CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

Eternal Sky 3

2016年03月09日
DESTINY 0






ヨンファにとって、ライブとは最も生き生きと輝ける場所だと思っている。
待ち望んでくれているファンの前で自分たちの歌を熱唱して、生の時間と空間を一緒に共有する。―――それは一つ一つ、全部違う。
ファンとともに作り上げるライブは、何て最高に楽しくて素晴らしいのだろう。
大変な時もあるけれど、ファンがいてくれるから今の自分が存在し、この仕事を続けられることが何よりの幸せなのだと、ヨンファは心からそう感じている。





東京プレミアムライブはCD購入者の中から抽選で選ばれたファンを招待し、アコースティック・セットで楽曲を披露するライブだった。
そして、その翌日は同じく東京でソロコンサートの追加公演が行われた。





東京滞在中、ジョンシンから何通かメールが届いた。
内容はヨンファを心配するものだったり近況報告などで、読むだけで不思議と元気が出る。
数日前、ヨンファは腹立たしく思うことがあり、ジョンシンをマンションから追い出し、しばらく会わないと豪語した。
しかし、連日のライブの高揚感で気分は晴れ晴れとし、また離れていても常にジョンシンの気遣いを感じ、単純なもので機嫌はすっかり良くなっていた。


結局は、ただ気に入らないことに拗ねていただけなのだ。その自覚はある。
自分の知らないジョンシンがいて当然なのに、勝手にモヤモヤしてカッとなってしまった度量の小さい自分に辟易した。
多少は申し訳ないと思い、ジョンシンにはおおよその帰国時間を返信しておいた。







**************************************************************************







翌日、帰国したヨンファはそのままの足で事務所へ行き、代表と理事にライブの事後報告をしたあと、自分の作業室へ籠った。
ライブが一つ終わっても、またすぐに次のことを考えて準備しなければならない。
ヨンファにはほとんど休息というものはないに等しい。


4月下旬、大阪と横浜で久しぶりにCNBLUEのライブをやるため、セットリストやMCの内容をどうするかを思案してアイデアを出していく。
パソコンの画面を見ながらシンセサイザーを弾いて試行錯誤していると、音が途切れた瞬間、ドアをノックする音が聞こえた。
作業の手を止めて目をやると、ジョンシンがドアにへばり付くようにしてこちらを覗き込んでいた。
その姿が可笑しくて、ヨンファは中に入るように手招いた。


「おかえり。今……忙しいんだろ?」
「ああ、ただいま。いいよ。休憩しようと思ってたから」


ソファーに座るよう勧めて、自分は椅子をクルリと後ろ向きにすると、ジョンシンが両手に持っていたホットコーヒーの一つを手渡してくれる。
わざわざ買ってきてくれたのだろう。ヨンファは「ありがとう」 と礼を言って、それを受け取った。


「ちょっと話があるんだけど」
「何だよ、改まって」
「ミ二ョクから俺の昔のことを聞いたんだろ?」


思ってもみないことを切り出され、ヨンファは慌ててそれを遮る。


「……ここで仕事以外の話はするな」
「分かってるけど、すぐ終わらせるから」


引っ込みがつかない様子のジョンシンに、やむを得ずヨンファは話を継続させることにして、その質問に答えた。


「ああ、聞いたよ。お前、すごいやり手の高校生だったらしいな」


決してジョンシンを責めているわけでも、嫌味を言ったつもりもない。思ったことがついポロッと口から出てしまっただけだ。
それなのに、ジョンシンはものすごく体裁が悪い顔をして、かなり凹んでいる様子だった。


「……弁解はしない。過去のこととはいえ全部事実だから。この間、急に機嫌が悪くなったのって、これが原因なんだろ?」
「……いや、そのことならもういいんだ」
「よくない。言いたいことがあれば今ここで言ってくれよ」


ヨンファは一瞬、何と答えていいか分からなかった。
ジョンシンの過去のことであり、その時自分とは知り合ってもいないのだから、今更こんなことを言う方がおかしい。お門違いも甚だしい。
それについて、ジョンシンを問い詰めたいということは決してない。
自分の知らないジョンシンが存在した事実に遭遇し、一方的にヨンファが臍を曲げていただけに過ぎないのだから。


あとは先日、ジョンシンに好き勝手にされて癪だったのと、見た目で好きになられたんじゃないかということが面白くなかっただけだ。
でも、さすがにそれを口にするのは男として憚られるので、黙っておくことにした。


「……特にないんだが」
「じゃあ……俺のこと軽蔑した?」
「してないって。ちょっと驚いただけで…」


ヨンファの返答に、ジョンシンは幾分ホッとしたようだった。


「あの頃の俺は恋愛体質じゃなかったっていうか、ぶっちゃけ行為そのものにしか興味がなかったから、それを聞いてかなり引いたとは思うけど。今は違う。ヨンファに出会ってから、俺は変わったんだ」


ジョンシンが深く真剣な眼差しで見つめてくる。
何を見失っていたのだろうか。この真っ直ぐな瞳は、すべて真実を物語っているというのに。
過去は所詮過去にしか過ぎない。大事なのは今この瞬間なのに―――。


「俺のこと、嫌いになった?」
「なってない」


それでも、まだ心配なのか、畳み掛けるように訊いてくる。
ジョンシンのことは事実を知った今も想いは変わっておらず、この程度のことで嫌いになれるはずがない。
ヨンファの気持ちが自分から離れていないことを再確認して、ジョンシンはようやく安心しきった顔をした。


「今夜、会える?」
「悪い。今日明日は予定が入っていて無理だけど、明後日の午前中なら大丈夫だと思う」
「じゃあ、その時また話そう」





この約束が後々取り返しのつかないことになるとは、この時のヨンファは考えもしなかった。







**************************************************************************







翌日、ヨンファはバラエティー番組の収録があり、ホンギと一緒に出演した。
身体を張った様々なミッションで構成された番組で、全力疾走したりギャグを披露したり、終始笑いが絶えないぐらい楽しいものだった。
ホンギはいくつかのゲームで負け続け、憂鬱な表情を見せて周りの笑いを誘っていた。


その夜、二人は示し合わせて行きつけの焼肉屋へと行った。
思った以上に相当な体力を使い、急に肉を食べたくなったのが理由だった。


「あー、腹空いた」
「結構、身体使った仕事だったもんな」
「それなのに負けっぱなしで全然面白くねぇ」
「その分、笑いが取れたんだからいいじゃないか」


不貞腐れているホンギを宥めてヨンファが笑っていると、注文したビールと肉が続々と運ばれてきた。


「おー、うまそう」


余程空腹なのか、二人しかいないというのに、ホンギは網いっぱいに肉を並べ始める。
ホンギはヨンファよりも小柄で可愛い顔をしているが、酒は強いし結構な大食漢ときている。
しかも、酔うとますます柄が悪くなるという欠点まである。


「いろいろと忙しそうだな」
「今月はアジアツアーが結構ハードだったけど、来月は少し落ち着くと思うよ。ホンギもいよいよだな。何かと慌ただしいだろ?」
「グループの仕事と両方あるからな。お前の気持ちがようやく分かったよ」


焼けた肉を食べながらビールを飲むと、仕事の疲れが吹っ飛んで、二人ともついつい箸が進んでいく。


「ヒチョルもすげー喜んでくれてるんだけど、時間が合わないからなかなか会えなくて、何だかなーって感じ。お前もジョンシナとそうなのか?」
「え?」


ヨンファは焼こうとしていた肉をポトリと網の上に落してしまった。
いつもホンギは直球で訊いてくるが、慣れないヨンファはどうにも照れてしまってすぐに答えが返せない。


「……えーと、昨年の途中から忙しくなって、他の三人とはほとんど別々に仕事をしてたよ」
「ドラマの仕事もあったもんな」
「そう。で、たまに会うとやっぱり四人の活動が恋しくなったりしてさ。結構皆、個人の仕事が増えてきてるからな」
「で、今は?ジョンシナと会ってるか?」
「まあ……都合が合えばな」


自分たちのことが気になるのか、ホンギがあれこれ聞いてくるが、正直ヨンファはこの話題にそう乗り気ではなかった。
もし今、代表と理事がここにいたら、二人とも卒倒しているところだろうなと冷静な頭で思っていた。


「ヨンファは真面目すぎるから、もうちょっと可愛くした方がいいぞ」
「……可愛く?」


聞き捨てならない台詞を耳にして、もう少しでビールを噴き出しそうになった。
ヨンファのこめかみがピクリと動く。
可愛く……って何だよ。


「ジョンシナに素直になって甘えてみるとかさ、やってるか?」
「……やるわけないだろ」
「何で?」
「何でって……お前は甘えてるのか?」


少し顔を赤らめたホンギを見て、そうなのだと分かった。こんな可愛い姿は見たことがない。
あまり目にすることのないホンギの照れた顔はすごく新鮮で、FTメンバーに教えてやりたいぐらいだった。
写真でも撮ろうかとスマホを向けると、猛烈に抗議されて敢えなく断念した。


「俺なんか特にこんなんだから、ヒチョルによく言われる。可愛くしろって」
「……そんな恐ろしいことをお前に言えるのはヒチョルヒョンだけだな。年上だから、ホンギに優しいだろ」
「たまに意地悪な時もあるけどな。ジョンシナもさ、お前のそういう姿って喜ぶと思うぞ?」


冗談じゃない。恥ずかしくて、そんなことできるはずがない。
同じ男で相手は二歳も年下だぞ?そんな真似をするくらいなら、死んだ方がマシだ。


「俺はいい。お前みたいに小柄で可愛いわけじゃないから、かえって不気味だろ」
「それ本気で言ってんのか。分かってないねー」


半ば呆れ顔で言われても、ヨンファはいまいちピンとこなかった。


「とにかく、素直なところを見せてジョンシナを安心させてやった方がいいぞ。アイツ、俺たちが話してる時とか、結構こっちをジロッと睨んでくるぞ」
「気のせいじゃないのか?」
「……お前、本当に恋愛のことになると鈍いな」


一生懸命に力説してくるホンギに、ヨンファはたじたじだった。
そんなことを言われても困るだけなので、ヨンファは適当に聞き流して、ひたすら肉を食べることに専念した。




焼肉を食べたあと、今度はホンギの行きつけのショットバーへ行き、しこたま酒を飲んだ。
いつもよりハードな仕事で疲れていたのか、珍しくホンギが酔い潰れ、何度揺すっても起きようとしない。
ヨンファは途方に暮れて、あれこれと思いつく限りを考えた。
ヒチョルの連絡先は知らないし、一瞬、FTメンバーが頭を過ったが、こんな役を押し付けたら絶対に嫌がるに違いない。
あとからネチネチ恨み事を言われるのも勘弁だ。
他に打つ手がなく、ヨンファはホンギをタクシーに乗せると、自分のマンションに連れ帰ることにした。





「ほら、ホンギ着いたぞ。起きろって」


タクシーから何とか引きずり下ろし、ジョンシンみたいにとてもおんぶなんてできやしないから、叩き起こして本人に歩かせる。
かつて自分が酔って寝てしまった時のことを思い返し、ジョンシンの並外れた体力に驚く。


「くそー、重すぎる」


ヨンファは足元が覚束ないホンギを抱えるようにしてエレベーターに乗り、自分の家まで連れてきて、そのままベッドに寝かせた。
そしてヨンファはシャワーを浴びて、他に寝る場所がないから、ホンギの横に滑り込んで寝た。










ピンポーン。


遠くで何か音がする。
それがインターホンの音だと認識した途端、今度はスマホが鳴りだした。
慌ててヨンファが飛び起きて見るとジョンシンからの着信で、恐らくドアの外にいるのも本人に間違いないと思い、通話をタップしてドアを開けた。


「あ……悪い。今、起きた」
「何回鳴らしても出ないから留守かと思った。昨日、遅かったのか?」


目の前にはやはり同じようにスマホを持ったジョンシンが驚いた顔をして立っていた。
ヨンファはあくびを噛み殺しながら、寝乱れた髪を手ぐしで整える。


「そう。深夜になってさ……」
「何度かメールしたけど、返信がなったから直接来たんだけど」
「ごめん、見てなかった」


そういえば―――。
今日の午前中なら大丈夫だと、以前、ジョンシンと約束をしていたことを思い出した。


「まあ入れよ。……ん?どうかした…か?」


ジョンシンの視線が急に下がり、何かを凝視している。
その先にあったのはホンギの靴で、何か不審なものを発見したような、あからさまに険しい顔で見下ろしている。
ヨンファはこの事態が非常にヤバいということに、ようやく気が付いた。


「……誰かいるの?」
「あ、えっと、ホンギが来てるんだ。昨日一緒に飲んで、酔い潰れたから連れてきた」
「ホンギヒョン?……ここに泊まったのか?」
「そ、そう。すぐ起こしてくる」


いつもより低音になったジョンシンの顔を、ヨンファは直視できなかった。
見なくても、目の前の男の気配が、ただならぬものに変わっているのが分かったからだ。


―――マズイ…かもしれない。
ジョンシンがヨンファに関して、独占欲が強いのだということをすっかり忘れていた。





「ホンギ、起きろよ」


布団を思いっきり捲ると、ヨンファのベッドを占領して寝ている張本人が姿を現す。
何度かホンギの身体を揺さぶると、ようやく眠そうな目を開けた。


「ん~何だよ。昨日遅かったんだから、まだ寝かせろ」
「もう10時過ぎてるぞ。確か昼から仕事だって言ってたよな」
「あ?」


いきなりベッドから起き上がったと思ったら、ガバッとヨンファに抱きついてくる。
後ろを振り向かなくても、恐らくジョンシンに見られただろう。


「ちょっと…何、寝ぼけてんだよ。俺はヒチョルヒョンじゃないって」
「あ…悪い」


ようやく目が覚めたホンギが自分のバッグからスマホを取り出すと、どこかに電話をかけ始めた。
どうやらマネージャーに迎えに来てもらうようだ。
通話を終えた後で、ホンギは近くに立っていたジョンシンに初めて気が付いた。


「おっ、ジョンシナいたのか」
「……どうも」
「酔ってヨンファに迷惑をかけたみたいだ。何でもないんだから、変な勘繰りはよせよ」
「ホンギ、何か食べて行くか?」
「いや、もうあんまり時間がないから。面倒かけてごめんな。ヨンファ、この借りは返すから」
「いいって。気にするな」


スマホが鳴って、慌ててホンギは帰って行った。
玄関で見送ると騒がしかった室内が一気に静寂に包まれた。重い沈黙を破るようにヨンファが努めて明るい声を出す。


「あ…と、コーヒーでも飲むか?」


ヨンファはキッチンへ移動して、コーヒーメーカーにペーパーフィルターをセットする。


「俺が今日来ること、忘れてただろ?」
「え?」


後ろから声をかけられて振り向くと、ジョンシンは今までにないほど無表情をしていた。
まるで見知らぬ別人のように見える。


「それで、ホンギヒョンとイチャイチャしてたわけだ。同じベッドに寝て」


ジョンシンの抑揚のない声で、キッチンが突如張りつめたような空気に包まれた。
冷たいその眼差しにヨンファは一瞬怯んだが、とんでもない誤解をされて慌てて否定する。


「そんなこと、するはずないだろ。ホンギは酔ってて仕方なく連れてきたんだ」
「へぇー優しいんだな。俺のことは平気で追い出すのにな」


ヨンファに近付いてくると、ジョンシンはいきなり強い力で腕を掴んできた。
至近距離でぶつかった視線の鋭さに耐えられなくなり、ヨンファは瞳を逸らす。


「だから……それはもう済んだことだろ?」


ヨンファは掴まれた箇所を振り解こうとしたが、ジョンシンは手に力を込めて離そうとしない。


「痛っ……」
「……結局、俺はホンギヒョンの代わりか」
「…な…に言ってんだよ…」
「アンタ、まだホンギヒョンのことが好きなんじゃないのか?」


まったく見当違いな解釈をされて、ヨンファは弾かれたようにジョンシンの顔を見返す。
射抜くような視線には激しい怒りが滲んでいて、ヨンファは気後れしてしまった。
どうして突然そういう話になるのかまったく理解できず、頭の中が混乱する。


「違っ、俺はホンギのことは友達としか思っていない。酔った友達を家に連れてくるのがそんなにいけないことなのか?」
「友達…ね。両方とも男と付き合ってるんだから、何もないって保証はないだろ」
「……俺がホンギとどうにかなるって言いたいのか?」
「可能性はゼロじゃない。第一、アンタ、俺のことずっと拒絶してたのに、突然受け入れたのもおかしな話だろ。手の平返したみたいに」


ジョンシンに想いを打ち明けた時のことを指摘され、ヨンファは言葉を失った。
確かにジョンシンから見れば、突然のことだと思われても仕方がないかもしれない。
ヨンファは長い期間、葛藤と闘い不安の念に苛まれ続けていたが、それらは外からは一切見えない自分の心の中でのことだ。


ジョンシンに胸中を吐露してまだ一ヶ月しか経ってはいないが、実際にヨンファが自覚したのはもっと前からだ。
共同生活を解消する前、ジョンシンから告白された時点で、自分も同じ気持ちだと認識していた。
それはジョンシンの知るところではないが、まさかこんな風に思われていたなんて。ヨンファは愕然とした。
ジョンシンの表情は硬く冷ややかで、視線は相変わらず強いままヨンファを見据えている。


「俺の気持ちはちゃんと言っただろ?」
「口ではどうとでも言える。俳優の仕事もしてるんだから、好きでもない相手に愛の言葉を囁いてキスするのもお手の物だろ」


ヨンファは大きく目を見開いて、呆然と目の前の男を見つめた。
ジョンシンに叩きつけられた台詞が心臓を抉る。そんなことを言われるなんて信じられなかった。


あの日のことを演技だと思われていたのか?自分が誰とでもそういう行為をする人間だと。
ジョンシンとはまだ数えるほどしか身体を繋げていないが、それさえも嘘だと思っているのだろうか。
怒りを通り越して、ヨンファは涙が出そうになった。


「何だよ、それっ。俺が誰にでもそういうことをすると思ってるのかっ?」
「……………」


ヨンファの悲痛な叫びに、言い放ったジョンシン自身が目を逸らして黙り込んだ。
口が過ぎたと思ったのかもしれないが、その言葉を投げつけられたヨンファはこれ以上ないくらい傷付いていた。


「お前……俺のこと…全然分かってない……」


語尾が揺れ、視界までもが滲んでジョンシンの顔がぼやけて見える。


「……そう思わせたのはアンタだろ!」


ジョンシンは再び冷たい視線でヨンファを睨み付けると、吐き捨てるように言ってそのまま出て行った。
ヨンファはしばらくその場から動くことができなかった。










午後から雑誌の取材と撮影があったため、ヨンファはマネージャーの車に乗っていた。
冷静になってよくよく考えてみると、やはり自分の方に配慮が足らなかったのかと思い、ジョンシンに電話をかけた。
しかし繋がらず、メールも送ってみたが、今のところ返信はない。


すっかり頭の中から消えていたが、ジョンシンは以前から、ヨンファが好きなのはホンギだと思い込んでいた。
それはヨンファが嘘をついて故意にそう思うように仕向けていたのだが、きちんとした形でジョンシンに説明して誤解を解いていなかった。
すべてはそれを怠っていた自分が悪い。
その場しのぎに 『違う』 と言っただけでは、相手にちゃんと伝わっていなかったのだ。





翌日はまるまるオフだったが、ジョンシンから連絡が入ることはなかった。
ヨンファもあれっきり行動を起こしていない。
こちらから連絡したことは既にジョンシンも承知済みだろうから、あまりしつこくしても仕方がないので、これ以上どうすることもできなかった。










そして、数日後、ヨンファはバンコク公演のため出国した。
二日間のソロコンサートを終え、また帰国し、自国での仕事に奔走していた。





練習室のドアを開けて入ると、中で作業をしている後ろ姿を見つけ、ヨンファは小さく息を呑んだ。
―――そこにいるのは、ジョンシンだった。


顔を合わすのは、あの日以来だった。
ジョンシンと会ったらどう話を切り出そうかとずっと考えてきたのに、本人を目の前にして及び腰になりそうだった。
でも、ジョンヒョンとミニョクはまだ来ていなかったので、今しかないと思った。


「ジョンシナ、話があるんだけど、今日時間取れるか?」
「帰るのが遅いから無理」


意を決してかけた声に、ジョンシンは僅かに視線を逸らし断ってきた。


「じゃあ、明日は?」
「明日も無理」


素っ気なく即答され、ヨンファの背中がヒヤリとする。
予定が入っているからではなく、単に自分と会いたくなくて拒否しているとすぐに分かった。
しかも、一度もヨンファと視線を合わせようともしなかった。


「……分かった。じゃあ、仕方ないな」


こんなに頑ななジョンシンは初めてだった。
相当腹を立てているということなのだろうか。この態度が本人の意思表示なのだと痛感した。


今はまだ話をするどころではなく、少し時間を置くしかないとヨンファは思った。
近くにいながら、心はこんなにも遠かった。
練習室には凍てついたような静寂が満ちていく中、ジョンシンの弾くベースの音がそれを壊すかのように響き始めた。





プライベートの大半を一緒に過ごしていただけに、ジョンシンと会わなくなると、ヨンファは一人の時間を持て余すようになった。
暇になるとロクなことを考えないので、家でも新しい曲作りに専念するなど、精力的に仕事をこなすことにした。


そして、ヨンファはソロコンサートで北京へ行くなどすれ違いは続き、帰国して四人で練習する時にジョンシンと会っても、やはり同じような状況で二人の関係に変化は現れなかった。







********************************************************************************







4月下旬。大阪と横浜でスプリングライブを開催するため、久々に四人が揃って日本へ出発した。
いつも飛行機の席はヨンファの隣なのに、ジョンシンはジョンヒョンと一緒に座った。
それを目の端に捉えていると、隣のミニョクが話しかけてきた。


「久しぶりに四人一緒だから、楽しみだね」
「だな。やっぱり皆がいてくれた方が心強いよ」


隣に並んで座ってもまったく遠慮がないから、話をするのに飽きると、お互いに音楽を聞いたりSNSをする。
でも実際は、ヨンファはそれに集中することができず、ジョンシンとジョンヒョンのことばかり気になっていた。
時間が解決してくれるだろうと何もせずにいたが、思ったよりも問題が深刻でかなり根深くなっているのではと思い始めた。


大阪のホテルに到着すると、ヨンファは一石を投じようと、ジョンシンに近付いた。


「ジョンシナ、同じ部屋にするか?」
「俺、ヒョニヒョンと一緒がいい。なっ、いいだろ?」


そう言って、隣のジョンヒョンに視線を投げかける。
取り付く島もないジョンシンの態度に心臓がまたギシギシと悲鳴を上げてヨンファを苦しめる。
やはり何をやっても無駄らしい。
いちいち傷付いている場合ではないと頭で分かっていても、面と向かって拒絶されると身が竦む思いがする。


「そりゃ、まあ、いいけど……」


遠慮がちにヨンファの顔を伺ってくるジョンヒョンに、ヨンファは諦めの笑みを浮かべる。
本人が嫌がっているのだから、何ともしようがない。


「……分かった。じゃあ、ミニョクは俺と同室な。いびきは掻かなかったよな?」
「掻かないよ。ヒョン、そんなことも忘れちゃった?」
「大丈夫。ミニョクはいつも静かだからな」


ジョンシンと同室のことが多かったから、仲間のこんなことさえも忘れてしまう自分に苦笑いしか出ない。


あからさまにヨンファを避けるくらい、まだ怒っているのだろうか。
ふと見ると、ジョンシンがジョンヒョンの肩に腕を回してふざけ合っている。
それを見て、自分はどのくらいジョンシンと触れ合っていないだろうかと思った。
そんなことを考えてしまう自分が情けなくて嫌になる。


二人の仲が良いのは今に始まったことではないのに、親密そうな様子を見せつけられて、ヨンファは胃が捩じれそうに痛くなった。
意識して眺めてみると、二人はとても仲睦まじく、自分とよりも遥かに良いコンビに見えた。
目線を変えるだけで、ここまで違って見えてくるものだろうか。
しかも、今のジョンシンはヨンファと二人きりでいる時よりも、明らかに楽しそうでリラックスしている。


『愛している』 と何度も言ってくれたジョンシンの言葉を疑いたくはないけれど、人間の気持ちというものはいつでも様変わりする。
ちょっとしたことがきっかけで相手への気持ちがなくなれば、そこですべてが終わる。


もしかして心変わりをしたのではないか。もう自分たちは別れたことになっているんじゃないかと、いろんなことが頭の中を過る。
そうではないと思いたい。でも、こういうことが続けば、自信が持てなくなる。


突如、今まで溜め込んでいた不安が一気に込み上げてきて、押し潰されそうになる。
でも、ヨンファはそれをひた隠しにして、ライブのことだけに集中しようとした。
表面上は普段通り笑みを浮かべて、その場をやり過ごすしか術はなかった。










四人揃っての日本での単独ライブは、昨年12月に名古屋で行われたアリーナツアーの最終日以来だった。
まず大阪での二日間からスタートし、“WHITE”を全体のコンセプトとした今回のステージでは、まるで真っ白なキャンバスに色を付けていくかのように、様々な楽曲を披露した。
メンバーそれぞれのソロ活動が続く中、久しぶりの四人のステージということもあって、終始ハイテンションだった。
また、ヨンファとジョンヒョンが、AOAの「サプンサプン」を踊ると、会場が大盛り上がりとなった。


そして、横浜でのライブも同様に今回のツアーのメイン楽曲である「WHITE」で始まり、「Radio」での「ヨコハマー!」というヨンファのシャウティングで最高のテンションとともに幕を開けた。
ステージサイドに設けられた花道を縦横無尽に走り回りながら、いつも以上のファンサービスを見せ、客席のボルテージも最高潮に達した。
MCも全員日本語で喋り会場の笑いを誘って、最後はファンの“ダブルアンコール”の掛け声に押され、元々のセットリストにはなかった「Coffee Shop」を披露し、ステージの幕を下ろした。





ライブが終わったあとは、メンバーやスタッフ総出で打ち上げに繰り出した。
店の中に入ったものの、顔見知りのスタッフと会うたびに立ち止まって話をするので、ヨンファはなかなか三人が座っている席に合流できなかった。


「ヨンファヒョン、こっち!」


自分を呼ぶ声がして振り向くと、ミニョクが手を上げていた。
ヨンファは笑いながら 『それじゃあ』 とスタッフに言って身体の向きを変えると、奥の席からこちらを見ていた相手と目が合ってしまう。
それに内心たじろいでしまったが、平静を装って三人がいる方へと近付く。


「ヒョンもビールでいいんだろ?」
「ああ、サンキュ」


それが訊きたくて自分を見ていたのかと、ヨンファは目の前に座っているジョンシンに分からないように小さく溜息を洩らす。
すぐにビールジョッキが大量に運ばれてきて、全員のテーブルに行き渡ったのを確認すると、ヨンファが立ち上がって乾杯の音頭を取る。


「皆さん、四日間、お疲れ様でした。今日は無礼講なので、しっかり飲んで食べて下さい。僕の奢りじゃなくて事務所持ちなので、遠慮は無用です」


ヨンファの言葉に店内中が笑いに包まれて、全員で乾杯をして打ち上げがスタートした。


「ヒョンって面白いことをサラッと言うよな。今日のMCも冴えてたし、俺には真似できないな」
「そうか?ジョンヒョナは日本語が上手すぎるよ。俺、喋ってて恥ずかしくなったぞ」


ヨンファが斜め前のジョンヒョンにそう切り返すと、ミニョクとジョンシンも同調する。


「四人の中ではダントツだよね」
「ヒョニヒョンは昔、日本に住んでたからやっぱり上手いよ」
「いや、子供の頃だからほとんど覚えてなかったって。それより、ヒョンの赤いハートのシャツで随分盛り上がったよな」


普段わりと寡黙なタイプのジョンヒョンなのだが、ライブの興奮と開放感で嬉しそうによく喋る。
それに引っ張られて、ヨンファも自然と笑みがこぼれる。


「最初見た時は 『マジでこれを着るのか?』 って若干引いたけど、スタイリストヌナに感謝だな」
「本当にマウスポインターに見えたよ」


三人の会話にジョンシンは笑っていた。
良かった。ヨンファはホッと胸を撫で下ろした。
初めはジョンシンと視線が絡むたびに落ち着かない思いがしたが、四人での会話が弾み、いつの間にか肩の力が抜けていった。





時間が立つにつれて、あちらこちらで酒を注ぎに回ろうと移動が始まりだした。
ジョンシンが誰かに呼ばれて席を離れた途端、すかさずジョンヒョンが声を顰めてヨンファに囁いてくる。


「ジョンシナと喧嘩でもした?アイツ、やたらと俺の側に引っついてきて鬱陶しすぎるんだよな」
「喧嘩というか…ちょっと怒らせてしまったみたいで……」


「そういうことか」とジョンヒョンが納得したように頷く。


「あれは意固地になってるだけだから、気にすることはないよ。図体はデカいくせにやっぱやることがガキなんだよな」


半ば冗談めかして言われて、ヨンファはどうにか笑ってみせる。


「ごめんな、ジョンヒョナ」
「今日、部屋変わろうか?もうライブも終わったことだし、ゆっくり話してみれば?」
「……いや、やめとくよ」


せっかくジョンヒョンが提案してくれたのにもかかわらず、ヨンファは首を横に振る。
大阪に続いて横浜でも、ジョンシンはジョンヒョンと同室になることを望んだ。
それがすべての答えのように思えて、ヨンファは半ば諦めムードになっていたのだ。
これまで何度かヨンファの方から話しかけても素気無くされて、これ以上行動を起こす気力がなくなっていた。


心配そうな顔をするジョンヒョンに「大丈夫だから」と無理に笑顔を作った。










「じゃあ、僕、先に寝るね」
「ああ、おやすみ」


ミニョクはホテルに帰ってきて早々シャワーを浴びると、そのままベッドに入ってSNSをやっていたが、どうやら眠くなったようだ。
部屋の電気を暗くすると、程なくして寝息が聞こえてきた。


ヨンファはライブの興奮が冷めやらないのもあり、シャワーを浴びてもなかなか寝付けなかった。
理由がそれだけではないことは、自分でもよく分かっていた。


結局、数時間しか寝られず、まだ外が真っ暗な時間帯にもかかわらず目が覚めた。
時刻を見ると、まだ5時を過ぎたばかりだった。
しばらくの間スマホをいじっていたが、急に思い立ちベッドから抜け出すと、缶コーヒーを買いに部屋から出た。





自動販売機がいくつか並んでいる休憩スペースに誰かが座っていた。
近付くと、それはジョンシンだった。
瞬時に回れ右して戻りたくなったが、ここまで来ておいてそれも不自然だと思い、腹を括ることにした。


「早いな。もう起きたのか?」
「あ…ヒョンこそ」


ヨンファに気付いて驚いたようだったが、ちゃんと返事をしてくれたことに安堵する。
買ったらすぐに部屋に戻るつもりだったが、ジョンシンがいるから帰れなくなった。
ジョンシンもライブの影響で、あまり寝られなかったのだろうか。
仕方なしに隣のソファーに座って缶コーヒーを飲み、どことなくそわそわしている感じのジョンシンを不思議そうに眺める。


「MCの時に弾いた曲って、以前、作業室で練習してたやつ?」


ジョンシンの方から話しかけてきたことに、ヨンファは驚いた。


「ああ、一人で黙々とやってたよ」
「ギャッツビーとラーメンの曲を?」
「そうだよ」


その姿を想像して可笑しかったのか、ジョンシンがクックッと笑った。
ライブのお陰でぎこちなかった空気が大分和らいで、元に戻ったような錯覚に陥る。


「ファンのことを一番に考えているんだな」
「もちろん。笑いもしっかり取らないと。やっぱり四人でやるライブって最高だな。久々ですごく楽しかった。ジョンシナも日本語が上手くなったよな」
「ヒョンがいない時に、三人でよく練習したからさ」
「偉いな。間の取り方も上手くなってるし、ちょっと見ない間に成長したな」


少しずつジョンシンとの会話が弾んできた。
でも、せっかく二人きりでいても音楽の話しかできない。他の話題になることを恐れて避けようとする自分がいる。
この状態を何とか打破しようという気持ちが、なくなってしまったかのようだ。
ボタンを掛け間違えたようにギクシャクしてしまった空気は、そんなに簡単には元に戻らないのかもしれない。


取り留めのない話が続いていたのに、急に沈黙が落ちてきた。
何か喋った方がいいかと言葉を探していると、ポツリと声が聞こえた。


「……今日の飛行機は隣同士に座る?」


最初、何を言われているのかよく分からなかった。
ゆっくりとその言葉の意味を反芻して、あの日以来、初めてジョンシンが歩み寄ってくれたのだと理解した。
でも、突然そんなことを言われても、ヨンファの心は何も感じなかった。
お互い忙しかったのもあるが、すれ違ってからもう一ヶ月近くになる。


何故もっと早く応えてくれなかったのかと、天邪鬼がムクムクと出てきて、素直な気持ちになるのを邪魔しようとする。


今頃になってジョンシンがアクションを起こしてきたのは、ジョンヒョンに何か言われたからなのか。それとも、別れ話でもするつもりなのだろうか。
何だかいろいろなことがありすぎて、ヨンファは振り回されることに疲れていた。
人間不信に陥りそうで、もう元に戻らなくても、このままでいいんじゃないかとさえ思い始めていた。





「いや、ミニョクと一緒に座るよ」


頬に突き刺さってくる視線を感じながら、ヨンファはジョンシンの方を見たくなくて、残りのコーヒーを飲み干す。


「……何、考えてる?」
「今の俺の頭の中は“FNC KINGDOM” のことでいっぱいだ」


来月早々に行われる事務所主催のコンサートを思い浮かべ、自嘲するように笑った。
元々は仕事人間なのだ。恋愛なんてうざったいだけだ。もうどうでもいい。


「じゃあ、お先に」と言って立ち上がると、背中に感じる視線を振り切り、ヨンファは自分の部屋へと戻っていった。





To be continued





にほんブログ村 BL・GL・TLブログ 二次BL小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています♡バナーを押していただけると、励みになります♡♡
スポンサーサイト



haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(0)

There are no comments yet.