CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Manito 4

2017年07月17日
Manito 10






「――いいメロディだな」


それは、ジョンシンのマンションに泊まるという約束が白紙になった翌週のことだった。
リビングのフローリングに直に腰を下ろしてソファに身を凭れさせ、アコースティックギターでフレーズをひと通り弾き終わったところで、静かに聞き耳を立てていたヨンファが感嘆の声を漏らす。


「本当に?このまま進めていい?」


低音で問いかける声が、我ながら驚くほど甘く聞こえた。


「ああ、もちろん。なんて表現したらいいのかな。心に直接響いてくるような、どこか切なさを感じさせる曲だ」


後ろを振り返って見上げれば、「すごくいいよ、これ」と、ソファで優雅に脚を組んでいるヨンファは屈託のない笑顔を見せる。
ダブルジップパーカーにデニムという軽装に加えて前髪を下ろしていると、まだ学生でも十分通用するのではないかと思うくらい若く見えた。
満足そうに頷きながら、たった今、ジョンシンが奏でた音を口ずさんでいる。
OKサインが出たのだと分かり、ホッと胸を撫で下ろすとともに、知らぬ間に緊張していた肩から余計な力が抜けた。


ヨンファから依頼されたのがきっかけで、ジョンシンはドラマの撮影と並行して、三月に発売されるアルバムに収録する曲を制作している最中だ。
頭の中に浮かび上がったフレーズを繋ぎ合わせて、メロディラインをギターで現実の音に置き換えてみたのだが、思いがけず好感触を得られて、胸の中がじんわりと温かくなるのを感じた。


久しぶりのふたりだけの場で、相好を崩して喜んでくれるのがたまらなく嬉しくて、ジョンシンは自分の頬が緩んでいるのを自覚する。
ヨンファは笑うと、途端にチョディンのような無邪気な顔になり、恋人の自宅だからと遠慮した様子もなく、心底リラックスしているように見えた。
思わず抱き締めたくなったが、仕事に関連した話をしているのだと辛うじて衝動を抑え、ジョンシンもつられて笑みを浮かべる。


見慣れすぎた空間にヨンファがいるというだけで、こんなにも雰囲気が明るくなるものだろうか。
今年に入ってから、彼の不審な行動に妙な胸騒ぎを感じ、なかなかプライベートで会えない現実に打ちのめされていたジョンシンは、深い安堵を覚えるとともに、幾分か落ち着いた気がした。
あまりにも砕けた態度で接してくるから、倦怠期に突入したと悩んでいたのはただの錯覚で、実際はそれほど深刻な事態ではないのかもしれない。
ソファの背凭れに身を預けていたヨンファは、ふと考えるような仕草をして、真面目な口調になる。


「実際に聴いてみて、本当に驚いたよ。作曲の才能が開花したな。もっと時間を割いて、本格的に取り組んでみたらいい」


前触れもなく真摯な眼差しを向けられて、ドキリとした。
澄んだ瞳と視線がかち合い、少し照れくさくなったジョンシンは冗談めかしてさらっと返す。


「そうかな。不思議だけど、シンバがそばにいると、インスピレーションが湧く時があるっていうか……。鼻歌混じりで散歩とかしてるよ」
「へぇ。シンバさまさまだな」
「そりゃ、俺の最愛の息子だし」
「うわっ、痛いほどすげー親馬鹿っぷり!」


手を叩いて笑うヨンファに、ジョンシンも調子を合わせて破顔した。
互いに一頻り笑い合ったあとで、「まあ、今のは冗談だけど……」とヨンファが続ける。


「ジョンシナはもともとセンスがいいだろ。服にしてもヘアスタイルにしても。曲作りはその人の感性が如実に投影されてると思うから、いろんなものを吸収して着実に成熟しているってことだ。若いって素晴らしいな」
「たった二歳しか違わないのに」
「そうだけど、俺よりも勢いがあって、自然と湧き出してるって感じがするよ」


肘掛けに乗せた右手に頭を寄りかからせた姿はどこか物憂げで、癖のない髪を掻き上げるもう片方の綺麗な手にも、つい視線が持っていかれた。
そういう何げない表情がやけに艶っぽく見えるなんて、本人は考えたことすらないのだろう。
おもむろにギターをフローリングの上に置いたジョンシンは、腰を上げてソファに移動し、ヨンファと肩を並べて座った。


現金なもので、あれほど焦りや苛立ちを感じていたはずなのに、プライベートの時間を一緒に過ごせるだけで、妙に心が浮き立っている。
たとえ、その間隔が以前に比べて空いてしまっていても、ヨンファがこうして自分の元に戻ってくれさえすれば、それでよかった。
惚れた弱みなのだろうな……と思う。
なんだかんだ言っても、この業界で三年もの間、ふたりの関係が続いているのは奇跡に近いかもしれない。
日頃から身辺には十二分に気を使っている結果ともいえるが、妨害がないだけまだ恵まれているのだと、ジョンシンは自分に言い聞かせていた。


「詞の方だけど、ヨンファも何かアイデアを出してくれる?」
「どうして?お前ならひとりでできるだろ」
「一緒に考えてほしいんだ」


顔をこちらに向けたヨンファが、不思議そうに見るなり問いかけてきて、ジョンシンは即答した。
何かひとつでもいい。現状よりももっとヨンファとの間に接点があれば、それだけ同じ時間を共有できる。
目には見えない形で、ふたりの距離がいつの間にか遠のいてしまうような出来事がこの先、絶対に起こらないとは限らないのだ。
やはり完全に不安が拭えたわけではなく、ただの気休めで終わるかもしれないが、何かせずにはいられなかった。


「じゃあ、まず思いついたものをジョンシナが形にして。それを見て、何か浮かんだら肉付けするから。――でも、『Daisy』はちゃんとひとりで作詞したのに」
「たまには寄りかかってもいいだろ?ヨンファの負担にならないようにって、日頃は我慢してるんだから、このくらいの我儘は許容範囲だと思うけど」


わざと拗ねたような口調で言うと、瞬間、ヨンファは虚を衝かれたように目を瞠った。
徐々に表情が曇り、どこか思い詰めたように前髪を掻き上げている。


「……俺は、そこまで無理をさせているのか?仕事やファンのことがまず頭にあるから、どうしてもお前に関しては二の次になってしまう」
「そんなのはもう慣れてる。無理っていうか、忍耐強くはなったかもな。俺、周りにバレないように気をつけてるし、ヨンファのこと困らせてないだろ?」


仕事について、ジョンシンはあまり口を挟める立場ではないので、自分たちのことが明るみにならないように、常に周囲には細心の注意を払っているつもりだ。
決して公私混同せずに自制しているのは、この関係を少しでも長く維持していきたいからだった。
ジョンシンの言葉が思いも寄らなかったのか、ヨンファは戸惑うように何度も瞬き、黒い瞳が揺らいでいる。


「困らせるって……」
「忙しいのはよく分かってるから、時々こうやって一緒に過ごせる時間があれば、俺はそれでいい」
「ジョンシナ……。――そう言うお前だって、ドラマの撮影とかで慌ただしいじゃないか」
「ヨンファの足元にも及ばないけどな」
「やめてくれっ。そんなふうに自分を卑下するな!」


苦笑混じりに返答すると、ヨンファは途端に渋い顔つきになった。
叫ぶと同時に、まるで目に見えない何かから逃れようとしているかのように首を横に振る。
やがて、深く息をつくと急に大人しくなり、力が抜け落ちたみたいにソファに寄りかかった。
衝突した時以外では滅多に声を荒げることはないのに、激高した余韻でいまだに顔を強張らせている。


こんな不安定な姿は、ふたりきりの時でもあまり目にすることはなかった。
日々の忙しさに追われるうちに、疲労が極限まで溜まっているのかもしれない。
ヨンファの性格上、ずっと神経をすり減らしていることは、メンバーの誰しもが知っていた。


「自覚してないかもしれないが、事務所の内外でジョンシナの評価は高い。だからこそ、ドラマや歌番組のMCのオファーがくるし、アルバムの曲だって頼んだんだ。お前は自分を過小評価しすぎてる。バンドだけじゃなく個人活動でも、実績を重ねた以上のものが形となって表れてるんだぞ」


ユーモアのセンスもあって、表向きはジョンシンをいじって笑いを取るようなところのあるヨンファだが、裏ではまったく違う。
称賛を惜しむことなく、自分が感じている以上に評価してくれ、さり気なく背中を押してくれるのだ。
こういう面がジョンシンの心を造作もなく捕えるのだと、この人は分かっているのだろうか。


「ごめん。つい癖でさ。でも、やっぱりヨンファが一番俺のことを見てくれてるんだな」
「俺だけじゃない。他にも見てる人はちゃんといるんだから、過度な謙遜は無意味だ。それに、お前に困らされるどころか、逆に俺の方が大したことはしてやれてない。仕事でいっぱいいっぱいになってるからな」


ヨンファは押し殺したような低い声で、どこか投げやりにも聞こえる言葉を吐いたあと、居たたまれないような面持ちで目を伏せた。
心なしか憔悴した様子に、ジョンシンは言葉を失う。
出会って以来、長い間ヨンファを見てきたが、こんなことは初めてだ。


普段はおくびにも出さないが、ふたりきりになると時折、内面に何かを抱えているような不安定さが見え隠れする。
デビュー以来、ずっと人目に晒される生活を送る中で、ヨンファは世間の認知度が高い分、自分とは比較にならないほど心労を重ねているに違いない。
余程、図太い神経の持ち主でない限り、とても耐えきれないだろう。


繊細でナーバスな一面も持っている彼に優しい言葉をかけてやりたいと思っても、かえってプライドを傷つけることにもなりかねない。
それでも、何か言わずにはいられなくて、ジョンシンはソファの上にあったヨンファの手に自分の手を重ねて、低く言い切った。


「そのお陰で、俺たちはステージに立ち続けることができる」


力のない視線をゆっくりとジョンシンへ向けたヨンファは、ぼそぼそと呟く。


「――いや、俺ひとりじゃなくて、三人がいてくれるからだ。お前は俺を買ってくれているようだけど、一緒にいてもプラスになるどころか、マイナスの方が多いんじゃないか?不満だってあるだろう?」


真っ直ぐに見つめ返すと、ヨンファは納得のいかない顔をして、ぶっきらぼうに言い放った。
自分を貶めるような、どこか自嘲的ともいえる台詞に対して何と返していいものか、気の利いた答えが浮かばない。
ジョンシンの胸の内など、とうに見透かされているのだろう。
正直、不満はあるし、腹立たしいことだってある。言い出したらキリがない。
ふたりだけで過ごす時間の短さに、寂しさや物足りなさを感じてしまうのは事実だ。


いっそのこと誰にも見せないように、どこかに閉じ込めてしまいたい。
そんな狂気じみた考えまで浮かび、冷静な部分で辛うじてブレーキをかけている始末なのだ。
でも、それを本人に面と向かって言えるはずがなかった。
口に出せばどうしても感情的になり、お互いを傷つけ合ってしまうことは目に見えている。
しばらく押し黙ったあと、重苦しい空気を払いたくてジョンシンは口を開いた。


「さっきも言ったけど、ヨンファがそばにいてくれたら、それでいい」
「そうやって、お前はすぐに俺を甘やかす」
「俺がそうしたいから」


きっぱりと断言して、ヨンファの白い手を握り直すと、互いの指先を絡めてみる。


「な、んで……、お前はいっつもそうなんだよ……」
「今さら、口に出さなくても分かってるはずだ」


大きく目を見開いたヨンファは、返事に窮して視線を彷徨わせた。
仕事モードの時とは別人のように隙だらけで、何かに怯えているような様子に違和感を覚えたジョンシンは、つと眉を顰める。
触れ合った温もりをもっと自分のものにしたくて、反射的にギュッと指に力を込めると、彼はされるがままふいっと顔を背けた。


横から、伏せた長い睫毛を見ているうちに、自制心が軽い音を立てて弾け飛ぶのを感じ、ジョンシンはヨンファのほっそりとした手首を強い力で掴む。
隣り合って座っていたソファの上で無言のまま肩を抱き寄せると、顔を上げたヨンファの細い眉がわずかに寄せられ、間近で視線が絡み合った。
その瞳にはなぜか躊躇と混乱が見て取れたが、聞く耳を持つつもりは端からない。


「今日は、泊まっていけるんだろ?」


急に変わった口調から、ジョンシンの意図が分かったらしく、ヨンファは少し戸惑ったような表情を浮かべた。


「――嫌なのか?」
「そうじゃない。じゃあ、ベッドに……」
「待てない」


低く押し殺した声で告げると、小さく息を呑む気配がする。
じっと見返してくる無防備さに愛おしさを覚えると同時に、ひどくたまらない気分になった。
デニムに包まれた内腿を撫で上げ、ヨンファが何か言いかけたのをすかさず唇で封じ込める。


「……ん、……っ」


久しぶりのキスはとても甘くて、ジョンシンは啄むように幾度となく唇を重ねた。
恋人同士なのにこんな当たり前の触れ合いすらしていなかったのかと思うと、その事実に微かに胸が痛む。


「でも……シンバが……」


口づけの合間に、ヨンファは困惑気味にリビングの中を見回した。
ジョンシンの愛犬は、シンバハウスの中でうつ伏せになってリラックスしているから、もうじき眠りにつくだろう。
そのことを耳許で囁き、大きめのソファの限られたスペースの中で恋人を追い詰める。


愛しい人の身体に両腕を回した途端、ジョンシンの全身にぞくぞくとした痺れが走った。
きつく抱き締めると、ヨンファの温もりが布越しに伝わってきて、やけに懐かしく感じながら柔らかい髪に頬をうずめる。
たったそれだけのことで、不思議なほど心が満たされる。
こうしてヨンファに触れるのは、実に三週間ぶりなのだ。


仕事では顔を合わせても、周りにメンバーやスタッフがいる中では、どうしても過度なスキンシップをすることは憚られる。
ずっとお預け状態が続いていたため、抑え込んでいた欲望が弾けるように溢れ出し、もはや吐き出さずにはいられなくなった。


「普段はファンのものでもいいから、今は俺のことだけ考えて」


表情を崩さずに口早に言い切ると、ジョンシンの言葉が思いも寄らないものだったのか、ヨンファは呆然としている。
嫉妬心はいつも心の奥底に押し込めているから、これまであまり告げたことはなかった。


「……ジョン…シナ」


傷ついたような顔をして、ヨンファに名を呼ばれる。
その声は今にも消え入りそうなほど頼りないもので、わずかに震えていた。
責めているわけではないのだと証明するために、手を伸ばしてそっとこめかみに触れると、ヨンファは真っ直ぐに見つめてくる。
繊細な造りの整った容貌と揺れ動く漆黒の双眸に魅せられ、睫毛が長いな……、と不意に胸の奥が痛くなった。


ヨンファを独占できるのは、ふたりきりの時だけなのだ。
もっとこういう時間を持ちたいのはやまやまだが、自分の要求を前面に出すわけにはいかない。
愛しくて、抱き壊してしまいたいほどの衝動に駆られ、ジョンシンは目を細めるようにしてヨンファの顎を捉えて、軽く吐息を奪った。


「仕事に差し支えないように手加減はするから」


少しずつ体重をかけて、ソファの上に最愛の人を押し倒す。
情けない話かもしれないが、身体を繋げることでしか、他に愛情を確かめるすべがないのだ。
上から抱き竦めるようにして腕の中に捕らえ、今度は荒々しく唇を塞ぐ。


「……ン、ッン……ッ」


喉の奥で声を上げるのが聞こえたが、構わず舌を忍び込ませると、肩がピクンと揺れた。
誘っているようにも聞こえる鼻にかかった喘ぎを漏らしながら、ヨンファは組み敷かれたまま縋るようにジョンシンの腕に触れてくる。
指の感触すら煽られる材料になってしまい、三週間ぶりに味わう唇の柔らかさに陶然とし、思うさまに貪った。
だが、何度触れても足りなくて、逆にどうしようもないほどの飢餓感を勢いづけるだけにしかならない。
そんなふうに感じる相手はヨンファが初めてで、自分でもどうしてこんなに執着してしまうのかいまだに分からなかった。


ジョンシンは夢中になってキスを繰り返しながら、パーカーのジッパーを下げていく。
カットソーの上から目的のものを指の腹で探り当て、しばらく集中的に責め立てることにした。
摘まむように刺激を与え続けたあと、頃合いを見て頭を下げ、布越しに口づける。
舐めたり吸ったりして次第に濡れてくると、白い布地に張りついた乳首が透けて見え、赤く色づいているのが妙にエロティックでひどくそそられた。


「これ、どうしてほしい?」
「……え?」


むしゃぶりつきたくなる衝動をこらえて尋ねると、身体の下のヨンファが息を押し殺して無防備に見上げてくる。


「ちゃんと言葉にしないと、このままだ」


上から覗き込むように甘く囁くと、キュッと唇を噛んで頬を朱に染めた。
親密な関係になって随分経つのに、ヨンファはいまだに抵抗があるらしく、媚を売るようにジョンシンの言いなりにはなろうとしない。
強引に要求すれば最終的には従ってくれるが、当初からどこか負い目を感じているような気配を漂わせている。
素直な気持ちを口にするのも稀で、自然と言葉をこぼすのは、ほとんど意識を飛ばしかけている行為の最中くらいだろうか。


今も長い睫毛の下で、大きな瞳が迷うように揺れている。
どこか子供っぽさの残るあどけなさを滲ませていて、見ているこちらの神経が焼き切れそうになった。
ジョンシンがさらに低い声で言い募ると、やがてヨンファは矜持を手放して白旗を上げるのだ。


「――もっと……気持ち良く、して……」


耳を澄まさなければ聞き取れないくらいの小さく掠れた声が、躊躇いがちに哀願する。
無理矢理に言わせて満足感を得るなんて、自分でも少し歪んでいるとは思うものの、仄昏い情欲に衝き動かされるまま背徳的な悦びを感じていた。
ヨンファの気持ちが変わらず自分にあるのだと安堵し、ジョンシンはカットソーを捲り上げて、目の前の小さな尖りを優しく口に含んだ。


「はっ……、あぁ……んっ……」


少し強めに吸いつくと、甘く湿った声を断続的にこぼす。
普段はつれない態度を取っていながら、ジョンシンの愛撫に身を任せる時だけ素直に反応する彼は、ひどく罪作りだと思った。
息を弾ませながら背中にしがみつく両腕を心地よく感じ、唇に挟み込むようにしてもっと声を上げさせる。
頻繁に会いたいと思わせるくらい、今夜は思う存分、啼かせてやりたい。
限りない愛おしさを込めて、快楽の波に陥落させるべく、ジョンシンは本気でヨンファを攻略しにかかった。


離れられなくなっているのは、間違いなく自分の方なのだから――。










デビュー七周年を迎え、八年目に突入した今年は、かつてないほど目まぐるしい日々だった。
グループとしての活動では、韓国と日本でファンミーティングを開催し、新しいアルバムの発売とともに、約一年ぶりにカムバックを果たした。
個人の仕事もこなしながら、ミニョク以外の三人はその合間に楽曲の制作をしていたので、とにかく忙しかったという記憶しかない。


そして、別の意味においても、ジョンシンにとっては特別な年だった――。


柄ではないのは、自分でもよく分かっている。
それでも、彼の二十代最後のバースデーはふたりにとっての記念日でもあるのだから、何か思い出になるものをプレゼントしたいと、あれこれと考えていた。










それは、日本でのライブツアーが大盛況で幕を閉じ、休む間もなくニューヨークで他の事務所所属のグループとのコンサートを終え、慌ただしく帰国した翌日のことだった。


本来なら、大阪滞在中の誕生日当日に手渡したかったのだが、ヨンファとなかなかふたりきりになる機会がない上、次の仕事のことで頭の中がいっぱいだろうからと、後日、落ち着いた時にしようと思ったのだ。


大阪のホテルでは日付が変わったと同時にメンバー全員でお祝いし、その日のリハーサルではスタッフたちからも「おめでとうコール」が湧き起こった。
だが、彼にとって一番嬉しかったのは、ライブのアンコールで会場のファンたちと一緒に祝った時だろう。
事前に用意していた大きな花束を三つも抱え、顔が隠れてしまう状態でもひどく嬉しそうで、長い花道を走り回っていた。


それをそばで見つめながら、ヨンファは大勢の人から愛されているのだと、ジョンシンは改めて認識させられたのだ。
「死ぬまで忘れない」と言った彼の言葉は喜びの気持ちすべてを表していて、とても強く心の中に残っている。


その日は、彼の誕生日からすでに五日が過ぎていた。
事務所の合奏室で練習を一段落させたジョンシンは、休憩がてら一階のカフェテリアへ行こうと歩いている時、ふと急に思い立ち、行き先を変えてみた。
もしかしたらいるかもしれないと、大股で目当ての場所に着くや否やドア越しに作業室の中を覗いてみれば、大当たりだった。
そこには、パソコンに向かっているヨンファの姿があり、渡すなら今しかないと、口許を綻ばせながら慌てて踵を返す。


今から遡ること数ヶ月前から、入念に準備は進めてきた。
ヨンファがジョンシンのベッドでぐっすり寝入っている時に、内緒で薬指のサイズを測り、オーダーメイドジュエリーの店を訪れた。
そして、デザイナーと打ち合わせをする中でデザインを決定し、世界にたったひとつしかないリングの制作を依頼したのだ。


今までは照れくさくて一度もプレゼントに選ばなかったのだが、確固たる理由があってリングにしようと、ジョンシンは早い段階から決めていた。
それは、二十代最後のバースデーということと、この先の人生も彼と一緒に歩んでいきたいと真剣に将来を考えたからだ。
ふたりの間に、誓いの代わりになるような物が存在すれば、たとえ会えない日々が続いても、きっと耐えられるだろうという思惑もある。
過去、ジョンシンからの贈り物は何でも嬉しそうに受け取ってくれたから、今回はかなり大きなサプライズになると確信していた。


ヨンファがどんなふうに喜んでくれるのか、受け取った時のリアクションを想像してしまい、胸が激しく高鳴る。
逸る気持ちを抑えながらジョンシンはいつにもまして浮き立ち、急いで地下の合奏室に舞い戻ると、自分のバッグから目当てのものを取り出した。
ずっと機会を窺いながら、いつでも渡せるように大事に持ち運んでいたのだ。
小さな箱を手の中に収めて再び作業室に向かえば、休憩することにしたのか、両腕を高く上げて伸びをしているヨンファが見えた。


「ごめん、今、いい?」
「ああ、入れよ」


ノックをしてドアを開けたら、ジョンシンに気づいたヨンファはいつになく疲れた顔をしていた。
来月からのソロ活動の準備等で、相変わらずハードスケジュールが続いているせいだろう。
それでも、並外れた美貌が損なわれることはなく、かえって憂いを帯びた表情が綺麗だと口許を緩ませながら、勧められるままに壁際のソファへ腰を下ろした。
ムードもへったくれもない場所だが、ようやく巡ってきた機会なのだからと、腹を括る。


「本当は大阪で渡したかったんだけど、なかなか落ち着かなかったから。一週間遅れで悪いけど……」
「何だよ、もったいぶって」


若干、緊張気味に前置きを言う自分が気恥ずかしくなり、脚を組み替えた途端、揶揄するような声が返ってきた。
椅子をぐるりとソファの方に向けて、不思議そうにキョトンとするヨンファをジョンシンは愛しげに眺める。
何も期待していないような素の表情に胸を突かれながら、後ろ手に持っていたものをジョンシンが手のひらに載せて差し出すと、ヨンファの顔つきが一変した。


「………っ」


驚いたように大きく目を瞠り、返答に詰まっているのが分かる。
震える手で受け取り、小さな箱を開けた瞬間、ヨンファは信じられないというような顔をして、何度か瞬きを繰り返した。
その反応に、期待通りだとジョンシンの頬が自然と緩み、思わずその場で抱き締めたくなった。


ほっそりとした綺麗な指に似合うように、敢えて凝ったデザインにはせず、シンプルなプラチナリングにした。
ここは事務所の中だったと寸でのところで衝動を抑え、薬指に嵌めてあげた方がいいかと手を伸ばそうとすると、神妙な面持ちで箱を閉じてこちらにつき返される。
意味が分からず、黙って見返したところ、困惑げな様子のヨンファにジョンシンは虚を衝かれたように動けなくなった。


これは喜んでいるわけではないと瞬時に悟り、思考回路が止まりそうになる。
ヨンファは一拍逡巡して少し視線を逸らしたあと、居たたまれないような顔をし、声を絞り出すように言った。


「――悪いけど、受け取れない」


その台詞はあまりにも予想外のもので、ジョンシンは愕然とした。


「どうして……?デザインが気に入らなかった?それとも、やっぱりこういうのは重くて好きじゃない?」


まさか、そんな言葉が返ってくるなど想像すらしていなくて、ジョンシンは我知らず眉を顰めていた。
ヨンファはなぜかこちらを見ようとせず、俯いたまま頻りに首を横に振る。


「いや、そうじゃない……」
「嫌なら無理につけなくても、持っててもらえるだけでもいいし。他に何か欲しいものでもあった?」


口にした声が、いつになく尖った。
絶対に気に入ってもらえるという確信があっただけに、内心ものすごくショックでたまらない。
表情を曇らせて、頑なに目を合わそうとしない恋人を見つめながら、嫌な予感が背筋を駆け上がる。
ずっと漠然と抱いていた不安が、いきなり目の前に剥き出しの状態で現れた気がした。


「……他に……好きな奴ができたんだ」


ヨンファの口から告げられた台詞は、一瞬にしてジョンシンを凍りつかせた。
聞き間違いだと思いたかったが、正面の伏せた長い睫毛が微かに震えていて、冗談ではないことを物語っている。
頭の中が真っ白になったジョンシンは、一気に全身の血の気が引いていくのを感じ、すぐには言葉が出なかった。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(10)

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2017/07/18 (Tue) 00:26

haru

t*******さん

おはようございます♡
これまでジョンシン視点で書いてきて、それとなくヨンの心情を滲ませたつもりでしたが、深読みしてもなかなか伝わらないかな(・ω・;)
今回は初めてのパターンなので、伝わりにくいと思います(TωT)
ヨン視点でも書きますので、あれこれ想像してやって下さい(*´ω`*)

2017/07/18 (Tue) 05:24

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2017/07/18 (Tue) 21:31

haru

i*****さん

こんばんは♡
三度の飯よりすれ違いが好き&安定をぶち壊すの大好き女なので、こんな展開です(・ω・;)
i*****さんのおっしゃる通り、いつもジョンシンに試練を与えすぎてしまい、自分でもいい加減にしろって思うんですが、やはりこんな感じに…。
どうしても贔屓目に見てしまうので、懐が大きくて男気のあるところを出したくなるようです。

この話を書くにあたって、「Manito」、セカオワの「RAIN」、ワンオクの「the same as… 」をヘビロテで聴きまくってまして、曲調からイメージを膨らませ、「Manito」は歌詞も参考にしてます。
本当に素敵な曲と詞で、いろいろと頭に浮かんできますね♪
リアルでヨンが仕事を目一杯詰め込んでいるのを見ると、彼の今の心境を表しているようで、私もi*****さんと同様、何とも言えない気持ちになります。
すごく難しいですが、そういったところをこの話で表現できればと思っています。
そして、シンヨンを書きながら、釜山ズ愛のボルテージを上げているところです(笑)

2017/07/18 (Tue) 23:16

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2017/07/19 (Wed) 07:59

haru

?さん

こんにちは♡
お名前がなかったのですが、ジョンシンのファンミにお嬢さんと参戦されたとありましたので、もしかしてh*********さんでしょうか?違っていたら申し訳ありません(・ω・;)
さ、最前列だったのですか!?それはすごいですねっ!さぞかしジョンシンのすべてを堪能できたことと思います♪
私なら、確実鼻血を噴いていたかもしれません。

私の拙い妄想話にハマって下さって、本当に嬉しいです。
ヨンからのビデオメッセージを嬉しそうに見るジョンシン。すみません。この感想だけで、倒れそうです。
複雑な気持ちになって下さったんですね(TωT) そんな風におっしゃって下さって、とても有難いです。
リアルを書くのは苦手ですが、何とか現実に起こったことを少し参考にしながら形にしていこうと思っています。
来月はヨンのソロコンにも行かれるんですね♡オーバーラップしていただけるように頑張ります。
本当にどうもありがとうございます(〃ω〃)

2017/07/19 (Wed) 13:01

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2017/07/19 (Wed) 14:06

haru

h*********さん

お返事は不要とのことでしたが、少しだけ♡
目の前にジョンシンがいたら、なかなか興奮は収まらないと思います(笑)
「好きになってよかった」に関しての、ヨンとのやり取りがたまりません!
そして、「Manito」が最後だなんて。生で聴けて良かったですね♪
私も有難いことに、Twitterのレポで萌え禿げれました(*´ω`*)

2017/07/19 (Wed) 20:51

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2017/07/22 (Sat) 23:11

haru

j****さん

おはようございます♡
ファンミ、お疲れ様でした♪
Twitterで追っただけですが、参加された皆さんが笑顔になるような素敵な内容だったみたいですね。
ジョンシンが目の前を通って、触れたんですか!?めっちゃ羨ましいです!!
そっとだなんて、j****さん、控えめすぎますっ。私なら、さりげなくしっかり触ります(笑)
ベースは弾かなかったみたいですが、生歌は嬉しいですね。
ヨンのことが大好きなのが伝わってきましたか。想像しただけで、ニヤニヤが止まりません(〃ω〃)

深読みして下さって、どうもありがとうございます(TωT)
伝わっていて、良かった(TωT) やはり、私は王道が好きです。
暑さにやられて頭の回転が相当鈍くなっているので、超スローペースで進めています(・ω・;)
j****さんも夏バテにはくれぐれも気を付けて下さいね♪

2017/07/23 (Sun) 06:06