CNBLUEのBL小説ブログです。ヨンファ溺愛主義で、シンヨン&釜山ズ&ミニョヨンの話を書いています。

蒼き運命 -アオキサダメ- 45

2017年02月20日
蒼き運命 -アオキサダメ-(極道パロ) 6
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ミニョクの担当医から経過についての報告が終わり、ジョンヒョンは診察室を出た。
いつものように病室に向かう途中、ナースステーションの前を通った時に、看護師長から「今、お時間はありますか?」と声をかけられて、急遽、説明を受けたのだ。
入院時に、病院関係者にはミニョクに身寄りがない旨を知らせ、自分が家族の代わりとして身元保証人になったことも関係していて、何かあった際には必ずジョンヒョンに話が通るようになっている。


「あれ、今日は休み?」


病室に入ったジョンヒョンを見て、ベッドから起き上がって本を読んでいたミニョクは、驚いたように目を丸くした。


「いや、夜から出るつもりだ。例の件が片づいてきたから、少し休めと若頭に言われてな」


そう答えながら、ジョンヒョンは窓際のソファに腰を下ろした。
明け方近くに帰宅して数時間だけ睡眠を貪り、仕事まではいいかと髭を剃らず、髪の毛もセットしないまま出てきたので、驚くのも無理はないだろう。


ある程度、時間の融通は利くが、極道に休みというものは存在しない。
ジョンヒョンは若頭を直接補佐する立場にあり、執行部として組運営に携わる重要な役職に就いているのだ。
生活はどうしても不規則になりがちで、まだ二十代といえど、知らず知らずのうちに疲労が蓄積されてしまう。
緩慢な動作で、背凭れに寄りかかり脚を組む様子を、目の前の弟分が心配そうに見つめてきた。


「やっぱりチュンギルの独断だったの?」


ミニョクは声を潜め、真剣な顔で問いかける。


「ああ、跡目争いに名乗り出ようと単独で企てたそうだ。余程、手柄を立てたかったようで、舎弟らに指示を出してうちの組を調べ上げた挙句、ヨンファさんに目を付けたというわけだ」
「じゃあ、チルソン組の組長や幹部たちは……」
「まったくの寝耳に水で、この件に関わった組員たちは全員除名処分になった。逮捕までされて、チルソン組の名を不名誉なことで全国に知らしめたんだからな」


しかも、チュンギルは若頭でありながら、闇ブローカーというもうひとつ別の顔も持っている。
そう易々と、シャバには戻ってこられないだろう。


「となると、有罪とみなされて実刑判決を受けて刑期を終えても、どこの組織も相手にしないから、この世界から足を洗う以外に道はないってことだね」
「その通りだ。国内のあらゆる組織に知れ渡り、組長の顔に泥を塗ったも同然だから、組内部での報復も考えられる。また、いい見せしめになったことで、今後、ヨンファさんが他の組織に狙われる可能性は著しく低いだろうな」


多少の犠牲は払ったが、結果的には一網打尽で終息に向かっているので、ひとまず状況は安定したといっていいだろう。
ここひと月ばかりは警察や南部洞組に何度も足を運び、裏から関連組織にそれとなく手を回すなど、ジョンヒョンは精力的に動いていた。


また、事件が明るみになった直後、即日、釜山からチルソン組の組長以下幹部たちが青龍組の事務所へ訪れ、直々に謝罪があった。
ジョンヒョンはこれまでの外部組織との交渉術を買われ、一方的に受けた人的被害とそれにかかった被害額についての折衝にも立会い、紳士的な対応をしながらも相手側に有無を言わさず話をまとめ上げたのだ。


「それを聞いて安心した。ヨンファヒョンはあまり表には出さないけど、精神的にも相当こたえてると思うから、いろいろと心配だよ」
「……ヨンファさんに会ったのか?」
「うん。お見舞いに来てくれたんだ。って言っても、もう三週間くらい前の話だけど……」


そういえばヨンファが以前、ミニョクに会いたいと零していたのを思い出した。
週に数度しか会えない上に、ゆっくりと一緒に過ごす時間すらない自分たちは、お互いに触れることで寂しさを紛らわそうとして、話が後回しになることもある。
だから、敢えて気にも留めていなかった。


「そうか。ミニョクのことをすごく気にかけていたようだったからな。ここにはひとりでか?」


ミニョクはすぐに返事をしなかった。
不穏なざわめきを覚えると、どこか歯切れが悪いような口調で言葉を続ける。


「えっと……なんか偶然、ヨンファヒョンの病院で出会ったからって……ジョンシナと」
「……ジョンシナ?」


予想外の名前が飛び出して、ジョンヒョンは思わずその精悍な顔を顰めた。
そんな話は、ヨンファから一言も聞いていない。
恋人だからと、起こった出来事を逐次報告する義務はないし、相手の行動をすべて把握するのは無理からぬことだ。
彼の気持ちが自分に向いていることは十分理解しているものの、その男の名前が出ると頭に血が上りそうになる。


ヨンファのことがなければ、弟分として有能な働きを見せるし、人となりにおいても信頼を置いている。
これまでの付き合いの長さも考慮すると、ジョンヒョンにとって必要不可欠な人材だと評価していた。
今までもそうであり、これからもこの関係を壊したくないとは思っている。


しかし、ジョンシンがそれをどう感じているかは分からない。
組織の中では一応敬意は払ってくれているようだが、ふたりきりになると途端にぞんざいな態度を隠そうともしない。
あの男にとってジョンヒョンは恋敵になるのだから、もはや時間によって解決するしか方法はないのだろうか。


そんなことよりも、ヨンファがジョンシンに気を許しているところが面白くないのだ。
ふたりの仲を勘繰るわけではないが、人目を引くほどの整った顔立ちをしているヨンファのそばにいて、ジョンシンが平気なままでいられるのかと、馬鹿げた考えが頭に浮かんでしまう。


あの黒目がちの濡れたような瞳にじっと見つめられてしまえば、瞬く間に理性が飛びそうになる。
それほど、ジョンヒョンは彼にのめり込んで、イカれてしまっている自覚はあった。
いっそのこと誰にも見せずに、閉じ込めてしまいたいと思うほどに。


だが、それをヨンファの前で出しすぎて、狭量な男と思われるのも心外なので、あまり問い詰めるような真似はしたくない。
しかも、そんな前のことを今さら持ち出すのは、そもそも自分のプライドが許さない。


「本当にたまたま居合わせたらしくてね。怪我をしているのに、わざわざここまで訪ねてきてくれて嬉しかったけど、もうお見舞いはいいよって断ったんだ。――ヒョニヒョンも忙しいんだから、こんなに頻繁に来ることないよ」


眉間の皺が濃くなっているのに気づいたのか、ミニョクがわざと明るく振る舞ってくれているような気がして、冷静さが戻ってきた。
このあとは、ヨンファのマンションに行くことになっている。
恋人同士になれた現状に深い喜びを感じているのだから、これ以上を望むのは贅沢なのかもしれない。
再会した当初に比べて笑顔がより優しくなったことや、艶めいた色香を醸し出し、ますます目が離せないほど彼は綺麗になっていく。
その魅力を最大限に引き出しているのは、他ならぬ自分だと自負しているくらいだ。


帰ろうとしたところを引き止められて、気持ちを抑えきれずに怪我を負ったヨンファと身体を繋げたが、行為が終わった直後にやや辛そうな表情を見せたため、それ以降は他の方法で愛情を確かめ合っている。
彼には構わないと言われたが、断固として聞く耳は持たず手や唇だけで高みへと追い詰めると、自分も同じことをすると言い出して、ジョンヒョンを仰天させた上にひどく喜ばせた。
しかし、いきなり高いハードルを課して嫌悪感を抱かれたくなかったのと、無理をさせることに抵抗があり、理性を総動員させて辞退した。


初めて積極的に求めてくれたあの日のことを思い返すだけで、頭の中が沸騰しそうになる。
ジョンヒョンを跨ぐように上に乗ったヨンファを、いろんな角度で限界まで追い込んで、幾度となく甘い嬌声を上げさせた。
羞恥に身を震わせながらこちらの好きにさせてくれるのは、それだけ愛されている証拠なのだと確信している。
だから、何があっても彼を信じようと、ジョンヒョンは雑念を追い払うように、ひとつ小さな溜息をついた。


「まぁ、俺が来たところで何かしてやるわけじゃないが」
「ううん。そうじゃなくて、すごく嬉しいけど……なんだか悪いから」


ミニョクは遠慮がちに柔らかい笑みを浮かべ、じっとシーツの上に目を落とす。


「そう思うなら、早く退院して戻ってきてくれ。お前がいないと、いろいろ困ることばかりでな」
「えっ?」


咄嗟にどう返せばいいのか分からないようで、どこか戸惑ったふうにこちらを見る。


「デスクの上には物が雑然と置かれているし、必要な書類がどこにあるのか探すのに一苦労している。スンヒョンが他の若い者に指示して一緒にやってくれているが、いろんなことに精通しているお前がいないと、事務所が荒れ放題だ」
「ジョンシナは何をやってるの?」


不思議そうに首を傾げるミニョクに、ジョンヒョンは苦笑した。


「アイツは端から話にならん。外回り向きの奴だから、数字を入力させてもミスを連発するしな」
「……ジョンシナらしいね」


顔を見合わせて噴き出しながら、目を細めて笑っているミニョクをジョンヒョンは微笑ましく見つめた。
こういう会話はとてもリラックスできて、実の弟のように可愛いなとも思う。
この優しげな青年のお陰で命拾いをしたから、入院当初は心配で毎日時間を作っては様子を見にきていたが、状態が落ち着いてからは三日に一度の割合で顔を出すようにしている。


ミニョクとジョンシンが組に入ると同時に屋敷に部屋住みになった時、ジョンヒョンは極道としてまだ駆け出しだった。
年齢がひとつ違いということもあり、ふたりからは何かにつけて頼りにされていた記憶がある。


ヨンファとは高校卒業後の進路で大喧嘩になり、それ以来、話をすることもなければ、お互いに避けていたこともあり、一緒に暮らしていてもまったく接点はなかった。
大学に通い、医師を目指していた彼と自分とでは、あまりにも選んだ道が違いすぎたのだ。
それでも、ヨンファの姿が視界に入ると目で追わずにはいられず、気づかれないように際立った美貌をそっと眺めていた。


そんな折、ふと視線を巡らすと、一重の涼しげな眼差しとよくぶつかった。
初めは単なる偶然と思っていたのだが、自分がヨンファを見つめている姿勢と重なり、ミニョクの想いに気づいてしまった。
告げられたことは、今までに一度もない。
だから、ジョンヒョンはずっと気づかない振りをしている。


ミニョクは物静かで控えめながら、運動神経がよくて頭も切れる。
育ちの良さが感じられ、この道に入る必要性はなかったのではないかと思ってしまうが、ずっと施設暮らしだったと聞いているから、表の世界で生きることに嫌気が差すような何かがあったのかもしれない。
出自については一切知らされておらず、親兄弟がいないジョンヒョンと共通点もある。
そういう経緯と、今回の負い目もあり、ミニョクの気持ちに応えることはできないが、できる限りのことをしてやりたいと思っていた。


「それはそうと、さっき、担当医と話をしたんだが、術後の経過も良好だそうだ」
「そうみたいだね。俺も昨日、聞いたばかりなんだ」
「予定より早く退院できるみたいだから、その時は、うちに来ればいい」
「……え?」
「ひとりで日常生活を送るのは何かと大変だろう。俺のマンションなら、使っていない部屋もある。医師に相談したら、1~2週間はその方がいいと言われた」


突然切り出した話に呆然とした顔でまじまじと見つめられ、一瞬後に「そんな、いいよっ。ひとりで何とかやるからっ」と、狼狽えながらジョンヒョンの誘いを断ってきた。


「遠慮するな。今回のことは俺も絡んでいるんだから、お前がひとりで抱え込むことはない。体力は落ちているし、事務所にも一緒に出ればいいだろう」


ジョンヒョンが優しく諭す口調で続けると、ひどく迷っている様子のミニョクは「でも……」と言い淀む。
幼さが感じられる瞳が頼りなげに翳っているのを見て、「逆に迷惑か?」と尋ねたジョンヒョンに、「とんでもないっ」と慌てた様子で首を横に振った。
どう返答していいものか、混乱しているようだ。それも当然だろう。


「有難い話だけど、俺がいたら、誰かを呼んだりするのにいろいろ支障が出るんじゃないかな?」


気を使って、ミニョクは微妙に言葉を濁す。
もの問いたげな顔をしたものの、それ以上は踏み込んで訊いてこなかった。
恐らく、ヨンファとの関係に気づいているに違いない。
この件は彼にも報告するつもりだが、いたく可愛がっているミニョクのことだから、絶対にその方がいいと即賛成してくれるだろう。


誰に対しても分け隔てなく親身に接するヨンファはまさに人格者で、ジョンヒョンはそれを自分だけに向けてほしいと時折、独占欲が顔を覗かせることもあるが、気持ちを言葉で伝え合ってから、不思議と焦りや不安はなくなった。
代わりに今まで感じたことのない充足感に包まれて、こんなに幸せなことはない。


頻繁に会いに行くことはできない中、遅い時間に訪れても嫌な顔ひとつせず、気恥ずかしそうに長い睫毛を瞬かせる彼がひどく愛しい。
たった数時間であっても、心は常に近くに感じ、お互いに信頼し合える関係を築けているとはっきり分かる。
ジョンヒョンにとっては、何物にも代えがたいくらい贅沢なひと時なのだ。
ヨンファのそばに居続けられるのなら、何を犠牲にしてもいいと思えるほどに。


「そんなことは気にしなくていい。組の連中を呼んで、賑やかにメシを食うのもいいかもな」


ジョンヒョンはソファに身を預けたまま、悠然と脚を組み替える。
プライベートが充実しているから、自然と周りに気を配る余裕が出てきたのかもしれない。


ミニョクはどこか困ったような顔で、目を伏せた。
確かにふたりきりでの生活になるから、躊躇う気持ちも分からないでもない。
ただ、どうしてもこのまま放っておけないのだ。


「そういうことで決まりだ。異論はないな?」


ミニョクはしばらく迷うような表情を見せていたが、ジョンヒョンが有無を言わせぬ口調で確認すると、遠慮がちに頷いて、ようやくはにかんだような笑みを見せた。


「……うん、ありがとう。じゃあ、お世話になります」


わずかに頬を上気させ、嬉しそうな様子に、ジョンヒョンの心から少しだけ罪悪感が薄れたような気がした。















「どうしたんだ?その格好……。一瞬、誰かと思った」


穏やかな日曜日の昼近く、ギプスが取れて右腕が自由に使えるようになったこともあり、ヨンファは珍しくキッチンに立って、昼食の準備に取りかかっているところだった。


インターホンの音で玄関まで行き、ドアを開けると、薄茶色のサングラスに無精髭をまばらに生やした男が独特の空気を纏って立っている。
グレーのカットソーの上にセンスのいいニットカーディガンを合わせていて、スタイリッシュな着こなしにドキリとした。


「むさ苦しいか?仕事は夜からだから、そのまま出てきたんだ」


数日ぶりに出迎えるなり瞠目したヨンファに、ジョンヒョンは苦笑を浮かべて中に入る。
昼頃に行くと連絡を受けていたが、馴染みのあるダークスーツ姿の男と同一人物とは思えないほどの変わりように、ひどく驚いてしまう。
普段よりも余程極道らしいという言い方はおかしいかもしれないが、ルックスがいいからどんな格好をしても見場はいい。
ただ、それだけ、疲れが溜まっているということなのだろう。
いつものように短時間しか寝ないで、ここに来てくれたのではないかと心配になった。


「いや、意外と似合ってる」


つい天邪鬼な言い方をしてしまったのに、本人は満更でもなさそうだ。
一見、近寄りがたい雰囲気を醸し出していたが、サングラスを外してヨンファを見る表情は途端に柔らかくなった。
深い湖底のような瞳を眇め、唇には笑みが刻まれる。


「ようやくギプスが取れたんだな」


靴を脱いで上がった途端、安堵の声とともに逞しい腕が伸びてきてギュッと抱き締められた。
硬い胸板の感触とともにプールオムの香りがふわりと漂い、それだけで目眩を起こしそうになる。


「ずっとこうしたかった……」


ポツリと呟かれた台詞が、ヨンファの心にいたく沁みた。
両腕をジョンヒョンの背中に回し、「俺も……」と素直に気持ちを吐露すると、ジョンヒョンが腕の力を緩め、視線を合わせてくる。
胸を鷲掴みにされそうなほど、愛しげに目を細めて見つめられた。


「素直なヨンファは本当にたまらないな。いつもこうだといいんだが」
「……ひと言多い」


目の前のひとつ年下の男が、嬉しそうに小さく笑いを漏らす。
ふたりきりになると、ジョンヒョンはこんなふうに素の顔を見せてくれるようになった。
仲が良かった頃でさえ知らなかった姿はひどく新鮮に映り、新たな一面を発見するたびにもっと惹かれてしまう。


何となく面映ゆくて、ヨンファが睫毛を伏せた瞬間、唇が重なってきた。
軽く啄むように触れられただけなのに、息が止まりそうになっていると、名残惜しげに離れていく。
そのまま戯れるように髭が伸びた頬をすり寄せられて、いつもより硬くてざらついた感触に身を捩った。
想いを伝え合ってから、ジョンヒョンのスキンシップが激しくなったような気がする。
いろんなことがあったが、こんな充実した日々を送れるなんて思ってもみなかった。


十月も終わりに差しかかり、深まりゆく秋を感じる頃となっても、新しい職場を決めかねているヨンファはいまだに無職のままでいる。
何件か話をもらってはいるが、どこも総合病院などの大規模な医療機関ばかりなのだ。
飛びつくと、また同じことの繰り返しになるのは目に見えているため、焦らずに腰を据えて探そうと思っていた。


余計な心配をかけたくなかったから、S大学付属病院を辞めたことは父親にしか話していない。
命を投げ打つ覚悟でチルソン組に乗り込んでくれた組員たちには申し訳が立たない上、事後処理等でゴタついている最中に言ったところで気を揉ませるだけだ。
皆には、自分自身のことや組のことを考えてもらいたいと思っている。
だから、ジョンヒョンも当然この件は知らない。


「コーヒーでよければ、淹れようか?」
「それが、たった今、車の中で飲んだばかりなんだ」


ジョンヒョンを明るい陽射しが差し込むリビングに通して、好きに寛ぐように言ってから、ヨンファは先ほどまで作業していた対面キッチンへと取って返す。


本当は包み隠さず話すべきなのだろうが、ジョンヒョンはヨンファに関することだと、どんな些細な内容でも過剰に反応し、冷静さを欠いてしまうところがあるのだ。
ただでさえ忙しい身なのだから、これ以上負担になりたくない一心で、ひたすら誤魔化している。
いずれはバレる嘘でも、きっと分かってくれるだろうと、ヨンファは後ろめたい気持ちを抑えた。


「何か作っているのか?」
「昼飯はテジクッパにしようと思ってさ。俺でもできる簡単レシピ」


シンクで手を洗いながら答えると、ジョンヒョンが目を瞠った。
今までは仕事で時間に追われていたせいもあってサボっていたが、次の勤務先が決まるまではできるだけ自炊しようと思っている。
束の間の逢瀬だからこそ、身体を重ねるだけでなく、一緒にテーブルを囲んで食事をするいう当たり前のことをふたりでしたくなったのだ。
カッティングボードの上に置いていたニラをキッチンナイフで刻んでいると、いつの間にかジョンヒョンがそばに近寄ってきた。


「俺の大好物だ。覚えていてくれたんだな」


感慨深げに、しげしげと横から覗き込んでくる男に気恥ずかしくなり、言い訳めいたことを呟いてしまう。


「久々だから、味の保証はできないぞ」
「すごく嬉しいよ」


冴え冴えとした切れ長の瞳が細められ、綻ばせた口許から低く優しい声音で囁かれるだけで、意識が攫われそうになった。


テジクッパは釜山の名物料理だそうで、ヨンファは実際には食べたことがない。
ジョンヒョンがジョン家に引き取られる前は釜山に住んでいたらしく、一緒に屋敷で暮らしていた時に、せがまれて何度か作ったことがあった。
インターネットでレシピを調べ、本物の味を知らないので、これでいいのかよく分からなかったが、「旨い」と喜んで食べてくれていたのを思い出したのだ。
さすがに豚骨を長時間煮込んでスープを作る気力はないため、市販のもので代用して、短時間で仕上げるくらいしかできないから、取り敢えず先に薬味の準備をしていた。


「今から食べるんなら、すぐに作るけ…ど……」


切ったニラを器に入れながら尋ねると、横から真顔になったジョンヒョンが顔を近づけてくる気配がして、応えるようにそっと瞳を閉じると、深く唇が重なってきた。
何もかも包み込むように吐息ごと奪われて、巧みな舌先が這い回り、まだ十分明るい時間帯にしては濃厚な口づけに酔いしれてしまう。


「……ぅ、ん、……んん……っ」


ジョンヒョンの髭が頬や顎に擦れる感触に、甘い痺れが全身を走り抜けた。


「待て、よ……、ヒョ、ニ……」


このままでは料理どころではなくなりそうで、咄嗟に逃れようと身じろぐ。
しかし、解放するつもりがないのか、背後から伸びてきた腕に腰をきつく抱き寄せられて、背中にピタリと厚みのある胸を押しつけられた。


「剃った方がいいか?」


今度はいきなり何を言い出してきたのかと反芻して、無精髭のことだと思い当たる。


「……え?いや……、俺は気にならない…けど」
「痛い思いをするのはヨンファだから、心配して言ったんだがな」


顔だけ後ろに向けると、意味ありげな眼差しを向けられて、心臓が跳ねた。
ヨンファを抱き締める両腕に力が込められて、耳許に軽く口づけられる。


「せっかく用意してくれているのに悪いが、食べるのはあとでもいいか?」


真摯な声で窺うように告げられて、求められているのだと分かり、瞬時にヨンファの全身に火が点いたような気がした。
首筋にキスが落とされるのと同時に、腰に回されていた手がいつの間にかセーターの中に忍び込み、シャツの上から胸の小さな尖りを指先でなぞり始める。
ヨンファの官能を引き出そうとする的確な動きに、呼吸が乱れそうになった。
あちらこちらに触れてくる性急な手が異様に熱く感じて、ジョンヒョンが欲情しているのが分かる。


「……駄目か?」


低く落ち着いた声音で耳殻に直接息を吹きかけるように誘われ、背筋からぞくりとするものが這い上がっていく。
突然、溢れ出してくる情動を自分ではどうすることもできない。
こんなふうに抱き合える時間は限られているのだからと、ジョンヒョンの腕の中からそっと抜け出す。


「駄目……じゃない」


ヨンファは小さく微笑むと、自分から伸びあがるように愛しい男の首に両腕を巻きつけて、引き結んだ唇にキスをした。





To be continued





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haru
Author: haru
CNBLUEのBL小説を書いています。CPはシンヨン&釜山ズ&ミニョヨンです。ヨンファ溺愛主義でとんでも妄想ばかりですが、愛だけはぶっこんでいます。
話のトーンはほのぼの、甘々、コミカル、シリアス、切ない系。ハピエンオンリーです。
基本マイペースでランダム更新。妄想は思いつくまま、気の向くまま。R18の内容が含まれているため、未成年の方、苦手な方は閲覧にはくれぐれもご注意下さい。
尚、当ブログに掲載している作品はすべて私個人のオリジナルですので、模倣、転載等はご遠慮願います。

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2017/02/20 (Mon) 21:45

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2017/02/21 (Tue) 05:05

haru

j****さん

こんばんは♡
日常の何気ない風景って好きなのですが、ちゃんと繋がった展開になっておりますでしょうか(TωT)
書く時は大抵頭の中がウニ状態なので、自分ではいまいちよく分からないのですが、どうもありがとうございますm(__)m
文章を書くのって本当に難しいですよね。もっと詳しく描写した方がいいかな?と思っても、力尽きてしまいます…。

ジョンシンも幸せにしたいですね。
読んで下さる方が全員納得できるラストではないかもしれませんが、登場人物たちへの愛はしっかり込めて、私自身が思い描いているものをイメージ通りに形にできればと思っています(*´ω`*)

2017/02/21 (Tue) 20:53

haru

i*****さん

こんばんは♡
いろいろと想像して読んで下さり、どうもありがとうございます(〃ω〃)
ラストまでの話を考えているといっても、実際のところ書いてみないと分からないんですよね。
その時になって、何かをぶっこむ可能性も出てくるかもしれませんし、自分のことなのに読めません…。

ギプス、取れました♡←三週間後にワープしたので。
私は毎回、何かしら萌え場面を書いて楽しいのですが、読んで下さる方はなかなか落ち着かれないですよね。長いし、こんな展開ですしね(-ω-;)
春までには終わるかなぁと。希望的観測ですが♪

2017/02/21 (Tue) 21:35

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2017/02/25 (Sat) 06:50

haru

は*さん

こんばんは♡読んで下さり、どうもありがとうございます♪
春風のようなは*さんの優しさにいつも癒されています(*´ω`*)
何気ないシーンばかりですが気に入っていただき、また登場人物の細かいところまで察して下さって、とても嬉しいです。

私にとってここは現実逃避するための自己満足ブログで、後ろめたいものを好き勝手に書き散らしている場なのですが、は*さんを含めてここに来て下さる方はサラッと読んでいらっしゃるのかと思っていました。
が、そうではないのかも?といただくコメントから最近何となく気づき始めまして、一話ずつ丁寧に書いていこうと思うようになりました。
話を読み返していただけるのは本当に有難いことです。どうもありがとうございますm(__)m
世知辛い世の中なので、せめて妄想の中だけは綺麗な世界を描きたいなという気持ちを持っていまして(BLですけれども…汗)、それが少しでもお伝えできればこんなに嬉しいことはありません。
これからも微力ながら精進していきたいと思います♡♡

2017/02/25 (Sat) 21:27