CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 50

2017年04月22日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 9






南部洞組の事務所で一頻り歓談したあと、応接室にいる面々はそれぞれ車で、会食の場が設けられているところへ移動を始めた。
今回の謝礼を兼ねて、イ組長を筆頭に幹部などの主要な組員たちを招いて接待することは、ヨンファも事前に父親から聞いている。
両組間の親睦をより一層深め、今後も団結してソウルの裏組織を統率していくことを、相互に確認し合う意味もあるらしい。
ヨンファたちは一足先に黒塗りのベンツに乗り込み、朝鮮時代の王族が食していたと言われている、江南区論峴洞にある韓定食で有名な店へと向かった。


幹線道路がさほど混雑していなかったせいか、二十分もかからず目的地に到着する。
そこは閑静な高級住宅街で、車中でハンが説明してくれた通り、伝統的な朝鮮の建築様式を用いた韓屋造りの建物が、手入れの行き届いた庭園に溶け込むようにひっそりと佇んでいた。
ここだけ世俗から切り離されたようなノスタルジックな雰囲気を醸し出し、どこか温かみのある異空間のようだ。


車から降りたところで、後続のグンソクやジョンヒョンたちも合流する。
上客だからなのか、店のスタッフたちは黒ずくめの集団を見てもまったく動揺するどころか、丁寧な接客態度で出迎えられた。
畏まった様子の支配人と思しき五十代の男は、腰を折って深々と頭を下げ、父親に挨拶している。
店側も青龍組組長であることは承知の上で、いろいろと配慮してくれているようだ。
そんな中、タイミングよく南部洞組の組員らも続々と到着した。


ソウルの極道界を仕切っている男たちは、それぞれ和やかに雑談を交わしながら、ベテランの風格が漂うスタッフに先導されるまま、ゆとりのある廊下を歩いていく。
ヨンファはホンギと肩を並べてゆっくりと進み、角を曲がると、左手に綺麗にライトアップされた見事な庭園が目に飛び込んできた。
大きなガラス戸の先に広がるダイナミックな眺めに、自然と視線が吸い寄せられてしまう。
他の者は見慣れているらしく、歩調を緩めることなく真っ直ぐ通っていき、奥まったところにある個室へと案内された。


かなり広々とした空間には縦長のテーブルが鎮座し、掘りごたつ形式になっている。
そこかしこに高級感が漂い、芸能人や政財界のVIPも数多く訪れる有名店として幅広く知れ渡っているが、ヨンファが実際に足を運ぶのは初めてだ。
広間の隅には書道の屏風、陶磁器、伝統ポジャギが飾られ、料理だけでなく、落ち着いた雰囲気も楽しめるようにとの配慮なのだろう。


一番奥に双方の組長が向かい合わせで座り、他の者たちは組事務所での並びで着席した。
韓定食とは李家王族が実際に食べていた伝統宮中料理を再現してあり、いわば豪華な宴会のコース料理だ。
まず最初に水キムチ、有機野菜サラダ、開城ナムルなどの前菜と、焼酎やビールが一斉に運ばれてくる。


父親が簡単な挨拶を済ませて音頭を取り、全員が立ち上がって乾杯をすると、それを合図に宴会が始まった。
無礼講と聞いているから格式張った感じはなく、穏やかな様相を呈している。
何げに焼酎を一口飲んだところで、父親が隣のヨンファに目配せしてきた。
あらかじめ指示をされてはいるが、正直なところあまり気は進まない。


大学病院に勤務していた頃に、内科医局内で当直の医師や看護師を除き、仕事の延長のような酒席はあったので、慣れていないわけではない。
医師では自分が一番若かったため、上司である教授や先輩医師に酒を注いで回る機会は多かった。


それについては、組織の一員として当然のことと納得していたが、堅気で跡目を継ぐ気もないのに、ここまでする必要があるのかと思ってしまう。
しかし、父親が決めたことで、組長の息子として同席しているならば、それもやむを得ないのだろう。
このまま回れ右して帰りたい心境になった。


早いところ済ませようと、ヨンファは頃合いを見て、すっと立ち上がる。
イ組長のそばに膝をつくと、テーブルに置いてある焼酎の瓶を手にした。


「お注ぎします」
「有難く頂戴しましょう」


その場でぐいっと中身を呷って空にしたショットグラスを、目の前に差し出される。
どっしりと構えていて威圧感はあるものの、温厚そうな人柄が垣間見えるため、こうして対峙していてもさほど緊張することはなかった。
焼酎を注いでいるヨンファを見つめていたイ組長が、おもむろに口を開く。


「お父さんに似て、お強そうですが」
「いえ、サシで飲んだことはありませんが、父には負けると思います」
「なるほど。うちの若いもんでも、ジョンさんにはなかなか敵わんですからな」


ホンギに焼酎を注いでもらっている父親が「年齢とともに、弱くなってきてますよ」と笑った。
屋敷に住んでいた頃、晩酌をする父親の周りにチャスミルの空き瓶が何本も並ぶさまを見てきたから、間違いなく自分の方が弱いはずだ。
ただ、そうは言っても、人並み以上には飲めるので、比較する相手が悪いといったところだろうか。


「ヨンファくんも」
「ありがとうございます」


お返しにお酌を受けることになり、ヨンファは小ぶりなグラスを手に取る。
焼酎で満たされるや否や、それをぐいっと飲み干して一礼した。
それから、若頭のヒチョル、ホンギ、舎弟頭にも話しかけながら同様に注いで回る。
ホンギは焼酎を一気飲みすると、席を移動して、青龍組の組員らに酒を勧め始めた。
どうやら場を盛り上げようと、気を利かせてくれたらしい。


ヨンファが南部洞組の舎弟たちのところにも足を運ぶと、皆一様に恐縮しながらチャスミルの入ったグラスを呷り、逆に自分も勧められた。
ソウルで広く親しまれているチャスミルは喉越しがよく、すっきりとしたまろやかな焼酎で、飲みやすいからつい杯を重ねてしまう。


組員らが入れ替わり立ち替わりに注いでくれるので、グラスの中身を空にするのに四苦八苦したが、悪い気はしなかった。
素面の時は強面だが、酒を酌み交わしてしゃべってみれば、意外と気さくで話しやすい相手ばかりであることに驚く。
初対面でもあまり人見知りをしないヨンファが臆することなく接しているうちに、両組長の前でやや肩に力が入っていた舎弟たちも徐々にリラックスしてきたようだ。


末席の組員まで一巡して、ようやく腰を上げて席に戻ろうとしたところで、渋い表情のジョンヒョンが視界に入る。
上等なブラックスーツに身を包んだ男は黙ったままでも存在感があり、少し離れたところから見ると、どこか近寄りがたい印象を受けてしまう。


一見して高品質だと分かる生地の下には、引き締まった筋肉が潜んでいることをヨンファは誰よりもよく知っている。
三日前の夜もこの身体に組み敷かれて、散々喘がされたばかりだ。
そんな浅ましいことを思い出したところで、眦の吊り上った瞳で真っ直ぐに見据えられると、妙に落ち着かない気分になった。


「ヨンファさん、もう少し飲むペースを落とされては?」


何か言いたいことでもあるのかと思いながらそばを通った時、案の定、ふたりきりの時とは違う言葉遣いで呼び止められる。
低い美声は淡々としていながらも、どこか咎めるような響きが入り混じっていた。


「大した量じゃないし、限度が近づけばセーブする。俺のことはいいから、お前も飲んで楽しめよ」
「――あまり感心しない飲み方ですが」


屋敷ではほとんど飲酒をすることがなかったから、ジョンヒョンがヨンファの酒量の限界を知らないのも無理はない。
嘆息を漏らすのも、こちらの身を案じてくれているからこそだと分かっている。
でも、まさかこの程度で注意を受けるとは思ってもみなかった。


百歩譲って、二十歳そこそこの年齢ならまだしも、三十前でこんなふうに先回りして心配されると、余計なお世話だと感じずにはいられない。
大切に想われているのかもしれないが、子供扱いされているような気がして、どうしても反発心が芽生えてくるのだ。


「仕方がないだろう。勧められたものを断る勇気は、俺にはない」
「だからと言って、悪酔いしては元も子もないでしょう」


周りに配慮して、膝をついて小声で答えるヨンファを、ジョンヒョンは容赦なく一刀両断した。
そうなるとは限らないのに、そこまで信用がないのかと抗いたくなったが、ヨンファは辛抱強く言葉を重ねる。


「醜態を晒すようなことはしないから、安心しろ」
「そういう意味で言ったわけではないんですが……」


まだどこか納得しかねる顔つきで眉を寄せるジョンヒョンに、「じゃあ、どういう意味なんだ?」と聞いてみたい気もしたが、話が堂々巡りになりそうなので、それ以上はやめておいた。
ふたりのやり取りを見かねたのか、横合いからグンソクがさりげなく助け舟を出してくれる。


「ジョンヒョン、こういう機会は滅多にないんだから、若に任せておけばいい。何がそんなに心配なんだか。お前は、本当に過保護だな」


苦笑混じりに言われて、ヨンファは面白くないものを感じた。
グンソクに悪気はないのだろうが、第三者から見るとそう思われてしまうのかと、ひどく居心地が悪くなる。
女でもないのに、たかが酒ごときで公衆の面前で心配されて、面目丸潰れだ。
その時、ジョンヒョンを呼ぶ声が聞こえ、そちらに目を遣ると、両組長の相手をしていたヒチョルが手招きしている。


「お呼びがかかったぞ。行ってこい」


グンソクの言葉に「すみません」と頭を下げて、ジョンヒョンはその輪の中へと入っていった。
ヨンファが広い背中を見送ったところで、他から声がかかる。


「ヨンファ、こっちに来いよ」


グンソクの正面に座っているホンギと目が合うなり、自分の隣を指差して、ここに座れと促してきた。
いつの間にか酒を注ぎ終わって、ヨンファより先に戻っていたようだ。
テーブルをぐるりと回ってホンギの右隣に腰を下ろすと、向かいにはドンゴン、斜め前にはミニョクの顔ぶれがあった。


「お前もこれがいいんだろ?」
「いや、さっき結構飲んだから、ビールに切り替えるよ」


当然のようにチャスミルを掲げられたのだが、ヨンファはビール用のグラスを差し出す。
ジョンヒョンに言われたからではなく、ろくに食べもせずにアルコール度数20%前後の酒を立て続けに飲んだから、少しセーブすることにした。
不意に、先ほど割って入ってくれた男のグラスが空になっていることに気づく。


「ほら、グンソク」
「すみません、若」
「遠慮するな。今日は無礼講だ」


ヨンファはテーブルにいくつも並べられた、緑色の小瓶に入ったチャスミルを手に取ると、グンソクのグラスに注いでいく。
何とはなしにその場にいる五人で再び乾杯し、グラスに口をつけた。


ビールを飲みながら周囲を見渡すと、いつの間にか何人もが場所を移動して、いくつかの集団で固まっている。
両組が入り乱れ、思い思いに気心の知れた者同士で酒を酌み交わし、楽しんでいる様子がこちらにも伝わってきた。
ジョンヒョンは、両組長やヒチョルと何やら話し込んでいる。
それを見て、ヨンファはホンギとグンソクに視線を向けた。


「お前たちもあの中に入った方がいいんじゃないのか?立場的に」
「ああ?いいんだよ。仕事の話じゃねぇから。あの四人が集まると、釣り場の話題だろうよ」
「――釣り?」
「うちの親父がクルーザーを持ってるから、あの面子でたまに夜釣りとか行ってるぞ」


肩を竦めるホンギに、グンソクが大きく頷いて同調している。
父親の釣り好きは昔からだが、ジョンヒョンまで同行しているとは知らなかった。
恐らく無理矢理つき合わされているうちに、興味を持ったのだろうか。
表情から察するに、とても嫌々会話に参加しているようには見えなかった。


「お前たちは、その釣りに同行しないのか?」


ヨンファが不思議に思って問うと、四人は嫌そうな顔で倣ったように首を横に振る。


「とにかく船酔いがひどくて、釣りどころじゃないですよ。随分前にミニョクと一緒に誘われたんですが、気持ち悪すぎて、絶対に無理です。なあ」
「はい……俺もあれだけは、二度と行きたくないです」


露骨に顔を顰めたドンゴンが隣に話を振ると、珍しくミニョクも心底困った様子だ。
相当、苦痛だったに違いない。
ホンギとグンソクは端から興味がなかったようで、しかも、そんな話を聞かされたら到底行く気が失せたとのことだ。
九節板に舌鼓を打ちながら話しているうちに、広いテーブルの上はいつの間にか次々と運ばれてくる料理と酒で埋め尽くされていた。


ヨンファも子供の頃に一度だけ船釣りに連れて行かれ、散々な目に遭ったから、その気持ちはよく分かる。
胃が空っぽになっても嘔吐感は去らず、船の上にぐったりと横たわっていた記憶しかない。
あれは本当に辛かったなと、グラスを傾けながら何気なく目を向けた集団の中に、口を大きく開けて豪快に笑っているジョンシンを見つけた。
ハン、スンヒョン、南部洞組の舎弟たちと何やらすごい盛り上がりようだ。
どこかニヤついているような表情を見て、どんな会話をしているのか何となく想像はついた。


面子にもよるが、男が集まって酒が入ると、大抵はそっち系の話になることが多い。
かなり調子づいているのか、チャスミルのグラスを持って一気に呷る丸顔の男に、「こいつ、死ぬ気だな」と呆れたが、こういう席だから今日は特別に見逃してやることにした。


ジョンシンはビールを飲みながらハンの話に突っ込みを入れて、周囲を沸かせている。
南部洞組の事務所での不機嫌そうな様子は、まったく感じられなかった。
射るような眼差しはどこかヨンファを責めているように見えたのだが、気のせいだったのだろうか。
実に楽しそうに、隣にいるスンヒョンと屈託なく笑い合っている。
どうやらふたりは親しい間柄らしく、ジョンシンの広い肩をバンバンと叩く弟分を咎めようともしない。
  

「それより、病院辞めちまって、どうすんだよ。せっかくデカいとこに勤めてたのによ」


ホンギの声で、いきなり意識を引き戻された。
視線を巡らせると、四人に心配そうな顔で見つめられている。
誰しも口には出さないが、その苦々しい表情から、チルソン組の件が原因なのではと問われている気がした。
時期がちょうど重なっているだけに、当然といえば当然だろう。
順を追って話すしかないと、ヨンファは以前ジョンヒョンに話した内容を端的に分かりやすく伝えた。


「――なるほど。そういうことだったんですか」


神妙な面持ちで、しみじみと納得したように呟いたグンソクに続くように、ホンギが大きな瞳を見開いて割って入る。


「さっき、辞めたって聞いた時、てっきり組長の息子ってことがバレたのかと思ったけど、さすがにあの場では訊き辛くてよ」
「ホンギでも気を使うことがあるんだな」
「ありますって」


茶化したように言うドンゴンに、ホンギは大袈裟に眉を寄せて、グラスに残っていたチャスミルをぐいっと飲み干した。


「規模の大きな病院でもメリットとデメリットがあるから、自分の身の丈に合ったもっと小ぢんまりとしたところでやりたいと思ってさ」
「そういうところ、若らしいですね。あのままあそこに居れば、出世街道まっしぐらだったでしょうに」
「さあ、どうだかな」


清々しい気持ちで打ち明けると、ドンゴンは下がり気味の目尻に皺を寄せて、実に惜しそうに甘いマスクを歪ませる。
医学部を目指して勉学に励んで合格するまでの間、この男が誰よりもそばでヨンファを見守ってくれていたのだ。


「開業するって道もありますよね」
「いや、そこまでは考えていない。自己資金もいるから、さすがにそれはな……」


控えめに提案してきたミニョクに苦笑いを浮かべて、ヨンファは運ばれてきた刺し身にチョッカラを伸ばした。


「親父さんに頼めば、金くらい出してもらえるんじゃね?」


聞き手に回っていたホンギがニヤリと笑い、肘でヨンファの脇腹を小突きながら突拍子もないことを言い出す。


「学費とか、今まで結構な額を出してもらっているからな。――それに、親父にこれ以上借りを作りたくない」
「借りって……。実の親子なんですから、そんなに遠慮しなくてもいいのに。本当に、若らしいですね」


グンソクが視線を和らげて諭すような物言いをすると「確かに」と、なぜか三人が頷いている。


「いっそのこと跡目を継げばいいのによ。お前なら組員らから絶大な人気があって信頼されているんだから、ピッタリだと思うぞ」
「断定しないでくれ。そんなことはないだろう」


冗談めかした親友の台詞に、ヨンファはグラスを手にしたまま顔が引き攣りそうになった。
すると、グンソクが「それは事実ですよ」と、真面目な顔で横から口を挟む。


「正直、今でも若が跡目を継いでくれればと諦めきれません。天井に向けて、拳銃をぶっ放したのを見せられると余計に……」
「若が?そんなことがあったのか?」
「マジか!?それ、見たかったぜ」


グンソクが言葉を漏らした途端、ドンゴンとホンギが興奮したように身を乗り出してきた。


「ほら、昔、ドンゴンに拳銃の撃ち方を教わっただろう。射撃場にも連れて行ってくれたしな」
「そうですね。懐かしいな。あの時は、医者を目指す若を応援しながら、継いでほしいという気持ちもありましたからね」


昔を思い出しているのか、どこか感慨深げに目を眇めて、ドンゴンは手に持っていたグラスを一気に空にする。
それに気づいたミニョクが、隣から「どうぞ」とチャスミルでいっぱいに満たした。


「とにかく圧巻でしたよ。あれで流れが変わりましたからね。なあ、ミニョク」
「はい、かなり劣勢に追い込まれていたので、本当に驚きました。そのあと、応急処置までしてもらって……。助かったのは、ヨンファヒョンのお陰です」


その時のヨンファの様子を得々と語るグンソクと、それに同調する柔和そうな一重の青年に、ヨンファはすかさず「何もしてないぞ」と笑顔でさらりと受け流す。
それでなくても、南部洞組の事務所へ行く前にミニョクと久々に再会して、何度も礼を言われたばかりなのだ。
そもそも自分が攫われなければ、ミニョクが銃弾を受けて入院することもなかったのだと、反対に居たたまれなくなった。


「それで、退院したばかりで大丈夫なのか?ひとりだと、何かと大変じゃねぇ?」
「あ、えっと……」


そんなヨンファに気づいたのだろうか。
さりげなく話題を変えてくれたホンギの問いかけに対し、どこか言いにくそうなミニョクを見て、ヨンファが助け舟を出してやる。


「今、ヒョニのところにいるから問題ないんだ」
「え、そうなのか?」


目を丸くしたホンギに軽く笑ってみせて、ヨンファはグラスに口をつけた。
斜め前のミニョクが、ひどく驚いた顔をしている。


「……ごめん。ヒョニヒョンの厚意に甘えてしまって。でも、もうじき帰ろうと思っているんだ」
「なんでミニョクが謝るんだよ。術後の経過が良好でも、至近距離から撃たれたんだから、無理をしたら駄目だ。その分、ヒョニをこき使ってやればいい」


目を伏せて申し訳なさそうにするミニョクに負い目を感じさせないように、ヨンファは明るく振る舞った。


「若の言う通りだ。日頃はお前がジョンヒョンのために動いているんだから、こういう時くらい遠慮しないことだ。料理とかしているのか?」
「――はい、簡単なものしか作れないですが」

  
ヨンファの言葉に同調するグンソクに、ミニョクは少し躊躇いがちに言う。


「なんだ、それは。ジョンヒョンの奴、自分が楽をしたいから、ミニョクに来てもらったんじゃないのか」
「本当っすよね。逆に用事が増えて、ミニョクも大変じゃねぇの?」


ドンゴンが半ば呆れ気味の声を上げると、畳みかけるようにホンギが乗っかった。


「そんなことないです。いろいろと助けてもらってます」


焦ったように首を横に振るミニョクに対し、「本当かぁ?」と、ホンギはわざと面白おかしい方向に持っていこうとする。
それにつられて笑いながら、ヨンファは胸が引き絞られるような感覚に襲われた。
自分の知らないジョンヒョンのプライベートルームで、一緒に過ごしているふたりのことを考えると穏やかではいられなくて、グラスを持つ指先が震えそうになる。
心地よい気分が、一気に醒めたような気がした。


「長時間の同一姿勢を避けて、患部周辺に力が入らないようにな。一ヶ月くらいは気をつけた方がいい」
「あ、うん……。ありがとう」


外科医ではないが、医師として基本的なことを助言すると、ミニョクは嬉しそうにはにかんだ笑みを浮かべる。
こんな時でも冷静になれる自分が、不思議でたまらなかった。


「こっちの方がプロなんだから、嫌になったらヨンファを頼ればいいんだよ」
「いつでも歓迎するぞ」


ホンギが肩に手を乗せて「なっ」とこちらを見てくるから、ヨンファもそれに合わせる。
幸いなことに、平静を装ってその場を取り繕うのは慣れているから、言葉はいくらでも出てきた。
実の弟のように可愛いと思っているミニョクに対して、嫉妬心を抱く自分が嫌になる。
こんな醜い感情など消えてしまえばいいのにと、注がれたビールが見る間になくなっていった。


「ヨンファ、いつもより飛ばし気味だけど、大丈夫か?」
「大勢だと、ビールがやたらと旨くてな」
「それならいいけどよ。飲むなら、しっかり食えよ」
「了解」


面倒見のいいホンギに喉の奥で笑って、ヨンファは皿に残っていた海鮮チャプチェを口に運ぶ。
ビールがいつもより旨いと感じるのは、嘘ではなかった。
こんなことはあまりないのだが、身体が必要以上にアルコールを欲しているのが分かる。


ジョンヒョンが訪ねてこない夜は、今頃ミニョクとふたりで何をしているのだろうかと、つい余計なことまで考えずにはいられなかった。
ひとりで自宅マンションにいるよりは、こんなふうに賑やかな場にいた方がずっと楽しくて気が紛れる。
これで飲むなという方が無理だ。
ヨンファは四人の話に耳を傾け、時には洒落た返しをして、グラスの中身を飲み干した。


酒宴は想像以上に砕けた雰囲気の中、それぞれが多種多様の豪勢な料理と美酒に酔いしれ、最高潮に盛り上がっていた。
酒豪揃いなのか、屈強な体格そのままの見事な飲みっぷりに、焼酎、ビール、マッコリなどがあっという間に空瓶に変わっていくさまは豪快で、店のスタッフが何度も追加の酒を運んでくる。


宴もたけなわとなった頃、ヨンファは少し酔いを醒まそうと、そっと席を外した。
楽しい話題で盛り上がっていても、あの場にいると、どうしてもジョンヒョンとミニョクのことに思考が戻ってしまい、ほとほと嫌気がさす。
そんな気分を断ち切りたいという理由もあった。


かなりの量を飲んだわりには、しっかりとした足取りで長い廊下を歩いていると、他の個室からも賑やかな声が漏れ聞こえる。
ふと思い出したように、スーツの内ポケットからスマートフォンを取り出すと、時刻は午後十時を回っていて、何件かメール着信があった。
急ぎかどうか素早く内容をチェックし、すぐに返信する必要のないものばかりだと分かると、再び元に戻す。


その時、何かに誘われるように窓の外に視線を向けて、思わず立ち止まった。
全面ガラス張りの大きな窓から臨める、手入れの行き届いた秋宵の庭園は、控えめなライトアップと夜空に懸かる月の光に照らされて、美しさが際立っている。
どこか懐かしさを感じさせる風景は、不思議と心が落ち着くようで、ヨンファはその場に佇んだまま、目の前の素晴らしい景観に魅入っていた。


ヨンファの生まれ育った屋敷にも、趣は違うものの広々とした庭園があり、定期的に庭師が出入りしているので、常に綺麗な状態が保たれている。
自室の窓から見える景色が好きだったなと思ったところで、どこか感傷的になっている自分に気づいた。


少し飲みすぎただろうか。
こんなに羽目を外したのは、夏に大学病院で親交の深い医師や看護師たちと繰り出したビアホール以来だ。
自己都合で辞めたにも関わらず、先月開いてもらった送別会では、怪我が完治していたとはいえ、これほどまで飲まなかった。


手を伸ばしてそっと窓に触れると、ひんやりとしていて気持ちがいい。
顔を近づければ冷気が伝わってきて、火照っている頬をほどよく冷ましてくれる。
アルコールが染み渡った身にはひどく心地よく感じられ、ヨンファはそのままじっとしていた。


外は風が吹き、木々の葉がざわざわと音を立てて揺らめいている。
まるで、今のヨンファの心境をそのまま表しているかのように。
突如、ミニョクの口から語られた内容を思い出し、また胸の奥が焼けつくような気がした。


――すべては、時間が解決してくれる。


ガラスに映る自分の顔を見つめながら、そう言い聞かせる。
ありもしないことを気に病むよりも、現実に目を向けなければ。
身体はすっかり元通りになったのだから、いつまでも遊んでいるわけにはいかない。
自分の理念と一致している病院をできるだけ早急に検討して、次の勤務先を決めなければならないのだ。
知らず知らずのうちに小さく溜息をついた時、背後にフッと気配を感じる。


「――戻らないのか?」


低い声に顔を向けると、背筋の伸びたスーツ姿の長身が音もなく隣に並んできた。
戸惑って見上げると、よく知った顔と近い距離で視線がぶつかり、ヨンファは思いがけなさに目を瞠った。


「………っ」


高い位置からじっと見下ろしてくる男に動揺してしまい、咄嗟に言葉が出てこない。
何かを内に秘めたような深い眼差しを向けてきたのは、先ほどまでハンたちと楽しそうに笑っていたジョンシンだった。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

Comment(9)

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2017/04/24 (Mon) 21:53

haru

j****さん

こんばんは♡
極道パロの割に死にネタや裏切りがなく、ただでさえ温い話なのに、ホッとしてもらって良かったです(*´ω`*)
脇キャラをいろいろと登場させてみたのですが、こういう飲み会のシーンは結構好きだったりします。
全員を幸せにしたいので、もう葛藤の嵐ですね(TωT)
いろいろと絡めながら進めていければなと思っています。

ユンホが除隊になりましたね♪
この話題になると、やはりいろいろと考えさせられてしまい、またネタが降ってきそうです。

2017/04/25 (Tue) 21:16

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2017/04/25 (Tue) 21:35

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2017/04/26 (Wed) 08:30

haru

ふ*******さん

こんばんは♡
二度もコメントを下さって、どうもありがとうございます♪書く原動力になっているので、とても嬉しいです(*´ω`*)
いつの間にか50話になっていましたね。一体何話まで行くんかいなと未知数で、まさかこんなに終わりが遠いとは思いませんでした。ゴールは確かに見えているのに、遅筆な上に何かしら萌えをぶっこもうとしているからか、目論見が外れまくりで穴があったら入りたいです(-ω-;)

今回、登場人数が多くて会話と描写に死にそうだったので、ソンホに対するドSヨン、過保護バニ、三日前の夜を回想するヨンを気に入って下さって良かったです(TωT)
私の撒いた萌えポイントを見事にキャッチして下さって、感謝しかありません。
本文には書いていないですが、酒を飲んでガードが緩くなっているヨンがジョンシン以外の男に目をつけられるんじゃないかと、バニの心中は相当波立っていたのではないかと思います。

ふ*******さんのヨンに対する表現力がものすごく素晴らしいです!そんな風に書けているといいのですが……。
ヨンがミニョを可愛いと思っている気持ちに変わりはないですが、バニのところに身を寄せている点においては、かなりヤキモキしているようです。そんなヨンの気持ちにバニが気づけば……ですね。
続きも書いていきますが、いくつか脱線する予感がしております。
それと、例のネタにまだ辿り着かないのと、ヴァンパイアを一話書いただけで放置してごめんなさいm(__)m
必ず形にしますので、よろしければお待ちになっていて下さいね♪

2017/04/26 (Wed) 21:11

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2017/04/28 (Fri) 00:00

haru

は*さん

こんばんは♡
さ、最初から読んで下さったんですね(TωT) どうもありがとうございます(TωT)
長い期間書いているので、当初の頃に比べて若干イメージが変わっていて、話の辻褄が合わない、設定がおかしいなどの箇所があるかもしれません(-ω-;)
それなのに、嬉しいお言葉をたくさんありがとうございます♪
少しでもは*さんに萌えていただけるシーンがあると嬉しいです。
書きたいものが芋づる式に増えていて、妄想があっちこっちに飛ぶため、お待たせしてしまうかもしれませんが、続き、頑張ります(*´ω`*)

2017/04/28 (Fri) 21:08

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2017/04/28 (Fri) 23:04

haru

は*さん

おはようございます♡
そう言ってもらえると救われます(TωT)
いろいろありましたが(これからもですが…)、個人的には26話からのバニとジョンシンが一時休戦して、ヨンを救出しにいく辺りが一番萌えたかもしれません。
読み返して下さって、本当にありがとうございます♪
ヨン視点で話を進めることが多いので直接書いてはいませんが、南部洞組の組員たちと接している場面を離れたところからバニが「くそ~」と思いながら見ていたのが伝わるように、今回、過保護っぷりを出してみました。
で、当のヨンはバニの真の意図に気づいていないという…そんな感じの二人が好きです♡

2017/04/29 (Sat) 06:03