CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Manito 9

2018年07月22日
Manito 2






唐突に緊迫した空気が破られる中、気まずい思いで不自然に固まったヨンファよりも、ジョンシンの反応は早かった。
ふっと指の力が緩んだかと思うと、捉えられていた腕をそっと放される。
我に返ってぎくしゃくと身を引いたヨンファは、今しがたまで感じていた体温が一瞬にして跡形もなく消えてしまったことに、なぜかほっとするのと同時に落胆した。
ジョンシンはちらりとこちらを気にする素振りを見せたが、すぐにジョンヒョンとミニョクに視線を移す。
長身が離れても、掴まれた時の指の感触だけはいまだに腕に残っている気がしてならなかった。
一体、何を言いかけたんだろう……?と腑に落ちないものを感じながらも、その疑問はすぐさま次の台詞に掻き消される。


「なんでこんなに早く来るんだよ。しかも、安定のジャージ姿」


ひどく不満そうに唇を尖らせるジョンシンに、ショルダーバッグを所定の場所に置いていたジョンヒョンは「ああ?」と目を吊り上げた。
もはや恒例ともいえる言い合いに発展しそうなったところで、ヨンファは努めて平静を装って壁際の長椅子に座る。
ずっと手にしたままだった缶コーヒーに口をつけていると、にこやかなミニョクが「ヒョン!」と人懐こい笑みを浮かべながらそばにやってきた。


「お疲れ」
「また、いつものが始まったね。きっと長いよ」


そう言って、ふたりに視線を走らせたミニョクは軽く肩を竦め、やれやれといった感じで隣に腰を下ろす。
「確かにな」と笑って返したヨンファは、中身が残っている缶を長椅子の横のテーブルに置いた。


世間的には物静かなイメージが定着しているが、ミニョクはメンバーの前ではよく笑いよく喋る。
どこか清涼感があるような印象を抱いてしまうのは、一重の切れ長の瞳が妙に涼しげなのと、すらりと背が高くて着痩せするタイプだからだろうか。
たとえ真夏でも暑苦しさをまったく感じることがなく、ミニョクがいるだけで心地よい風がそよぐような不思議な感覚に見舞われるのだ。
ファッションには並々ならぬこだわりを持ったジョンシンと同様にお洒落でスタイルがよく、この日も明るめのカラーのシャツにチノパンというシンプルでありながら、相変わらずセンスのいい着こなしをしていた。


片やジョンヒョンは、すっかり見慣れたNERDYのTシャツとジャージ姿だ。
有名ラッパーがプロデュースしているファッションブランドなのだが、かなりお気に入りらしい。
芸能界では愛用者があとを絶たないと言われるほど注目されていて、ジョンヒョンもそのうちのひとりだった。
そして、やっぱりというか、髭すら剃っていない。
大雑把な性格をしているので、自分にとって小さいことはまったく気にしないといったところだろうか。
せっかく整った容貌をしているのに、まったく剃り残しがない弟たちとは真逆でこの体たらくぶりなのだ。
気心の知れたふたりの登場で気まずい空気が払拭できたような気がして、これなら何事もなくやり過ごせるだろうと、ヨンファは心底安堵した。


「全員が揃うのは久しぶりなんだから、早くて結構だろ。それと、俺が何を着ようが、とやかく言うな」


露骨に嫌そうな顔をしたジョンヒョンは即座に切り返し、シールドケーブルを踏まないように詰め寄ると、遠慮のない手つきで自分より長身の弟の肩をバシバシと叩いている。
ふたりの親しげな様子をぼんやりと眺めながら、確かにその通りだな……、とヨンファは思った。
今日はたまたま一致したものの、個別の仕事を抱えた四人のスケジュールがバラバラに組み込まれているため、音合わせするだけでも一苦労なのが現状だ。
特にドラマの撮影に入っている時期は難しく、ゆっくりと腰を据えて話をする時間さえ取れない。
芸能界という華やかかつ特殊な表舞台で生き抜くためには、音楽の枠から飛び出して様々な仕事に取り組むことがどうしても必要不可欠になる。
だから、皆が前進するためにはそれも仕方がないと自分を納得させたところで、案の定、ジョンヒョンとジョンシンが舌戦を繰り広げ始めた。


「一応、芸能人なんだから、普段からもう少し服に気を使ったら?追っかけとか、事務所の前で出待ちしてるファンもいるんだしさ」
「『一応』って、小僧の分際で随分言うようになったな。気に入ったものを着て何が悪い。練習には、これで十分なんだよ」


家族同然の間柄だけあって、お馴染みの光景を前にしても別段驚くこともなく、また始まったかと思う程度でふたりの仲裁に入ることはほとんどない。
そのうち飽きて静かになるだろうと、この時もそう思っていた。
ヨンファと同じように高みの見物を決め込んでいたミニョクが、さらっと言い放つまでは。


「でも、ヒョニヒョン、昨日からその格好だよね」
「げっ」
「ミニョガの部屋で飯食って泊まって、そのまま来たからな」


あまり珍しいことではないのか、あっけらかんと暴露するミニョクの台詞に即反応したジョンシンが呆れ顔でドン引いて、ジョンヒョンはけろりとした表情のまま答えた。


「俺の服を貸そうか?って訊いたんだけど、これでいいって言い張るから」


ミニョクは苦笑混じりに細い脚を組み、実の兄弟さながらにまったく遠慮のないやり取りを交わすふたりを見比べている。
ニコニコとどことなく楽しそうな様子に、もしかして目の前の展開を一番面白がっているのは案外この三男なのではないかと、ヨンファは隣で密かに確信していた。


「二日続けて同じ服とか、絶対にあり得ない」
「お前はそうだろうよ。毎日、今日は何を着ようかなーって、クローゼットの前で悩みまくるマメ男だもんな」
「最低限の身だしなみだろ。ミニョクだってそうなのに、なんで俺だけ攻撃してくるんだ」


首からベースを提げたまま、デニムのポケットに両手を突っ込んだ格好のジョンシンがぼやきまくる。
それもそのはず。末っ子をいじり倒すことに、ジョンヒョンは少しも悪びれたふうではないからだ。


「ミニョガはいいんだよ。いつも飯作ってくれたり、面倒かけてるから」
「贔屓反対!」


いつにもまして、ぽんぽんと応酬し合っているのを見て、勢いに呑まれたようにヨンファは目をぱちくりさせた。
ジョンヒョンとミニョクは元々仲が良いのに加えて、猫を飼っているという共通点があるため、頻繁に互いの部屋を行き来しているのは知っている。
ジョンシンの指摘通り、同じマンネ相手でも明らかに接し方が違うような気はするが、そうは言っても、ジョンヒョンにとってはふたりとも可愛い弟には違いなかった。
微笑ましく眺めていると、不意にこちらを向いたミニョクが「……ヒョン」とわずかに声のトーンを落とす。


「あまり顔色がよくないけど、また作業室に籠ってたでしょ?」


思わず見返せば、ヨンファの瞳を真っすぐに覗き込むようにして、静かに尋ねてきた。
付き合いが長い上に思慮深い弟だけに、こちらの行動を結構言い当てられることがある。
真顔で心配そうに訊かれて返答に窮したが、今さら隠す必要もないと思い、素直に頷いた。


「――えっ、……ああ」
「俺が作曲とかできないから、いつも頼りっぱなしでごめんね。ソロ活動もあって忙しいのに」


ヨンファとジョンヒョンが主に楽曲制作をし、ジョンシンも自作曲をすでに披露していることを陰でミニョクが気にしているのは分かっていた。
何事にも一生懸命で努力家だから、曲作りの勉強をしながら形にはしているものの、いまだに発表には至っていないのだ。
さも申し訳なさそうに目を伏せられて、ヨンファは慌ててかぶりを振った。


「何を言ってるんだよ。かなりいいものができているじゃないか。この調子でいけば、来年にはファンの前で披露できると思うよ。それに、ミニョはもうすぐドラマの撮影が始まるんだったな。W主演でかなり注目度も高いし、オンエアーを楽しみにしてるよ」
「ありがとう。だと、いいんだけどね。とにかく、ヒョンは働きすぎだから、すごく心配なんだ。寝食削って無理したら、絶対に駄目だよ。適度に身体は休めないと」


穏やかな顔つきを少し歪めるように案じるのは、ヨンファを心底慕ってくれているからともいえるだろう。
日頃からよく気がつくし、リーダーとしての立場を理解した上で、あまり踏み込みすぎないように配慮しながら言うべきことを言ってくれるのだ。
控えめなミニョクの持って生まれた温和な人柄に癒され、思いやりの深さに救われることが多いのは事実で、今もまた優しい気遣いが胸に沁みて、ふっと気持ちが綻んだ。


「そうだな、気をつけるよ。いつもありがとう。ミニョも体調を崩さないようにな」


親身になってくれるのが有難くて、ヨンファは微笑みながら頷く。
すると、その一言でこちらの真意が伝わったのか、しっかりと受け止めてくれたらしいミニョクは目を細めて「うんっ」と嬉しそうに破顔した。
残りのコーヒーを飲み干したタイミングで腰を上げたヨンファがダストボックスに空き缶を入れると、それを目で追っていたミニョクもおもむろに立ち上がった。


「ったく……、こっちばっかり標的にするのは、マジやめてほしい。絶対、俺でストレス発散してるだろ。いい性格してるよ」
「愛情の裏返しだな」
「うへっ。気持ち悪ぃ」


互いにじろりと胡乱げな視線を向け、ああだこうだと無遠慮に言い合っているジョンヒョンとジョンシンの横を通りながら、一番奥のドラムセットへと近づいていくミニョクの口許が笑っている。
とても仲がいい弟たちを感慨深げに見つめていたヨンファは、表情がほっと緩むのと同時に、胸にツキンとした痛みが走ったのが分かった。


来年のいつになるか現時点では不明だが、入隊すれば、しばらくはこの光景を眺めることすらできなくなる。
一時的なものだとしても、ヨンファにとって生き甲斐である音楽と、一緒に共有する仲間たちから離れなくてはならないのは正直辛い。
たった二年、されど二年。
それが短いのか長いのか、のちに自分自身がどう感じるかは、実際に兵役に就いてみないと何とも言えない。


ルックスが抜きん出ているのはもちろんのこと、それぞれに類まれな才能と強烈な個性を併せ持った三人と出会ってから、ヨンファの人生は大きく変わった。
この面子だからこそ、一緒に高みを目指してここまでやってこられたし、ひとりではないから、自分は安心して前に進めるのだ。
世界広しといえども、こんなに素晴らしい弟たちはどこを探してもいない。


韓国の音楽界には、『七年目のジンクス』という言葉がある。
ダンスグループ、バンドグループにかかわらず、アーティストたちは皆、芸能事務所に所属する時に専属契約を結んでおり、ヨンファたち四人も、CNBLUEとして本国デビューする前年に定められた「大衆文化芸術人標準専属契約書」という書類を契約時に交わした。
公正取引委員会が不公正な契約を防止するために制定されたものだが、その中で、契約期間は最長で七年に限定され、その後は改めて契約を見直すことができると記載されている。
契約当初は新人でも、七年経って実績を残していれば、もっと有利な条件で再契約、または契約を更新せずに他の事務所へ移籍するという選択も可能になるのだ。
したがって、実際に結成七年目にして、メンバーの脱退やグループの解散は当たり前のように見聞きする。


だが、ヨンファたちは違った。
四人のうち誰ひとりとして、グループや事務所に不満を持つ者はおらず、そんな話は一度も出たことがない。
だから、『七年目のジンクス』云々は自分たちにとってまったく意味のないもので、今年でデビュー八年目を迎えることができた。
メンバー同士の結束は長い年月をかけてより強固になり、内側から壊れるとは考えにくいだけに、外側からの不測の事態に果たしてどこまで耐えきれるかという不安はついて回る。
その最たる例は、やはり二年間の兵役義務が課せられていることに尽きた。
入隊して表舞台から消えてなくなれば、当然ながらメディアで報道されることもない。
つまり、ヨンファがもっとも心配しているのは、ファン離れなのだ。


音楽界は常に目まぐるしく変化しており、若いメンバーで構成された新しいグループが次々に誕生し、華々しくデビューを飾っている。
自分たちが兵役に就いている間に、他のアーティストに気持ちが移るのは大いに考えられるし、除隊してもファンが戻ってこない可能性だってあるのだ。
その時のために、今できることを最大限やろうと、ヨンファは粛々と仕事に邁進している。
そして、これまで同様、この先もかけがえのない仲間たちと長く夢を追い続けていたいと願わずにはいられなかった。


「うるせーよ、色ボケ小僧。ぼやくな。その分、お前はヒョンにたっぷり可愛がってもらってるんだから、十分にお釣りが返ってくるだろ」


複雑な思いを振り払うように、部屋の隅に置かれているギターケースから愛用のギターを取り出していると、突然、自分の名前が出てきた。
思わず手を止めて顔を上げたら、これ見よがしに思い切り盛大な溜息をついたジョンヒョンと視線がぶつかってしまい、なぜか意味深な様子でひょいと片眉を上げる。
揶揄するような物言いにも何か含みがあるように感じられて、ヨンファの心臓がトクンと脈打った。


「変なネーミングをつけるなって」と猛抗議しながら、ジョンシンがちらりとこちらに目を向ける。
ジョンヒョンの歯に衣着せぬ台詞に困惑しているのだろうが、これまでもジョンシンとの関係を見抜かれているのではないかと思ったことがあった。
故意なのか偶然なのかは分からないものの、何とも言えない居心地の悪さを感じる。
終わったこととはいえ、ジョンシンに対していまだに抱き続けている感情を、どうしてもジョンヒョンたちに気づかれるわけにはいかなかった。


「ジョンヒョナ、服装はいいとして、せめて髭くらいは剃ったらどうだ?」


話の矛先を逸らそうと、ストラップを肩にかけてギターを構えたヨンファはやんわりと言ってみる。


「えー、そんなにむさ苦しい?このくらい大目に見てよ」


精悍な顔立ちに無精髭がプラスされるとワイルドさが出て、それはそれで似合うのだが、多少なりとも緊張感が要求される場では相応しくないように感じたのだ。
無骨な指で自分の顎を触りながらそんなふうに言われてしまえば、マイペースで自由人らしいな……、と苦笑するしかなかった。


「お前がどうしても嫌なら、これ以上は言わないけど」
「ヒョンは薄いからいいよね。そんなに剃る必要がないし」


まじまじとこちらを眺めてきたかと思うと、ジョンヒョンは伸ばした指先で確かめるように、ヨンファの細い顎をそろりと撫でた。
ニッと笑いかけてくる男に面食らい、ヨンファの動きが止まる。
これといって何か意図があったわけではないらしく、くすぐったさに首を竦めたのを見て、すぐに手は離れてくれた。


「ちょっと!近寄りすぎっ」


咎めるような声音とともに大股で寄ってきたジョンシンが素早く身体を滑り込ませ、ヨンファとジョンヒョンの間に割って入ってくる。
思いもしない行動に不意を衝かれて、目の前に立ち塞がった広い背中を呆然と見つめた。


「いちいち妬くな。別にヒョンをどうこうしようとは思ってねぇよ」
「当たり前だろ」


そこは否定するところだろうと、ヨンファは少しばかり困惑した。
どういうつもりなのか、ジョンシンの考えがまったく読めない。
自分たちの間に疚しいことがなくなったから、こんなふうにジョーク混じりに堂々と言えるのだろうか。
それとも、他のふたりがいる時に限り、表面上は以前と変わらない関係を続けようとしているのか。
どちらにしても、釈然としない心境ではあった。


「どけ。ミニョガが変に誤解する」


ジョンシンの言葉に狼狽えたのはヨンファだけで、邪魔だと言わんばかりに長身の弟を押しやったジョンヒョンは、意味ありげにニヤリと唇の端を上げた。
気のせいかも知れないが、揶揄めいた仕草はわざとジョンシンの神経を逆撫でしているように思えてならない。
ふたりの間に、何かあったのだろうか。
憮然としたジョンシンがじろりと睨みつけても、普段から腹が据わっているジョンヒョンは平然と笑っている。
そんなことをしているうちに、ドアをノックする音に続いてスタッフたちがわらわらと集まってきた。


『あのさ……』


突如、先ほどの中途半端に途切れた台詞が脳裏によみがえる。
結局、ジョンシンが何を言おうとしたのか分からずじまいだったが、さして深い意味はないのかもしれない。
そう思うと、また懲りもせずに、胸の奥底に鉛が詰まったように息苦しくなった。
その方が自分にとっても好都合だと、もうすっかり慣れたやり方でいつものようにさりげなさを装って、表情には出ないように無理矢理に気持ちを押し隠す。


――後ろを振り返らずに、前へと進んでいかないとな……。


ヨンファはひとつ小さく息を吐き、ライブに向けて気持ちを引き締め直した。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(2)

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2018/07/22 (Sun) 23:32
haru

haru

m******さん

こんばんは♡

日本のBOICEは確かに離れる方は少ないように思いますが、それ以外ではそういう可能性もあるのかなと、話に滲ませてみました。
負けず嫌いで自分に自信を持っているヨンファでも、これまで経験したことのない徴兵制度を前にしたら、多少なりとも不安な気持ちもあるのではないかと勝手に想像しまして。
ほとんど私の憶測と捏造で書いているので、さらっと読んでいただけると助かりますm(__)m

ヨンファが入隊してしまったので、入隊前の話を書くことに罪悪感と申し訳なさでいっぱいです。
未完のままにはしたくないという理由からですが、あまり長くならないように一気にラストを目指したいと思っています。

2018/07/23 (Mon) 21:10