶揄ってるだけなんだろ?」
「いいや、俺は本気だ。大体、夜遊びを控えろって言ったのはアンタだろ?だから真面目に勉強中心の生活に切り替えたけど、もういい加減俺も吐き出したくて辛いんだよな」
「彼女がいるのに、悪いと思わないのか?」
「別に好きで付き合ってるわけじゃねぇし、身体の相性がイイって程度の相手に義理立てしてもなぁ。アンタが拒めばソヒョンに手を出すけど、どうする?」


一歩ずつにじり寄ってくるジョンシンにヨンファは後ずさる。
どうして急にこんなことになったんだ。
せっかく良好な関係に戻れたと思っていたのに、それを一瞬にして崩されて、ヨンファはただ呆然としていた。


背後を見るともうあとがない。
だんだん間合いを詰められて、リビングの壁に背中が当たった。もうこれ以上後ろには下がれない。
首のタオルを奪われて、後ろに投げ捨てられる。


「来るな」
「その顔、反則だろ……」


心の動揺が自分の顔にどのような形で表れていたのかは分からない。
ふざけた口調とは裏腹に、ジョンシンの表情は至って真剣そのものだった。


目の前にはジョンシンが壁のように立ちはだかり、その胸を両手で押し退けようと突っ張ると、難なく両手首を握り込まれ、すごい力で壁に縫い止められる。
ヨンファは完全に逃げ場を失ってしまった。


弟以上の感情が少しずつ無くなりつつあったのに、まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。
しかも、ソヒョンのことを持ち出されてはどうしようもない。


長身の男が身をかがめ、唇を合わせようと顔が迫ってくる。
息がかかるほどの至近距離から黒い瞳に射貫かれて、初めてジョンシンに恐怖を感じた。
それを避けようとして、ヨンファは両手首を拘束されたまま、ズルズルとその場に座り込んでしまった。


結果的にもっと逃げられない状況を自ら作ってしまい、ヨンファは臍を噛む。
ジョンシンの左手がヨンファの後頭部に回され、右手で顎を捉えられた。


「駄目だ……」
「黙って」


唇が触れそうな距離まで来た時、ヨンファは横を向いた。
すると、ジョンシンもそれに合わせて移動してくる。
逃げてもどこまでもジョンシンは執拗に追いかけてきて、キリがなかった。


「されるのは初めてだろ?」


当たり前だった。今まで女の子としか付き合ったことがないし、大抵は自分が仕掛ける方だった。
こんな風に受け身になることなどあるはずがない。


しかも、相手は男で実の弟。
禁忌を犯す行為に、今更ながら恐ろしくなって身体が震えてきた。
きっと罰が当たる。こんなことが許されていいはずがない。


ヨンファはギリギリまで首を捻って避けようとしたが、端正な顔が近付いてきて、熱い吐息を感じた。
と同時に、唇が重なってきた。
ヨンファは歯を食いしばって唇を固く締めて、中に入ってくることを拒んだが、ジョンシンは啄ばむようにヨンファの上唇と下唇を交互に食んできて、隙間を舌先でなぞり中をこじ開けようとする。


「口、開けて」


いつもより掠れた低音に、呪縛されたかのように身動きできない。
何度も辛抱強く唇の隙間に舌を尖らせては潜り込もうとしてくる。
決して無理矢理奪おうとはせずに、時間をかけて唇が緩むのを待っているようだ。


それでも頑なにヨンファが口を閉じていると、ジョンシンの大きな手がTシャツの中をくぐって肌に直接触れてきた。
ヨンファの背筋に痺れが走って困惑する。
最初から動きに迷いがなく、探していたものを見つけると、指がまとわりついてくる。


「ンン……ッ」


その刺激に、口付けされたまま背中を反らせて声を漏らすと、胸の尖りを集中的に責めてきた。
ヨンファはそれに耐えられなくなり、思いっきりかぶりを振ってキスから逃れると、堪らず叫んでいた。


「やめろっ……」


ジョンシンの腕を掴んでそこから外そうと試みるが、愛撫の手を止めようとしない。
指先でキュッと摘まれ、円を描くように擦られ、塞がれていない唇からついに声が出てしまった。


「……あぁっ…」


弟の前であられもない声を出してしまい、屈辱に唇を噛む。


「すごく感度が良いんだな…」


興奮が滲み出ているような声で、吐息交じりに囁かれてゾクリとする。
耳朶を甘噛みされてヨンファが身を竦ませると、しつこく乳首を弄られて硬くなっているのが自分でも分かる。
ツキンと痺れるような感覚が走り抜け、噛み締めていた唇が思わず緩んでしまった。
その一瞬の隙をジョンシンは見逃さず、再び唇を重ねると、熱い舌が一気に侵入してきた。


「ンッ……」


ようやく望んでいた場所に入り込み、縦横無尽に中で暴れまわる。
歯列をなぞり、逃げ惑うヨンファの舌を追いかけて絡みついてくる。


こんな情熱的なキスは初めてだった。これほどまでに激しく求められるのも。
執拗に吸われて、次第に頭の中に霞がかってくる。
後ろの壁がなければ、身体を支えきれなかったかもしれない。


そのくらい手慣れていると思った。
いろんな女を相手に数えきれないほど経験を積んできたからなのだろう。


「ハァッ……」


キスがだんだん深くなっていき、目眩にも似た感覚に襲われる。
角度を変えて痺れるほど甘く舌先を吸われ、頭の中が真っ白になり、何も考えられなくなった。
男と試してみたかったというそれだけの理由で、こんなに簡単に翻弄されている自分が情けなくて堪らない。


どのくらい時間が経ったのだろうか。
息苦しくなって一時的に自由になっても、またすぐジョンシンに呼吸ごと奪われて、終わりが見えない。
ヨンファの両腕はダラリと下がり、もう無理矢理されているのだと言い訳はできなかった。





突如、何か音が鳴り出した。
それがヨンファのスマホの着信音だと気付いて、ようやくジョンシンの唇が離れた。
そのまま身体を起こすと、ヨンファの代わりにローテーブルに置かれたままのそれを手に取る。


永遠に続くのかと思うほどの長い口付けから解放されて、ヨンファは深く静かな吐息を漏らす
ジョンシンのキスに酔わされていたヨンファは、まるで夢から覚めたように現実に引き戻された。


発信者の名前を確認すると、ジョンシンは壁に寄り掛かって座り込んでいるヨンファに手渡してくる。


「ミニョクから」


それを受け取って、耳に当てる。


「……ミニョ、どうかしたか?」
『突然、雨が降り出したでしょ。俺の部屋、窓を開けたままにしてたから閉めといてくれる?』
「窓?ああ、分かった。今から閉めに行く」


雨が降り出していたなんて、まったく気が付かなかった。
未だに頭の芯がボーっとして、身体がフワフワしている感じがする。
通話を終了して、おもむろに立ち上がると、ジョンシンに制止された。


「俺が閉めておくから」


腰が砕けたように動けないヨンファに気付いたのだろうか。
長身を屈めて、耳元で囁かれた。


「……続きはまたな」


ジョンシンはゆっくりとした足取りで、リビングから出て行った。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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