CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 71

2018年06月19日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 6
cherryblossomlove-1 (1)zzz





遅い。遅すぎる。
腕時計で時刻を確認したジョンヒョンの眉間に、知らず知らずのうちに皺が寄った。
繊細なラインを描いている凛とした美しい背中を見送ってから優に三十分が経とうとしているのに、一向に戻ってくる気配がない。
革張りソファに凭れたまま、幾度となくスタッフルームがある方向へ視線を走らせてみたが、ヨンファの姿は確認できなかった。


急ぎの電話ということは、恐らく病院関係だろうか。
それにしても、時間がかかりすぎている。
事情があるに違いないので、無心になろうと努めてみたものの思うようにいかず、一体何をしているんだ……、とジョンヒョンは周囲に気づかれない程度に深く息を吐いた。
いつから、こんなに堪え性がなくなってしまったのか。
元来、それほど気が短いわけではなかったはずなのに、ヨンファのことになると妙に落ち着かない気分になるのだ。
そんな了見の狭い自分に嫌気が差し、再び口をついて出そうになった溜息を辛うじて抑えた。


ふと視線を転じると、斜向かいのジョンシンも何かを探すようにチラチラと周囲を気にしている。
同じことを考えているのかと、たとえようのない苛立ちを覚えたところで、真っ向から目が合った。
途端にムムッと表情を歪め、静かにガンを飛ばしてくる。
不穏な目つきにはあからさまな悪意が感じられて、忌々しさに拍車がかかった。
そのまましばし睨み合い、どちらからともなくふいと視線を外す。


生意気な弟分は破天荒かつ自由奔放で、見た目だけでなく態度までデカい男だが、言葉や行動の端々から驚くほどヨンファを深く思いやっているのが分かる。
性別を問わず派手に遊びまくり、ついこの間まで夜の街のあちらこちらで散々浮名を流してきたにもかかわらず、だ。
組の者たちもこぞって囃し立てるほどの場数を踏み、以前のジョンヒョンと同じように特定の相手に執着しない性分のようだった。
常に欲望の捌け口を求め、刹那的で享楽的な生き方をしていたはずなのに、ある日を境に火遊びはピタリと止んだ。
それだけ、ヨンファに本気なのだろう。
だからといって容認することはできないし、こちらも譲るつもりは毛頭ない。


ただでさえ、馴れ馴れしくヨンファの肩を抱いて一緒に写真を撮るという暴挙に出た厚顔無恥男に、怒りと不快さで目が眩む思いだったのだ。
その直後の意図的とも取れる爆弾発言には、さすがのジョンヒョンも唖然とし、かつてないくらい激しい憤りを感じた。
今思い出しても、沸々とはらわたが煮えくり返る。


認めたくはないが、ヨンファがジョンシンを実の弟のように大事にしているのは傍目にも明らかだった。
それを逆手にとって厚かましい要求をされても、どんな理不尽なことを言われても、なぜかヨンファはこの男を責めるどころか庇い立てする。
ジョンヒョンにとってはまったくもって面白くないが、ジョンシンに対して甘くて隙があるという自覚は恐らくないのだろう。
時に驚くほど無防備なところがあり、そこにつけ込まれているのは一目瞭然だというのに。
どうして、それほどまでに気遣ってやる必要があるのか。


ヨンファの気持ちがこちらに向いていることは十二分に分かっていながら、ジョンヒョンはいつも胸がちりちりと焼けるような不快な感情に支配されてしまうのだ。
ここまで自分が狭量な男になろうとは思ってもみなかったし、過去には例を見ない。
恋人を信じているからこそ、嫉妬心を抑えなければと頭では理解しているものの、先ほどみたいに苛立ちに駆られてしまうと、もはやコントロール不能になった。
醜くて無様な独占欲はあまりヨンファの前で出したくないのだが、その本人の制止を振り切ってまで激昂してしまったことに我ながら呆れてしまう。


「ヨンファの奴、やけに遅いな。電話が長引いてんのかな」


虎視眈々と機会を窺っていると、横合いからホンギが首を捻りつつひとりごちた。
これに乗っからない手はない。
そう決断するなり、ジョンヒョンの行動は迅速だった。


「私が様子を見てきます。ちょうど、舎弟に連絡を入れようと思っていたので」


控えめに声をかけて早々に席から立ち上がると、それまでハンとジョーク混じりに楽しげな笑い声を上げていたジョンシンが目敏くこちらを見上げてきた。
自分でもかなり見え透いた理由だと思うので、いとも簡単に気づかれたようだ。
やることなすこと腹立たしい男だと思いながら、くれぐれも邪魔はするなよ……、と冷やかに見下ろした。


「そうか。じゃあ、頼むな」
「はい」


穏やかに頷くホンギに対して、ジョンヒョンは反射的に背筋を伸ばす。
ジョンシンが物言いたげな顔で眺めてくるのをまたかと辟易し、挑戦的な眼差しがひどく神経に障った。
こちらの思惑など、逐一手に取るようにすべてお見通しなのだろう。
相変わらずゲラゲラと陽気に盛り上がっている中、おのずと表情が険しくなったジョンヒョンはハンやグンソクにも軽く頭を下げ、去り際に忌々しい弟分を目の端で強く威圧した。


VIPルームをあとにし、大理石の上を歩きながら周囲を見回すと、通常ルームのボックス席はいずれも人で賑わっている。
話し声や笑い声が絶えることはなく、店内全体が喧騒に満ちた空間と化していた。
広々としたフロアの定位置にはそれぞれインカムを装着した顔見知りの黒服が立っていて、ジョンヒョンに気づいた瞬間、深々と一礼する。
それらに簡単な言葉をかけ、大股で奥のスタッフルームへと向かった。










ノックせずにドアを開けて中を覗くと、想像よりもゆったりとしたスペースだ。
左側の壁一面に配置されたドレッサーの前の椅子に、上質なブルーグレーのスリムスーツに包まれた細い脚を組んで座っている愛しい人の姿を見つけた。
すぐさま音に気づいたようで、顔を上げてこちらを向く。
足音を忍ばせるように部屋の中へと入ってきたのがジョンヒョンだと分かった途端、大きく目を瞠ったヨンファは狼狽したように椅子から立ち上がった。
直前まで操作していたらしく、手の中のスマートフォンを取り落としそうになるほど目に見えて動揺していて、慌ててポケットにしまい込む。


その一角だけ清廉とした空気が満ちているのが感じられて、ジョンヒョンはわずかに目を眇めた。
華やかで透明感のあるヨンファがいるのといないのとでは、場の雰囲気がまったく異なるのだ。
どうしていいのか分からないような表情でその場に立ち尽くしているヨンファの澄んだ双眸を見つめたまま、ジョンヒョンは後ろ手にドアを閉めた。
目の前にいるのはずっと焦がれていた恋人なのに、髪色や服装のせいで怜悧な美貌は普段よりも中性的に見え、溢れんばかりの高貴さと清楚さはどこか近寄りがたいほどだ。


本来なら、自分のような極道者が決して手を出してはいけない相手だった。
屋敷でともに暮らしていた頃は、そばにいられることが嬉しかった反面、永遠に叶わぬ望みだと絶望の淵に立たされていた。
身体に纏わりついて離れない飢餓感は日に日に増していき、もしもあのままヨンファが屋敷を出て行かなかったら、無理矢理にでも抱いて最悪の事態を招いていたかもしれない。
結局のところ、思うままに蹂躙したいという欲望は理性で捩じ伏せ、未遂に終わった。
あれから五年の月日が流れ、出会ってからずっとジョンヒョンの心を捕らえ続けた人を幸運にも手に入れることができたのだ。
これまでヨンファ以上に惹かれる相手に巡り会うことはなかったし、これから先も現われるとは到底思えなかった。


「――ヨンファ」


低く恋人の名前を呼べば、伏し目がちだった彼はゆっくりと視線を上げて、真っすぐにジョンヒョンの眼差しを受け止める。
どこか心細げに見返してくるヨンファの憂いを帯びた表情と危ういほどの色香が立ち上っている目許に、ジョンヒョンは言葉を失った。
酒の影響で少し潤んで見える瞳が、まるでベッドの中にいる時のような艶っぽさを醸し出しているのだ。
ジョンシンのことですっかり頭に血が上っていたので、怯えさせてしまったのではないかと一抹の不安が頭をよぎる。
どことなく気まずく感じているのか、何か物言いたげな黒目がちの大きな双眸を揺るぎなく見据えたジョンヒョンは、そのままヨンファのそばへと歩み寄った。
手を伸ばせばすぐに届くところまで距離を詰め、部屋の中央辺りで向かい合う。


「ヒョニ、どうし……」


触れたい……、と突如、猛烈な衝動に襲われた時には、すでに身体が動いていた。
そろりと手を伸ばし、ようやく見慣れてきた鮮やかな金髪に無骨な指を差し入れると、ヨンファがビクンと肩を揺らす。
落ち着かせるように優しく梳きながら、ジョンヒョンは正面に立っている恋人をそっと片腕で抱き寄せた。
自分よりも遥かに華奢な身体つきをしていて、胸許でしっかりと受け止めれば不思議と初めて触れた時のような緊張を伴い、どうしようもないほどの恋情が込み上げてくる。


ギュッと深く抱き締めると、無意識のうちに力を強めてしまったらしく、腕の中の痩身が小さく震えたのがスーツ越しに伝わってきた。
じっと黙ってされるがままになっていたヨンファは、ジョンヒョンの背中に腕を回しながら、胸に寄りかかるように身を預ける。
同時に、安堵したように細い顎を肩に凭せかけてきて、とても甘やかな気持ちになった。
すっと指先でこめかみの辺りをなぞると、くすぐったそうに首を竦める様子がつくづく可愛いらしいと思う。


すれ違いの日々を取り戻すかのような仲直りの抱擁だということは、互いに口にしなくてもおのずと分かった。
重なり合った箇所からふたりの体温が混じり合い、それがひどく心地よくて安らぎを覚える。
自尊心の高いヨンファがこんなふうに無防備な姿を曝け出してくれるのは、自分に対してだけだ。


これ以上、何を望むというのか。もう十分ではないか。
ヨンファはちゃんと自分だけを見てくれている。こちらの愛情に精一杯応えてくれている。
きっと、贅沢すぎるのだろう。
時が経つにつれて現状に満足できなくなり、底なし沼のようにもっともっとと欲求は高まるばかりで、ヨンファのすべてを我が物にしたいと思っている。
『俺は、お前の所有物じゃない』と激昂されたにもかかわらず、だ。


不意に、背中に縋りつく指先に力が籠められたのを感じ、愛しさのあまりジョンヒョンは頬に当たる金髪にそっとキスを落とした。
ヘアムースをつけているのか、シトラス系の甘い香りが鼻腔をくすぐる。
誘われるように柔らかな髪質に鼻先を埋めながらヨンファの頬を撫でているうちに、どんな顔をしているのか見たくなった。
腕の力を緩めて至近距離から覗き込むと、伏せられた長い睫毛を震わせながらこぼれ落ちそうな大きな双眸を揺らがせて、上目遣いで静かに見返してくる。


その眼差しに射貫かれてしまい、なぜだか、想いを告げることのなかった当時のヨンファを思い出した。
気が遠くなるほど長い間、恋焦がれ続けた綺麗な顔立ちにいまだに惹きつけられる。
意識していないのだろうが、たった表情ひとつでこんなにも心を掻き乱されて、たまらなくなった。
ふたりきりになると途端に甘さが加わり、どこか不安そうに揺れ動く瞳は吸い込まれそうなほど美しくて、いつでも目が離せなくなるのだ。


激情に駆られるまま、ヨンファの両頬をジョンヒョンの大きな手のひらで挟み込むと、繊細な造りの小さな貌はすっぽりと納まってしまう。
実年齢よりも若く見える彼のちょっとした表情や仕草の中には日頃から色香が滲み出ており、身体を重ねるようになってからは妖艶さまで漂わせ始めた。
ふと、左目の淵にある小さなほくろに、自然と視線が吸い寄せられる。
そこに口づけようと唇を近づけるのとヨンファが瞳を閉じるのは、ほぼ同時だった。
胸を締めつけられるような愛おしさが込み上げてきて、瞼の上に触れるだけのキスをする。


ヨンファさえそばにいてくれれば、他には何もいらない。
彼がいない人生は、自分にとって何の意味もないからだ。
この幸せなひと時が未来永劫続くなら、それと引き替えにいっそ自分の命を捧げてもいい。
それを証明しろと言われれば、喜んで今ここでヨンファの足許に跪き、爪先に万感の思いを込めたキスをして、永遠の忠誠を誓おう。


愛おしむように頬を触れ合わせ、細い鼻梁に鼻先を擦りつけていると、ヨンファの微かな息遣いが伝わってきた。
キュッと口角の上がった柔らかい唇に引き寄せられるように、吐息ごとゆっくりと塞ぐ。
久しぶりに触れた唇は、少しひんやりとしていた。
腕の中で小さく身じろぎをしたヨンファを抱き竦めたまま、薄く開いた歯列の隙間から忍び込めばぞくりとするほど甘く、先ほど飲んでいたリシャールの香りをほんのりと感じつつ深く奥へと侵入する。
やがてヨンファも応え始め、おずおずと舌を絡ませながら、ジョンヒョンの首に細い両腕を交差するようにしがみついてきた。


「――っ、……ンッ……」


喉の奥から漏れ聞こえる声が耳に届いた瞬間、強烈な飢餓感に襲われて、何度も角度を変えて唇を重ね合う。
微かに喘ぐ肩を手のひらで包み込み、アルコールのせいだけではなく火照った口腔内を舌先で隈なく探り当てた。
ジョンヒョンの頭を掻き抱くように、首に絡みついた腕に一層引き寄せられて、求められるままに濃厚な口づけを繰り返す。
一度触れてしまうとどうしても歯止めが利かなくなってしまうため、徐々に深まっていくのを抑えて、名残惜しい気分で軽く啄むものに切り替えた。


「この間は言い過ぎた。ヨンファの気持ちも考えず、一方的だった。すまない」


長く続いたキスのあと、正直な気持ちを伝えると、ジョンヒョンの肩に顎を乗せていたヨンファが弾かれたように顔を上げる。
あまり気の利いたことが言えないたちだが、このタイミングを逃してはいけないような気がした。
ジョンヒョンの言葉が思いも寄らなかったのか、ヨンファは驚いたような顔をして、「そんなこと……」と首を横に振る。
伏し目がちな表情を眺めながら、すでに水に流してくれていたことを知った。


「俺の方こそ、感情的になってひどい言い方をした。ごめん……」
「いや、ヨンファが謝ることはない。気をつけたいとは思っているんだが、俺は言葉が足りないし、寛容でもない。もし気に障るようなことがあれば、その都度、言ってくれないか?」


何度も瞬きながら小さく呟いた声に続いて、ジョンヒョンは畳みかけるように心情を吐露した。
どうやら自分はこういった色恋沙汰には不器用で、無骨だという自覚はある。
喜ばせるような言葉も与えてやれないし、口下手だと分かっているので、思わぬ誤解が生じてヨンファを不安な気持ちにだけはさせたくなかった。
呆然とジョンヒョンを見たあとでぐっと唇を噛んだヨンファは、思い切ったようにぼそりと言う。


「あの日から、ずっと考えていたんだ。……ヒョニのことばかり。それなのに、結局、連絡できなかった」
「……ヨンファ」


思いがけない台詞に、すぐには言葉が見つからなかった。
だが、ヨンファは別段気にした様子もなく、さらに続ける。


「俺もあまりマメじゃないし、こういうのは慣れていないから、どうしていいか分からない時がある。でも、これからは思ったことをできるだけ口にしていこうと思う」


ヨンファはたったひとつでも自分の方が年上だからという気持ちが強いのか、あまり素直に甘える方ではないし、本心を見せることも少ない。
恋人同士で親密な仲だからこそ、もっと厚かましくジョンヒョンを振り回してもいいのに、どこか遠慮がちで一歩引いたところがあるのだ。
滅多に自分の気持ちを言ってくれないヨンファからごく自然に本音を明かされ、正直驚いた。


すると、言い終えて数秒逡巡したかと思うと、照れたようにジョンヒョンの肩口に額をくっつけて擦り寄ってくる。
まるで、気恥ずかしくて顔を見られたくないと言わんばかりに。
予想すらしていなかった行動に、ジョンヒョンは胸をつかれた。
ヨンファがこんなふうに素直になるのは、間違いなく自分の前だけだろう。
最愛の人を大切にしたい。守り抜きたい。傷つけたくない。
次から次へと堰を切ったように胸の奥から迸ったのは、溢れんばかりの愛おしさだった。


確固たる意志に基づき、凛とした真っすぐな芯の強さと誇り高き姿は目を瞠るものがあり、信念や矜持を曲げずに貫き通す姿勢がジョンヒョンを惹きつけてやまない。
数えきれないほどの人間が存在するこの世の中で、自分を選んでくれたことに無上の喜びを感じる。
ヨンファと五年ぶりに再会するまでは、こんな日々を送れるなんて夢にも思っていなかった。


「なあ、顔を見せてくれないか?」


伸ばした指先でなめらかな頬のラインをなぞれば、観念したようにジョンヒョンの肩から離れる。
みっともないと思っているのか、ばつの悪そうな顔は悪戯が見つかった子供を彷彿とさせた。
さりげなくしているつもりかもしれないが、目を逸らしたまま耳まで赤くしている恋人を見るのは初めてで、胸に温かいものが広がっていく。
親指でふっくらとした唇に触れるとようやく視線を合わせ、目許を和らげたジョンヒョンに気づいたヨンファは困ったように瞬いた。


「今さらだが、なんでここに?」
「なかなか戻ってこないから、何かトラブルでもあったのかと思ってな。急ぎの電話だったのか?」
「ああ、前の病院の看護師からだ。俺がかつて担当していた患者の件で、取り敢えず解決したと思う」


どこか肩の荷が下りたような表情に、若干疲労の色が見え隠れしている。
様々なことが目まぐるしくその身に降りかかったのだから、さすがに気疲れしたのだろう。
にもかかわらず、全身から放たれている輝きは少しも色褪せることはなかった。
医師の仕事しかやったことがないのに、何もそこまでと思ってしまう。
困っている人間を放っておけないのがいかにも生真面目なヨンファらしくて、そんなところにも魅了される。
心を通わせて得たものは、計り知れないほど大きいからこそ誰にも奪われたくないし、手放すつもりもないのだ。


「髪の毛一本たりとも渡さない。アイツにも、他の誰にも」


いきなり嫉妬という名の醜い感情が湧き上がってきて、考えるより先に言葉が口をついて出ていた。
端的で直前の会話とまったく脈絡がないのに、ジョンヒョンの言わんとすることや、『アイツ』という人称代名詞がジョンシンを指しているのを瞬時に察したらしい。
どこか戸惑っているふうのヨンファは、一瞬、何かに怯えたような瞳でこちらを見てきた。


「俺が怖いか?」


ジョンヒョンは持ち前の低音で、半ば自嘲気味に問いかけてみる。
完全に消えることがない独占欲や執着心は、如何ともし難いのだ。
嫌かもしれないが、嫉妬深い男を恋人にした結果なのだと、これはもう諦めてもらうしかないと思っている。


「――そう感じる時もあるが……、俺の前だけだと、自惚れていいんだろう?」


ヨンファの口から思いも寄らない言葉が返ってきて、ジョンヒョンは瞠目したまますぐには声が出なかった。
多少は咎められても仕方がないと、踏んでいたのだ。
真っすぐに向けられた温かな眼差しには迷いが感じられず、懐の深い彼の想いが滲み出ている。
まさに、心臓を素手で鷲掴みされたような衝撃で、反対に驚かされたのはジョンヒョンの方だった。
まるで面と向かって、「愛している」と告げられたような気分だ。


「もちろん、ヨンファだけだ。俺が本気なのは」
「それならいい」


時に男気があるというか、見た目に反して、自分よりも余程男らしいと感じることがある。
ヨンファの心境に、どういう変化があったのかは分からない。
ただ、ありのままのジョンヒョンを受け入れようとしてくれているのが、言動の端々からはっきりと伝わってきた。
ヨンファと一緒に過ごせる時間をもっと増やしたい。不意にそう思った。
くすぐったいような感覚に柄にもなく照れてしまい、嬉しさが込み上げてくるのを何とか隠そうと、ヨンファからわずかに視線を外した時だった。


甘い吐息をほのかに感じ取ったのと同時に首筋を引き寄せられて、ヨンファの方から柔らかく唇を押し当てる。
少し伸び上がるような体勢で重ね合わせ、軽く舌を絡めただけの短いキスだが、ジョンヒョンを本気にさせるには十分だった。
即座に離れた唇を追いかけ、引き戻すように顎を捉えれば、何かを察知したヨンファは狼狽えたような声を出す。


「ヒョ、ニ……」


それが合図となり、反射的にしなやかな肢体を抱き締めながら、無防備な唇を奪った。


「……っん、……ぅ……」


噛みつくような荒っぽいキスを仕掛けると、激しさに気圧されたらしく、ジョンヒョンの胸板に縋りついて身を震わせる。
音を立てて深まる口づけに、ヨンファの息が上がりかけているのに気づいていたが、まだ離したくなかった。
予期せぬ不意打ちに箍が外れ、自分でも驚くほどいつになく余裕を失っていたのだ。
濡れた舌同士が蕩けそうなほど絡まり合い、甘美な唇を思う存分貪ると、腕の中に閉じ込めた状態で細い顎から首筋のなめらかなラインに沿ってキスの雨を降らしていく。
痕を残さないように優しく吸いつき、華奢な喉許に軽く歯を立てた途端、ヨンファは白い喉を仰け反らせた。


「――あ、……ん、……っ」


甘く掠れた声を漏らしながらよろめく身体を、ジョンヒョンは両腕でしっかりと支えた。
素直すぎる反応が、何とも言えずなまめかしい。
これだけでは、全然足りない。
少しでも触ろうものなら、絡みついてすべてを焼き尽くそうとするヨンファの熱を全身で感じながら、ひたすら愉悦の波に溺れていたい。
そして、繊細な美貌をもっともっと乱れさせたい、という衝動に駆られた。
扇情的で魅惑的な表情にひどく煽られた気分になり、ジョンヒョンの焦れるような欲望が頭を擡げてくる。
なけなしの理性は呆気なく崩壊して、興奮を抑えきれない。
掻き抱くようにしがみつかれ、ヨンファを片腕できつく抱き返しながら細い腰のラインを手のひらで探るように撫で下ろしているうちに、どうにも我慢できなくなった。


「今すぐ抱きたい」
「………っ!」


鼻先同士が触れそうな至近距離から性急に求めると、息を凝らす気配がする。
今にもこぼれ落ちそうな大きな双眸をいっぱいに見開いたヨンファの白い顔に、さっと朱が差した。
少し潤んだような瞳を気恥ずかしそうに伏せて、落ち着かない様子で視線を泳がせている。
ジョンヒョンのレジメンタルタイの結び目あたりを見つめ、長い睫毛を震わせている恋人はたとえようのないくらい艶めいていた。
どうしようもない愛おしさを覚え、ほっそりとした手に指を絡ませればギュッと強く握り返され、触れ合った箇所からヨンファの想いがしっかりと伝わってくる。


その時、ドア越しに、フロアの喧騒が漏れ聞こえた。
目の前のヨンファに夢中になるあまり、都合のいい耳は雑音を完全に遮断していたようだ。
いつ誰が入ってくるとも知れない場所でこれ以上の行為は危険だと、ジョンヒョンは冷静さを取り戻した。
さっと周囲に視線を巡らせて、壁掛け時計に目をやる。


「閉店まで一時間を切ってるな。お役御免になったら、マンションまで送ろう」


ふたりの間に生じていたわだかまりが綺麗さっぱり消えてなくなったから、このままヨンファをひとりで帰すつもりは毛頭ない。
そう思って提案したのだが、本人はやや迷うような仕草をしたあと、案じ顔でじっと見つめてきた。


「送るって……、ヒョニが、か?俺なら、ひとりで帰れる」
「俺以外に誰がいる。チルソン組の残党がうろついている可能性だってあるんだぞ。極力、ひとりにはならない方がいい」
「でも、まだ仕事が残っているんじゃないのか?」
「全員かなり飲んでいるから、今さら事務所に戻ろうってことにはならないはずだ。ここで解散だろう」


ヨンファはいつも自分のことよりも、ジョンヒョンの都合を優先させる。
昔から誰かに頼ろうとはせず、ひとりでやり遂げようとする人なので、組の中での立場を考慮して何かにつけ気遣ってくれるのだ。
大事にされているんだろうなと面映ゆくなったが、だからこそ、ここで引き下がるわけにはいかなかった。


「そう……なのか」
「まさか断るつもりじゃないだろうな。聞く耳は持たんぞ」


さりげない優しさに気をよくしたのと少し浮かれた思いもあって、選択の余地すら与えず涼しい顔で一方的に言い切ると、ヨンファはふわりと花がほころぶように柔らかい笑みを見せた。
その自然な表情があまりにも眩しくて、ジョンヒョンはじわりと目を眇める。
返事を催促するようにヨンファの手首を握り込んで、綺麗な指先にそっと口づけた。


「断るはずがないだろう。……ありがとう」


嬉しそうな顔ではにかむヨンファは何とも魅力的で、胸の奥が温かいもので満たされる。
こんな些細なことさえ、どれだけこちらの心が雁字搦めに囚われてしまうか、本人はまったく気づいていないのだろう。
そういう計算すらしない素の部分もヨンファらしいなと思いながら、ジョンヒョンはわずかに口許を緩めた。





To be continued





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています♡バナーを押していただけると、励みになります♡♡
スポンサーサイト



haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(6)

There are no comments yet.

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/20 (Wed) 06:56
haru

haru

t*******さん

こんばんは♡

ところどころクサすぎてドン引きされると思っていただけに、ニヤニヤしてもらって良かったです♪
他の話の続きを書くかもしれないので、よかったらこの二人の先をいろいろ妄想してやって下さい。

t*******さんの方こそ、地震の影響はなかったですか?お陰様で、こちらは大丈夫でした。
ただ、大阪には私の姉が住んでいるのでメールすると、「人生最大の地震」って返事がきました。
かなり揺れたみたいですが、至って元気そうでしたよ。
南海トラフ地震の前兆の可能性があるらしいので、かなり恐怖です。

雨で気温が下がったりして体調を崩しやすい時期ですが、お互い気をつけましょうね(*´ω`*)

2018/06/20 (Wed) 20:36

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/21 (Thu) 05:50
haru

haru

t***さん

こんばんは♡ はじめまして♪
コメント、どうもありがとうございます。

いつも読んで下さっているとのことで、嬉しいです。
身に余るお言葉をたくさんいただきまして、とても恐縮しております。
極道パロ、楽しんでいただけて良かったです。
ヨンとバニが仲直りするシーンまで到達したので、気分を変えるために、「Manito」の続きに取りかかり始めました。
こちらはあと数話で完結できると思います。
力不足ではありますが、思い浮かんだものを形にしていきますので、いつでも覗きにいらっしゃって下さいね(*´ω`*)

2018/06/21 (Thu) 23:08

-

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2018/06/24 (Sun) 19:47
haru

haru

は*さん

こんばんは♡

随分と時間がかかってしまいましたが、一気に形にしようと思っていた仲直りのシーンまで何とか書けました。
は*さんにそんな風に言ってもらって、すごく嬉しいです♪
本当にヨンファは表情一つで人々を魅了しますよね。
日頃、彼に対して感じていることが、バニ視点になると一気に噴き出てしまいます。
ヨンファのすべてが愛おしくて仕方がないです。
6/22のハートのツイートはいかにも彼らしいなと思うし、ジョンシンとミニョクのヨン愛も嬉しいですね。
こういう何気ないことに、心がほんのりと温かくなります。
平凡な日常ですが、私は家族が元気で、話を書いている今がとても幸せです。
年中、春風のようなは*さんもお忙しいながら、とても充実した日々を送っていらっしゃるのでしょうね。
温かいお言葉が心に沁みます。どうもありがとうございます♡

ところで、発熱で寝込まれているそうですが、大丈夫ですか?
朝晩、気温が低かったですものね。
すでにこちらは兆候が現われていますが、明日からは蒸し暑い日になるようです。
少しでも早く回復されますように、お祈りしております(*´ω`*)

2018/06/24 (Sun) 21:37