CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 53

2017年05月26日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 15
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煌びやかな夜景が望める、壁一面に広がるL字のFIX窓に面した広々としたリビングで、ジョンヒョンは黒のレザーソファにどっかりと腰かけて脚を組み、ひとりグラスを傾けていた。
ジョン家の屋敷を出て、浮遊感が楽しめるタワーマンションの角部屋に移り住んだのは、今から三年前。
何げに外を見遣れば、真っ暗な窓に映った顔がひどく疲れているように見える。


ダークスーツから、ざっくりとした黒い襟付きニットにデニムというラフな格好に着替えたジョンヒョンは、セットしていた前髪が落ちてくるのを緩慢な仕草で掻き上げて、ローテーブルに置いたままのスマートフォンに視線を走らせた。
手に取って何度確認しても、彼からの着信の形跡はない。
思った以上に自分が落胆していることに気づき、飲むペースは早くなるばかりだ。


常日頃より、ヨンファのマンションを訪ねる時など、連絡するのは圧倒的にこちらからの方が多いのだから、それも当然かもしれない。
少なからず失望したジョンヒョンは、つと眉を寄せた。


気まずい雰囲気になってしまったあの日から、すでに五日が経過している。
その時の彼の様子から、仕方がないと自分を納得させるも、どこか釈然としないものを感じた。
忙しかったのも事実だが、なかなか怒りが収まらず、少しひとりで頭を冷やしたい気持ちもあり、こちらからは連絡していない。
逆に、ヨンファから何かアクションを起こしてくれないかと期待したものの、今のところ電話もメールも、着信がありそうな気配は一向にない。


まだ機嫌が直っていないのだろうか。
ふと、綺麗な眉を吊り上げて睨みつけてきた美貌が脳裏を掠め、ジョンヒョンはバーボンをロックで飲みながら、思わず溜息をついた。


凛としていて、常に透明感のある空気を纏っているヨンファは、普段あまり目にすることのない上質なスーツを着こなし、ダークスーツの強面集団の中でひと際異彩を放っていた。
顔が小さくて、非の打ち所のない完璧なスタイルは、十代の頃から変わらない。
全体的なバランスが整っている上に背筋が伸びているから、すらりとした美しい立ち姿についつい見惚れてしまう。
スーツの上からでもほっそりとした腰つきや長い脚が見て取れ、新調したばかりだと聞いたが、非常によく似合っていた。


自分と同じく、眩しいものでも見るかのように、目を眇めてヨンファに視線を送るジョンシンを警戒していたが、まさかあのような場面に遭遇するとは思ってもみなかった。
口当たりのいいグラスの中身を呷りながら、ジョンヒョンの頭の中に五日前の光景がよみがえる。


両組長やヒチョルたちと魚釣りの話に興じながら、ジョンヒョンはいつの間にかヨンファの姿が消えていることに気づいた。
周りの状況を見てそれとなく席を外し、広々とした建物の中を探していた時にふたりの姿が目に飛び込んできたのだ。
ジョンシンが向き合っているヨンファの顔に触れていたのは、遠目からでも分かった。
そして、足許を滑らせてよろめいた彼を助けようとして、咄嗟に抱き留めたのも――。


だが、ヨンファを見つめる目と、それに続く行動は到底許されるものではなかった。
もし、あの場に居合わせなかったら、どうなっていただろうか。一分でも遅ければ……。
手の早いジョンシンが何もしないはずがない。
想像しただけで、はらわたが煮えくり返るほどの怒りが込み上げてくる。


あれほど忠告したのにヨンファのガードは緩みっぱなしで、案の定ジョンシンに付け込まれている有様だ。
カッと全身が熱くなり、どす黒い感情に支配されたジョンヒョンは、もはや自制心を失いかけていた。


――ヨンファは俺のものだ。誰であろうとも、指一本触れさせたくない。


突如、激しいまでの独占欲が湧き起こり、長身の弟分に対して猛烈な嫉妬心が芽生えた。
殺気を察知したのか、要領のいいジョンシンは難なく躱してその場を立ち去り、怒りの矛先は自然とヨンファへと移っていた。
他の男の前で隙を見せたことが許せなくて、細い顎を掴むと、ジョンヒョンは苛立ちを隠そうともせずに言い放った。


『とにかく、俺の言う通りにしていればいいんだ』


興奮のあまり、相当頭に血が上っていた自覚はある。
信じられないと言いたげに、ヨンファの瞳がこれ以上ないくらい大きく見開かれた瞬間、内心しまったと思った。
何者にも流されることのない、自分らしさを持っているヨンファのプライドを、手酷く傷つけてしまったに違いない。
驚愕の眼差しはすぐさま色を変え、ジョンヒョンは目の前の整った貌が朱に染まるのを、ただ静かに見つめていた。
一言で言い表すならば、まさに「逆鱗に触れた」に他ならないだろう。
もっと他の言い方があったのに、一度声に出した言葉は元には戻らない。


確かに想いは通じ合っているのに、いつまでたっても思い通りにならないヨンファに対して、どうしようもないほどのもどかしさを感じずにはいられなかったのだ。
鷹揚に見えるかもしれないが、もともと自分はそんなに気が長い方ではない。
それだけ、冷静さを欠いていたということなのか……。


『俺は、お前の所有物じゃない。今の発言は撤回しろ』


辛辣な台詞にジョンヒョンは一瞬にして固まり、――言葉を失った。
ヨンファの怒りは、それほどまでに凄まじかった。
繊細な容貌でありながら、何者にも屈しようとしない意志の強さを表した双眸。
場所が場所だけに多少は抑えていたのだろうが、触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。
激しい自己嫌悪と後悔の念が押し寄せてきたが、こちらもプライドがあるため、あとには引けなかった。


怒りに支配された彼は、なんて美しいのだろうか。
綺麗な眉を吊り上げてこちらを睨みつける眼差しに射貫かれながら、あろうことか、ジョンヒョンはヨンファに欲情していた。
周りに誰もいなければ、あのような宴席の場でなければ――。
服を一枚一枚剥ぎ取って自分の欲望を捻じ込みたい、思う存分に啼かせてやりたいと、狂おしい衝動が突き上げてきた。
あの一瞬、頭をよぎったのはそんな不埒なことばかりだ。


いつの間にか、ひとりの美しい生きものの一挙手一投足に翻弄され、我を忘れるほどのめり込み、そして、徐々に狂わされていく。
これが女であれば、求婚してそばに置き、一生繋ぎ止めておけるのに――。
しかし、自分の選んだ相手は男だったのだ。
にもかかわらず、彼に対する執着心が尋常でないことは、ジョンヒョンも自覚している。


あのあと、ジョンヒョンは個室に取って返すや否や若頭のグンソクに呼ばれて、その周囲の面々と飲む直すことにした。
少ししてヨンファが戻ってきたが、決してこちらを見ようとはせず、他の輪に合流してしまった。
酒宴の場がお開きになると、帰りは代行運転を頼んで別々の車で帰途についたから、いまだにぎこちなさは残っている。


諍いというほどのものではないが、嫉妬心から大切な彼を傷つけたことに良心の呵責を覚えているジョンヒョンは、どうしても二の足を踏んでいた。
ヨンファを求める気持ちが日に日に大きくなり、自分の感情を上手くコントロールできなくなってきているのだ。
まるで十年前の反動のように――。


純粋で真面目な彼が抱かれる立場になっても、自分というものを見失っていない真の男であることは、誰よりもジョンヒョン自身が理解していたはずだ。
それなのに、心のどこかで自分の所有物のように思い込んでいた。
だから、ジョンシンと一緒にいるところを目撃し、怒りに任せて、つい頭から押さえつけるような物言いをしてしまったのだ。


当然、ヨンファだけを責められないことはよく分かっている。
一番の苛々の元凶である厚顔無恥男はあろうことか、つい先ほどまでここにいたのだ。
思い出した途端、腹の底に不快感を覚えて、一気にグラスを空にしたジョンヒョンはすっくと立ち上がった。
ほとんど使用することのないシステムキッチンからワインオープナーとワイングラスを取ってくると、今しがたまで一緒に飲んでいたジョンシンが置いて帰ったエシェゾーに手を伸ばす。


冷やすと味が引き締まって格段に美味しいのだが、待つだけの余裕はない。
こんな日は飲まずにはいられなくて、ジョンヒョンは慣れた手つきでコルクを引き抜いた。
注いだ先から、グラスは透き通った輝きのある深いルビー色になり、口に含むとコクがありながらまろやかで、濃厚な果実のきめ細かさと優雅さを併せ持つ洗練された味わいが楽しめる。


兄貴分の酒の好みをよく知っているのは感心するが、こんなもので騙されるものかと、ジョンヒョンは心の中でひとりごちた。
日頃、こちらの指示に従って的確に動く弟分は、ヨンファが絡むと途端に反旗を翻す。
仕事で顔を合わさないわけにはいかないので、表面上は普段通りに接していたのに、ミニョクを助手席に乗せ、メルセデス・ベンツを運転して自宅マンションに到着した頃、タイミングを見計らっていたかのように手土産持参でいきなり訪ねてきた。
深夜近い時間帯にもかかわらず、だ。


ドアを開けて呆気に取られるジョンヒョンの前で、長身の男は悪びれもせず、ずかずかと上がり込んできた。
どの面下げて来たのかと開いた口が塞がらない非常識な行動は、さすがのジョンヒョンも予想外だった。
ミニョクがいなければ「ふざけるな」と、一発ぶん殴っていたに違いない。


ご機嫌を取るようなタイプではないから、こちらの様子を探りにきたというのが本音だろう。――ここに、ヨンファがいるわけでもないのに。
正直、追い返したい気分だったが、ミニョクの手前それもできず、三人で取り留めのない話をしながら、ただひたすら酒を飲んだ。


闘争本能にスイッチが入る時以外はどこか飄然としているジョンシンが何を思ったのか、突然、「組の連中を集めて、ここでミニョクの快気祝いをやりたい」と言い出した。
過去何度か、プライベートで親しくしている舎弟たちを大勢呼んで盛り上がったことはある。
日頃からポケットマネーで弟分らに振る舞うことの多いジョンヒョンは、悪くない考えだとふたつ返事で了承した。
ジョンシンはこう見えて、意外と仲間想いの優しい男なのだ。


「たまには、お前もいいことを言うな」と嫌味を投げつけると、可愛げのない長身の男はそれには乗ってこずに、なぜか満足そうな顔つきをした。
横で頻りに申し訳なさそうな顔をするミニョクを手で制し、「せっかくジョンシナが提案してくれたんだから、費用は俺たちふたりで折半だな」とさらに追い打ちをかけてやる。
途端に、無言で渋面になったジョンシンに、溜飲が下がる思いがした。


胸に巣食う喪失感というものは、何年経とうが完全に消えることはない。
約二十年前に起こった悲劇は、子供だった自分が背負うには、あまりにも衝撃が大きすぎた。
大切な存在である両親を一度に失くした哀しみは、いまだに大きな傷となってジョンヒョンの心の中に残り続けている。
そういう生い立ちがあるから、自分にとって最も愛すべき人を誰にも奪われたくないという意識が強く働いてしまうのだろう。


十年前、ヨンファと距離を取る目的もあって自ら進んでこの世界に入ったのに、今では失いたくないという過剰すぎるほどの独占欲に支配されている。
気持ちだけでは満たされず、常に身体の繋がりを渇望しているジョンヒョンは、彼のマンションを訪れると必ずベッドへ誘う。
腕の中の恋人は普段の姿からは想像できないくらい妖艶で、征服欲に火がついてどうしようもなくなる。
彼を抱くたびに、自分がますます貪欲になっていることに気づかされ、底なしと化している欲望は一度吐精しても満足できるはずがなく、二度三度と繰り返し求めてしまうのだ。


かつて肌を重ねてきた相手は誰もかも、ジョンヒョンが主導権を握ることに難色を示す者はおらず、言いなりにするのに造作もなかった。
こちらから動かなくても、異性、同性にかかわらず向こうから近づいてきて、その中から適当に好みのタイプを選べばいいのだから、非常に楽だった。


刺激を受ければ、身体は正直かつ素直に反応する。
正常な男性機能を持つ者ならば、誰しも当然のことだ。
ジョンヒョンが本気を出し、あらゆる性技を駆使すれば、肉体を陥落させること自体は容易い。
そういう意味において、ベッドの中のヨンファはジョンヒョンの意のままといえるだろう。
今までは抱く側だったのが、抱かれる立場になり、新たな愉悦を身体に覚え込まされているのだから無理もない。


巧みな愛撫で悦楽を引き出すと、彼は半ば意識を飛ばしながら目許を朱く染め、大きな瞳を潤ませる。
柔らかく蕩けきった身体は、ひどく淫らで従順だ。
媚態に煽られ、求められるままに繋がると、ジョンヒョンに熱く絡みついて離そうとしない。
官能に溺れた表情はたとえようのないほど扇情的で、上目遣いで見つめられただけで達しそうになる。
シーツの波に呑まれ、自分の色に染まっていくヨンファを見るのは、大きな喜びでもあった。


男でも、前立腺を刺激されて身体を開かれる悦びを覚えてしまったら、二度と女を抱こうとはしないだろう。
これまで、快楽の虜になり、単なるセックスマシーンに成り下がった男たちをジョンヒョンは何人も見てきた。
だが、ヨンファだけは該当しない。
愉悦の波に溺れて一時的に身体を明け渡したとしても、心は違うのだ。
どこかで一線を引いているのか、完全に流されてこちらの支配下になることはなかった。
考えがそこに行き着くたびに、ジョンヒョンの胸の内はしんと冷えてしまう。


幾度となくその身に飢えた情動を突き立てても、自分を見失わない彼の綺麗に澄んだ眼差しは真っ直ぐで、あまりにも眩しすぎた。
男同士の行為は自然の摂理に反している上、身体は男を受け入れるようにできていないのだから、かなり負担を強いているはずだ。
それでも、自分から離れられないようにしたい目論見があり、未知の快楽を与えて骨の髄まで夢中にさせたいのに、思い通りにいかないのがひどくもどかしくもあった。


こんなに愛しているのに、どうしようもなく不安になる。
他組織から青龍組組長の懐刀として恐れられている、この自分が、だ。
手に入れたと思って油断していたら、いつの間にか目の前からスルリと消えてしまいそうな気がしてならないのだ。
ジョンシンをはじめとして、いつ誰とも分からない相手に掻っ攫われるのではないかと、常に危機感も持っている。
  

万人に対して平等に接する、そんな懐の広い人間性にも惹かれているのに、ヨンファが他の相手と親しく話をしているのを見ただけで苛立ってしまう。
これほどまでにひとりの人間に執着するなんて、いつかこの手で大切な彼を壊してしまうのではないかと危惧するほど、ジョンヒョンは自分の想いが怖くなる時があった。
誰にも見せずに閉じ込めておきたい。奪われたくない。
そんな狂気じみた考えが思い浮かぶくらい囚われており、どんな手段を使ってでも、繋ぎ止めておきたい一心なのだ。


ヨンファの心の中が知りたい。
だが、それを確かめる勇気はないし、何よりもジョンヒョンのプライドが許さない。
すぐにでも会いたい気持ちを抑え、今はただ酒に逃げるしかすべはなかった。
愛しい人に触れられない辛さは、言葉では言い尽くせない。


『この間は悪かった』と、一言メールを送信すればいいだけなのに、どうしてもそれができない。
なぜか躊躇してしまい、踏み出せないでいる。
それに、こんな気持ちのまま会えば、欲望の赴くまま蹂躙し、彼を手酷く抱いてしまう可能性があった。
凶暴なまでの衝動に突き動かされそうになり、自分を上手く抑制する自信がないのだ。


無性に苛々が収まらず、ジョンヒョンは前髪を搔き乱した。
一向に杯を重ねても、まったく酔う気がしない。
無意識のうちに深い溜息がこぼれた時、シャワーを浴び終えたミニョクがリビングに入ってきた。


「まだ飲んでいたんだね」
「ああ……」


ルームウェア姿のミニョクは柔らかな声音で話しかけてくると、タオルで濡れた髪を拭きながら奥のキッチンへと消えていく。


三年前、ジョンヒョンは江南区に新築されたタワーマンションのこの部屋を購入した。
物珍しかったのは最初だけで、慣れてしまえばどうということはない。
上層階といえども、外の景色を見なければどこも同じだ。
一日の大半を事務所か出先で過ごしているので、余計にそう感じるのかもしれなかった。
唯一良かったと思うのは、毎年秋に漢江沿いで行われる花火大会が、ここからよく見えることくらいだろうか。


100㎡を軽く超える室内は4LDKの間取りで、家具や調度品からインテリアに至るまでスタイリッシュモダンでコーディネートされ、ある意味、無機質な雰囲気が漂っていた。
生活感がまるでなく整然としていて、モデルルームのような空間はひとり暮らしには贅沢すぎる。
使わない部屋があるものの、定期的にハウスクリーニングを利用しているので、常に綺麗で清潔な状態が保たれていた。


料理はできないことはないが、多忙であるため、ごく稀に気が向いた時だけ簡単なものを作る程度で、圧倒的に外食することが多い。
そんな寝に帰るだけの殺風景な部屋が、ミニョクが来てからガラリと変わった。
酒やミネラルウォーターくらいしか入っていなかった冷蔵庫には絶えず食料品が入っているし、どことなく温かみが感じられるようになった気がする。


「これでも食べて。酒だけだと、胃に負担がかかるから」
「すまんな。お前も飲むか?」


ミニョクがさりげなく、チーズやカットしたフルーツを皿に盛って出してくれた。
気分を変えたくて、ジョンヒョンは敢えて声を明るくして勧めてみる。


「ううん、遠慮しておくよ。それより、飲んだあとにご飯ものがほしければ、何か作ろうか?」


ミニョクが気を使って尋ねてくれたが、さほど食欲はなかった。


「せっかくだが、いい。お前もここに座って、好きなテレビとか観ていいんだぞ?」
「うん、ありがとう。あ、コーヒー、貰うね」


そう言いながら、サイフォンで抽出したばかりのコーヒーをカップに注いでいる。
よく気が利き、あまりに純真かつ忠実なので、そのひたむきさに自然と癒される部分があるのだろうか。
たった今しがたの胸のもやつきが薄れて、ジョンヒョンはふっと心が軽くなるのを感じた。


ミニョクは、弟分にするにはもったいないほどの好青年だ。
自分の過去をほとんど話さないので詳しい事情は知らないが、世間の荒波に揉まれてきたはずなのに、そういうことをまったくおくびにも出さない。
怪我を負った責任は自分にあるため、どうしても放っておけなくて申し出たのだが、ドンゴンやホンギに言われたことはあながち外れでもなかった。
面倒を見るつもりでここに来てもらったにもかかわらず、逆にこちらの方が助かっているのだから、あまりミニョクの静養にはなっていないかもしれない。


時折向けられる視線は思い詰めたような湿り気を帯びていて、息苦しさを感じることもあるが、決して不快なものではなかった。
打算も何もなく、純粋に好意だけを向けてくれることに、ひどくやりきれない気分になる。
ミニョクの気持ちを知っていながら知らない振りをしている自分は、ある意味、残酷なことをしているのだろう。
無欲で、こちらに何かを告げてくる気配すらないから、その優しさとひたむきさを利用しているようで罪悪感はあった。


「それにしても、こんな高価なエシェゾー持参で、ジョンシナもどういう風の吹き回しだろう……」


どこか納得しかねる顔つきで、首を傾げながらミニョクが向かい側に腰を下ろす。


「さあな。お前の様子でも見にきたんじゃないのか?」
「毎日、事務所で顔を合わせてるのに……」
「アイツは気まぐれだからな」


ミニョクが不審に思うのも無理はない。
三人で酒を酌み交わしていた時にヨンファの話題はひとつも出なかったが、おおよその見当はついているから、適当にお茶を濁しておいた。


あの長身の弟分はどうも食えない。
初めてヨンファのことで衝突して以来、アンタ呼ばわりするようになり、やけに挑戦的だ。
時に、何を考えているのか理解不能なところもあるが、先日、胸倉を掴んで牽制をかけた意味合いはちゃんと分かっているだろう。
隙あれば、横から掻っ攫おうとしている魂胆が見え見えだ。忌々しいにも程がある。


問題なのは、それに対して警戒心を持っていないヨンファだ。
あのデカい男の狙いが、自分にあることくらい承知しているはずなのに、昔から、ヨンファはジョンシンとミニョクに甘いところがあった。
三年間、屋敷でともに暮らし、同じ釜の飯を食った仲なので実の弟のように可愛がっているのだろうが、ジョンヒョンからすると内心穏やかではいられない。
思わずフーッと溜息をついてソファに背中を預けると、脚を組み直した。

  
無意識のうちに顔を顰めていたジョンヒョンの表情から何か感じ取ったのか、ミニョクが物言いたげにこちらを見ていることに気づく。
目で問いかけると、遠慮がちに口を開いた。


「ジョンシナと……何かあったの?」
「――いや」


一瞬の間で、それが嘘だと気づいただろうに、ミニョクはそれ以上踏み込まなかった。
まるで雰囲気を変えるように、朗らかな口調で言う。


「そういえば、イ組長たちと釣りに行くのは来週だったよね?」
「ああ、その予定だ」
「今の時期って、何が釣れるの?」
「ボラとかヒラマサだな。大物を釣ってくるから、楽しみにしてろ」


グラスを揺らしながら言い切るジョンヒョンに、ミニョクは「うん」と嬉しそうに頷いた。
はにかむように微笑むミニョクとの同居生活は、思いのほか快適だ。
自由気ままなひとり暮らしを満喫していたので、短期間とはいえ他人と一緒に住むことに若干構えていた面もあるが、以前と変わらず寛いだ気分でいられるし、まったくの取り越し苦労だった。


ここで暮らすようになって数日間でジョンヒョンの生活パターンを把握し、こちらから敢えて言わなくても、実に細やかに動く。
物静かで、常に一歩引いているところがあって、空気のような存在なのだ。
素直で几帳面な性格だと知ってはいたが、実際に長時間一緒にいても疲れることはない。
ミニョクがいれくれて良かった。
ひとりだと、もっと心が荒んでいたかもしれない。


「……ミニョク」


コーヒーを飲んでいたミニョクがこちらを向き、目と目が合った。
どこか緊張した面持ちで、ジョンヒョンの言おうとする台詞を待っている。
長い付き合いだから今さら気恥ずかしいが、言葉できちんと伝えたくなった。


「お前が来てくれて、いろいろと助かってるよ。細やかで、よく気がついてくれる。ただ、絶対に無理はするなよ」


ジョンヒョンの気持ちが伝わったのだろう。
ミニョクは大きく目を瞠って、少し照れたような顔をした。
その様子を眺めながら、胸の奥にチクリと痛みが走る。


「無理なんかしてないよ。車の運転も荷物を運ぶのもヒョニヒョンに任せっきりだから、申し訳なくて……」
「その程度なら、俺でもできるからな」


冗談めかして言うと、ミニョクは一重の目を伏せるようにして楽しそうに笑った。
自分を想ってくれるその一途な気持ちがいじらしく思えるが、応えるすべはないのだ。
ジョンヒョンはおもむろに、手の中で握り締めていたグラスをローテーブルに置く。
こんなふうに和やかに話をしていても、なぜか焦燥感は増すばかりだった。


窓の外の夜景に視線を向け、ジョンヒョンは軽く目を閉じる。
顔が見られないなら、せめて声だけでも聞きたい。


――ヨンファ、今、何をしている?少しは、俺のことを考えてくれているのか?


ジョンヒョンは胸の内で、愛しい人に思いを馳せていた。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(15)

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2017/05/28 (Sun) 20:12

haru

は*さん

こんばんは♡
読んで下さって、どうもありがとうございます♪
この話は毎回読んで下さる方からすると、ものすごいストレスだと思います。
自分でも申し訳ないなと感じていますが、自己満足ブログなので、すでに決めているラストまで好きな展開を目一杯入れて書いている次第です。
できるだけ早く終わらせたい気持ちはありますが、途中で他の話を書くため、余計に遅くなってしまいます。
私の書く長編はどれもこんな感じでしょうね(TωT)

2017/05/28 (Sun) 21:41

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2017/05/28 (Sun) 21:58

haru

は*さん

どうもありがとうございます(*´ω`*)
私が読む側なら「どこまで続くんだ、いい加減にしろ」って確実にストレスが溜まってるでしょうね(笑)
でも、書く立場だと手前味噌で恐縮ですが、こういう展開はものすごく楽しいんです。

2017/05/28 (Sun) 22:19

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2017/05/29 (Mon) 02:40

haru

j****さん

こんにちは♡
いろいろと感じて下さって、ありがとうございます♪ご想像にお任せします(笑)
まだ時間はかかりますが、私が考えている内容を何とか文章でお伝えできればと思っています(*´ω`*)

2017/05/29 (Mon) 12:38

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2017/05/29 (Mon) 20:44

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2017/05/30 (Tue) 01:20

haru

ふ*******さん

こんにちは♡
いつもヨン目線で話を書くことが多いのですが、今回はバニ視点にしてみました。
コメントを読ませていただいて、驚愕の一言です。
私の萌えポイントをすべて拾って羅列して下さり、もう感激のあまり言葉が出ません(TωT)
本当にどうもありがとうございますm(__)m
人物に憑依した感じで感情移入して、思いついたまま書き殴っているだけなのですが、身に余るお言葉の数々に心より感謝します。
下手の横好きですが、もっと上手く表現できるように精進していきたいです。

それと、今ちょうどミニョヨンのラストを書いているので、これが終わったら極道の続きに取りかかります。
萌えどころが違っていたら申し訳ないのですが、ふ*******さんに日頃の感謝を込めまして、腐脳をフル稼働させてトライしてみます♪

2017/05/30 (Tue) 12:24

haru

i*****さん

こんにちは♡
いつも明るいi*****さんに元気をもらって、とても感謝してます♪
最近、プライベートの方がお忙しいのでしょうか?
私はもともと浮上している方ではないですが、どうしても書いているものに後ろめたさを感じて、今では深海魚状態になっています。
また、実生活では長女が通塾しだして、志望校の下見に遠出したりなど、徐々にそれらしい雰囲気になってきたかなという感じです。
次女は相変わらず韓ドラ三昧で、絶賛中だるみ中ですけどね。

さて、極道ですが、ヨンとバニは確かに似ているところがあるかもしれません。
どうしようもないほどの焦れ焦れストレス展開ですが、第三者から見ると、恋愛って実にシンプルなものですよね。
ここでバニが悶々としてないで、とっととヨンに電話して、マンションに押しかけてベッドに引きずり込んで愛の言葉を囁き、それに対してヨンも、ジョンシンとミニョクの気持ちなんか知ったこっちゃない、自分らが幸せならそれでいいとラブラブモードに突入すれば、この話はとうの昔に終わってるがな、なんですよ。
でも、それでは萌えがなくて面白くないし、自分のことしか考えていない人物たちに感情移入できないんですよね…。
私が目指しているものは「さぶ」や「薔薇族」じゃなくて、あくまでも「June」。←意味が分からなかったらごめんなさい。
単に男同士が欲望の赴くまま行為に耽っているのはBLではなくて、ゲイビデオの世界です。
一時的な刺激にはなりますが、私は正直食傷気味だったりします。こういうのは独身の頃に散々読んで、観てきたので。
私にとってその手のシーンはあくまでもおまけであって、むしろ感情の揺れ動きを重視しており、理性や葛藤があってこそ「萌え」は生まれるものだと思っているので、どうしてもこんな感じになってしまいます。なので、ラストまで時間がかかって本当に申し訳ないです。
いろいろと想像して下さって、とても嬉しいし有難いと思っています♪

ところで、10000拍手を踏んで下さったのは、i*****さんだったんですか!
この拍手が私のやる気モードを高めてくれて、いつも感謝の気持ちでいっぱいなのですが、読んで下さるたびに押していただいていたそうで、本当にどうもありがとうございますm(__)m
これからも萌えをお届けできるように精進していきたいです。
そこで、日頃の感謝を込めまして、何かリクエストがあれば、是非お受けしたいと思っています。
ヨン受け限定で、内容によっては難しくて書けない場合もありますが、よろしければ考えてみて下さい。

それでは、想像と違うかもしれませんが、ミニョヨンを近々アップできるように進めていきます♪

2017/05/30 (Tue) 14:00

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2017/05/30 (Tue) 20:27

haru

i*****さん

こんにちは♡
なるほど、そうきましたか(笑)
あの時の二人の画像、持ってます。すごく素敵ですよね♪
設定も面白いし、是非チャレンジさせて下さい(〃ω〃)
i*****さんにはいつもコメントをいただいて感謝しておりまして、私にできることはこのくらいしかないので。
ただ、来年まで待ってもらってもいいでしょうか(TωT)?
今年まだ半分も終わっていないのに、年内は他の話でちょっと厳しいかなと思いまして。ごめんなさいm(__)m
アップ自体は来年でも、ちょこまかイメージは膨らませたいので、いくつか確認させて下さい。

・ナンバー1はヨンの方?
・二人の性格は?……俺様、男前、ヘタレなど
・言葉遣いは?……タメ口、敬語
・ゲイかノーマルのどっち設定か?
・話のスタート時点で二人はすでにデキているのか?いないのか?

ご希望があれば、詳しく教えてもらえると助かります。
特になければこちらで考えますので、またおっしゃって下さいね(*´ω`*)

2017/05/31 (Wed) 12:38

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2017/05/31 (Wed) 19:24

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2017/05/31 (Wed) 21:59

haru

j****さん

こんにちは♡
なかなか落ち着かない展開だけに、ハラハラや萌えを感じて下さって、とても有難いです(*´ω`*)
恋愛って、両想いになっても絶対に心変わりはしないっていう保証がないから、相手には言えないけど、自分の中で悶々と考えてしまうことってあると思うんです。そういう心情を表現したくて、こんな感じのバニを書いてみました。人間誰しも、本気の相手に対しては臆病になってしまう面もあるのではないかなと。
特に男同士の場合は結婚という形が取れないだけに(世界的には認めるところも出てきましたが)いろいろと難しいですよね。
ヨンとの仲だけでなく、ジョンシンやミニョクとの関係も最終的には収まるところに収まってくれればなと思っています。本当にどうなることやら(TωT)
グンとレラもまた出しますので、待ってて下さいね♪
そして、今書いているミニョヨンのラスト。j****さんの想像と違ったらごめんなさい(TωT)

2017/06/01 (Thu) 13:00