CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Valentine Kiss

2016年03月09日
DESTINY 0


『DESTINY』 番外編



「ヨンファ、何してんだよ。早くっ」


タクシーを降りたジョンシンは、目の前の店に入ろうとしたところで、立ち止まったまま動こうとしないヨンファに痺れを切らして、声をかけた。


「いいか、ジョンシナ。二人の話に乗せられるなよ」
「何だ、それ?」
「前回の時も、俺はしばらくの間、ホンギに冷やかされて大変だったんだ。今日も変なことは絶対に言うな」
「変なことってなんだよ。……あのな。二人は俺たちのことを知ってんだから、別にいいじゃないか」


ヨンファは男の自分と付き合っていることが余程後ろめたいのか、この手のことに関してナーバスだ。
立場上、それはジョンシンも同じで、訊かれもしないことを自ら吹聴するような趣味はないが、
もう少し普通にできないものだろうか。


ただでさえホンギは、ヨンファと付き合っていると、かつてジョンシンが勘違いしていたこともあり、
こちらとしては仲の良さを見せつけたいくらいなのに。
どうやらこの唐変木には、そんな切ない男の気持ちが分からないらしい。


「とにかく、揶揄いのネタを提供するなよ。普通に話をしろ。いいな」
「……………」


まったく賛同できないから返事をしないでいると、ヨンファはすたすたと先に店の中へと入って行った。






日曜日の夜、ジョンシンはヨンファとともに、明洞にある芸能人御用達の隠れ家的な雰囲気で有名な焼肉店を訪れた。


過去、仕事の打ち上げ等で共演者やスタッフと何度か足を運んだことはあるが、大小様々な個室はプライベート感があり、照明を暗めにしているから、落ち着いたムードを醸し出している。
芸能人がデートや合コン等で利用することも多いようだ。


店員に案内され、奥まった場所にある個室に入ると、今日誘ってくれた二人はすでに到着していた。


「お、やっと来たか。お疲れ」
「遅いぞー。待ちくたびれちまった」


奥の席にはヒチョルとホンギが並んで座っていて、片手を軽く上げて、声をかけてくる。


「遅くなって、すみません」
「お疲れ様です。打ち合わせが伸びてしまって、遅くなりました」
「堅苦しい挨拶はいいから」
「そうそう。俺らに気を使うことないって」


ヨンファに続いてジョンシンも挨拶をすると、ヒチョルとホンギがそれを制して、座るように促す。
二人の前に腰を下ろすと、ヒチョルが早速メニューを広げてきた。


「飲み物は、とりあえずビールでいいか?」


皆を見ながら訊いてくるヒチョルに、三人が肯定の返事をする。
その他にメインの肉や単品料理を適当に注文して、ジョンシンとヨンファは上着を脱いだ。


「四人で集まるのは、昨年の夏以来だな。どう?二人は上手くいってるか?」


冒頭からいきなりヒチョルの直球が飛んできて、ジョンシンが「ええ、まぁ…」と言葉を濁すと、隣のヨンファはぎこちない笑みを浮かべて、若干固まっていた。


どうしても同じグループで恋人同士という特殊な関係にあるため、ヨンファは自分たちのことを人に話したがらない。
理解を示してくれている者の前でも、公にすることに抵抗があるようだ。


「ヒチョルー、ヨンファはオープンにするのに、まだそんなに慣れてないんだって」
「へぇ。そういうとこ、見た目に反してるよな。もっと派手に遊んでるっぽいのに」
「いや、至って真面目ですから。ヒチョルヒョンやホンギのようにはモテないです」


ホンギとヒチョルにイジられ、笑いながら妙に可愛らしく畏まっているヨンファを見て、ジョンシンは正直、面白くはなかった。


―――そういう姿は、俺にだけ見せろっての。


程なくして、ビールジョッキと肉が運ばれてきて、それを腕の長いジョンシンがテーブルに置いていく。
全員仕事帰りで空腹だったため、すぐさま乾杯し、炭火の網の上で焼けていく肉を食べながら、ビールを飲むペースも自然と早くなった。


「ところで、ヨンファとジョンシナもちゃんとお互いに買ったのか?」
「え?」
「何をですか?」


ヒチョルの言う意味がよく分からなくて二人が訊き返すと、とんでもない台詞が飛び出した。


「バレンタインのチョコに決まってんじゃん。今日は2月14日だろ」


意味ありげにヒチョルがニヤリと笑うと、ジョッキに口をつけていたヨンファが見事に噎せた。
ゲホゲホと咳き込む背中を、ジョンシンがさすってやる。


「……ヒチョルヒョン、まさかと思いますけど、お二人は用意しているんですか?」


ジョンシンの問いに、二人はバッグの中から綺麗にラッピングされたチョコレートを出して見せてくる。


「そう。付き合いだしてから、毎年恒例なんだよ」
「なに、お前ら用意してないの?恋人たちの一大イベントなのにな」


まったく思いつきもしなかった。ホンギに指摘されても、いまいちピンとこない。
恋人になって一年近くになるが、ヨンファとは練習生時代から顔見知りだから、それまでの期間が結構長い。
互いの誕生日に贈り物をして、クリスマスプレゼントも交換し合ったが、バレンタインデーのチョコレートまでは考えも及ばなかった。


「はぁ…まぁ……」
「特に用意はしてないですね」


思わずヨンファと顔を見合すと、困ったような顔をして戸惑った声を出すので、ジョンシンがはっきりとした口調で答える。
形に拘らなくても想いは通じ合っているから、そういうことで相手を喜ばそうと考えたことすらなかった。
ヨンファは、それを一体どう思っているのだろうか。


「肝心なのはハートだから、物がなくてもいいんじゃねぇの?ホンギは形に拘るもんな」
「俺は絶対欲しいもん」
「ちょっとでも俺が忘れそうになると、どやされるからな。可愛い顔しておっかねぇのよ、コイツ」


ヒチョルとホンギは交際期間が自分たちよりも長い分、同性なのにまるで夫婦のような佇まいをしている。
二人とも見た目がいいからか、違和感はなく、不思議としっくりくる。
ヒチョルの方が随分年上だが、絶対にホンギの尻に敷かれてるなと、ジョンシンは分析しながら観察していた。


「まぁ、円満にいく秘訣は、とにかくジョンシナが浮気をしないことだな」


ビールを飲んでいた時に剛速球を投げられ、今度はジョンシンが思いきり噎せた。
咳き込みながらジョッキをテーブルに置くと、横からヨンファが同情したような顔で、おしぼりを差し出してくれる。


「何なんですか、それは!?相変わらずぶっ飛んでますね、ヒチョルヒョン。俺がするはずないでしょう!」
「いやぁ、そうマジに取るなよ。お前、デカい分、怒ると迫力があるんだよなー」


ジョンシンとヒチョルは所属事務所が違うし、一見接点がないようだが、ファッション関連の仕事の時に一緒になることがある。
ヨンファとホンギには口が裂けても言えないが、休憩時間の時など、お互いのパートナーの話になって、のろけ話に花を咲かせたものだ。


しかも、所謂、夜の営みについてもだ。
ヒチョルはさすがに経験豊富で、ジョンシンの知らなかったことをいろいろと教えてくれた。
ホンギを相手に四十八手を全制覇したと聞いた時は、あまりのすごさに二人で大爆笑した。
卓越しすぎて、尊敬の念すら抱いてしまう。


ヨンファにもやってみろと勧められて、密かにいくつか試したことは、絶対に本人には内緒だ。
もしバレたら、「向こう一ヶ月はHなし」とか言われそうだなと、チラリと横を見ると、考えていることが分かるはずがないのに、ヨンファに不審げな顔をされてしまった。


「大丈夫だって、ヒチョル。ジョンシナのヨンファへの愛は、東海よりも深いんだからな。浮気なんて絶対しないって。そもそもヨンファが許すはずがないもんな。姉さん女房だし」
「……ホンギ、ちょっと飲み過ぎだぞ」


もう一人のぶっ飛びキャラのホンギが参戦すると、だんだんと雲行きが怪しくなってきた。
ヨンファはその手の話題が苦手なので、あまりいい気はしていないだろう。
現にかなり目が据わっているように見えるが、酒が入っているヒチョルとホンギは気づいていないようだった。


「あとは、ジョンシナがヨンファを満足させてやることだな」
「………っ」
「ヒチョルヒョンっ」


ヒチョルの発言に、首まで真っ赤にして押し黙るヨンファを見ながら、ジョンシンが低い声で釘を刺す。
あまりにストレートすぎる内容は自分だけならまだいいが、ヨンファには聞かせたくなかった。


「それも心配はいらねぇな。だって、以前トイレで一緒になった時、こいつのサイズ、通常でもすごかったぞ」
「いつ見たんですかっ」


今度はホンギから耳を疑うような言葉が飛び出し、ジョンシンは倒れそうになった。
二人は言動が自由奔放すぎて似た者同士だから、お互いに惹かれ合っているということがよく分かった。


「……これ以上悪乗りしたら、マジで切れるぞ、ホンギ」


ヨンファの怒りを抑えた声で、部屋中に一瞬微妙な空気が流れる。
明らかに室温が下がったと思うほどの冷たい視線をヨンファから向けられて、ホンギは何とか親友を宥めようとした。


「ヨンファ、怒るなよぉ。酒の席でのジョークだって」


ヒチョルを見ると、三人のやり取りで、転げまわるほど大爆笑していた。


「もともとはヒチョルが発端なのに、俺だけ叱られるって不公平すぎるだろ」
「拗ねるなよ、ホンギ」


ヒチョルは苦笑しながらホンギの肩を抱き寄せると、頬にチュッとキスをした。
すると、ホンギもお返しとばかりに、ガバッとヒチョルに抱きつき、唇に触れるだけのキスをする。
それを目の前で見せつけられたジョンシンとヨンファは、いきなり始まったイチャイチャ展開に、完全に固まってしまった。


「お前らもしたかったら、していいんだぞ」
「いいえ、結構です」


恐ろしいことを言ってくるヒチョルにヨンファが速攻で拒否したことに、ジョンシンはややカチンときた。
どんな反応をするのか見たいという好奇心もあり、あとのことは考えず実行に移す。


「じゃあ、遠慮なく……」


ヨンファの顎を捕えてこちらに向かせると、ジョンシンはその唇に啄むようなキスをした。


「な、な、何なんだっ、お前はっっ」


顔を真っ赤にして怒るヨンファを可愛いと思いつつ、目の前に視線を向けると、ヒチョルとホンギは一瞬固まり、その後、二人で手を叩きながら大笑いをしだした。


「ウケる~ジョンシナ。さすが俺の弟だぜ」
「ホンギの弟ってことは、俺の弟でもあるな。仲良くしようぜ兄弟」


二人が笑いながらジョッキを掲げるのに、ジョンシンもそれに合わせて再び乾杯をすると、ヨンファ一人だけドン引き状態だった。


「いい彼氏を持って幸せだな」
「そうそう。大事にしないとバチが当たるぞ、ヨンファ」
「……………」


頬を引き攣らせて、冷ややかな表情を浮かべているヨンファにわざと気づかない振りをして、ジョンシンは網の空いたスペースに肉を並べていく。
焼けた先から口に運んでいく二人に遅れて食べていると、相変わらず横からの刺すような視線が痛かったが、人前だろうと、ヨンファの柔らかい唇を一瞬でも堪能できたのは儲けものだ。


「あとで覚えてろよ。ジョンシナ…」という、ヨンファの恐ろしい声が聞こえてきそうだが、構うものかと開き直っていた。










店を出る頃には、時刻は午後11時を回っていて、ヒチョルのマネージャーがワンボックスカーで迎えに来てくれた。


「ジョンシナは今日、ヨンファのところに泊まるんだよな」
「えっと……」


突然、前に座っているホンギに言われて、特に約束はしていなかったから、訂正しようとすると、一瞬早くヒチョルが運転するマネージャーに行き先を告げた。
隣に座っているヨンファを見ると、外に視線を向けたまま何も言わないので、取り敢えず成り行きに任せることにする。


15分ほどでヨンファのマンションに到着した。
三人に礼を言い、先に車から降りたヨンファのあとに続こうとしたジョンシンに、ホンギが「上手くやれよ」とボソッと呟いたのに、軽くハイタッチで応えた。










車が去るなり大股で歩きだしたヨンファは、ジョンシンに見向きもしない。
先程のことで完全に機嫌を損ねているのは、明白だった。


「……ヨンファ」


名前を呼んでも、ヨンファは待ってくれず、マンションのエントランスをすたすたと一人で歩いて行く。
足を速めて、ジョンシンはエレベーターの前でようやく追いついた。
部屋の鍵を開けて中に入るヨンファのあとを追い、ようやくジョンシンは口を開く。


「さっきから、何に臍を曲げてるんだ?」
「何って、そんなこと分かりきってるだろっ。人前であんなことすんなよっ」


やはりヨンファは、二人の前でキスをしたことに相当憤慨していた。


「また、その話か。人前って言ったって、あの二人は俺たちのことを知ってるし、祝福してくれてるじゃないか」
「だからって、何もあそこまでする必要はないっ」
「まぁ…酒の席だったし、その場のノリって言うか……。オープンにできないからこそ、せめて俺たちの仲を理解してくれてる人の前では自然でいたい。それがそんなにおかしいことなのか?」


思わず眉間に皺を寄せたジョンシンの視線から逃れるように、ヨンファは下を向いた。


「……お前、本当はホンギみたいに素直で可愛いタイプがいいんだろ」
「へ?」
「自然にできない意気地なしで悪かったな」
「今度は一体何を言い出すんだよ。そんなこと、俺は一言も言ってないだろうが」


変な方向に傾き始めた予想外の台詞に、唖然とするしかない。
ジョンシンが呆れたような声を出すと、ヨンファは自分でも子供じみた発言をしたと思ったのか、
数秒間置いて、気まずいような表情でジョンシンを見る。


「ホンギは俺と違って自分の気持ちに正直だし、チョコだって立派なのを用意してたし……」
「ああ。あれはマジでびっくりしたな。バレンタインって女から男にチョコを渡す日だろ。男から男にってのは考えたことすらなかった」
「……………」


ジョンシンがそう呟くと、何故かヨンファの顔が少し強張ったように見えた。


「……ジョンシナのことだから、昔は女の子からたくさんチョコを貰ったんじゃないのか?」
「まぁ…そこそこはな」
「そこそこってどのくらい?」


めずらしくヨンファが執拗に尋ねてくる。


「学年を問わずだったし、他校生の子からも貰ったことはあるな」


自分の容姿が整っていることはある程度自覚しているし、中高生の時、モテていたのは事実だ。
学年に関わらず学校の至るところで渡されたり、机の中や下駄箱にも入っていたことがある。
また、登下校中に駅などで待ち伏せされて、他校生の女の子から差し出された時は驚きもした。
練習生になるまでは入れ食い状態で、女に不自由したことはなかった。


「……へぇ」


ヨンファがいつになく冷ややかな視線を投げつけてきた。
そこで初めて、自分が促されるままにペラペラと馬鹿正直に喋って、墓穴を掘っていたことに気づく。


「でも、ヨンファも結構貰っていただろ?」
「お前ほどじゃないよ」


芸能事務所に所属することが決まった時点で、これまでのように自由奔放に恋愛を楽しむつもりはまったくなく、ファンを除くと、あの頃が自分にとってのモテ期のピークだったように思う。


確かに過去、いろいろな女性と付き合って、かなり派手に遊んでいたのは否定しないが、ヨンファと出会ってからすっかり生き方が変わった。
自分にとって、今までにないほどの大切な存在ができたのだ。


「シャワーを浴びてくる」


突然、ヨンファが不機嫌そうな顔つきで無理矢理話を切り上げ、バスルームへと消えた。
機嫌を損ねてしまったのだろうか。
こういった些細な行き違いは日常的にあるが、今日のヨンファの表情や声には、いつもと違ってどこか噛み合わないものを感じた。


大きく溜息をつくと、ジョンシンは腰を落ち着けてコーヒーでも飲もうと思い立ち、キッチンで二人分のコーヒーを淹れることにした。
コーヒーメーカーにフィルターをセットしているところに、突然、着信音が鳴り響いた。


音でヨンファのスマホだと分かり、ソファーの上に置きっぱなしにしていたヨンファのバッグを見る。
もしかしたら、マネージャーからの電話かもしれないと思い、出るつもりはないが、分かりやすいように取り敢えずバッグからスマホを出してやる。


すると、中にコンビニの袋が無造作に突っ込んであるのを見つけた。
ヨンファは顔に似合わず無頓着なところがあり、いつまでたっても不要なものを捨てずに入れたままにしておく悪い癖がある。
単なる面倒くさがりなのだろうが、ジョンシンはこういうのを見つけるとスルーできなかった。


袋を持ち上げた瞬間に分かったが、中を見ると案の定、ほとんど空に近いペットボトルがあった。
「やっぱりか…」と思いつつ袋から出すと、一緒に薄っぺらい箱のチョコレートが入っているのに気づく。
スーパーやコンビニでよく見かける類のものだ。


「なんだ、これ?」


ヨンファは普通に甘いものを食べるが、あまりチョコレートを口にするところを見たことがない。
自分用に買ったのか、それとも誰かに貰ったのだろうか?






「上がったぞ……。あ、何してんだよ…っ」
「……悪い。スマホが鳴ってたからバッグから出したんだけど、ゴミぐらいちゃんと捨てとけよ」


ヨンファがちょうどシャワーを浴びて出てきたところで見つかってしまい、理由を話すと、慌ててジョンシンから自分のバッグを奪い取る。
どこか様子がおかしい。ヨンファは明らかに焦った顔つきをしていた。


「そのチョコ、どうしたんだ?」


追究するジョンシンの視線の先で、ヨンファが少しだけ視線を泳がせた。
何かあることは、彼の固まった顔を見ればすぐに分かる。
ヨンファに違和感を覚えた原因はこれなのではと、勘の鋭いジョンシンは思い当たった。


「自分用に買ったんだよ。疲れたらたまに甘いもんが食べたくなるから」


ぎこちなく逸らされた瞳から、それが嘘だということは間違いなかった。
しかも、よく見ると耳がほんのりと赤くなっている。


「なぁ…それ一人で食べるのか?」
「……そうだよ」


コンビニで菓子類を買うと、大抵は二人で分け合って食べることが多い。
もしかしたら、自分に渡そうとしてくれたか、一緒に食べようと買ってきたものでは……。


その結論に達して、呆然としているジョンシンの前で、ヨンファはチョコレートをそそくさとバッグにしまい込む。
いつもより頼りなく見える背中が、愛しくて堪らなくなった。
思いがけない出来事に、息をするのも苦しくなる。


ヨンファは決して計算をしているわけではなく、いつもジョンシンの思惑の上を行く。
前触れもなく、こんなにも自分を喜ばせて幸せにしてくれるのは、彼をおいて他にはいない。


「……ヨンファ」


立ち尽くしているヨンファを後ろから抱き締めると、温かい背中がビクンと大きく震えた。
男同士でチョコレートを渡すことに驚愕したジョンシンに、前もって購入していたことを知られて、気まずく思っているのだろう。


「ごめん。ありがとうな」
「……ん」


ようやく小さい声が返ってきた。
思ってもみなかったヨンファの行動に、震えるほどの喜びを感じる。
飾らない彼のことだから、きっと一緒に食べようと、あまり深く考えずに買ってきたのかもしれないが、それでも嬉しい。


だからこそ余計に、言葉が足りなかった自分をジョンシンは心底悔やんだ。
それほどまでに、自分のことを想ってくれているのかと思うと、胸が締めつけられそうになった。
横を向いて逃れようとする身体を逃すまいと、ジョンシンは手に力を込める。


「ヨンファ、こっち向いて」


身体を反転させて向かい合うが、こちらを見ようとせずヨンファが目を伏せる。
長い睫毛が白い頬に陰影を落とし、憂いを帯びた表情は本当に綺麗で、ジョンシンの心はそれだけで乱される。
その最愛の人を自分の胸にしっかりと抱き込み、そっと背中を撫でた。


「すごく嬉しいよ」


誰よりも愛おしい存在をこの手にして、ジョンシンは魂が震えるほどの幸福感に満たされる。
堪らなくなって、目の前の綺麗な瞳を覗き込んで、そっと優しい口づけを落とした。
一度触れると止まらなくなり、謝罪の気持ちを込めて、何度もキスを繰り返す。
啄むような口づけが次第に熱を帯びてきそうになり、ようやく唇を離すと、ヨンファはぎこちなく視線を逸らせた。


「……男から貰うのは嫌なんだろ?」
「それは一般論であって、ヨンファが渡してくれるものなら、何でも嬉しいに決まってる」
「でも、俺はヒチョルヒョンとホンギの前ですら、普通に振る舞えないんだ。お前はいつも自然体でいてくれるのに、俺はそんな簡単なことも照れてしまってできない。お前のことを愛してるのに……」


必死に言葉を紡ぐヨンファに、言葉にできないくらい切なさが込み上げてきて、ジョンシンは心臓がどうにかなりそうだった。


「真っ直ぐで、誤魔化したり嘘がつけないヨンファだから、俺は好きになったんだ」


ヨンファは一瞬目を瞠り、上目遣いでジョンシンを見上げる。
黒目がちの大きな瞳は美しく澄んでいて、初めて出会った時からこの瞳に囚われてしまい、気づいたらすっかり溺れていた。
その視線を、ジョンシンはしっかりと受け止める。


「でも、俺は……」
「“でも”って言うな。俺は今のヨンファがいいんだ。ずっとこのままでいてくれ。心から愛してるよ」
「……ジョンシナ。俺も生涯、お前だけだ」


力強く言い切ったヨンファに、幸せすぎて言葉が見つからない。
ジョンシンは再びヨンファを抱き締め、目を閉じて、まだ少し湿っている髪に顔を埋めた。
腕の中の存在が愛しすぎて、胸が潰れそうになる。
こんなに正直で純粋で、見た目に反して品行方正で真面目で。


ヨンファと巡り会えたことは、奇跡に近いと思っている。
ましてや、気持ちを受け入れてくれてパートナーになれるなんて、未だに信じられない時がある。


ヨンファがゆっくりと動き、見つめ合うだけで互いに笑みが零れた。
愛おしむように頬に触れられ、そのほっそりとしたきめ細かな手にジョンシンが手を重ねるだけで、心が満たされる。
数えきれないほど想いを言葉にして、身体を繋げているのに、何度ヨンファに恋をすればいいのだろうか。


想いが通じ合って、もうじき一年になる。
先月、ヨンファとオフが重なった時に、一緒にジョンシンの実家へ行き、ようやく家族に紹介することができた。


『もう一人、息子ができたようだわ』


そう言って微笑む母親に、父親と兄も同調してくれた。
ヨンファは言葉に詰まって、そして、涙は出ていなかったが、泣いているように見えた。


恋人として付き合い始め、今まで知らなかったヨンファのいろんな内面に触れ、知れば知るほどジョンシンは 『彼と一生添い遂げたい』 と真剣に考えるようになった。
ヨンファの承諾が得られれば、すぐにでも家族の前でパートナーとして正式に紹介したいと、ずっと考えていた。


それが実現して、今までにないほど身の引き締まる思いがした。
まだヨンファの両親には挨拶をしていなかったが、ジョンシンにとっては、自分の家族に受け入れてもらえたことが何よりも嬉しい。


男女のように結婚式を挙げたり、同じ戸籍に入ることは不可能だから、形式的な確約や保証はない。
それでも、この大切な存在を一生かけて守る覚悟ができたから、家族に自分たちの生き方を認めてもらえたことを、心から感謝している。


何があっても、自分からこの手を離すことはないと断言できる。
そして、ヨンファとの関係がこれからも揺るぎないものだということを証明し続けていくのだ。






「一緒に食べようか」


ジョンシンが提案すると、ヨンファが頷いてバッグからチョコレートを取り出した。
普通によく売られているチョコレートなのに、ヨンファが用意してくれたものだと思うと、特別なもののように感じる。


綺麗にラッピングされたものではなく、こういう飾り気のない方が自分たちらしいと常日頃から思っている。
初めからすぐ恋人になったわけじゃなく、出会ってから六年近くを経て、ようやく今の形になったのだ。


一緒に共同生活を送っていたため、本当の家族同様にお互いのことを知り尽くしているし、遠慮もない。
その間は様々なことがあり、苦楽をともにしてきた。
今更、上辺を取り繕う必要はまったくないから、これが自分たちには合っているに違いない。


「ヨンファ、食わせて」
「待って」


ソファーに並んで座り、箱を開いて銀紙を破ると、ヨンファが「あっ」と声を出した。


「これ普通のチョコじゃない」
「いいよ、何でも」


同じ形のチョコレートがいくつも入っていて、その一つを口許へ持ってきてくれたが、ジョンシンは首を横に振る。


「違う。口移しで」


ヨンファは一瞬驚いた顔をしたが、素直にチョコレートの端を唇に挟んで、目の前まで近づいてくる。
反対側をジョンシンが口に含んだのを確認して、ヨンファが顔を離そうとしたが、それを許さず、頭を引き寄せて深く唇を合わせた。


ジョンシンがチョコレートを噛むと、濃くて甘いカカオの味が二人の熱い舌に蕩けて、中のアルコールが口いっぱいに広がった。


「これ、ブランデーか?」
「ごめん。マネを車で待たせてたから、よく見ないまま買ったみたいだ」
「いいよ。この方が美味い」


決して酒に弱いわけではないのに、チョコレートを口にしているだけで、だんだんと気持ちが高ぶってきた。


「今度は俺の番な」


ジョンシンが一欠片を口に含み、柔らかくなったのを確かめてから、ヨンファに口移しで甘く香るものを送り込む。
二人が舌を絡ませ合うと、カカオとブランデーの香りが再び鼻腔を擽った。
それは、まるで媚薬のように舌を刺激し、酩酊した気分にさせ、いつしか身体の中に覚えのある熱が灯り始める。


「甘くて、癖になりそうだな。止まんなくなった」
「ジョンシナ、もっと欲しい……」


ひとたびスイッチが入ると、ヨンファは別人になる。
それまでガチガチの鎧に身を固めていたのが嘘みたいに取り払われ、妖艶な雰囲気を纏ったもう一つの顔が現れる。
チョコレートを口にしたジョンシンにヨンファがしな垂れかかってきて、そのまま唇を重ねてきた。


「んっ……」


ヨンファはジョンシンの口中で蕩けているそれを奪うように舌を絡め、いつも以上の甘いキスに、頭の中が痺れたようになる。
もう二人とも我慢ができなかった。
ジョンシンはベッドルームに行くまでの時間を惜しみ、黒いローテーブルを横に移動させる。
唇を重ねながら毛足の長い黒いラグマットにヨンファを横たえて、本格的に圧し掛かっていった。


チョコレートの香りにむせ返るリビングで、濃密な空気が揺らめき、吐息と衣擦れの音が響く。
ヨンファからトレーナーを奪い去り、チョコレートが無くなるとまた二人で一つを分け合い、一緒に舐め合うごとにどんどん息が乱れてくる。


胸の尖りを口に含むとヨンファが悩ましげに腰を揺らし、乳首にチョコレートが付着したのを目にして、ジョンシンはいつも以上に興奮する。


「今、綺麗にしてやるから……」


ぷっくりと自己主張しているそれを、硬く尖らせた舌先で押し潰すようにジョンシンが舐めると、堪らないと言わんばかりに身体を大きく震わせる。


「あっ、あっ」


可愛い声に我慢できなくなり、しつこいくらいに吸ったり軽く歯を立てて、ヨンファをぐずぐずになるまで啼かせてやると、ギュッと肩にしがみついてきた。


「ジョ……シナ……」
「ん?」


甘い吐息を漏らしながら名前を呼ばれて顔を上げると、上気した頬と潤んだ瞳がますますジョンシンをそそる。


「お前も脱いで……」


ジョンシンは、「ああ…」と低い声で呟いて身を起こすと、着ていた服をすべて脱ぎ捨てて、ヨンファに覆い被さった。










「あっ……はぁっ……」


ヨンファの寝室に、持ち主の濡れた声と、ベッドの軋む音が響き渡る。
場所を変え、ベッドに寝そべったジョンシンの上に後ろ向きに乗り、
腰を淫らに動かしながら快感を貪っているヨンファは、眩暈を起こしそうなくらい美しい。
背中の綺麗なラインと、濡れた音を立てながら上下する形のいいヒップラインに、自然と目が釘付けになる。


「こんなに締めつけて、そんなに美味しい?」


後ろから囁いてやると、ジョンシンの台詞に煽られたのか、キュッと中の粘膜が絡みついてきた。
互いに一度吐精すると、今度はじっくりと時間をかけていろんな体位で楽しみ、とことん味わい尽くすまで二人が離れることはない。


「チョコよりこっちの方が好きだろ?」
「……ンッ…あ……」


下から勢いをつけてヨンファのいいところを狙って突いてやると、切なそうな声を上げて揺さぶられるがまま仰け反った。
その官能的な姿はジョンシンにゾクゾクとした喜びを与え、下手をすると視姦だけで達しそうになる。
いつものクールで凛としたヨンファは、もうどこにもいない。


一緒に愉悦を追い求め、白くしなやかな肢体が快楽に溺れるさまを、惜しげもなく見せつける美しい生きもの。
信じられないほどの艶やかな妖しさを醸しだし、普段との激しい落差に翻弄される。
思わず跪いて足許にキスをしたくなるくらい、ジョンシンの身も心もすべてその虜になっていた。


新たな刺激を求めて、ジョンシンは自身を一旦抜いて身体を起こすと、ヨンファをベッドに横たえる。
背中に口づけを落とすと、自分も横になって彼の背後から重なり、右足を抱え上げて欲望を捩じ込んだ。
柔らかな内壁を再び擦り上げると、掠れたような甘い嬌声がヨンファの喉から迸り、腰を押しつけて前後に抜き差しする。


「…あ…っ、いや……あっ……は……」
「ヨンファ……っ」


後ろを振り返ったヨンファと濃厚な口づけを交わすと、チョコレートの効果でいつも以上に甘くて、キスが止まらない。
切ない吐息を漏らしながら舌を絡め合い、抽挿を繰り返しながら、中の熱さときつい締めつけに背筋が震えた。


二人はそのまま一緒に高みを目指して駆け上がり、官能の渦に呑み込まれていった。










「口ん中が甘い……」


毛布の中で身を寄せ合っていると、腕の中にいるヨンファがジョンシンを見上げて、軽く唇を尖らせた。
染み一つない滑らかな身体に触れていると、またムクムクと寝た子を起こしそうになる。


「俺も。もう当分の間、チョコはいいかもな…」


眉根を寄せて口を開いてみせると、ヨンファは気怠げに顔を寄せてきた。
至近距離で見つめ合っていると、どちらからともなく笑みが零れ、吸い寄せられるように唇が重なる。


「余計に甘くなった」
「だな…」
「これから、チョコを食べただけで、お前とのセックスを思い出すかも」
「パブロフの犬みたいにか?それ、いいな、」
「もう笑い事じゃないって」


真剣な顔で言い募るヨンファが可笑しくて、ジョンシンは柔らかな髪に頬ずりした。
いくつもの顔を持っていて、いろんな表情で楽しませてくれるヨンファが愛しくて堪らない。
この先、何年経っても、こんな感じで溺れ続けていくのだろうな。


「ホワイトデーのお返しは、俺が用意するよ」
「え?お返しがあるのか?」


さて、何がいいだろう。
キャンディーならまた口移しとかできそうだな…とあれこれ考えていると、ヨンファが胡乱そうな眼差しで見てくる。


「……ジョンシナ、今、変なこと考えてるだろ。いやらしい顔してる」
「は?失礼だな。いつもの男前の顔だろーが」
「誰がだよ。鼻の下が思いきり伸びてるじゃないか」


いきなり鼻先をつまみ上げられ、揶揄うように揺らされて、ジョンシンは目を白黒させる。
その手を握って離すと、ヨンファが思いもしないほどに優しい顔で笑っていた。


「こらっ、ヨンファ」


その表情に魅せられながらヨンファの脇腹を思いきりくすぐってやると、面白いほどに身体を捩じらせて反応する。
ベッドの上で笑い転げながらキブアップするヨンファの唇に、ジョンシンはお返しとばかりに、素早くキスをしてやった。
すると、完全に臨戦態勢に入ったジョンシンに気づいたヨンファが焦りだす。


「ジョンシナ……もう仕事に差し支えるから……」
「駄目だ。聞かない」


ジョンシンは素早い動きで、ヨンファを強引に組み敷いた。
両手で胸板を押してくるが、構わずに目の前の獲物を攻略し始める。


「あ……ちょっと…待っ……」


一旦、肌と肌が触れ合うと、欲望を目覚めさせる引き金となり、再び二人を夜の闇の中へと誘っていく。


力の入らない身体で抗っていたヨンファの動きが次第に弱まり、首に縋りついてきたことに気をよくして、ジョンシンはその耳許で「愛してるよ」と囁いて、濃厚な愛撫を再開した。





End





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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